• 2014年09月16日

    デフレの兆候が見られる!?消費の現場

     先日、あるテレビのニュース番組の中で『"ちょい呑み"が今ブーム!』という特集をやっていました。ちょい呑みとは、文字通りちょっとだけ飲むこと。腰を据えて2時間3時間と宴会を開くのではなく、少人数で、さくっと1時間ぐらいで上がるという呑み方だそうで、その象徴として牛丼の吉野家が最近展開しだした『吉呑み』です。

    『吉野家に赤ちょうちん 話題の「吉呑み」を写真で解説』(9月13日 日経トレンディ)http://goo.gl/LhWYuD

     牛皿(並)250円、牛すじ煮込み350円など、やはり得意の牛を使った料理が、100円~300円に並んでいます。さらに、グループの京樽の協力でマグロ刺し(2人前・500円)などの居酒屋定番メニューもあるそうです。

     さらにこの特集では、ちょい呑みの変形、ファミレス呑みの話に持って行きました。今、ファミレスで呑もうという人も同じように増えているらしく、居酒屋で飲むよりもよっぽど安く飲めるんだそうです。

    『"ファミレス飲み"がトレンド? ワイン100円、焼酎+ドリンクバー...1000円あれば大満足』(8月7日 えん食べ)http://goo.gl/UWFcz8

     ファミレスにはドリンクバーがありますから、上の記事の見出しにもある通り、焼酎と合わせれば割り方は自由自在。ボトルキープしておけば一杯100円程度で飲めるということで、節約にもなる。こうした動きについて、専門家の分析は、専門家は酒の飲み方に対する意識の変化がちょい飲み好調の背景にあるとして、
    「居酒屋の場合"酒を飲まなければならない""最後までいないといけない"とややハードルが高い。一方、"ちょい飲み"はすぐに帰れる。自分の判断で好きなモノを食べて好きなモノを飲める」
    と、分析しています。

     この分析にはズッコケました。そもそも、"酒を飲まなければならない"なんて考える人はどんなところで行われる飲み会でも行きません。「"ちょい呑み"はすぐに帰れる」と言いますが、そんなもの、店の形態によるものではなく参加者の気質によるものでしょう。

     もちろん、吉野家なりファミレスチェーン各社の企業努力は素晴らしいものであるし、批判する筋合いはありません。問題はむしろこの分析、結論。こうした消費動向は、各外食企業の努力の一方、金を払う客の側にも変化があったというところがすっぽり抜け落ちています。

     私は、この吉呑みやファミレス呑みを見ていて、ある種の既視感を覚えました。それは、デフレ居酒屋とまで言われた低価格の均一料金居酒屋。飲み物も食べ物も300円均一とか、ちょっと前に流行りましたよね。インタビューに答えたお客さんが口々にコストパフォーマンスについて話していたのはその象徴であると思いました。消費者の財布の紐が確実に固くなっている。その原因は明らかに消費増税です。消費税を今年の4月に8%に上げたことが確実に消費を冷え込ませている。4月に消費税が上がってから、消費者の具体的な消費行動が変わるまでには2か月ほどかかると言われていて、機を見るに敏な吉野家が吉呑みを本格的にスタートさせたのがこれとピッタリ歩調を合わせるかのように6月。その後の吉呑みの好調を見れば、消費の冷え込みは収束するどころか拡大している一つの証拠とも言えるのではないでしょうか?

     アベノミクスで沸いた去年の今頃、消費のブームは『ちょい高消費』でした。週に一度だけちょっと高いものを食べる、月に一度だけちょっと高い服を買う、年に一度だけちょっと高級な旅に出るなどなど、ちょっと景気が良くなってきたかなというブームでした。
     それが、今はどうでしょう?たしかに、都会の百貨店などはまだまだ高額消費が好調だといわれ、それをメディアは大きく報じて「景気は落ち込んでいない!」と言い募っていますが、足元のブームはすでに高額消費ではなく、"ちょい呑み"のようなデフレ型に戻りつつあるのではないでしょうか?

