• 2016年07月21日

    トルコクーデター未遂報道に疑問

     日本時間先週土曜の早朝に飛び込んできた驚きのニュース、トルコでのクーデター未遂。市民を含め290人以上が死亡する大事件となりました。

    『トルコのクーデター未遂、軍・司法関係者6000人拘束 死者290人超に』(7月18日 ロイター)http://goo.gl/VMnFVW
    <トルコ当局は、軍の一部勢力による16日のクーデター未遂を受けて反乱勢力への制圧を拡大、17日夜の時点で、軍・司法関係者ら約6000人を拘束した。
     外務省によると、クーデターに関連した死者は、反乱勢力の100人超を含め、計290人以上、負傷者は1400人に上っている。>

     その後、エルドアン政権は事件に関係した政・官・軍の関係者を拘束。今日の時点でトルコ全土に非常事態宣言を発令しています。

    『トルコ大統領、非常事態を宣言 クーデター未遂受け』(7月21日 朝日新聞)http://goo.gl/Iczj7A
    <トルコのエルドアン大統領は20日(日本時間21日)、軍の一部によるクーデター未遂事件を受けて、全土に3カ月間の非常事態を宣言した。「テロ組織関係者を全て排除するため」としている。ただ、国民の生活や経済活動が制限される事態になれば、エルドアン氏が強権的な姿勢を強めているとの懸念が国内外から高まる可能性もある。>

     エルドアン大統領はこのクーデター未遂の首謀者をアメリカに亡命中のイスラム教指導者ギュレン師であると断定し、師と繋がりのある人物の一掃を狙って圧力を強めています。日本国内の報道も、このギュレン師に連なる一派が主導したというものが多いのですが、果たして本当にそうなのか?内部の情報が流れてこないので外形的な部分から類推するほかないんですが、歴史を紐解いてみると少し違った見方もできるようです。

     そもそも今のトルコ共和国が成立したのは1923年10月29日。初代大統領は、ムスタファ・ケマル・アタテュルクです。オスマン帝国軍人であったムスタファ・ケマルは、オスマン帝国が滅びた原因について「宗教の政治介入」が原因であったと考え、新たな共和国憲法を制定し、その後国を統治していくにあたって「世俗主義」を徹底しました。世俗主義とは、ざっくりといって政教分離と考えておけばいいでしょう。

     この世俗主義を徹底するにあたってムスタファ・ケマルが範としたのは、キリスト教との政教分離を徹底したフランス憲法でした。フランスでは、宗教的な服装や装飾で公の場に出ることが規制されています。最近でも、イスラム教の女性が身に着けるヴェールやスカーフを禁ずるべきかどうかで論争が巻き起こるようなお国柄です。それに範をとったトルコの世俗主義もやはり徹底したものでした。ムスタファ・ケマルの治世後期の1930年代には世俗主義にかかわる憲法条文の改正を発議することすら禁ずるような厳格なものとなりました。宗教的な服装で公の場に出ることはもちろん禁止。ということで、ヴェールやスカーフを公立の大学で着るのも禁止されました。政治に関しては特に厳格で、イスラム政党と名乗るだけで憲法違反となり、法律を厳格に適用すれば解党ということになります。エルドアン大統領が最初に所属したイスラム系政党、福祉党はまさにこの世俗規定の違反で解党の憂き目に遭っています。

     ただし、この厳格な世俗主義が一般民衆に疑いなく受け入れられていたかといえば、それは疑問が残ります。同志社大学大学院の内藤正典教授は当時のトルコ国民の思いについて、
    「たとえば、公の場でスカーフの着用が禁じられていると、女性は髪をだして歩くわけですね。イスラムの女性にとって髪をさらすというのは裸をさらすのと同じくらい恥ずかしい行為であったりする。長年の慣習なのに、これを禁じていいのか?次第に窮屈さを感じていった」
    と解説しています。
     また、経済が発展してくると貧富の差が生じます。そこで弱者への福祉政策を行おうとするわけですが、そこでも世俗主義との対立が生じていたのです。というのも、イスラム教の教えの中には「喜捨」というものがあります。ザカートとも呼ばれ、ムスリムに課された5つの義務の内の一つ、収入の一部を困窮者に施すことです。弱者への福祉政策は国による喜捨に当たるのではないか?ということが公然と議論され、世俗主義に反するということで違憲だという批判が巻き起こりました。結果、時の政府も表立って福祉政策を打つことができず、ここでも一般市民からは不満が高まっていったわけです。

