• 2015年03月11日

    大熊町取材報告

     今日で東日本大震災から4年。各メディアが特集を組んでいますが、我々ザ・ボイスも先週末被災地取材に行ってきました。その模様は、今週月曜から3日間、4時半ごろのザ・フォーカスのコーナーでお送りしています。
    (ポッドキャストなどで聴けます!→http://www.1242.com/program/voice/
     今週と来週は、ザ・フォーカスのコーナーで言い残したことも含めて、このブログでも報告したいと思います。今週は、10(火)、11(水)に放送した、福島県双葉郡大熊町から。

     言わずと知れた福島第一原子力発電所の立地自治体の一つ、大熊町。第一原発のほぼ南半分が大熊町にかかっています。(北半分は双葉町)震災、その後の原発事故により全町避難を余儀なくされ、現在も町民の皆さんは避難生活を続けていて、宿泊は許されていません。というのは当然、放射線量が高いからで、その高さに応じて帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域の3つのゾーンに分かれています。

    『大熊町管内図』(大熊町HP)http://goo.gl/6UHrCO

     このうち帰還困難地域には、町が発行する通行証がなければ立ち入ることはできません。帰還困難地域に入るルートは限定されていて、入り口のゲートには必ず警備員がいて身元のチェックをします。事前に申請した人間以外が車に乗っていないか?申請した車に間違いはないか?一人一人の身分証明書をチェックし、通行証とナンバープレートを照合していて、少し時間がかかりました。以前、旧警戒区域が避難指示解除準備区域に再編されたタイミングで浪江町の取材に行きましたが、その時と比べて厳しくチェックしている印象でしたね。
     また、基本的には防護服を着て立ち入ることになります。今回は我々も町から許可を頂いて、街の中を取材してきました。

    防護服.JPG

     今回の取材は東京から常磐道を通って行ったわけですが、最寄りの常磐富岡ICが近づいてくると、高速の車窓からも黒い袋が目に飛び込んできます。現在行われている除染作業。その作業で取り除かれた土砂や草などの『除染土』が中に入っています。東北・関東8県でこの『除染土』の総量は577万立方メートル。(環境省発表)東京ドーム5杯分に上り、そのうちの95%が福島県に集中しています。現在は、福島県内の7万5000か所以上に仮置きされている状況です。ただ、仮置きといっても、休耕中の水田に並べられていたり、使われなくなった工場の駐車場に積まれていたり。最終処分場は決まっていませんし、中間貯蔵施設もまだ出来ていないので、とりあえず置いておくしかないというのが現状です。

     それを打開する意味もあって、大熊町、双葉町は中間貯蔵施設の町内での建設を受け入れました。もちろん、30年以内に県外に汚染土を運びだし、最終処分することや、十分な補償というものも受け入れの条件に挙げられているのは言うまでもありません。大熊町の渡辺利綱町長も「苦渋の決断だが、やむを得ない」と語っています。

    福島第一原発遠望.JPG

     中間貯蔵施設の予定地の高台からは、福島第一原発が遠望できました。福島第一原発と中間貯蔵施設。大熊町を全町避難に追いやり、苦渋の決断を迫ったこの2つの施設ですが、皮肉にも町の復興ビジョンにはこの2施設がカギとなっています。追って後ほど、ご紹介しましょう。

     さて、帰還困難区域に入ると、時計が4年前で止まったよう。生活している人がいないわけで、人工的な音が全く聞こえません。沿岸の津波の被害を受けたあたりはまだまだ爪痕が残っているんですが、内陸部、JR常磐線の大野駅周辺などは地震に耐えた新しい建物など見た目には全く傷がありません。町役場、図書館、県立病院...。お話を伺った町民の方は、
    「除染さえ終われば、こうした施設は無傷なんだから使えるはずなんだ...」
    と話します。
     そもそも原発事故が起こる前は原発マネーを原資に子育て支援にも積極的で、福島県の中でも珍しく若年人口が増えつつあった大熊町。町が長年整備してきたインフラは原発事故で台無しになってしまったわけではなく、使える可能性のあるものも少なくないようです。