     吉呑みは現在都心の店舗を中心に10店舗。吉野家によれば、これを来年度中には30店舗まで増やす予定だそうです。ということは、こうした低価格消費=デフレの兆候が来年度も続くであろうという予測を企業は立てているということです。
     もちろん、外食産業の動きが日本経済全体を表しているものではありません。ただし、食事を全くしない国民がいない以上、外食産業は日本経済の姿を浮き彫りにするファクターの一つであることは間違いありません。こうした中で消費税をさらに10%に上げようとする危険さ。あのデフレが戻ってくると思うと、冷や汗が噴き出してきませんか?
  • 2014年09月08日

    増税賛成派の軌道修正のワケ

     来年10月の消費税10%増税に関して、総理は今年の終わりに最終的に決断をするとしています。これは先日の内閣改造後の会見でも明言しています。

    『安倍内閣総理大臣記者会見』(9月3日)http://goo.gl/Fw6NWD
    <この消費税10%への引上げについては、これまでも申し上げてきたとおり、7月、8月、9月の経済の回復を含めて、経済状況等を総合的に勘案した上で年内に判断をいたします。>

     要するに、まだ白紙、まだ決めていないということです。ところが、周りの閣僚やエコノミストと言われる人たちは、先月の半ばぐらいまで「当然10%に上げるべきだ」としきりに言い立てていました。たとえば、甘利経済再生担当大臣は...、

    『消費税10%「予定通りがベスト」 甘利経済財政相』(8月20日 朝日新聞)http://goo.gl/EGZjey
    <甘利明経済財政相は20日、安倍晋三首相が年内に判断する来年10月の消費税率の10%への再引き上げについて、「ベストシナリオは予定通りに上げることだ」と述べた。>

    ところが、最近一部潮目が変わりつつあるようです。同じ甘利大臣は同じ朝日新聞に対して2週後に...、

    『消費増税なら追加的な経済対策も 甘利経済再生相』(9月5日 朝日新聞)http://goo.gl/f8xQ3N
    <甘利氏は「(経済が縮小する)デフレに戻っては何のためのアベノミクスかとなる」と述べ、税率引き上げにはデフレ脱却が着実に進む見通しが条件になるとの考えを示した。首相は引き上げについて現時点では「全くニュートラル」との印象だという。>

     8月20日の時点では「ベストシナリオ」のはずの消費増税が、9月5日になると「デフレ脱却が着実に進む見通し」という条件付きに後退しています。なぜ突然こうなったのか?その答えが今日出ました。内閣府から発表された今年4-6月期のGDP改定値です。

    『2014(平成26)年4~6月期四半期別GDP速報 (2次速報値)』http://goo.gl/QPkQX5

     1次速報値では全体で年率換算6.8%減だった実質GDPが、今回はさらに悪く7.1%減。全体だけでなく、個々の内容も厳しいものでした。私が注目しているのが、「民間企業設備」という項目。前回の1次速報値では前期比-2.5%だったものが、-5.1%に激減しています。今まで、「景気の落ち込みは想定内」「7-9月期は必ず持ち直す」と言い募ってきた経済マスコミはその根拠として、「個人消費は多少冷え込むかもしれないが、好調な企業の設備投資が下支える」と言い続けてきました。そして、先の4-6月期1次速報値が発表されると、民間の落ち込みに比べて企業の設備投資は落ち込みが少なかったので、「これを見ろ!やっぱり企業が引っ張るのだ!7-9は必ず盛り返す!予定通り増税だ」という論調が加速しました。ところが、その頼みの綱の設備投資が今回消費支出と同じだけの落ち込みであったことが発表され、消費税8%増税の影響が個人だけでなく企業セクターにも及んでいることが明らかになりました。増税派にとっては不都合な真実が明るみに出たことになるわけです。「これはハシゴが外れる!」と思ったのでしょうか?今まで増税一辺倒だった甘利大臣の発言も微妙に軌道修正していますが、新聞各紙も急にかじを切りました。象徴的なのは、日曜の日本経済新聞一面。今までの「財政再建のための消費増税大賛成!景気は底堅いから迷わず増税決断を!」という論調を考えると、コペルニクス的転換という見出しでした。