     そんな一般大衆の支持を集めたのが、エルドアン氏率いる現政権与党、公正発展党(AKP)。低所得者向けの公共住宅を整備し、食い詰めて都会に出てきた人たちの住む不法占拠のバラックからの移住を推し進めました。また、低所得者が利用するバスが慢性的な渋滞でほとんど意味をなさなかったので、バス専用レーンを整備。BRTを走らせて仕事場へのアクセスを容易にしました。今までであれば喜捨だとしてタブーだった福祉政策を推進し、国民の支持を獲得していったんですね。
     ちなみに、こうした福祉政策推進では、エルドアン氏とギュレン師の間に溝はありませんでした。両者の確執が表面化するのは、その後。公共事業を巡るエルドアン政権の腐敗をギュレン師一派が暴こうとした時まで待たなくてはいけません。

     一方、そんなエルドアン氏、AKPの動きに不満を募らせていたのが軍でした。ムスタファ・ケマルがもともと軍人であったことから、軍は世俗主義、ケマル主義の擁護者であると考えられ、軍人たちも擁護者を自任するようになりました。1960年と80年に二度あった軍部によるクーデターも、その大義名分はケマル主義の堅持にありました。すなわち、軍はそのDNAの中に世俗主義というものがあって、それはイスラム主義を進めるエルドアン大統領とぶつかるだけでなく、穏健なイスラム主義を掲げるギュレン師とだって決して肌が合うわけではないんですね。
     いわば、剛腕を発揮するエルドアンよりはギュレンの方がまだ与しやすいといったところでしょうか。たしかにギュレン師はトルコ各地でエリート養成を積極的に行い、今や政・官・軍や財界にもたくさんのシンパがいるようです。ただ、それだけで100年以上にわたる世俗のDNAのある軍があれだけ組織だったクーデターに動けたのか?大いに疑問の残るところです。

     そして、我々西側はIS掃討のためにエルドアン政権と手を組み続ける必要があります。民主主義、法の支配という建前からすればクーデターを許すわけにはいきません。しかし一方で、イスラム主義を独裁に使うエルドアンは警戒しなくてはならない。特に、今回のギュレン一派を根絶やしにしようとする動きは要警戒です。まさに、テーブルの上で握手をしつつ、下では足を蹴りあう展開。この複雑怪奇な動きに我が国は...、どうも「触らぬ神に祟りなし」という諺を思い出してしまいます。
  • 2016年07月11日

    どこをどう改憲する?

     昨日投開票された第24回参議院議員選挙。私も昨夜8時半から開票特番を担当し、開票の行方を見守りながら各党幹部や候補者の話を聞きました。
     全ての票が開いてみれば、自公の与党で70議席を占め、総理が勝敗ラインとした改選過半数、61議席を大きく上回る結果となりました。さらに、自公におおさか維新の会、日本のこころを大切にする党、非改選の無所属議員を加えた「改憲勢力」で参院全体の3分の2を超えました。すでに改憲勢力で3分の2を超えている衆院に加え、参院も3分の2を超えたことで、憲法改正の前提となる国民投票の発議の要件が揃ったことになります。