     一方で、福島第一原発の廃炉は向こう30年、40年という長期に渡ります。廃炉作業に携わる人は日を追って増えて、現状一日7000人弱が働いています。町の経済活性化という観点で見れば、この7000人という数字は非常にインパクトが大きい。今はこの人たちは南相馬だとか広野、いわきといった浜通りの周辺から原発に通ってきているわけですが、除染が済んで大熊に住むようになれば相当な経済効果をもたらします。

     また、世界最先端の廃炉の現場では、原子力に関する様々な知見が新たに生まれてきます。大熊が除染されればそうした研究機関の立地も期待できるのです。さらに、今年の春には、福島第一原発の作業員のための給食センターも稼働します。

    給食センター.JPG

     原発廃炉と中間貯蔵施設を抱える大熊町。原発と併走しながら街づくりをするしかないと腹をくくって前を向こうとしています。
    「原発をむしろ前向きに捉えるしかない」
    という考え方は、部外者からはなかなか言えないことです。利用できるものは最大限利用できるだけ利用して、とにかく第一歩を踏み出そうという話には、力強い意志がありました。

     もちろん、それが町民の総意ではありません。話を伺った町民の方も、
    「何代にも渡って住んできた人と、最近移住してきた人では帰ろうという意志に濃淡があるのは確か。平時ならそうした一つ一つの意見を集約して最大公約数を探ろうとするけれど、こうした非常時はまず行政がビジョンを出して、町民を引っ張っていかなくちゃいけないと思うんだ。今は、町としては一つの答案を出したという段階」
    と話しました。
     この復興計画の前提となっているのが、除染です。最終的には全町を除染するのに越したことはないですが、まずは計画にある町の一部でいいから除染してほしいというのが、お話を伺った町民の方の願いです。そうしてまずは廃炉関係の作業員に大熊への定住を促し、人が集まってくればそれを目当てに商売する人たちが集まるだろう。この流れの中で町が活性化してくれば、もともといた住民たちも戻ってくることを選択肢に挙げてくれるようになるだろうと話してくれました。住民の皆さんは力強い意志を持って具体的な町の未来を描いている。そう感じました。
  • 2015年03月03日

    スカイマーク破綻で悔やまれる点

     航空ファンにとって、今年の年明けは衝撃的なニュースに目を覚まされました。
     世間を大きく賑わした、スカイマークの経営破たんです。格安航空会社LCCとの低価格競争に敗れた、無謀な設備投資を行ったなど様々なことを言われていますが、まずは、その経緯です。

    『スカイマーク 民事再生法申請まとめ』(2月20日 読売新聞)http://goo.gl/5mRpFC
    <国内航空3位のスカイマークは1月28日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。資金繰りが行き詰まったことから、同日夜の臨時取締役会で自力再建の断念を決めた。当面は航空機の運航を継続する方針。>

    <スカイマークは2月5日、投資ファンド「インテグラル」(東京都千代田区、代表=佐山展生氏ら)と再生支援基本契約を結び、将来の出資を前提としたつなぎ融資などで最大90億円の資金支援を受けると正式に発表した。>

     そして、先月の終わりにかけて再建を支援する航空会社が次々と名乗りを上げました。

    『スカイマーク支援、スポンサー候補出そろう』(2月24日 日本経済新聞)http://goo.gl/Lr1lC8
    <国内航空3位、スカイマークの再建を支援する航空会社の候補が出そろった。本命視されてきたANAホールディングスのほかマレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジア、米大手のアメリカン航空、デルタ航空が名乗りをあげた。>

     この破たん劇に関しては、上記読売新聞の記事の中にもあるように、『A380』という旅客機の名前がキーワードのように語られています。

    <スカイマークは2014年7月、欧州旅客機大手エアバスから大型機「A380」6機を購入する契約の解除に伴って、7億ドル(約830億円)の違約金の支払いを求められ、経営不安に火をつけた。>

     このA380とは、世界最大級の旅客機。世界初のオール2階建て飛行機という触れ込みで、2007年10月にシンガポール航空で就航した際には大きな話題となりました。仮にすべてエコノミークラスにすれば800席を超える座席を配置することができますが、その巨大さゆえに1機当たりの値段も膨大なもの。結果、その代金を用立てることができず、違約金を抱え込むと債務超過になるということで今回の経営破たんに至ったというのが大方の見立てです。

