• 2014年08月13日

    GDP激減も想定内?

     4月~6月期のGDP速報値が発表され、今日の夕刊各紙は1面で大きく伝えています。

    『4~6月期GDP年率6.8%減 駆け込みの反動大きく 7~9月期は回復か』(日本経済新聞)http://goo.gl/WKJPOC
    『4~6月GDP、年6・8%減...震災以来の低迷』(読売新聞)http://goo.gl/RsbFxX
    『GDP、年率6.8%減 4~6月期 震災以来の下げ幅』(朝日新聞)http://goo.gl/PZLExe
    『GDP:消費増税の反動 年率6.8%減 4〜6月期』(毎日新聞)http://goo.gl/BiPU2K

     各紙の見出しを並べてみました。見出しに載せる載せないは各紙の判断でしたが、4月の消費増税前に駆け込み需要があって、その反動で下がったにすぎないというのが各紙共通の分析。そして、日経の見出しが極め付けですが、この後「7月~9月期は回復」ということも各紙揃って書いています。
     外交・安全保障に関しては水と油のような4紙ですが、なぜか経済に関してはすべて一致。
     まったく、不思議ですねぇ~。
     さらに疑問なのが、これらの分析が全て政府見解と一致するということ。甘利経済財政担当大臣の談話を見てみましょう。

    『2014年4-6月期四半期別GDP速報(1次QE)公表に際しての甘利経済財政政策担当大臣談話』http://goo.gl/j8JkgX

     まずは、数字の落ち込みの原因について、
    <1-3月期における消費税率引上げ前の駆け込み需要や、PCソフトのサポート切れ等に伴う更新投資増からの反動により、個人消費、住宅投資、設備投資が前期に比べマイナスとなったこと>
     違うところと言えば、ウィンドウズXPをPCソフトと言い換えているあたりのみ。しかしそれとて、たかだか1つのパソコンソフトに一国の経済を左右するほどの力があるのか疑問です。乱暴な計算ですが、我が国のGDPは500兆円。4分の1で125兆円。一方、仮に国民全員がウィンドウズXPを別のソフトに買い換えたとしても1億3000万人×1万円で1兆3000億円。4半期GDPの1%にもなりません。これを疑問なく全紙が記事にするというのは、どう考えてもおかしいと思います。

     続いて、個人消費について、
    <個人消費に関連する、家電販売や百貨店売上等は、4月に大きく減少した後、持ち直しの動きがみられる。(中略)景気は緩やかな回復基調が続いており、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動も和らぎつつあると考えられる。>
     そして、先行きについても、
    <景気動向指数の先行指数、消費者マインド、設備投資計画が改善してきていること等も踏まえれば、当面、反動減等により、一部に弱さが残るものの、次第にその影響が薄れ、各種政策効果が発現する中で、緩やかな景気回復が進むと見込まれるが、海外経済の動きを含め、引き続き今後の動向を注視してまいりたい。>
    と、非常に楽観的な言葉が並んでいます。これも、各紙の記事と全く同じ。7~9月期は駆け込み需要の反動が和らいで個人消費が回復。設備投資も伸びて、景気は回復するであろう。そして、ここから先は新聞にしか書いていませんが、12月と言われている総理の消費税再増税の決断も予定通りしてくれるだろうという流れになっています。

     10%への消費増税へのシナリオが大詰めを迎えているわけですが、ここでキーとなるのが、個人消費。足元の個人消費がどうなっているのか、実は内閣府は毎週毎週細かくチェックして、発表しています。

    『消費税率引上げ後の消費動向等について』(内閣府ホームページ)http://goo.gl/bpVrbo

     現時点で最新の8月8日分には、
    <主要5品目の家電販売は、8月第1週では、前年に比べて気温が高かったことなどから、引き続き前年比プラスとなった。なお、前年の影響を排除するため前々年と比較すると、マイナスとなっている。>
    <(百貨店)大手各社の7月売上の前年比は、前月よりもマイナス幅が小幅に縮小したとみられる。ただし、昨年は、7月に売上が前月比大きく減少していたことに留意が必要。>
    <飲食料品は、8月第1週では、前年比マイナスとなっている。>
     あれ?甘利大臣の談話とも、新聞の記事とも逆の内容が、足元の内閣府から出されていませんか?
     家電販売は去年と比べれば良くなっているけれど、去年は冷夏。同じ条件の一昨年と比べるとマイナス。一昨年はまだ民主党政権で、デフレまっただ中だったわけですから、その時よりも悪い。百貨店の売り上げも去年と比べればわずかにいい数字ですが、こちらも去年は冷夏だったので割引が必要と認めています。