    『改憲勢力、「3分の2」超す 4党に非改選の無所属含め』(7月11日 朝日新聞)http://goo.gl/34EUdk
    <第24回参議院選挙の議席が11日午前、確定した。非改選議員を含めた参院全体では、自民、公明、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の4党に、憲法改正に前向きな非改選の無所属議員を加えた「改憲勢力」が3分の2を超えた。改憲を持論とする安倍晋三首相(自民党総裁)のもと、国会での議論が加速しそうだ。>

     ただ、だからといって今すぐ憲法改正の発議を行うといった拙速なことはせず、憲法審査会で与野党で議論するのが先決だと与党幹部は口をそろえます。総理も、投開票日から一日明けた月曜、会見でこう述べています。

    『憲法改正は「わが党の案をベースに3分の2を構築する。まさに政治の技術だ」』(7月11日 産経新聞)http://goo.gl/7ghBrU
    <どの条文をどう変えるべきかということについて、憲法審査会において、まずは真剣に議論をしていくべきではないのかなと思います。憲法審査会の場において、所属政党にかかわらず、まずは議論が進んでいく、成熟をしていく、深まっていく、収斂していくことが期待されると思います>

     ということで、ここからどこをどう変えようという議論が始まります。第2次安倍政権発足時から改憲については定期的に紙面をにぎわせていて、最初は憲法9条。続いて、改正要件を定めた96条。さらに現行憲法には記載のない緊急事態条項の整備など様々な案が出てきました。結党以来改憲を党是とする自民党には憲法改正推進本部があり、ここでは去年2月、緊急事態条項、環境権などの新しい人権、財政規律条項の創設を中心に議論することが確認されています。戦争の放棄を定めた9条や改正要件の96条は護憲派からの批判の強い条項。ここから改憲に動くのはさすがに難しいということで、緊急事態条項や環境権などの比較的賛成を募りやすい条項にシフトしているわけですが、ここは良く考えなければなりません。

     私が特に危惧しているのは、財政規律条項を盛り込むことです。財政規律条項とは、極端に言えば国の歳出は原則租税などをもって賄うべしということ。借金してまで歳出を増やすなという緊縮財政を憲法に書き込もうということです。
     なぜこれを危惧するかというと、現在やもう少し前のリーマンショック後の景気停滞期、デフレ期であっても財政を拡大して景気を下支えすることが全くできなくなってしまいます。
     デフレ期には企業も家計もリスクを取って支出を拡大することをしようとしません。お金の価値が放っておけば上がっていく(=物価が継続して下がる)のがデフレ期ですから、モノに投資するよりもカネのままで持っておいた方が得をするわけですね。そんなときに損をしてでもカネを使えるのが、儲けを度外視でき、1年2年の短期ではなく長期で支出することができる政府部門。ところが、そうした「損して得取れ」の損する部分が、財政規律条項を作ると違憲とされる可能性があるのです。

     さらに、現行憲法の99条には憲法遵守条項というものがあります。
    <第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。>
    公務員はこの憲法遵守義務を負うわけですから、そもそも緊縮財政以外の予算を書くことそのものが出来なくなるわけですね。

     過度の緊縮が景気を悪くするだけでなく、社会不安を呼び起こすということはヨーロッパ各国の財政危機を見ても明らかです。EU各国は基本的に財政赤字はGDP比3%以内に収めよという義務を負っています。これに違反すると、罰金などの制裁を受けることになるのです。目下、EUはスペインとポルトガルに対し、この制裁をちらつかせて赤字削減、緊縮財政の実施を迫っています。

    『欧州委が制裁勧告=スペイン、ポルトガルの財政赤字-EU結束に逆風も』(7月8日 時事通信)http://goo.gl/NDe9EP
    <欧州連合(EU)欧州委員会は7日、スペインとポルトガルの財政赤字が基準を超過し、十分な是正努力もされていないとして、両国への罰金などの制裁をEU財務相理事会に勧告した。発動されれば初の制裁となる。>