     しかし、この「無謀」と言われたA380購入計画。本当に無謀だったのか?
     実は、購入を発表した際には各メディアとも比較的好意的に受け止めていたのです。

    『スカイマーク、国際線で"脱皮" 全座席が上級クラス、料金は半値以下』(産経Biz 2013年4月11日)http://goo.gl/eTsPi
    <中堅航空会社のスカイマークが仕掛ける国際線への進出計画が具体化してきた。大手の牙城である長距離の主要路線で超大型機を飛ばし、全席を上級クラスに限定するという大胆な試みに向け、操縦士の訓練など準備を着々と進めつつある。>

     好意的に受け止めるということは、当時のスカイマークの説明には一定の説得力があったということ。そのビジネスモデルは、航空業界の常識を変える可能性を秘めるものでした。

    <日本と欧米主要都市を結ぶ路線は、全日本空輸や日本航空の金城湯池で、真っ向勝負しても勝ち目は薄い。そこで考え出したのが、大量の客を運べる超巨大機のA380を導入して1席当たりのコストを下げ、合わせて全席をエコノミーより座席間隔が広いプレミアムエコノミーとビジネスに限ることだった。>

     現在の航空会社の収益構造を見てみると、エコノミークラスは様々な割引運賃など価格破壊が進んだので利幅はかなり薄くなっており、一方でファーストクラスは設定路線がさほど多くないのでこちらもそれほど収益に貢献していません。主に、ビジネスクラスで収益を稼ぎ出しているのが今の実態です。そこに目を付けたのが、当時のスカイマーク・西久保社長。およそ6割の搭乗率で利益を出せると算盤をはじきました。

     考えてみると、スカイマークは創立当初、JAL、ANAの二強寡占体制に価格で勝負し風穴を開けたことで存在感を示しました。当時、JAL、ANAの2社は競合する路線を狙い撃ちにするように値引きをすることで対抗。結果として、一般の消費者にとっては新幹線に並ぶ選択肢になるくらい価格が下がってきて、空の旅が非常に身近になりました。

     そうした、空の旅のイメージを大きく変えるかもしれない大変革が、今度は国際線の、それも憧れのビジネスクラスで実現するのか?『第3の創業』とも呼ばれたこのA380プロジェクトは、当初それだけの期待を集めたものでもありました。
     現在、そんな報道はなかったかの如く、経営陣の判断ミスを指摘する記事があふれています。たしかに、今回の経営破たんで利用者のみならず、スカイマークで働く人々の生活にもネガティブな影響を与えています。それゆえ、経営陣は批判を甘んじて受けなくてはいけませんし、実際受けています。

     ただ、それだけでいいのか?持ち上げるときはどんどん持ち上げるが、叩くとなればそんなことを忘れたように叩くという、メディアの本質を余すところなく映し出す今回の騒動。航空ファンとしてもったいないと思うのはのは、A380という航空機の可能性の芽を摘んでしまったことです。

     実は、このA380、売れていません。

    『超大型旅客機A380の販売不振、製造中止も選択肢か』(CNN 2014年12月14日)http://goo.gl/B8svwu
    <航空機製造大手の欧州エアバス・インダストリーが、総2階建ての超大型旅客機A380の機体更新もしくは製造中止かの選択を迫られる重大な局面に直面している。(中略)
    財務担当責任者は製造中止も選択肢の1つだろうと認めている。>

     大量の人を一気に主要空港に運んで、そこからローカル線に乗り換えて目的地まで運ぶという「ハブ&スポーク」というモデルよりも、そこそこの大きさの飛行機をたくさん揃えて中程度の都市まで直行便を飛ばすというモデルの方が効率的というのが今のトレンドになっています。そんなときに、利幅の薄いエコノミーが大量にある巨大なA380を飛ばしても利益が上がらない。むしろ、燃費が悪くて赤字になる可能性もあるということで、世界中の航空会社がこのA380を敬遠しているのです。

     そんな折に、航空会社にとってうま味のあるオールビジネスクラスのA380を使うというスカイマークのモデルが軌道に乗れば、この旅客機の新たな可能性が開けたかもしれないのです。消費者にとっても憧れのビジネスクラスが格安で使えるとなれば、これは嬉しい。そして、エアバス社にとっては新たな売り込み先ができるということで、近江商人の三方良しを地でいく話になったかもしれません。それだけに、そうした我慢が出来ずに目先の違約金を請求したエアバス社の姿勢は、残念でなりません。

     ビジネスクラスはやっぱり手の届かない、憧れの存在のままのようです...。
  • 2015年02月25日

    新たなロジック発見!