    これで本当に駆け込み需要の反動減が和らいだといえるのか?むしろ、8%への消費増税がダイレクトに景気にマイナスの影響を与えているのではないか?そんな中で消費税を10%に再増税して本当にいいのか?せめて延期すべきではないのか?そうしたことを考えるのに、新聞各紙が揃いも揃って同じ論調では何の参考にもなりません。総理演説のコピペを辛辣に批判するのに紙面を割くのであれば、自分たちのコピペ記事についてもきちんと見解を明らかにすべきではないんでしょうか?
  • 2014年08月06日

    報道しない自由?

     『経済』という言葉の語源は、『経世済民』という四字熟語だそうです。『経世済民』とは、三省堂新明解四字熟語辞典によれば、
    <世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと。また、そうした政治をいう。▽「経」は治める、統治する。「済民」は人民の難儀を救済すること。「済」は救う、援助する意。「経世済民」を略して「経済」という語となった。>
    とあります。
     すなわち、経済というのは金儲けのことではなく、人々を苦しみから救うように、世の中をよく収めることがその本質というわけです。
     我々は、そのことを骨身にしみて理解しているはずです。アベノミクス以前のデフレ不況では経済政策、金融政策の無策により我々国民は塗炭の苦しみを味わいました。日本がデフレに突入した1997年から、年間の自殺者数が毎年3万人を超え、去年ようやく3万人を切ったというのはその何よりの証左だと思います。

     このように、本来経済を左右する政策というものはそのまま国民の生命を左右するわけで、万々が一にも間違いがあってはなりません。それゆえ、毎週のように様々な経済指標が発表されていて、経済状況を逐一チェックできるようになっています。そして、我が国は民主主義国家であり、政府を代表する内閣総理大臣も我々国民の代理人にすぎないわけですから、本来はこの様々な経済指標についても我々国民が逐一チェックできなくてはいけません。各省庁はホームページにこれらの数字をアップしているんですが、そんなに細かくチェックできません。やはり、新聞などのメディア頼りになります。

     前置きが長くなりましたが、まずは原理原則に立ち返って、報道がいかに大事かを確認したかったのです。何が言いたかったかというと、その新聞報道が大問題だということ。
     これから先の経済を考えるときに、消費増税がやはり大きくクローズアップされます。今年12月に、消費税を10%に上げるかどうか、総理が判断をすると言われています。10%に上げられるかどうかは、足元の経済状況による。率直に言えば、好景気であるかどうかが問題になるんですね。

     新聞各社経済面は総じて消費税を上げるべきだということで歩調を合わせていますから、景気がいい数字は都合が良く、景気の先行きが不安という数字は都合が悪い。各メディアは公平に報じているというかもしれませんが、明らかに都合のいい悪いであからさまに扱いが違うのです。特に、経済専門紙、日本経済新聞の紙面にこの傾向が顕著に現れています。

     8月1日朝刊4面左手に2つの経済指標が並べて出ています。

     まず、大きな見出しに表も含めた記事3段で、
    『夏のボーナス7.19%増 経団連まとめ、24年ぶり伸び率』http://goo.gl/2EuUAx
    <経団連が31日発表した今夏の大手企業のボーナス集計によると、妥結額平均は昨年夏に比べて7.19%増え、86万7731円となった。2年連続の増加で、バブル期の1990年(8.36%増)以来、24年ぶりの伸び率となった。>
    バブル以来の好景気到来!いい話です。