     これに対し、OECDの事務局長やフランスの財務大臣などが発動すべきではないと批判していますが、ドイツなどの北欧の国々は制裁発動を迫っています。

     現在、ヨーロッパの国々も内需が縮小する形でのデフレが近づいています。その時に政府が内需を下支えする形で公共投資をしようとするのですが、EU法によって財政赤字のキャップがはまっているので投資が制約されます。そして、GDPとの対比ですから経済が縮小してGDPが減少すれば、赤字の額もさらに圧縮しなくてはなりません。さらに投資が減って、それだけでは足りずに公共サービスを削る必要すら出てくるわけです。
     従来政府部門が多く支出しているのは社会福祉部門ですから、医療費や各種控除、手当、さらに就業支援などがヨーロッパの国々では削られています。社会的弱者にシワ寄せがくるわけで、当然社会不安が募るわけですね。

     わが国でも、改憲に向けての議論が充実するのは結構ですが、一見誰もが賛成しそうな「広き門」、財政規律条項から入ると、後で大きな後悔を生むでしょう。国の財政を家計簿感覚で「借金は悪!」と議論を始めるのは非常に危険です。
  • 2016年07月04日

    18歳選挙権と消費税

     いよいよ今週末、10日(日)に参議院選挙の投票日を迎えます。すでに様々な報道をされていますが、今回の選挙は選挙権年齢が18歳からに引き下げられて初めての国政選挙。初めて選挙に臨む若者たちがどう考えているのか、あるいは政治の側が若者に向けてどんな政策を打つべきかなど、いろいろな角度からの解説が出ています。一方で今回の参院選は総理から「2017年4月に予定されていた消費税増税を延期する決断をした。その是非を民意に問いたい」という投げかけがありました。ということで、この2つを重ね合わせ、消費税増税延期が若者にどういった影響を与えるのかを書く記事が多く見られます。

    『世代格差、解消先送り=消費増税延期、進まぬ再配分【16参院選】』(6月18日 時事通信)http://goo.gl/Fi3igL
    <消費税増税で得られる増収分は、年金を含め増え続ける社会保障費用に充てることが決まっている。「持てる者」から「持たざる者」へ富を再配分するのが税の機能。消費税増税の先送りで、子育て支援や医療・介護の低所得者支援などの財源確保が不透明となった。
     財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の吉川洋会長(立正大教授)は「とにかく格差が拡大している。これは公平性や社会の安定性の観点から大問題だ」と指摘。「社会保障制度は格差のストッパー。その社会保障が財政面から行き詰まっている」と語る。>

    『18歳選挙権 社会保障負担増 その先のために』(6月19日 毎日新聞)http://goo.gl/ujFAaq
    <未来は急には来ない。消費増税が延期され、年間4兆円程度の借金返済が先送りになったことで、後で返す借金が増えることにもなりかねない。一方で、格差や貧困が大きな問題になっている。未来を少しでも明るくするには、今を考えるしかない。>

     18歳選挙権と社会保障負担、消費税増税を絡めた記事には大体今挙げた記事と同じような論立てをする傾向があります。まとめると、
    ①消費税は社会保障の財源とされている
    ②消費税の税率を上げた分で社会保障の充実を図るとしていた
    ③ところが、増税を延期した
    ④したがって、社会保障の充実も完全には実施できない
    ⑤すると、再配分が十分にできず、格差は解消されないまま
    ⑥さらに、財政健全化の道のりも遠のき、国債が暴落する~!
    ⑦それらのしわ寄せは若者に押し寄せる
    といったもの。若者の側もこれに沿った発言をしている記事もありました。

    『<参院選 大人って...>(上)世代と負担 借金膨張で若者にツケ重く』(6月27日 東京新聞)http://goo.gl/cQAR0c
    <安倍晋三首相は消費税率10%への引き上げを再延期した。増税で充実させると約束した社会保障政策への悪影響はもちろん、負担先送りに伴う若者の痛みも増えかねない。
     「上げるべきだった。目先ばかり考える人間が多いから、将来の話につながらない」(斎藤さん)
     「私たちの下の世代の負担が少しでも減るのなら上げるべきだった」(藤本さん)
     若者二人はいずれも首相の判断に否定的だった。>