     財政再建を重視する方々はいろいろな方法で説得してきます。G8やダボス会議での発言を基に「国際公約である」と言ってみたり、最近外国人投資家の国債保有率が伸びてきたから何かあったら売り浴びせられて国債が暴落すると言ってみたり、様々です。

     そして、ここへ来てまた新たな技が出てきました。バーゼル銀行監督委員会という国際機関です。今週月曜の日本経済新聞金融欄のコラム、風速計にこんな記事が載っていました。

    『国債包囲網? 銀行保有に規制論』(2月23日 日本経済新聞)http://goo.gl/F77CT2
    ※公式HPは途中までしか無料で読めないので、個人ブログをリンクしています
    <日銀の黒田東彦総裁は「議論を開始したのは事実だ」と、世界の金融当局に銀行の国債保有を規制する議論があることを認めた。
    (中略)
    邦銀はなお大量の国債を保有しているだけに、仮に規制が導入されれば、巨額の増資か、国債の大量売却を迫られる。
    金融収縮につながりかねない爆弾といえる。
    (中略)
    銀行の国債保有が多い米国も反対しているため即座の規制導入はないとの観測がもっぱらだ。
    (中略)
    規制論が結果的に邦銀の国債保有をけん制する"包囲網"になっているのも確か。
    国債消化の日銀依存が加速しかねない。>

     このコラムを要約すれば、
    「バーゼル委員会が今まで会計上リスクがないとされ、引当金が不要とされた国債について、リスクがあると認め、増資するか引当金を積むかするよう各国の銀行を規制しようと動いている。これが実現すれば、銀行は巨額の引当金や増資が必要となるので国債を買うのを手控えるだろう。そうなれば、今以上に日銀に頼って国債を消化することになる。」
    ということになります。このコラムにはここまでしか書かれていませんが、今までの報道姿勢を考えると、言外にこんなことがにじんでいます。
    「国債消化を日銀に依存するようになれば、事実上の日銀による国債引き受け、財政法が禁じる財政ファイナンスになる。市場にそう認識されれば、国債の信認が疑われ、金利が暴騰、国債が暴落する!財政再建できなくなる!そうなる前に、消費増税による財政再建を!」

     ただ、このロジックで財政再建まで持って行くのはだいぶ荒っぽい議論です。というのも、本当に巨額の引当金を積まなければならないのか?という点。コラムの中ではどこの国の国債も同じように書かれていますが、日本国債やアメリカ国債とギリシャ国債を同列に考えるのはどうでしょう?バーゼル委員会が議論している内容は、そこまで乱暴ではないようです。

    『バーゼル委、国債リスクの評価方法変更を検討』(2014年7月8日 WSJ)http://goo.gl/VBl7dH
    <複数の関係者によると、バーゼル委は国債のリスク評価について従来の方針を撤回し、その他の資産と同様にソブリンリスク(筆者注:国債のリスク)の個別審査を義務付けることを検討している。>

     検討されているのは個別の国債ごとに審査するということ。

     そこで、邦銀が保有している日本国債というものはどの程度リスクがあるのか?リスクというのは、どの程度の確率で債務不履行になる可能性があるのかということです。我が国の財務省は、日本国債の信頼性について、格付け会社の格下げに反論する形で胸を張って「信頼できる」と言っています。

    『外国格付け会社宛意見書要旨』(財務省HP)http://goo.gl/2ayHB
    <(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。
    (2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。
    例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
    ・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
    ・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
    ・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高>

     私がこのブログで主張してきたようなことは、すべて財務省が語ってくれています。まず、自国通貨建て国債のデフォルト(債務不履行)は考えられない。さらに、世界最大の貯蓄超過国の日本は、国内で極めて低金利で消化されている。こうして消化している主体が、貯蓄を受け入れている邦銀なわけです。したがって、バーゼル委員会が国債についても規制し出したとしてもリスク評価は極めて低いはずです。それでどうして<金融収縮につながりかねない爆弾>になるんでしょうか?

