立春もすぎ、春はもうすぐそこ。だんだん日も長くなってきました。
さて、この時期、そして、春休みのお出かけにおすすめの展覧会を3つ、ご紹介します。
ひとつめは、東京国立博物館で3月10日まで開催中の特別展「本阿弥光悦の大宇宙」です。
江戸時代、幅広いジャンルの美に携わっていた芸術家・本阿弥光悦の、
刀剣、書、陶芸など、まさに宇宙を思わせる仕事の全貌が一望できます。
刀剣の研磨や鑑定は、本阿弥家の家業だったそうで、
展示室には、美しい刀剣がずらっと並びます。
目を瞠る国宝のオンパレードなのですが、
中でも、今回は、「兼氏 金象嵌 花形見」という、
光悦自身がさした、指料と伝わる唯一の刀剣が約40年ぶりに公開されています。
重要美術品「短刀銘兼氏 金象嵌 花形見」志津兼氏 鎌倉~南北朝時代・14世紀 (下)
(刀装)「刻鞘変り塗忍ぶ草蒔絵合口腰刀」江戸時代・17世紀
続いては、光悦の蒔絵。
光悦の蒔絵は大胆な造形で、近世初頭に突如出現したようにみえてきましたが、
今回の特別展では、謡曲の謡本の影響を指摘しています。
並べられた謡本と比べてみても、
難しいことは考えずに、蒔絵の美しさにうっとりしても楽しいです。
重要文化財「芦舟蒔絵硯箱」江戸時代 17世紀 東京国立博物館
さらに、書においては、寛永の三筆のひとりで、能書家として知られた光悦。
「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」が、全巻一挙公開されているのも見逃せません。
重要文化財 鶴下絵三十六歌仙和歌巻 本阿弥光悦筆/俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵 全期展示
光悦自身の作品だけでなく、光悦が持っていたと伝えられる、
平安時代の、小野道風が書いた法華経も展示されていました。
そして、特別展の最後を飾るのが、光悦茶碗。
章の副題にある「土の刀剣」の言葉の通り、
まるで刀のように磨き抜かれた美しい茶碗の数々が、
茶碗を引き伸ばした写真が飾られている空間に、点々と置かれ、
まさに宇宙を思わせる空間でした。
私は、この空間を味わい、銘品の数々を眺められただけでも、大満足!
この美しさを、ぜひ、会場でご堪能くださいませ。
特別展「本阿弥光悦の大宇宙」
2024年1月16日(火)~3月10日(日)
東京国立博物館 平成館
※会期中、一部作品の展示替えを行います
続いてご紹介するのは、同じく東京国立博物館で開催中の
建立900年 特別展「中尊寺金色堂」です。
奥州・平泉にある中尊寺金色堂は、
天治元(1124)年に、藤原清衡によって建立されました。
以来900年。東北最古の現存建造物として、
今も多くの方が訪れています。
私も、小学生の頃に、祖父母に連れられて見に行き、
毛越寺の大きさとともに、中尊寺金色堂の豪華絢爛な姿に驚いたのを覚えています。
建立900年を記念して東京にやってきたとっておきの宝物は、ほとんどが国宝で、
平安後期の平泉の、豊かな文化を伝えてくれます。
金色堂の3つの須弥壇のうち、中央壇上の国宝仏像11体がそろって公開されているので、
普段近くで見ることができない、仏像のお顔を間近でじっくり見ることができます。
私が圧倒されたのは、「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅」
お経を書きこむことで、仏塔を表現しています。
源義経にもゆかりがある、中尊寺金色堂。
建立900年を記念した特別な機会を、どうぞお見逃しなく。
建立900年 特別展「中尊寺金色堂」
2024年1月23日(火)~4月14日(日)
東京国立博物館 本館 特別5室
そして、最後にご紹介するのは、同じく上野にある東京都美術館で開催中の
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」です。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」ポスター、東京都美術館、2024年
19世紀にフランスで花開いた印象派ですが、
フランスだけではない、国際的な広がりがありました。
今回の印象派展では、ボストン近郊にあるウスター美術館の印象派コレクションを中心に、
アメリカ、日本など、印象派の世界的な広がりに迫ります。
チャイルド・ハッサム《花摘み、フランス式庭園にて》1888年 ウスター美術館
例えば、アメリカのモネと称されるハッサムは、
フランス留学で学んだ技法で、パリの光景を、
さらに、帰国後にアメリカの風景を描きました。
チャイルド・ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》1885年 ウスター美術館
同じように、黒田清輝も印象派の技法で、フランス留学後、日本の風景を絵画に残しています。
黒田清輝《落葉》1891年 東京国立近代美術館
日本の影響を受けて花開いた印象派が、
フランスからアメリカへそして日本へも、と、世界中に広がったのです。
印象派の代表的な画家のひとりであるモネは、250点以上の《睡蓮》を残しています。
その、モネの《睡蓮》を初めて収蔵したのが、ウスター美術館。
クロード・モネ《睡蓮》1908年 ウスター美術館
《睡蓮》をいくらで、どのようにして買ったか、克明に記された手紙が絵の横に展示されていて、
《睡蓮》が時代を問わず人の心を掴む作品であること、
こうした経緯があってウスター美術館に収蔵され、
今、海を渡って日本にやってきた奇蹟を強く感じました。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」展示風景、東京都美術館、2024年
印象派以前、また、印象派以後の作品も紹介されているので、
勉強になりますし、より印象派の個性も際立っているように思います。
デウィット・パーシャル《ハーミット・クリーク・キャニオン》1910-1916年 ウスター美術館
こちらは、観光PRのために、グランドキャニオンを描いたものだそうです。
外で描くという印象派のやり方が、アメリカでも生かされています。
「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」フォトスポット、東京都美術館、2024年
印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵
2024年1月27日(土)~4月7日(日)
東京都美術館
※土曜・日曜・祝日及び4月2日(火)以降は日時指定予約制(当日空きがあれば入場可)
日本の美、世界の美に触れる美術体験を、この春、上野でぜひ!