     そして、わざわざその真下にたった1段のベタ記事で、
    『実質賃金、6月3.8%減 12カ月連続マイナス』http://goo.gl/XHAJ0v
    <物価上昇が、賃上げを上回るペースで進んでいる。厚生労働省がまとめた6月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、現金給与総額が0.4%増える一方、物価上昇分を除いた実質では前年同月に比べて3.8%減った。>
     額面はちょっと増えているかもしれませんが、周りの物価はもっともっと上がっているので生活は苦しくなっている。12か月連続でマイナスなわけですから、アベノミクスはまだまだサラリーマンにはさほど波及していないことがわかります。これは非常に重要で、生活している肌感覚と近いのはどちらかと言えば、やはり後者。なのに、紙面構成としてはアベコベになっているわけです。世論をミスリードしようとしているのか?経世済民とは真逆ですよね。

     しかし、まだ記事にするだけマシなのかもしれません。消費増税の影響で景気が冷え込んでいるのではないか?という決定的な数字が、先日発表された6月の鉱工業生産指数です。
    『鉱工業生産、6月3.3%低下 東日本大震災以来の下げ幅』http://goo.gl/wqcLm0
    <経済産業省が30日発表した6月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は96.7だった。前月比で3.3%低下した。マイナスは2カ月ぶり。(中略)経産省は生産の基調判断を「横ばい傾向にある」から「弱含みで推移している」に下方修正した。>
     生産も出荷も前月比マイナスに関わらず、在庫だけは前月比プラス。生産の判断は弱含み。消費増税の影響が軽微で、4~6月期は落ち込んでも7~9月期はプラスになるのであれば、なぜ6月の終わりに「弱含み」になるんでしょう?都合の悪い数字です。

     そして、この記事、ウェブには上がっているんですがどこをどう探しても紙面にないのです!どうしてこれを報じないのか?ニュースバリューがないというのか?全く、理解に苦しみます。

     消費増税に賛成だろうと反対だろうと、正確な数字を知らなくては判断のしようがないでしょう。いやしくも『経済』を看板に掲げる新聞社が果たしてこれでいいのか?『経世済民』の根本に立ち返って報道してほしいものです。
  • 2014年07月28日

    人手不足は問題か?

     このところ、人手不足に関する報道が様々なところでされるようになってきました。特に、サービス業や製造業、建設業などで深刻で、業績を圧迫しているという論調です。

    『焦点:「人手不足ショック」が低価格ビジネス直撃、企業業績に暗雲も』(7月24日 ロイター)http://goo.gl/CEmaJ0
    < アベノミクス景気の副作用ともいえる労働力不足が、製造業、非製造業を問わず、企業活動に深刻な影響を広げている。東京五輪をにらんだ工事需要が増えている建設業だけでなく、デフレ下で低価格を武器に成長してきた外食、小売り、格安航空、さらには地方の中小企業などでも状況の悪化が続く。>

    『人手不足 3社に1社が必要人数確保できず』(7月24日 NHK)http://goo.gl/o9JeQp
    <人手不足が懸念されるなか、先月までの3か月間にアルバイトや中途社員の採用で必要な人数を確保できなかった企業が全体の3分の1に上ることが、民間の調査で分かりました。>

     2つ、代表的な報道を引きましたが、それ以外も人手不足が景気の足を引っ張る可能性があるという論調で、ロイターに至っては、人手不足問題は「アベノミクスの副作用」とまで断定しています。そして、どの記事を読んでいても、企業側の対応策や望ましい解決策として「外国人労働者の導入を視野に」しましょうという流れになっています。

     上記、ロイターの記事では、みずほ総合研究所のシニアエコノミスト、山本康雄氏の話として、
    <「労働市場をもっと流動化させる努力が必要だ。それによって成長産業へ人材をシフトする一方、外国からの移民も含めた労働者数の拡大も必要になる」>
    と紹介し、NHKも控え目ながら、
    <「人手不足への特効薬はなく、企業は、少ない人員で業務を進められるよう、人材活用を構造的に見直していく必要がある」>
    として、まずは効率化を図るべきとしています。

