• 2015年02月02日

    ピケティ報道とお上への忖度

     フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が来日しました。世界的にベストセラーになっている経済書『21世紀の資本』が、日本でも邦訳本の売り上げが15万部を超え、時の人になっています。解説本も雨後の竹の子のごとく出版され、すっかりピケティ・フィーバーの様相で、内容解説はそちらに任せたいと思いますが、ざっくりと言えば格差の是正を説いています。

    『r>g』という数式を用いて、資本収益率(r)は歴史的にみるとほぼ常に経済成長率(g)を上回り、格差を縮小させる自然のメカニズムは存在しないというのが主な主張です。要するに、資本を持っている人は、国の経済成長率を超えて儲けられるということで、国が成長したその果実は偏って配分されるということ。

     たとえば、人口10人のAという国がある年、一人10ずつ生産していたとします。そうなると、GDPは100。それが次の年、みんなががんばって一人20ずつ生産してGDP200に成長しました。成長率は2倍、200%です。ただ、その中のaさんに機材をみんな借りて生産したので、その分を一人アタマ2ずつaさんに渡しました。
     そうなると、aさんの所得は自分の生産分20+みんなからもらった2×9=18で38。それ以外の人は18。aさんの所得は10から38で3.8倍。その他の人の所得は10から18で1.8倍となります。
     要するに、全体としては2倍の成長でも、その配分は資本を持っているか持っていないかで偏りが出るというんですね。それは放っておいても是正されるものではないので、できる権限がある国が資産課税なり累進課税なりで徴収し、それを社会保障の形で再配分して是正しなければならないというのがピケティ氏の主張です。

     しかしながら、そうした政府の介入に対して、社会保障など再配分の膨張は大きな政府につながると警戒する向きもあります。

    『ピケティブーム 財務省、格差論に警戒感 』(1月31日 日本経済新聞)http://goo.gl/pq10sP
    <社会保障を中心とする歳出の抑制が焦点だが難航は必至だ。政府内では、格差是正を訴える仏経済学者、トマ・ピケティ氏の著書をきっかけに財政改革の機運が衰えるとの懸念も浮上する。
    (中略)
    ピケティ氏は著書「21世紀の資本」で資産への累進課税も提唱している。課税強化は財務省の共感を呼びそうだが、広く薄く課税する消費税に否定的なこともあって財務官僚も警戒している。>

     消費税の再増税に向けてピケティブームが障害になるようならマズイと財務省は警戒しているようです。先日の日本記者クラブで行われたピケティ氏の会見についての報じ方も、それを忖度したかのようで非常に興味深いものになりました。私もこの会見に参加していたんですが、会場で行われたものと出来上がった記事の離れ度合が、どこまで財務省を忖度しているのかのバロメーターのようにも思えるのです。

     まずは、その模様を収めたVTRがこちら。

    『トマ・ピケティ 仏経済学者 『21世紀の資本』 2015.1.31』(YouTube 日本記者クラブ)http://goo.gl/OYkGUH
    (消費増税についての質問は、42分45秒あたりから)

    『中国経済「税の使い道ははっきりしていない」 ピケティ氏会見』(2月1日 夕刊フジ)http://goo.gl/5D5s9F
    <──日本は昨年4月、財政再建のため消費税を増税した
    「日本の成長を促すという観点からみると、消費税増税はいい結果を生んでいない。若者に利する形の累進課税にし、若者や低所得者層の所得税を引き下げるべきだ。逆に、高所得者層の所得税や不動産税などは高くすべきだ」>

     私が調べたところ夕刊フジが一番良心的で、一問一答の形で詳しく報じています。この消費税についてもほぼこの通りのやり取りですが、付け加えれば、『財政再建のためには』若者や低所得者層の所得税を引き下げるべきだ。逆に、高所得者層の所得税や不動産税などは高くすべきだと説いています。財政再建について聞かれているので、財政再建は消費税ではなく累進課税だと言っているわけですね。