     最後に、日本国債のリスクが低いということを数字でもお示ししましょう。仮に日本国債が債務不履行に陥った時に保険金が支払われるクレジットデフォルトスワップ(CDS)という金融商品があります。当然、債務不履行の可能性が高いものは保険料が高くなります。では、現状のCDSがいくらかと言えば、47.5bps(2月24日現在)。これは、パーセンテージに直すと、4.75%です。

    『日本国債CDS』(ブルームバーグ)http://goo.gl/GXXlC

     参考までに、同じ期日のギリシャ国債は、1638.29bps。まさに、桁が違うわけですね。これでも、日本国債は邦銀にとっての<爆弾>なんでしょうか?
  • 2015年02月18日

    トワイライト消滅に税金の壁

     寝台特急トワイライトエクスプレスが、営業運転終了を前にたびたび雪に足止めされています。今月初めに続いて、先日の日曜も青森で運転を見合わせました。

    『外はしんしん 中はわいわい トワイライト25時間遅れ』(2月15日 朝日新聞)http://goo.gl/TIMcI0
    <大雪のため青森市の青森駅で足止めされていた札幌発大阪行きの寝台特急トワイライトエクスプレスが15日午後2時25分、25時間32分遅れで大阪駅に着いた。乗客は各地の名物の駅弁を配られたり、じゃんけん大会が開かれたりする予定外のおもてなしを受けながら計48時間20分の長旅を過ごしたという。>

     来月14日のダイヤ改正を前に、3月12日をもって運転を終了するトワイライトエクスプレス。同じタイミングで運転を終了する寝台特急北斗星もそうですが、北海道新幹線の新青森~新函館延伸開業によって青函トンネルが使えなくなることが廃止の理由です。

     ザ・ボイスではこの手のニュースがある度に何だかんだと取り上げているんですが、先日はこんな趣旨のメールを頂戴しました。

    <青函トンネルには貨物列車用に在来線の幅(1067mm)のレールが新幹線レールの内側に敷かれていて、設備上は通れるはず。それなのになぜ廃止になるのか?特にトワイライトは客も多いはずなので、ぜひ存続させてほしい>

     この方のおっしゃる通り、設備上は通れるはずなんですね。ではなぜダメなのか?このブログでも新幹線と在来線の速度の違いを基に考察してみたことがありました。

    『寝台列車消滅の裏で』(2014年5月28日付ブログ)http://goo.gl/Z9SHtC

    その時の結論は、
    ・どう考えても、トワイライトや北斗星が通る時間帯には新幹線が営業中で、後ろを走る新幹線は寝台特急に追いついてしまう。
    ・寝台特急がネックになって高速運転ができなくなるのは本末転倒。だから廃止もやむを得ない。
    ・可能性としては、寝台特急の始発・終着駅での出発・到着時刻をズラし、青函トンネル通過を新幹線の営業運転が終わった深夜・早朝に設定すれば可能性はあるのではないか?
    ということでした。

     ところが、先日鉄道関係者と話をしていると、この可能性も打ち砕く新たな壁が分かったのです。それは、電圧が関係していました。その方曰く、
    「現在、在来線列車が通過している青函トンネルは、アタマの上の架線に交流20000ボルトが流れています。これが新幹線仕様になると、当然現行の東北新幹線に合わせて交流25000ボルトに昇圧されるんですね。そうなると、今使っている機関車は使用できないので、仮に寝台特急を通そうとすると特別仕様の機関車を新造しなきゃならないので、コスト的に難しいんですよ」

     なるほどと思いながらも、私はさらに食い下がりました。
    「でも、貨物列車はそこを通るんでしょ?そのために、やっぱり特別仕様の機関車を製作しなきゃいけないんじゃないですか?」

     確かに、貨物列車用の特別仕様の機関車は製作され、すでに走行試験も行っています。
    『JR貨物、青函トンネルで新幹線共用走行機関車の走行試験開始』(2014年6月19日 日刊工業新聞)http://goo.gl/eCMxBH