    『景気回復もたつく 増税・天候、消費に影』(9月7日 日本経済新聞)http://goo.gl/ePYg2g
    <景気回復の足どりがもたついている。個人消費は4月の消費税率引き上げ後の落ち込みを抜けつつあるものの、勢いは弱い。夏の天候不順に加え、増税による物価上昇ほど賃金は増えていないためだ。当面は設備投資が下支え役となる。消費税の再増税を乗り越えるには、投資から消費増につながる好循環を確実にできるかがカギとなる。>

     あくまで「夏の天候不順」が主で、消費増税は従というような書きぶりに無念さがにじみます。それでも、「消費税の再増税を乗り越えるには、投資から消費増につながる好循環を~」としています。増税へ期待をつないでいるわけですが、その「(設備)投資」も冷え込んでいるわけですから、これは消費再増税の前提条件がすでに崩れていると言えないのでしょうか?

     我々一般の肌感覚としては、「4月の増税ですでに一杯一杯。さらに10%への増税なんてもっての他!」と思うし、各種指数もそれを裏付けているとは言えないでしょうか?私は引き続き、総理の英断を期待したいと思います。
  • 2014年09月01日

    在日米軍と防災

     『防災の日』ということで、日本各地で訓練が行われています。東日本大震災の際の「トモダチ作戦」の活躍などがあって、最近では在日アメリカ軍もこの訓練に参加することもあるようです。

    『米軍ヘリ参加で災害訓練 関西初、人や物資輸送』(9月1日 沖縄タイムス)http://goo.gl/gzkHiK
    <訓練は、南海トラフでマグニチュード9級の巨大地震が発生し、広範囲に津波が来襲するとの想定で実施。応援要請を受けた在日米軍は、神奈川県のキャンプ座間から隊員ら5人搭乗のヘリ1機を飛ばし、救援物資を陸上自衛隊に輸送後、患者を収容する手順を確認した。>

    『地域でつくる防災の輪』(8月31日 読売新聞)http://goo.gl/1VAxfq
    <訓練は、周辺5市1町から集まった支援物資を、米軍のヘリで東京臨海広域防災公園(江東区)まで運んだ後、陸上自衛隊のトラックを利用して被災地の杉並区まで搬送するという内容で行われた。>

    『県総合防災訓練 伊豆南部の孤立想定』(9月1日 中日新聞)http://goo.gl/ecbtcg
    <(静岡県)下田市吉佐美の沖合では、米空軍が水やコメなどの支援物資を海上にパラシュート投下し、漁船で回収する訓練が国内で初めて行われた。>

     ただ、こうして米軍が訓練に参加すると、必ず起こるのが抗議行動。たとえば、米軍ヘリが参加した兵庫・芦屋の訓練については、

    『米軍参加の合同防災訓練に抗議 31日開催の芦屋で集会』(8月30日 神戸新聞)http://goo.gl/SZyPg9
    <「米軍参加は軍事力機能強化が目的で、軍国化の一歩」との反対アピールを確認。>

     ただ、素朴に思うのは、命を救ってくれるのなら米軍も自衛隊も警察も消防も関係ないと思うのですが...。まあ、本土なら自衛隊や近隣都道府県・市町村の警察、消防が駆けつけてくれるので日本人が自力で何とかなるかもしれません。それゆえ、「米軍の支援なんて要らない!米軍参加は軍事力強化目的!」と抗議もできるのかもしれませんが、日本国内には本来そうも言っていられないところもあります。

     それが、沖縄です。

     実は沖縄も地震とは無縁ではなく、「沖縄トラフ」(東シナ海側)、「南西諸島海溝」(太平洋側)という2つの地震の巣に挟まれています。沖縄県は、この2つを震源とするマグニチュード8クラスの地震が起こった場合、どの程度の浸水が予想されるのかを発表しています。