     さて、この会見についての各社の報じ方ですが、凄まじいのがNHKと共同通信です。

    『ピケティ氏「若い人たち優遇の政策を」』(1月31日 NHK)http://goo.gl/Ukmdhf
    <日本でも格差拡大を抑えるために、累進課税を強化するなど、若い人たちを優遇するような政策をとるべきだという考えを示しました。>

    『ピケティ氏「若者向け減税」提言 アベノミクスとは一線』(1月31日 共同通信)http://goo.gl/UoDXDd
    <若者向けに減税を実施して格差を是正すべきだと日本に提言した。経済が成長すれば低所得者にも恩恵が波及するとの考えに懐疑的な見方を示し、安倍政権の「アベノミクス」とは一線を画した。>

     何と、消費増税については一切言及がありません!共同に至っては、ピケティ氏は一切言及していない「経済が成長すれば低所得者にも恩恵が波及するとの考えに懐疑的な見方を示し」という一節を挟み込んでいるのに、消費増税に懐疑的な見方を示したことには触れずじまいなのです。たしかに、質疑応答の中で別の質問者が「アベノミクスはトリクルダウンだと思うが、それについてどう思うか?」という質問が出たのは事実ですが、ピケティ氏はアベノミクスの是非については答えず、一般論としてトリクルダウン理論について言及したのですが(上記夕刊フジの記事を参照)、その部分を挙げて<「アベノミクス」と一線を画した>とするのは悪意すら感じます。

     一方、政権に近いという読売新聞やフジテレビは一応消費税にも言及はしています。

    『「資産家に高い税金を」ピケティ氏が持論展開』(1月31日 読売新聞)http://goo.gl/miY9kg
    <ピケティ氏は「(広く薄く課税する)消費税を上げるのは、成長を促す観点でいい結果を生んでいない。資産家に高い税金をかけ、若者が有利になる累進課税にすべきだ」と持論を展開した。>

    『トマ・ピケティ氏が日本で会見 「税制面で若者を優遇すべき」』(2月1日 フジテレビ)http://goo.gl/6iUoXT
    <ピケティ氏は、会見で、「日本の消費税増税は、成長の観点から、いい結果を生んでいない」との見方を示したうえで、「格差拡大を抑えるため、税制面で若者を優遇すべきだ」と強調した。>

     双方とも、一応言及しているものの、見出しにまでは持ってこない。消費税増税を延期した総理官邸側に近い分だけ、官邸と財務省の両方を忖度した微妙なラインを維持しています。

     実に味わい深いですが、本来なら消費増税についてピケティ氏がバッサリと斬り捨てたのがニュースなのではないでしょうか?しかも、質問者はわざわざ、「日本の政治家、官僚、学者、ジャーナリストの間で財政再建の為には消費増税やむなしという意見なのだが」とした上で消費増税についてどう思うか?と質問しました。それに対してピケティ氏は「消費増税は意味なし」と言っているわけで、まさしく日本の主流派経済学、経済マスコミを一刀両断しているわけです。この事実は軽く扱われるものなのでしょうか?少なくとも私は現場で見ていて、これは大きなニュースだと感じました。この時の会見場は、「エライ先生にお墨付きをもらおうとしたら、見当違いで困った」というような白けた空気が流れていたことを覚えています。

     自説に沿わなければ、扱いは極力小さく、あるいはゼロで。これも「報道の自由」の範疇なんでしょうか?
  • 2015年01月26日

    国債の金利と財政出動

     日本国債の金利が低下しています(価格は上昇)。今日(1月26日)の相場では一時10年債の利回りが0.220%まで下がりました。

    『〔金利マーケットアイ〕国債先物に戻り売り、日銀買い入れは底堅い結果』(ロイター 1月26日)http://goo.gl/qDbX6A
    <<11:10> 国債先物が続伸で前引け、長期金利0.220%に低下>

     このところ、先進各国の国債が軒並み上昇しているわけですが、とりわけ日本の国債については日銀が大量に国債を買い入れる量的緩和を実施しているためだと説明されています。日銀の狙いとしては、国債を買い取ってその分の日本円を市中銀行に供給することで、そのお金を貸し出して、広くお金が世の中に回ることです。銀行は日銀から受け取ったお金を企業や個人に貸し出し、企業が設備投資をしたり、個人が住宅ローンを組んだりして大きくお金を使えば、企業の従業員の給料がアップしたり、住宅建設なら建築会社にお金が回ったりしてどんどん景気が良くなる。ざっくり言えばこうしたお金の流れを狙って、日銀は金融緩和をしているわけです。