     しかし、人が欲しいなら、なぜ「賃上げ」しないんでしょうか?我が国は完全雇用の状態ではありません。アベノミクスで景気が回復したおかげで徐々にその状態に近づいていますが、それでも5月の失業率は3.5%。まだ未就業の人がいる以上、その人を振り向かせるためには雇用条件を良くすること、すなわち「賃上げ」するのが一番手っ取り早いと思うんですが、なぜそれを解決策として書かないんでしょうか?もちろん、企業に取材すれば、固定費が増大する賃上げをするなんて口が裂けても言わないでしょう。それ以外の方法があれば、まずはそこに誘導すべく努力するでしょう。しかし、それは企業経営者の視点。メディアはそれはそれとして大局的にどうすることが望ましいかを考えるべきなのではないでしょうか?もともと総理は「賃上げが最終目標」と繰り返していて、経済3団体にも繰り返し繰り返し申し入れを行っていました。ということは、賃上げをしなければ人手を確保できない、周りの環境が賃上げせざるを得なくなっているというのは正しい流れなのではないでしょうか。

     しかも、現状で「実質賃金」はむしろ下がっています。
    『5月の"実質賃金指数"、3.6%減から3.8%減に下方修正--11カ月連続で前年下回る』(マイナビニュース 7月22日)http://goo.gl/BKYzFt
    <現金給与総額についても、速報値の前年同月比0.8%増の26万9,470円から同0.6%増の26万8,859円に下方修正。現金給与総額に物価変動の影響を加味した実質賃金指数も、同3.6%減から同3.8%減に下方修正し、11カ月連続で前年を下回った。下げ幅は前月より拡大し、2009年12月(同4.3%減)以来の大きさとなった>

     たしかに春闘の結果、大企業を中心に賃上げはあったものの、物価も上がったせいで実質的に買えるものが少なくなったというのは、最近の肌感覚でも納得できるものです。ここで賃上げではなく、良くて効率化による現状維持、悪くすれば低賃金の外国人労働者導入による賃金抑制となれば、GDPの6割を占める個人消費が間違いなく冷え込みます。GDPが増えなければ、当然不景気ということになり、デフレ脱却の芽を摘み取ることになりかねません。そうなれば、結局国内企業の業績だって落ち込んでしまうかもしれません。どうも企業は目先のコストカットに目を奪われるあまり、長期的な利益を逸しようとしているように見えます。むしろ、過去20年間のデフレで賃金が抑制され続けてきたそのツケを、ようやく企業が払うときが来たということではないでしょうか?

     まとめれば、人件費をどう捉えるかという問題なのでしょう。
     「必要悪のコスト」と捉えれば、とにかく抑制することが企業経営のセオリーとなるでしょう。
     一方、雇用者はイコール消費者であると考えれば、賃金の過度な抑制は回りまわって消費を冷え込ませ、最終的には企業経営を圧迫することになります。したがって、人件費を「リターンをくれるお客さんへの投資」と捉え、適正水準を維持する、場合によっては賃上げをするということになります。
     企業はどうも前者と捉え、経済マスコミもそんな企業の見方をそのまま報じているような気がしてなりません。その結果、賃金抑制が世の中の流れになっていき、結果として国民経済を冷え込ませるようなことがあっては元も子もありません。大局的観点から考えると、まだまだ賃上げが足りないと私は思うのです。
  • 2014年07月21日

    今そこにある危機

     先日、日曜日の日本経済新聞のコラムに興味深い記事がありました。
     『理論も導く「日中冷和」』というタイトルのこの記事。
     国際政治理論の2つの見方を引用しつつ、日中関係を分析しています。2つの見方というのは、一つは「リアリズム」という見方で、勢力の均衡によって紛争を防ぐという考え方。この時の「勢力」とは、軍事力や経済力、地理的要素を含みます。一方の「リベラリズム」とは2国間の関係や価値観に重きを置く考え方で、経済的に相互依存関係にあったり、あるいは民主主義国同士であれば戦争は起こらないという考えに基づいています。
     そのコラムでは、この2つの大きな価値観、5つの要素で日中関係を分析しています。「隣国同士」「大国同士」「経済相互依存がある」「共通の敵がない」「価値観(民主主義)を共有しない」。日中関係は、この5つすべての要素が当てはまります。相互依存が戦争を抑止し、他の要素が対抗意識を強めるから、時に危機をはらむ「冷たい平和」の構造となるのです。

     さて、現状は記事にある通りの『冷和』状態にある日中関係ですが、これが永久に続くわけではありません。とはいえ、リベラル系のメディアが言うように「とにかく対話」というわけでもありません。先に挙げた5つの条件の中では、「大国同士」というファクターで勢力均衡が崩れつつあるのです。