    『沖縄県津波被害想定検討結果について』(沖縄県HP)http://goo.gl/NknFiq
    『津波浸水予測図 沖縄本島沿岸域』(沖縄県HP)http://goo.gl/dcoZhL

     これによれば、物流の拠点となる那覇港で8.7m、那覇空港では11.6mの津波が押し寄せるとしています。となると、沖縄県の海と空の玄関は津波被害により使用不能になることが予測されるわけです。ここで忘れていけないのが、沖縄県と鹿児島県にまたがる南西諸島の長さ。日本最西端の与那国島から本土までの距離というのは、実は日本列島を丸ごと呑み込むだけの長さがあるのです。実感よりも距離はあるのですね。そして、空港も港もダメになった時に、本土から救援物資を迅速に運ぶことができるのか?そう考えると、ある程度の期間は沖縄の中で、自力でしのぐタイムラグが出来てしまうのはやむを得ません。その時に、どう備えるのか?日本人だけでしのげるのか?在日米軍との協力も視野に入れるべきではないのか?

     こういった、沖縄の防災と米軍との協力について、今年4月、一冊の提言がまとめられました。
     タイトルは、『米軍との自然災害対処協力~沖縄からの提言~』http://goo.gl/rsUgM0
     発行したのは、NPO法人沖縄平和協力センター。東日本大震災を契機に、足掛け丸2年かけて作られました。
     この第1章、政策提言要旨の第1項に、

    <沖縄県内には在沖米軍基地をめぐり政治的な問題が存在する。しかし、在沖米軍は、災害時の減災の要として重要な役割を果たすものであり、地域の災害への備えとして政治的な問題とは切り離して考えなくてはならない>

    と謳っています。何しろ、沖縄県に駐留している自衛官の総数はおよそ6300人。一方、沖縄にいる米軍人はおよそ2万6千人。軍属及び家族を含めるとおよそ4万7千人に上るといいます。自衛隊は本島以外にも離島のケアも受け持ちます。本島に避ける人員がどの程度かと考えると非常に心もとない。その上、沖縄本島の自衛隊は陸・海・空の司令部をはじめ、ほとんどが那覇空港近くに集中しています。その那覇空港は11.6mの津波が押し寄せるというのです。初動でどこまで動けるのか...?推して知るべしというもの。

     とはいえ、1から10まで米軍任せとなると日本の主権にかかわる問題になる。緊急時とはいえ、米軍の軍政というわけにはいかない。そこで、在沖米軍と在沖自衛隊の連携を中心に、県が間に入ってリーダーシップを発揮するという枠組みを平時に作っておくことに主眼を置いています。現在は、市町村単位で緊急避難先として米軍基地を使ったり、緊急時に米軍基地を通って高台へ避難したりという協定は結んでいますが、それだけでは足らない。全島・全県をカバーする包括的なものを作って、実際にその枠組みで訓練もするべきだと提言しているのです。

     たしかに、米軍基地が沖縄に集中しすぎているのは問題で、沖縄の負担軽減は喫緊の課題であることは誰もが認めることです。ただ、現状、これだけ米軍基地があるわけですから、それを使わない手はない。原理原則論で米軍基地そのものがまるで存在しないかのような避難計画では意味がない。これは本土で抗議する方々にも言えることですが、原理原則論では人の命は救えません。とかく原理原則の議論が沸騰しているように見える沖縄で、リアリズムに徹した提言書が地元から出てきたということに驚き、先日、日本記者クラブで行われた会見に行ってきました。この沖縄平和協力センターの理事長は、稲嶺・仲井間両知事の知事公室長を務めた行政の大ベテラン。

     私が、「よくこんなリアリズムに徹したものを沖縄で作れましたね」と聞きますと、「こんなもの、現役じゃ出せませんよ」と、首をすくめました。本来、一朝有事の際には人の命がかかってくる現役の行政マンこそ考えなければならない問題。沖縄の議論の複雑さを垣間見る一瞬でした。いつになったらリアリズムで議論ができるようになるのか?県知事選の争点になることはあるのでしょうか...?
  • 2014年08月27日