     ここで若者を批判するのは趣旨ではありません。私は増税のリスクについてろくに説明することなく、増税延期のリスクのみを言い募る大人の側に憤っているのです。

     今挙げた記事を煎じ詰めれば、「格差解消のために消費増税が有効」という言説ですが、これがいかに詭弁かというのは少し考えればわかることです。消費税は所得に関係なく、基本的に買い物をすれば取られる税金。食費や光熱費といった生活必需品を買えば所得が低くても取られてしまいます。所得が低い層は入りと出がトントンか少し貯金が出来れば御の字という家計の状況。その出の部分に税金がかかってきますから、負担感は大きい。

     一方、所得が高い層は入りは大きいけれど出の部分は収入ほど大きくは変わりません。収入が100倍であっても、食費を100倍にまですることは容易ではありませんからね。その分、所得が高い層は消費税の負担感は小さいわけです。

     さらに問題なのは、もともと負担感の大きい消費税を増税されると、所得の低い層の暮らし向きがさらに悪くなるということ。支出をさらに切り詰めに切り詰めるとなると、そんな中で貯金が出来るのか?異性と付き合えるのか?結婚できるのか?子供を作れるのか?「負担の先送りで将来の痛みが増える」と言いますが、まずは今足元の痛みを取り除かなければ将来の芽を摘むことになってしまわないでしょうか?たとえば、経済的な事情で結婚をあきらめる、出産をあきらめるとなれば、そもそも将来世代の社会への登場の可能性を積んでいることになります。そうまでして消費増税することにどんな正義があるのでしょうか?「将来世代への負担先送りをやめろ!」と言って行った政策が、その将来世代の社会への登場を妨げているとすればこんな皮肉はありません。事実、我が国の合計特殊出生率は残念ながら今後も上がる気配がありません。

     消費税には逆進性がある以上、税率を上げて行けば低所得層と若年層への負担感が増していきます。その事実を言わず、「君たちの将来のために消費増税が必要だ」というのは詭弁以外の何物でもありません。有権者教育が重要だと繰り返されていますが、このように教えることの中身によっては正確なことが伝わらない恐れもあるようです。
  • 2016年06月27日

    備えよ、常に

     イギリスのEU離脱を問う国民投票。日本のニュース番組もそれ一色が続いていますが、ご存知の通り離脱多数の結果が出ました。

    『英「EU離脱」まとめ...国際情勢や世界経済に不安』(読売新聞 6月26日)http://goo.gl/N4fWtr
    <欧州連合(EU)に残留すべきか離脱すべきかを問う英国民投票の結果は24日確定し、離脱支持が過半数に達した。>

     世界中が固唾をのんで見守ったこの投票、衝撃の結果を受け、各国の市場が荒れています。

    『世界同時株安の展開に NYダウも急落、英のEU離脱で』(朝日新聞 6月25日)http://goo.gl/Pcz3BF
    <英国の欧州連合(EU)からの離脱決定を受け、世界各国で株価が下落した。24日のニューヨーク株式市場は、大企業で構成するダウ工業株平均が急落し、終値は前日より610・32ドル(3・39%)安い1万7400・75ドル。欧州各国の株価も大幅に下がり、世界同時株安の展開となった。>

     株などのリスク資産から逃げ出したマネーは、安全とされる国債へと流れています。世界の国々の国債の中でも、特に日本国債は大いに買われているようです。

    『長期金利、過去最低を更新 マイナス0.215%に低下』(日本経済新聞 6月24日)http://goo.gl/WrOPjv
    <24日午後の国内債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが過去最低を更新した。12時30分すぎにマイナス0.215%を付けた。円相場の急騰を受けて企業業績の悪化懸念が強まり、日経平均株価が急落したことを受け、投資家がリスクを避ける目的で「安全資産」とされる国債の買いを進めた。>