    しかし、実際はそうはなっていません。どうなっているかというと、たとえばこの記事。

    『国債取引、マイナス金利広がる 欧州量的緩和で加速』(日本経済新聞 1月24日)http://goo.gl/OfW1lg
    <企業への融資にお金を回すのが狙いだが、デフレ懸念が強まるなかで金融機関は貸し出しに慎重な姿勢を崩していない。そのため行き場を失ったお金が「安全資産」の国債に流れ込んでいる。そこに量的緩和の国債購入が加わる。>

     先行きの心配が高まっている=将来的に景気が良くなる見通しがないので、企業へ融資するよりも金利はほとんどなくても国債を買っておけばとりあえず損をすることはないという考え方が市場を支配しているようです。民間に資金需要があれば、日銀が国債を買い入れても銀行は他に投資する先がたくさんあるのでここまで国債の金利が下がることはありませんが、他に行き先がないのでこれだけ金利が下がっている。そう考えると、日銀の量的緩和は金利低下の理由の一つではありますが、市中の資金需要が足らないところが問題の根本なわけです。では、その市中の資金需要がどうなっているのか?ロイター通信が興味深い記事を配信していました。

    『ロイター1月企業調査:春闘賃上げ率、6割が昨年並みに届かず』(ロイター 1月21日)http://goo.gl/yoHvZH
    この記事の後ろの方に、
    <設備投資が回復傾向を強めるかどうかを占う上で、投資計画において最重視する点を聞いたところ、「国内需要動向」が最も多く、非製造業では73%、製造業でも47%を占めた。「いずれにしても需要が先決」(化学)「将来の生産量に確約がほしい」(非鉄金属)など、投資判断は需要動向で決まるとの回答が多い。
    (中略)
    他方で、円相場や法人税、投資税制、実質金利の低下はほとんど重要視されていない。中には為替相場について「原料費に与えるインパクトが大きい」(食品)として重視する企業もある。>

     設備投資をする際に何が重要かという問いに対して、国内の需要動向がキーになってくるということ。すなわち、景気の先行きです。
     経済学では、経済主体をざっくりと3つに分けていて、それが、家計・企業・政府。そのうち、家計、つまり個人消費は消費税増税の影響を受けてすっかり冷え込んでしまいました。そして、その冷え込みを見て現在は企業セクターもしり込みしているという状況です。ならば、ここは政府の出番。アベノミクス第2の矢であるところの「機動的な財政出動」が今こそ必要ということです。

     さらにこの記事では、<円相場や法人税、投資税制、実質金利の低下はほとんど重要視されていない。>という指摘もされています。法人税や投資税制といったアベノミクス第3の矢は長期的に企業活動をサポートすることはあっても、速効性は期待できない。少なくとも企業経営者はそう思っているというのがデータに表れています。

     ということで、ここまでの話をつなげると、金融緩和の効果を最大化するためには、政府による需要の創出が必要になるという話になります。今、新聞の経済欄は「景気回復のためには賃上げが重要だ」という話一辺倒になっています。賃上げにより個人消費が活発化すれば、住宅ローンなどの資金需要が生まれ、「国内需要動向」に作用すれば、確かに景気回復に向かっていくかもしれません。ただ、そんな悠長なことを言っていられるのか?2017年4月に迫る消費税の再増税が不可避だと考えれば、あと2年で何としても景気を底上げしなくてはいけません。そのためには手段を選んではいられないのではないか?今なら、10年で0.2%ほどの利息でお金を調達できるんですから、そういう意味でもリーズナブルだと考えるんですが...。
  • 2015年01月23日