    広島土砂災害の現場から

     広島土砂災害から今日で一週間。今日午後の県警の発表では、死者71人、行方不明者15人にのぼっています。そして、いまだ1000人を超える人々が避難生活を余儀なくされています。

    『広島・土砂災害、見えぬ生活再建 なお避難所に1300人』(8月27日 共同通信)http://goo.gl/GHbPcI

     私は発災から2日後の22日に現地に入りました。前日・木曜の放送で被災したリスナーの方からメールを頂戴し、その方の案内で取材を進めたのです。その方のお住まいは、安佐南区緑井。ご自身は家も含めてご無事だったのですが、そこから100mも歩くと、家々には土砂が流れ込み、押し流された家や車が潰され、転がっていました。

    P8220017.JPG
    広島市安佐南区緑井の泥が堆積した公園。あずま屋の屋根だけが顔を出している(8月22日)

     その現場で彼が言ったのが、
    「飯田さん、この匂いです。これを覚えて帰ってください」
    という一言。木の匂いや土の匂い、カビの匂い、それらが混然一体となったつんとした強いにおいが辺りを包んでいました。
    「土石流が来たとき、この10倍ぐらいの匂いが漂っていたんです」
    見ると、泥にまみれた流木が、根こそぎ流されそこここに放置されています。そして、堆積した大量の泥。公園に堆積した泥は胸の高さに達し、遊具は頭が出ているのみ。この大量の土砂が民家の一階を突き破り、自動車を押し流し、まるで津波の跡のような光景を生み出したわけです。さらに、取材をした日は時折薄日が差す曇り空だったんですが、雨が降らないとあっという間に乾き出し、土埃と化します。この土埃は非常に粒が細かく、すぐに見通しが悪くなり、のどや目が痛くなります。マスク、ゴーグルなしでは復旧作業が困難なほど。そうした光景も、東日本大震災の津波の被災地と同じであり、この災害が土砂崩れという生易しいものではなく、もはや山津波というべきものだということを肌で感じました。

    P8220140.JPG
    広島市安佐南区八木の被災現場。土だけでなく、その下にあった岩盤部分(花崗岩)まで崩れている(8月22日)

     これだけの被害が出た以上、これから先の防災施策を変えなければなりません。しかし、今回は発災当初から「避難勧告の遅れ」ばかりがクローズアップされています。昨日の市長会見でもその話が出ました。

    『広島市長「避難勧告早ければ被害小さく」 土砂災害で』(8月27日 日本経済新聞)http://goo.gl/PHH0DX
    <避難勧告が災害発生後になったことについて「勧告が早ければ被害が小さくなった可能性はある」との認識を改めて示した。条例に定めた形式的な基準だけでなく、複数の配慮項目を検討する作業をしていたという。>

     では、勧告を検討した時にすぐに出したとしたら、つまり20日の午前3時前後に避難勧告を出したらどうだったのか?避難所でも様々な方にお話を伺ったんですが、一番多く聞かれたのが、
    「雨が激しくて音が大きくて、外で何が起こったのか全く分からなかった」
    というものでした。その当時は10秒に一度雷が落ち、一時間に100ミリを超える激しい雨が降っていた時間帯。ある女性は、
    「外の様子を見ようと窓を開けると、雨のあまりの勢いに怖くなって窓を閉めるほどだった」
    と語るほどの激しい雨だったそうです。
    また、別の女性は隣の家が土石流の直撃を受け、お住まいの方は残念ながら亡くなったそうなんですが、
    「雨の音、雷の音がひどくて、まったく気づかなかった」
    と話しています。つまり、何かあった時に近隣の方の救助も期待できないような過酷な環境だったわけです。