     さて、イギリスのEU離脱を巡る騒動の中で海外経済が俄然注目を集めていますが、実は日本経済全体にとって海外経済はとっくに下押し要因でした。

    『平成28年5月分貿易統計(速報)の概要』(6月20日 財務省HP)http://goo.gl/q6fxjr

     このデータを受けての各社の報道は、「4か月ぶり貿易赤字!」ばかりでしたが、貿易収支は赤字だから悪、黒字だから善というものではありません。それよりも、輸出が金額ベース、数量ベースどちらをとっても減少を続けているところが問題です。特に、直近の5月に関しては、世界中どこの地域でも減少しています。イギリスのEU離脱で世界経済がガタつく前から、すでに輸出は減少していた。つまり、輸出に日本経済拡大の期待をかけるのは間違っているであろうということですね。

     もう一つこの統計データを見てみて唯一の明るい点は、輸入の数量ベースが増えているということ。日本の内需が少しずつですが回復しつつあることが見えるわけですね。そして、先ほど触れましたが、このイギリスのEU離脱の余波で日本の国債が買われています。10年債のマイナス金利が拡大し、国債を発行する、お金を借りる立場からすると非常に有利になっている。ということで、この回復の兆しが見える内需を、国債発行を原資とした財政出動でもっともっと温めていくべきなのではないでしょうか?

     何と言ってもマイナス金利ですから、今ならほとんどノーリスクで財政出動ができます。イギリスのEU離脱による世界経済の失速は、過去に起こったリーマンショックやサブプライムショック、アジア通貨危機などと違って、明確な病巣があるわけではありません。むしろ、先が見通せないことそのものが失速の原因となっています。そして、イギリスのキャメロン首相は「EU離脱の表明は次の政権で」と言っている以上、この先行きの不透明さは長く続きそうです。つまり、このリスクオフの姿勢、株式よりも国債へという流れは長く続く公算が高いわけです。

     まさに、財政出動の絶好のチャンス。この危機を逆手にとり内需というコートを着て、世界経済の荒波に備えるべきなのではないでしょうか?
  • 2016年06月20日

    世論調査の扱い

     参院選公示を明後日に控え、この週末に行われた各社の世論調査の結果が今日の朝刊を軒並み飾りました。朝日、毎日、読売、産経と主要紙はそのほとんどが週末に緊急調査の形で行ったわけですが、その扱いが微妙に異なりました。一面で大きく扱ったのは、読売と毎日です。

    『比例投票先、自民35%・民進12%...読売調査』(読売新聞 6月20日)http://goo.gl/Unq7Yn
    <読売新聞社は17~19日、参院選公示を前に全国世論調査を実施した。
     参院比例選での投票先は、自民党が35%でトップを保ったが、前回調査(6月3~5日)の42%から7ポイント下落した。民進党は12%(前回11%)とほぼ横ばいで、公明党、おおさか維新の会の各7%、共産党の4%などが続いた。安倍内閣の支持率は49%で前回の53%からやや下がった。不支持率は38%(同35%)となった。>

    『本社世論調査 アベノミクス「見直すべきだ」61%』(毎日新聞 6月20日)http://goo.gl/ieqQFz
    <毎日新聞は18、19両日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は5月の前回調査から7ポイント減の42%、不支持率は6ポイント増の39%。安倍政権の経済政策「アベノミクス」を「見直すべきだ」という回答は61%で、「さらに進めるべきだ」の23%を上回った。>

     両紙とも、サブの見出しに「内閣支持低下49%」(読売)、「内閣支持率7ポイント減」(毎日)と、内閣支持率についても大きく報じていました。また、紙面には間に合いませんでしたが、産経新聞・FNNも合同世論調査を行い、やはり内閣支持率について大きく報じています。