    郵便法に存在するブラックホール

     世の中、イスラム国による邦人2人殺害警告のニュース一色になっています。もちろん、今回のイスラム国による蛮行を許すことはできないし、安易に身代金を支払ってテロに屈するようなことはできるはずもありません。したがって、メディアのニュースがこれ一色になるのも仕方がないことなんですが、一方でこういった時には、普段ならもっと騒がれてもいいような重要なニュースがスルーされることがよくあります。今回私が「あれっ?」と思ったのはこのニュースです。

    『ヤマト、メール便廃止』(1月23日 日本経済新聞)http://goo.gl/LrdnBG
    <ヤマト運輸は22日、3月末でメール便サービスを廃止すると発表した。メール便に手紙などの「信書」が交ざると、利用者に刑事罰が科される恐れがあり、誤った利用を避けるためだ。メール便事業では信書の取り扱いを巡りヤマトと総務省の間で争点となっている。取り扱いが減っていることもあり、4月から新サービスに移行してテコ入れする。>

     要するに、ヤマト運輸としてはメール便に手紙などの「信書」が入っていると、お客さんが犯罪者になってしまう恐れがあるからこのサービスは廃止するとのこと。では、信書とは一体何なのか、そして、入っていた場合どんな刑罰があるのか?

    『信書に該当するものを教えてください』(日本郵政HP)http://goo.gl/GPNeS

    『郵便法』http://goo.gl/mdcl7
    <第七十六条 (事業の独占を乱す罪)  第四条の規定に違反した者は、これを三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

    ※参考
    第四条 (事業の独占)  会社以外の者は、何人も、郵便の業務を業とし、また、会社の行う郵便の業務に従事する場合を除いて、郵便の業務に従事してはならない。ただし、会社が、契約により会社のため郵便の業務の一部を委託することを妨げない。
    ○2  会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書の送達を業とする者とみなす。
    ○3  運送営業者、その代表者又はその代理人その他の従業者は、その運送方法により他人のために信書の送達をしてはならない。ただし、貨物に添付する無封の添え状又は送り状は、この限りでない。
    ○4  何人も、第二項の規定に違反して信書の送達を業とする者に信書の送達を委託し、又は前項に掲げる者に信書(同項ただし書に掲げるものを除く。)の送達を委託してはならない。>

     違反すれば、3年以下の懲役または三百万円以下の罰金という驚くほど重い罪が科せられることになっています。これと同等の罪を調べますと、

    ・著作権侵害
    ・産業廃棄物の不法投棄
    ・児童買春周旋(児童ポルノ禁止法違反)
    ・強制退去の外国人を匿う
    ・医薬品の無許可販売
    ・無限連鎖講(ネズミ講)の開設、運営

    などが挙げられます。どれも、常識に照らしても「悪いこと」なわけで、それらの行為と並ぶ(あくまで法律上は)犯罪と隣り合わせで生きているというのはちょっと驚きです。

     さて、上記日経の記事によれば、そうした犯罪行為とみなされるリスクもあるのでこのサービスは廃止にする。ただし、利用客の9割は法人なので、新サービス移行に伴う影響は小さいだろうとのことです。そう書かれると、我々の生活には直接関係のないニュースのようにも読めますが、そうも言っていられません。まず、残りの1割に当たる個人顧客にとっては、コストが大幅にアップします。残り1割というと少ないように感じますが、全部で21億通の1割ですから、それでも2億1千通以上。影響は大きいわけです。

     そして、コスト面から分析すると、現行のメール便は1通当たり80円ちょっと。これが、新サービスに移行すると、倍以上になってしまうことが確実です。類似サービスとして、日本郵政が運営する「ゆうメール」というものもありますが、こちらは最も安くて1通180円。やはり、倍です。さらに、こちらは荷物の追跡ができません。

     この個人で使うヤマトメール便は、インターネットオークションで商品を発送する際によく使われていたそうなんですが、ユーザーは値段もさることながら、ヤマトメール便なら宅急便と同じで荷物の追跡サービスを利用できる安心感で利用することが多かったようです。ユーザーに取材をすると、ただでさえ顔の見えないネットオークションの世界。落札できても商品が手元に届くまで本当に安心はできないが、荷物の追跡が出来れば最小限どこにあるのかが分かるのである程度安心できるし、発送されていなければ即座に問い合わせることが出来る。だから、今回のサービス廃止は非常に残念という声が聞こえてきました。