     果たしてそんなときに避難勧告を出して、本当に避難できたのか?もちろん、それにより救われた命があった可能性だってあるでしょう。ですが、避難しようとしたときに濁流に呑まれたり、土砂崩れに巻き込まれたりというリスクだってあったと考えられます。もし、「避難勧告が遅れた!もっと早く出すべきだった」と主張するのであれば、雨が激しくなるよりずっとずっと前に避難勧告を出すべきだったということになります。そうなると、既存の勧告までのプロセスでは到底間に合わず、勧告を出す仕組みそのものを考え直さなくてはなりません。激しい雨が降る予報が出れば、何度も何度も空振りするのを覚悟の上で、「それでも命を落とすよりははるかにマシですよ」と主張しなくてはいけません。
     取材をしていて、これだけ自然環境が激変すれば避難勧告というシステム自体はそうせざるを得ない。とにかく予防的に、空振り覚悟で避難勧告を出さざるを得ないと私自身は思うんですが、そこまで主張するメディアはほとんどありません。「避難勧告が遅れた!遅れた!遅れた!」と、そればっかりなんですね。これ、うがった見方をすれば、本来であれば議論されて然るべき、都市計画のあり方や安全を考えての建築規制のシステムの話から話題を逸らす目的があるんじゃないか?とも思ってしまいます。

     被災したある女性がぽつりとつぶやいた一言が忘れられません。
    「広島は温暖な土地で、いままで大雨だとか土砂崩れだとか、他人事だと思っていたのにねぇ...」
     どうすれば新しいタイプの災害に強い街づくりができるのか?その本質的な議論が行われなければ、今回の尊い犠牲を無駄にしてしまうことになるのではないでしょうか?少なくとも、避難勧告の出し方だけで終わる話ではありません。
  • 2014年08月19日

    政府の女性政策の落とし穴

     最近、因果を取り違えて大問題になることが続出しています。先日発覚した、しゃぶしゃぶ木曽路の"肉偽装"もそうでした。

    『木曽路"肉偽装"は料理長の給与↑のため?』(8月15日 日本テレビ)http://goo.gl/qOCZ8P
    <木曽路では牛肉の仕入れ先や価格は本社が決めるが、仕入れ量については各店舗の料理長に任せていた。原価を低く抑えれば売り上げが上がり料理長の給与が良くなった可能性があるという>

     理想論を言うようですが、飲食業の目的は顧客満足のはず。「美味しいものを食べて満足」とお客さんが思えば、売り上げは自然とついてくるもののはずなんですが、売り上げそのものが目標になったのでテクニックを駆使して数字だけを合わせるような"偽装"が横行したわけです。ただ、「結果」と「目標」を取り違えるこうした事例は、そこここで見られます。働いていれば誰しも、「ウチの会社も...」、「ウチの上司も...」と思うのではないでしょうか?

     そうした因果の取り違えは、国の重要政策でも見られます。その一つが、成長戦略の中に入っている「男女共同参画」。女性の社会進出と言われる分野です。この分野を報じるメディアはだいたい、「日本は遅れている!まだまだ進出が足らない!女性の数が少なすぎる!進出を加速させるために、働き方の改革を!」という論調です。その改革を促進するために、東京オリンピックが開かれる2020年までに指導的地位に占める女性の割合を全体の3割にするという目標を掲げ、さらに管理職の一定割合を必ず女性に割り当てるクウォーター制度の導入なども議論になっています。
     しかし、目標に数字が出てきたときには注意しなくてはなりません。数字が出ることで目標が明確化される一方で、数字だけが独り歩きして、中身がおろそかになってしまうこともあるからです。この20年までに3割という目標も、あるいはそのために管理職の一定割合を女性とするクウォーター制も、中身あってのものだと思うのです。案の定、中身である「働き方の改革」よりも、外見の「数字合わせ」に終始する企業の姿が浮かび上がってきました。この問題に関する典型的な報じ方をしている記事を見てみましょう。

    『女性管理職を増やせ』(NHK 8月6日)http://goo.gl/iZz4Nr

    中身を要約しますと、

    ・企業側は女性管理職を増やしたい
    ・一方、女性側はキャリア登用へ及び腰
    ・そこで社長が直接呼びかけたり、
    ・周りが配慮するようワークショップを開催したり。
    ・在宅勤務の拡大や
    ・短時間勤務制度を活用
    ・人材育成のあり方も見直すべき