     防衛の専門家に話を聞くと、キッカケとなりそうなのは日中がぶつかる東シナ海ではなく、南シナ海とのこと。南シナ海といえば、先日中国は予定より早く石油探査装置を撤収させました。

    『中国、南シナ海での石油掘削作業が終了=新華社』(ロイター 7月16日)http://goo.gl/gMjleR
    < 中国国営の新華社は、同国とベトナムが領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島近海に設置された石油掘削装置(リグ)を使った作業が終了し、装置が移動されると伝えた。付近に石油やガスの埋蔵を確認したといい、新華社は中国石油天然ガス集団(CNPC)が「収集したデータを分析し、次のステップを決定する」と伝えた。>

     この説明を額面通り受け取る専門家はいません。資源関係の専門家は、そもそも石油掘削装置(オイルリグ)を使って資源探査を行うなんてものがナンセンスだそうです。探査の実績もないし、コストも高い。

    ・今回使われた海洋石油981(人民網)http://goo.gl/nqEnnA

    もしも本当に資源を求めているとしたら、次にパイプラインを敷設する海洋石油201という船が出てこなくてはなりません。

    ・海洋石油201(中国網)http://goo.gl/MBfkTM

     しかしながら、海洋石油201を出してくるどころか、海洋石油981も撤収してしまいました。したがって、資源以外に目的があるのは明白。では、なぜ金のかかるオイルリグを出してきたのか?専門家は、これを守るという口実で海警や海軍の展開を常態化することこそが真の目的であると指摘します。それこそ、南シナ海を自国の内海とするということ。そして、そこに戦略原潜を沈めておくことを目標としています。

     南シナ海は水深が深く、そこに原子力潜水艦を沈めておけばそう簡単には見つかりません。これに核ミサイルを積んでおけば、先ほど書いた東アジアの勢力均衡が一気に崩れることになりかねないのです。現在は、この潜水艦搭載型のミサイルJL2は推定射程が8000キロ程度。これを南シナ海から撃ったところでアメリカ本土には届きません。今、中国はこの射程を延ばしてアメリカ東海岸まで届かせようと躍起になっています。もし、射程が伸びたら...、その時には日米VS中の勢力均衡がガラガラと崩れるでしょう。

     理論上はこんなシミュレーションができます。
     中国が日本を攻撃した時、今までならアメリカは中国へ反撃します。なぜなら、中国のミサイルはどう頑張ってもアメリカまでは届かず、アメリカは無傷で反撃できたからです。しかし、ミサイルの射程が伸びてアメリカ東海岸まで脅威にさらされるようになれば、アメリカは今までのように反撃できるでしょうか?
     中国が日本を攻撃する。アメリカが仮に反撃する。すると、中国は南シナ海の潜水艦からアメリカへミサイルを発射する...。アメリカは、理論上自分達が無傷でいられないとわかっていても、日本のために核ミサイルを撃つようなことができるのか?私はできないと思います。

     つまり、①南シナ海を中国にとられる、②中国のミサイルの射程が伸びる、この2つが揃った瞬間に日本を守る『核の傘』が破れてしまうのです。そうなれば、日本の立場は劇的に弱くなってしまうでしょう。大国同士でなくなれば、小国は大国に従わざるを得なくなる。つまり、日本が中国の属国化してしまうという最悪のシナリオまで考えざるを得なくなるのです。もちろん、軍事力以外のファクターもありますから、すぐにそうなるという話ではありません。
    ただ、危機に一歩近づくのは確かでしょう。

     今の南シナ海の情勢は、日本の『核の傘』が破られる2つの条件のうちの1つが満たされるかどうかの瀬戸際にいる。つまり、我が日本が中国の属国化してしまう危機の瀬戸際にいる。飛躍していると言われるかもしれませんが、我々日本人はそういう危機感を持って南シナ海情勢を見ていかなくてはいけません。
  • 2014年07月17日

    相思相愛?維新と結いの行方

     今に始まったことではありませんが、大阪・橋下市長の政局勘といったものがどうもズレてしまっています。弱り目に祟り目といったところかもしれませんが、この一週間だけでもこんなことがありました。