     この私の質問に、件の関係者は、
    「そうなんですけどね。これ、貨物列車用に特別に作るということで国から補助金が出ているんですよ。用途は貨物列車に限られているんですね。もし、旅客列車に使ってしまうと、税金を入れた理由とは異なるところで不当に利益を得ることになっちゃうから、できないんですよねぇ」
    と、静かに首を振りました。

     ん~、私からすれば何とも理不尽な理由なんですが、これ、行政の硬直性を表していませんか?インフラとしては完全に整っているのに、税金の縛りがあるので使えない...。何とももったいない話ではありませんか!
     訪日外客数2000万をめざそうという国の目標がある中で、寝台を含め夜行列車がほとんどなくなってしまうのは非常にもったいないと思うんですね。日本と並ぶ鉄道王国のヨーロッパでは、夜行列車も多彩に走っています。たとえば、シティナイトライン(CNL)という列車は、フランス、スイス、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマークの主要都市を結ぶ形で様々なルートが設定されています。これが、旅行者用パス(ユーレイルパス)を持っている旅行者には非常に助かるんです。一泊分浮く上に時間が有効に使えるわけですからね。

     また、「日本のオリエンタルエクスプレス」とも謳われたトワイライトや北斗星は、その豪華さからクルーズ客船で来日する旅行客との親和性も大いにあります。実際、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」など、そうしたニーズをにらんだプロモーションも行っているようです。ななつ星は臨時列車扱いですが、このトワイライトや北斗星は毎日運航している営業運転列車というのが強み。旅行企画が立てやすいメリットがあります。最近は海外のクルーズ船の来航も増えている日本。客を呼び込む目玉となりそうな可能性を、行政の硬直性で捨ててしまうのはいかにももったいないと思うのは私だけでしょうか?
  • 2015年02月10日

    迷走する?憲法改正論議

     ISIL、自称イスラム国による日本人殺害事件。これを受けて、日本人の生命・財産をいかに守るのか?法整備も含めてようやく議論が始まりました。突き詰めれば、自衛隊を現地に派遣し事案の解決に当たれるのか?というところが議論の中心となり、そうなると憲法を改正して海外に出ていけるようにするべきだという主張も出てきました。邦人2人がむざむざ殺されたという事実を突きつけられれば、こうした主張も一定の説得力を持つようになってきています。

     そうなれば、安倍政権の目指すところの憲法改正議論、本丸である9条改正に向けて風が吹いているのではないかと思うんですが、そうも上手くは行かないようです。先日総理は、与党・自民党の船田元憲法改正推進本部長と会談しましたが、その中で具体的な改正点について、一足飛びに9条にはいかないという旨発言をしたようです。

    『首相、参院選後に憲法改正の発議を 具体的な改憲時期言及は初めて』(産経新聞 2月5日)http://goo.gl/gUriEs
    <安倍晋三首相(自民党総裁)は4日、首相官邸で船田元・党憲法改正推進本部長らと会談し、最初の憲法改正の発議と国民投票の実施は来年夏の参院選後になるとの見通しを示した。首相が具体的な改憲時期に言及したのは初めて。船田氏が記者団に明らかにした。>

     一貫して憲法改正を主張してきた産経新聞としては、「いつ」改憲をするのかが重要なようで見出しもそれを取っていますが、私としては「いつ」以上に「何を」改憲するのか?が気になりました。それについて、上記産経の記事には9条について総理が意欲を示していると書いてありますが、自民党サイドは違うようです。同じ会談についての時事通信は、

    『改憲発議は参院選後=安倍首相と自民本部長が一致』(時事通信 2月4日)http://goo.gl/2cswrT
    <改憲について船田氏は、環境、財政、非常事態対応などのテーマに分けて段階的に議論を進め、2016年夏の参院選の後に最初の発議を目指す考えを伝えた。首相は「それが常識だろう」と応じた。>

    ということで、最初の改憲については9条など議論が割れるようなものではなく、公明党が兼ねてから主張している環境権や非常事態対応、財政などのテーマから絞っていく方針のようです。ポイントは、ここにしれっと『財政』という単語が入っているということ。これが何なのか?自民党の改憲草案を見てみると...。