    といったところです。"女性"管理職を増やすのが目的ですから、女性側へのアプローチばかりがならんでいるのです。
     しかし、これらの報道に欠けているものがあります。それは、改革改革と言っていながら、すべて既存の働き方を維持することが前提なのです。
     男性は今まで通り仕事をする。
     女性は家事も育児もやり、その上でどうにかこうにか仕事もする。そのために、制度を整える。
     そうした、女性に無理を強いるモデルなんですから、そりゃ女性は及び腰になりますよね。記事の中に出てくるワークショップでも、「女性への接し方を考える」という発想がそもそも間違いで、「子供を持つすべての従業員への接し方」を考えなくては何も変わらないと思うのです。
     なぜ、女性が社会に進出するのと同時に、男性が家事や育児に進出することを後押ししないのでしょうか?人間には向き不向きというものがあります。仕事をバリバリやりたい女性がいる一方で、仕事はそこそこで良くて家事や育児の方が向いていると思う男性だっているはずなのです。それこそが、流行り言葉で言うところのダイバーシティ(多様性)というものではないでしょうか?
     男性にとっても女性にとっても子育てをしやすい環境を作ることで、能力のある女性は自然と業績を挙げ、結果として女性管理職の数が増える。上から無理やり引っ張り上げるというよりも、下から自然と増えていく。これがあるべき女性登用の方法だと思うんですが...。『2030年に3割を女性管理職に』という数字だけが独り歩きすることで、女性に無理ばかり強いることになりはしないか心配です。なにしろ、現状は非常に厳しいわけですから。

    『民間企業の女性管理職6・6% 登用促す取り組み4割未満』(8月19日 共同通信)http://goo.gl/vhNKxN
    <安倍政権が「2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」との目標を成長戦略に掲げ、女性の活躍推進のための新たな法案作りを進める中、企業の取り組みは依然として追いついていない実情が浮かび上がった>

    さらに、いわゆる「ガイアツ」を使った改革を迫るような報道も。

    『日本女性の社会進出 米議会調査局が懸念示す』(NHK 8月13日)http://goo.gl/m7NEa0
    <アメリカ議会調査局は、日本における女性の社会進出に関する報告書をまとめ、安倍内閣の政策に期待を示す一方、東京都議会で質問をした女性議員にやじが飛んだ問題などを取り上げ日本の政治文化や職場環境に懸念を示しました>

     率直に言って、余計なお世話なわけです。アメリカの議会に言われるまでもなく、我が国の国益に沿えば女性の社会進出を粛々と進めればいいだけの話で、こんなニュースを日本の各メディアが鬼の首を取ったように大きく報道する姿勢には首をかしげざるを得ません。政府・与党は女性の社会進出や人口減少を食い止めるために、秋にも議連を立ち上げ幅広く議論する予定だそうです。その設立準備会が7月の中旬にあったんですが、早くも心配な一コマがありました。

    『「男女平等」日本は後発 出遅れる永田町に新議連』(7月27日 日本経済新聞)
    <「子どものお迎えがあるので意見を申し上げたら退出したいのですが、いいでしょうか」。22日夕、東京・永田町の自民党本部。意見交換が始まってすぐ丸川珠代参院議員が立ち上がってこう言うと参加者らから歓声が上がった。「それは大事なことだ」>

     これが、名もなき男性一年生議員の発言で周りも快く送り出したのだとしたら希望が持てるわけですが、そんなことを言ったら男性議員は干されてしまうでしょうね。もちろん、丸川議員が仕事も育児もきちっとやる姿勢は素晴らしいと思います。そこをとやかく言うものではありません。ただ、「男性の育児参加」という視点、そのための労働環境改革がなくては、結果としての「女性の社会進出」も望めないと思うのです。今こそ、「急がば回れ」の施策が求められます。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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