     さらに問題なのは、ヤマトのメール便のサービスは廃止されても、当然のことながら郵便法76条はなくなるわけではありません。ということは、たとえばオークションで落としてくれた人にお礼状を添えて発送すると、宅配便であっても罰せられる可能性があるわけです。あるいは、親元から子へ宅配便を送るとき、品物に手紙を添えて出すと罰せられる可能性があるわけです。なんて人情のない世の中でしょうか。こうした馬鹿げた規制を取っ払うのが、アベノミクス第3の矢、成長戦略、規制改革の眼目だったのではないでしょうか?もちろん、何でもかんでも緩和すればいいというものではなく、緩和することで新たな既得権者が生まれては元も子もないわけですが、このメール便の件に関しては問題です。何しろ、「これからのイノベーションを育てるための改革」ですらなく、「今すでにあるイノベーション」を潰す悪法としか言いようがないわけですから。

     ちなみに、日本郵政が手掛けている「ゆうメール」も同じ仕組みですから、法律上は全く同じリスクを抱えているにもかかわらず、廃止するという議論は一切聞こえてきません。なぜ、日本郵政は平然としていられるのか...?ここにも、裁量行政の弊害を感じずにいられないのですが...。
  • 2015年01月12日

    民主党の今後は?

     民主党の代表選をニュースで扱っても、盛り上がらなくて困っています。今月18日が投票日で、本来ならばもうちょっと白熱してもいいんですが、不毛な暴露合戦の言い合い以外に取り扱うトピックがありません。まず、立候補者3名をおさらいしておくと...

    『民主党代表選の立候補者』(時事通信 1月7日)http://goo.gl/UP4dRk
    <民主党代表選が7日午前、告示され、長妻昭元厚生労働相(54)、細野豪志元幹事長(43)、岡田克也代表代行(61)が立候補を届け出る。>

     この中で、もともと野党再編を論じていたのが細野さん。仮に民主党を割ったとしても再編の触媒になろうという主張をしていて、当初はそこが争点だと言われていました。岡田さんの立候補も、細野さんの再編路線を危惧してというのが定説です。しかし、細野さんは徐々に、民主党の再生が第一で再編はその後と微妙にスタンスを変えてきました。それは、去年の年末にすでに報じられていたことです。

    『【民主代表選】 野党再編の争点化警戒 細野氏、集票へ慎重姿勢』(共同通信 2014年12月23日)http://goo.gl/eLa395
    <来年1月の民主党代表選に向けて真っ先に立候補を表明した細野豪志元幹事長が、野党再編の争点化を警戒し、慎重な物言いに徹し始めた。持論である再編を強調しすぎれば「自主再建派」の反発を招いて不利になるだけに、現執行部の不手際や、党の立て直しを前面に打ち出して支持拡大を狙う作戦だ。>

     これについて、先日日本記者クラブでの立候補者討論会で岡田さんが細野さんに対し、<衆院選公示前には、維新の党などとの結集を目指し、新党結成を海江田万里代表や岡田氏に訴えていた>(前述・共同通信)ことについて説明を要求。細野さんは、政治家同士の内々の話を暴露するのは少し残念と答えました。こうして始まった泥仕合、先日は細野さんが「停戦」の申し入れを行い、収束に向かいつつあります。

    『民主代表選、批判応酬「停戦」を 細野氏が岡田氏に提案』(東京新聞 1月11日)http://goo.gl/Dd26Of
    <民主党の細野豪志元幹事長は11日、代表選の3候補が出演したNHK番組で、維新の党との合併をめぐる批判の応酬の「停戦」を、岡田克也代表代行に呼び掛けた。長妻昭元厚生労働相も賛同し、岡田氏は番組で細野氏に切り込むのを控えた。>