    『日本国憲法改正案』(自民党HP)http://goo.gl/3m4CRI
    <第七章財政
    (財政の基本原則)
    第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。
    2 財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない。>

     要するに、財政健全化を憲法に明記しようというもの。こんなこと、今までの会見議論では全く出てきていません。たしかに自民党の改憲案には載っていますから、憲法改正に非常に興味がある人にとっては常識なのかもしれません。しかしながら、憲法改正は最終的には国民投票にかけられる案件。国民的な議論を経て改正するというのが筋のはずです。では、財政健全化を憲法に乗せようというのが今までメディアに出てきたか?寡聞にして私は聞いたことがありません。基本的に昔から9条改正に終始していて、最近96条の改正条項が議論のテーブルに上がってきたぐらい。
    財政の「ざ」の字も今まではなかったですよね。

     そんな「財政健全化」がなぜ今憲法改正の議論の中に登場したのか?ある政界関係者はこう解説してくれました。

    「これなら、民主党も乗れるから。ある意味、国会発議までのハードルは一番低いんじゃないかな」

     たしかに民主党の岡田代表も、財政健全化については並々ならぬ意欲を見せています。

    『民主・岡田代表 予算案の財政規律の緩みただす』(NHK 2月8日)http://goo.gl/62W5Ld
    <民主党の岡田代表は、名古屋市で記者団に対し、政府が今週12日に国会に提出する方針の新年度・平成27年度予算案について、財政規律に緩みが見えると指摘したうえで、財政健全化を目指す観点から政府にただしていく考えを示しました。>

     さすがは、財政健全化を旗印に消費増税を3党合意で決定した民主党。消費増税によって景気が悪くなろうが、財政健全化至上主義です。これだけ財政健全化を推し進める民主党ですから、財政条項での憲法改正なら反対はしづらいわけですね。

     しかし、これは政治のテクニックとしては「あり」なのかもしれませんが、将来に禍根を残す可能性があって私は反対です。

    <財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない。>

     これ自体は抽象的な文言でイメージしづらいんですが、まずは「財政の健全性」というのをどう測るかというところ。よく言われているプライマリーバランス(基礎的財政収支)をモノサシにしていますが、これ自体は単年での指標ですので、長期的なビジョンを描く国の政策とはちょっと食い合わせが悪い気がします。

     たとえば、今話題のギリシャですが、この国は経済危機の後EUの支援の条件である「財政健全化」を苛烈なまでに進め、何と今やプライマリーバランスは黒字化しているんです。しかしこのために、政府のサービスは年金、医療も含めて切り詰めるだけ切り詰め、増税に次ぐ増税をしました。当然景気は急速に悪化。失業率は25%を超え、自殺率が危機前と比べ36%も高まったそうです。その結果、当時の政権与党、新民主主義党(ND)は選挙で惨敗。反緊縮派の急進左派連合(シリザ)が政権を奪取し、財政健全化はいったん棚上げにすることでEUとの交渉を始めています。

     このように、財政健全化を急進的に行うと、景気が悪化する恐れがあるんです。もっと言えば、自殺率が高まる。人が死ぬ。好景気の内に財政健全化を行う分にはショックは少なく済みますが、今の日本やギリシャのようなデフレ下で苛烈な財政健全化を行えば、人が死ぬんです。そして、憲法に財政健全化を明記してしまえば、そうした間違った経済政策を行おうとしたときに歯止めが利かなくなる可能性があります。

     考えると、これだけ重要な改憲テーマなんですが、改憲派、護憲派双方ともさほど問題視していません。日本では「護憲派=リベラル」のはずなので、本来小さな政府を目指す財政健全化には反対のはずなんですが、リベラルの一極、民主党はむしろ率先して財政健全化、増税に向いているというねじれが生じているので議論がイマイチ盛り上がりません。このまま大した議論のないまま、スルッと財政健全化改憲が行われてしまうんでしょうか?

     新約聖書にはこんな一節があります。
    『狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広く、これより入る者多し。いのちに至る門は狭く、その路は細く、これを見出す者なし』(マタイ伝第七章)
    憲法発議まではラクな広き門である財政健全化条項は、滅びに至る広き門なのかもしれません。まずは、議論を。時間はあります。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