    『内閣支持率49・4%↓ アベノミクス「継続すべき」51・1% 参院で自公過半数で「よい」54・8%』(産経新聞 6月20日)http://goo.gl/tQ5xue
    <産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)は18、19両日に合同世論調査を実施した。安倍晋三内閣の支持率は49・4%で前回調査(5月28、29両日)から6・0ポイント減少した。50%を割り込むのは、4月以来2カ月ぶり。不支持率は4・1ポイント増の38・1%だった。>

     これを受け、菅官房長官は20日午前の記者会見でコメントしています。
    『支持率に一喜一憂せぬ=菅長官【16参院選】』(時事通信 6月20日)http://goo.gl/yQsugz
    <菅義偉官房長官は20日午前の記者会見で、来月の参院選を控える中、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が低下したことについて、「支持率に一喜一憂すべきではない」と述べた。その上で「国民に約束したデフレ脱却、経済再生、さらには希望出生率1.8、介護離職ゼロ。こうしたことをしっかり行うことが大事だ」と強調した。>

     ここまで見て来ると政権の退潮が著しいような印象を受けます。読売新聞は一面トップで扱っていますし、毎日新聞も参院選関連の2番手記事ながらも4段を割いていますから。しかし、支持率について正反対とは言わないまでも違った結果が出ている世論調査もあるのです。それが、朝日新聞とNHKです。

    『比例投票先「自民38%民進15%」 朝日連続世論調査』(朝日新聞 6月20日)http://goo.gl/5UCh4m
    <朝日新聞社は18、19日、参院選(22日公示、7月10日投開票)に向けた連続世論調査(電話)の2回目を実施した。仮にいま投票するなら、比例区ではどの政党に投票したいと思うかを政党名を挙げて尋ねると、自民38%(4、5日の前回調査は39%)、民進15%(同12%)、公明7%(同7%)、共産6%(同7%)、おおさか維新の会4%(同6%)などとなった。>

    『安倍内閣「支持する」47% 「支持しない」34%』(NHK 6月20日)http://goo.gl/9ujKIh
    <NHKの世論調査によりますと、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、1週間前に行った調査より1ポイント下がって47%、「支持しない」と答えた人は、1ポイント下がって34%でした。>

     NHKは内閣支持率が1ポイント減。朝日は前回調査と変わらずという結果でした。NHKはまだ見出しにも内閣支持率を取り、リード記事にも載せているので良心的ですが、朝日は支持率に変化がないことを見出しにも取らず、記事の中でも最後の最後に申し訳程度に<内閣支持率は45%(前回45%)、不支持率36%(同34%)だった。>と触れるのみ。その上、この記事は一面の一番小さな扱い。番組前にざっと各紙を読んでから打合せをするんですが、「読売、毎日は世論調査しているけど、あれ?朝日はやってないんだっけ?」と一瞬見つけられないほど小さな扱いで驚きました。

     また、記事の大きさは違えど、読売と朝日で同じ見出しを取っているのも面白いですね。もちろん、その意図は正反対で、政権に対して肯定的な読売としては支持率が4ポイント下がったのでそれを大きく扱いたくなかったのでしょう。一方、政権に厳しい姿勢の朝日は、下がると思っていた内閣支持率があろうことか前回と同じだったのでこれでは大きく扱えないと思ったからでしょう。どちらも、本来の論点をズラす意図があるのではないかと批判されても仕方がない扱いです。
     ただ、朝日の方は扱いを小さくして、見出しもズラしてと手が込んでいます。なぜこんなことをするんでしょうか?おそらく、本音ではなかったことにしたいけれど、一面からも削ったら各紙見比べた時にかえって目立っちゃうからという苦肉の扱いなのではないかと私は見ています。

     いずれにせよ、同じタイミングで行った世論調査にも関わらず、こんなに結果が違い、そして結果によって紙面の扱いがここまで変わってしまう。紙面での扱いが変われば、読み手側の感じ方は大きく変わってしまいます。これで公平な視点の提供と言えるのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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