     そもそもマスコミが報じていたものを「内々の話」とした細野さんにも疑問が残ります。ただ、それ以上に、票のために自説を曲げた細野さんの、その目論見が果たして成功しているのかに興味があります。結論から言えば、私は完全に失敗していると思うのです。前述の共同通信の記事の通り、細野さんは<再編に拒否感を持つ労働組合系議員に配慮し「自主再建を実現する」と路線問題の棚上げに言及>したわけですが、代表選3候補の推薦人を見ると取り込みに失敗しています。

    『民主代表選候補の推薦人名簿』(時事通信 1月7日)http://goo.gl/XdSSWa

    この中でキーマンと私が睨むのは、長妻さんの推薦人に名を連ねた中島克仁衆議院議員。この方、知っている方はよほどの政治通。今回の総選挙では山梨1区から民主党公認で立候補し、民主党では貴重な小選挙区選出議員となりました。
     この方、2012年の総選挙ではみんなの党から立候補。今回は直前にみんなの党が解党したため、民主党に鞍替えしての選挙となりました。そして、選挙直前、維新の党と民主党の選挙区調整の結果、ライバルだった小沢鋭仁氏が比例近畿に回り、それが奏功しての小選挙区勝利と言われています。

     しかし、これが違うと中島陣営のある幹部は話します。
    「今回の選挙は選挙区調整の成果なんかじゃない。それが証拠に、選挙戦序盤の世論調査じゃ2ケタ差で自民の候補にリードされていた。それを見て、山梨のドンが動いたおかげだよ」
     山梨のドンとは、言わずと知れた輿石参院副議長。その支持母体と言われる山梨県教職員組合がフル回転して自民候補を最後の最後で逆転したというのです。そうして当選してきた中島氏が長妻支持なわけです。要するに、中島氏の意向は、輿石氏の意向そのもの。そして、輿石氏は今でこそ参院副議長の立場で民主党会派を離脱しているものの、もともとは参院のドンであり、民主党労組系の総元締めのような存在。細野さんが配慮した民主党労組系は、やっぱり長妻さん支持で動かなかったわけです。

     こうなってくると細野さんは厳しくなってきます。そもそも、岡田陣営とのこの遺恨は決選投票になった時に決定的に不利。党員・サポーター、国会議員などの最初の投票で過半数を制する候補がいなかった場合、党所属国会議員と国政選挙の党公認予定候補者のみを有権者とする決選投票に移ります。もし、決選投票が細野VS長妻になった場合、岡田陣営票が細野陣営に流れるとは考えにくくなります。細野VS岡田となった場合には、もとより野党再編に否定的な岡田陣営にシンパシーがある長妻陣営がどう動くかも予想ができます。
     一方で、岡田・長妻両陣営は2位に入って決選投票になれば自分に有利に働くという計算が成り立つわけです。

     圧倒的に不利な局面に立った細野さん。私はこの際、自説に回帰したらどうだと思います。すなわち、野党再編路線です。党内にとっては極論かもしれませんし、それが今回の代表選にはマイナスに働くことになるかもしれません。しかし、ここで一石を投じ、党内議論が巻き起こることこそが国民が求めていることなのではないでしょうか?

     党内にいろいろな意見があってまとまっていない。いつも喧嘩ばっかり。この民主党のイメージをそろそろ払拭しないと、いい加減国民がそっぽを向くことになるのではないでしょうか?細野さんはまだ若い。ここで身を捨てることで浮かぶ瀬もある。民主党の今後は、新代表以上に細野さんが握っていると思います。
  • 2015年01月06日

    ホントに北朝鮮?サイバー攻撃に不都合な真実

     アメリカと北朝鮮の関係がこの年末年始に緊張してきました。何度も報道されている通り、ソニーのアメリカ子会社、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのサイバー攻撃を巡ってアメリカが北朝鮮に金融制裁を科したニュースです。

    『米、北朝鮮に制裁 サイバー攻撃への対抗措置』(1月3日 朝日新聞)http://goo.gl/7uvh86
    <オバマ米大統領は2日、米ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)が受けた大規模なサイバー攻撃への対抗措置として、北朝鮮政府のあらゆる個人・団体に対する制裁を認める大統領令に署名した。北朝鮮にサイバー攻撃を許さないという強いメッセージを送った形で、米国は追加制裁も辞さない構えだ。>