    『滋賀知事選、自公推薦候補の支持表明 維新・橋下代表』(7月10日 朝日新聞)http://goo.gl/RXPjGP
    <橋下氏は「官邸サイドの協力も得ながら大阪市、大阪府の行政が進んでいることも間違いない。菅(義偉)官房長官が推しているということなら小鑓さんを応援するべきだ」と説明した。>

     維新はいつから連立与党になったのか?官房長官が推しているからといってなぜそれが支援する理由になるのかも釈然としませんが、結果小鑓候補は落選してしまいました。投票日3日前に、わざわざ負け馬に乗ったわけです。それも、各マスコミの世論調査や官邸筋の非公開の調査でも劣勢が判明していたにも関わらず...。

     そんな流れの悪さを払しょくしようと、野党再編に動いていて、まずは昔から仲の良い江田さんの結いの党に近づいています。政党の合併に移る前に、国会の両院内での活動を一緒に行う会派合流を行いました。

    『橋下維新、結いと衆院で統一会派 野党第2会派に』(朝日新聞 7月9日)http://goo.gl/zzTVJI
    <分裂した日本維新の会の橋下徹共同代表が率いるグループと結いの党は9日、統一会派「日本維新の会・結いの党」の結成を衆院に届け出た。(中略)国会質疑は、会派ごとに質問時間が割り当てられている。維新の会派のままでは、分裂する橋下維新と石原新党が同じ会派として質問に立つことになるため、会派を分けることにした。>

     国会の中での活動を同じくするということで、男女の仲で言えばすでに同棲や事実婚状態のようなもの。さらに、今日、いわば結納まで交わたんじゃないかという報道もされています。

    『維新・結い新党、橋下・江田氏の「共同代表制」が有力 9月に結党大会』(産経新聞 7月17日)http://goo.gl/9YQBTy
    <結いは同日(16日)、維新が国会内で開いた両院議員懇談会に初めて参加。新党の結党大会を9月7日に東京都内のホテルで行うことを決めた。>

     親戚通しの顔合わせまで済ませ、その席で結婚式の日取りまで決めたということで、もう結婚に向かってまっしぐらの相思相愛カップル。仲睦まじくて前途有望と言えそうですが、本人同士はぴったり一致していると思っていても、傍から見ている他人には隙間が見えることがあります。
     維新と結いではよく言われる安全保障政策がそれにあたります。先ほどの統一会派についての朝日新聞の記事にも、
    <だが、集団的自衛権をめぐっては、限定的に行使を認める維新と、「個別的自衛権の範囲内で対応できる」と考える結いとの間で一致していない。>
    との指摘があるわけですね。
     今はそのすり合わせを先送りして、まずはお互いの愛を確かめ合っているところでしょうが、ふとしたしぐさに気持ちが現れるのは男女の仲も政党も同じ。今回は、統一会派で初めて国会活動をした、いわば「初めての共同作業」を終えた直後でした。

    『野党 閉会中審査をさらに要求』(7月16日 NHK)http://goo.gl/ZXTKev
    <国会内で行われた会談には民主党、日本維新の会の橋下共同代表のグループ、日本維新の会の石原共同代表のグループが発足させる次世代の党、みんなの党、共産党、結いの党、生活の党、社民党の8つの党や会派の国会対策委員長が出席しました。>

    この記事のどこに隙間が見えるのかといえば、その顔ぶれ。ある野党国対関係者が教えてくれました。
    「野党第一党の民主党が各会派に出席するか声を掛けていったんだ。維新と結いは同一会派だから、国会活動の代表は一人でいい。ただ念のため、結いの国対に『維新の石関さんが出るからいいよね?』って聞いたら、『いや、ウチも出ます』って言うんだ。会派は一緒なのに、ちょっと違和感があるよね」

     集団的自衛権という、維新と結い両党の関係にとってデリケートな問題なだけに、ひょっとしたら同床異夢ということなのか?それとも、まだ会派統一から日が浅いから今回だけの特例なのか?調べてみると、結党大会の9月7日は先負。選挙で勝った負けたの政党の結党大会で先負とは、ゲンの悪さは否めませんが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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