    知れ切った展開で、北朝鮮は反発しています。

    『米政府の金融制裁に北朝鮮が反発』(1月4日 NHK)http://goo.gl/kuowJq
    <ソニーの子会社へのサイバー攻撃などを巡りアメリカ政府が北朝鮮に科した金融制裁について北朝鮮は4日、「アメリカは制裁が正反対の結果を招いたことを知るべきだ」として反発しました。>

     サイバー空間でのアメリカと北朝鮮のつばぜり合い。まず北朝鮮がSPEにちょっかいを出して、それに対してアメリカが怒って制裁にまで発展した。というのが、これまでの報道の流れですが、実は国際情報筋やネットの世界ではこれにかなり疑問が持たれているようです。その一端が、この記事。

    『北犯行に異論 ソニー内部説も サイバー攻撃 米専門家ら指摘』(12月30日 フジサンケイビジネスアイ)http://goo.gl/ct1xUM
    <米CNNなどによると、専門家らは(1)過去に使われたウイルスを北朝鮮以外の個人や組織が流用した可能性がある(2)メディアで北朝鮮犯行説が持ち上がるまではハッカー側は金第1書記の暗殺映画に一切言及していなかった-などの疑問点を指摘、SPE側の内部犯行説も否定できないといている。>
    <「GOP(平和の守護者)」と名乗る今回の犯行グループは、当初は映画のことには一切触れず、SPEに対して不当なリストラへの抗議、金銭的要求などを行った。「ザ・インタビュー」のことに言及し始めたのは12月8日で、公開中止を要求したのは最初のサイバー攻撃(11月24日)から22日後の16日だった。>

     付け加えれば、この12月16日というのは、北朝鮮犯行説がアメリカメディアを席巻しだしたタイミングとピタリと重なります。さらに、ニューヨーク・タイムズによれば、SPEに送られた脅迫文書を分析した結果、不完全な英語の文法や言葉の使い回しから、ロシア語で作成した文章を英訳した可能性があるとしています。ただし、これらについて日本の報道では、年末年始にベタ記事レベルで掲載されていたものの、北朝鮮のネット障害やアメリカによる金融制裁の報道に完全に塗りつぶされてしまっています。したがって、日本国内ではほとんど話題にもされていません。
     ニュースを見返してみると、アメリカ政府は北朝鮮によるサイバー攻撃と断定はしましたが、その証拠は提示していません。ひょっとするとNSA(アメリカ国家安全保障局)には決定的な証拠があるけれども、サイバーセキュリティ上明かすことができないだけなのかもしれません。ただ、そうであっても徐々にリーク情報が流れてくるのがニュースというもの。全く証拠が出てこないというのも違和感を感じます。これは、いつか来た道なのではないか?と。

     すなわち、事の経緯がイラク戦争の発端となったフセイン政権の大量破壊兵器疑惑とそっくりなのです。当時アメリカは、「フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っている、その確たる証拠がある」と言って国連安保理の制裁決議を勝ち取りました。そして勃発したイラク戦争でしたが、結局アメリカはイラクが持っていたとする大量破壊兵器を見つけ出すことはできませんでした。流された大量の血がもたらしたものは、今のイスラム国に続く中東情勢の混乱というのは周知の事実です。これにより、アメリカの威信は揺らぎました。

     今回も、もし脆弱な証拠の下に北朝鮮の犯行と断定していたとすれば。それをもとに金融制裁し、さらに公然の秘密のようにささやかれている北朝鮮へのサイバー攻撃を行っていたとしたら...。前回のイラク戦争と、今回の対北朝鮮サイバー戦。結びつけるのは飛躍が過ぎると言われるかもしれません。ただ、ブッシュ、オバマと2代続けて必要のない戦争を引き起こしたとなれば、合衆国大統領の威信は地に落ちてしまいます。その結果残るのは、求心力のある大国がいなくなった世界です。オバマ大統領が目指した『核なき世界』とは、世界をリードする『核』となる国がなくなる世界のことだったのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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