• 2015年12月16日

    新聞の軽減税率って...

     自民・公明両党が来年度の与党税制大綱を決めました。

    『自・公、2016年度与党税制改正大綱を決定』(12月16日 読売新聞)http://goo.gl/pLze8u
    <自民、公明両党は16日、2016年度与党税制改正大綱を決めた。
     消費税の軽減税率を2017年4月から導入することを明記。酒類と外食を除く「食品全般」と新聞を軽減対象とした。軽減対象の税率は8%、対象外は10%となる。>

     ここ1、2週間、毎日毎日報道されてきたこの軽減税率問題。どこで線引きをするのか、生鮮食品か、加工食品か、外食も含めるのか。の際グレーゾーンになるのはこういった事例だ、これはまだ決まっていないなどなど、手を変え品を変え相当な紙幅を割いて各紙報じてきましたが、一つだけ少ししか報じられていない軽減税率があります。

     それが、新聞に対する軽減税率。いよいよ税制大綱を決定すると言われた10日(木)にシレッと軽減税率の中に入ってきて、各紙、ベタ記事レベル、最小限の触れ方しかしませんでした。

    『新聞も対象「宅配、週2回以上」、書籍・雑誌は結論先送り』(12月15日 産経新聞)http://goo.gl/XUoK9P
    <自民、公明両党は15日、10%への消費税増税時に導入する軽減税率に新聞を適用すると決めた。日刊か週2回以上発行する新聞を定期購読する場合に、8%の税率が適用される。駅売りの新聞や新聞の電子版などは対象外となる。
     書籍・雑誌の扱いは、暴力や性的な表現を含むものを切り分けることが難しいとして引き続き検討するとし、結論を先送りした。>

     今まで軽減税率の適用を求めて業界を挙げて運動してきました。各紙も何度も何度も軽減税率の適用を求める記事を社説で主張し続けてきました。つい最近も、ダメ押しのように各紙社説で主張しています。

    『軽減税率 円滑導入で増税の備え万全に』(12月13日 読売新聞)http://goo.gl/WO7e7q
    <海外では、軽減税率を採用する大半の国が、食品と並んで新聞や出版物を対象にしている。
     新聞と出版物は、民主主義の発展や活字文化の振興に貢献してきた。単なる消費財でなく、豊かな国民生活を維持するのに欠かせない公共財と言える。
     こうした社会的役割を踏まえ、日本でも、新聞と出版物に軽減税率を適用すべきである。>

    『軽減税率で与党合意 「欧州型」への第一歩に』(12月13日 毎日新聞)http://goo.gl/hHW6o0
    <また、与党間では新聞も対象にするよう調整しているという。欧州では書籍類も含め、「知識には課税しない」という考え方が定着しており、日本でもそれをふまえた制度設計が望ましい。>

     これだけの大キャンペーンの末、軽減税率適用を勝ち取ったわけですから、それを大々的に書いてもいいような気がします。ところがむしろ、あんまり大きく扱ってほしくない、でも書かないわけにもいかないからアリバイ作りという雰囲気がするこのベタ記事扱い。
     そもそも軽減税率は低所得者対策とされてきたのに、なぜ新聞だけは<民主主義の発展や活字文化の振興>目的となるのか?それなら、書籍は?雑誌は?
     さらに、<民主主義の発展や活字文化の振興>のために新聞があるのであれば、なぜ<日刊か週2回以上発行する新聞を定期購読する場合>に限られるのか?同じ内容なのに、駅売りの新聞は<民主主義の発展や活字文化の振興>には貢献せず、宅配の新聞は貢献するんだそうです。どう考えてもおかしい...。

     というか、こんな突っ込みどころ満載なのに、なぜ無理やりにでも軽減税率適用を押し通したのか?これについて、ある政府関係者が解説してくれました。

    「定期購読の新聞と駅売りの新聞の違いは何か?それを考えれば自ずと答えは出て来る。定期購読には、間に販売店が入ってくる。ここがポイント。果たして、販売店は定期購読分の部数だけを扱っているのかな?定期購読分以上の部数の問題、いわゆる『残紙』については昨今問題となってきた。それが、消費税増税で仕入れの負担が増えて顕在化してはマズイ。新聞社だって、背に腹は代えられないのさ」

     新聞の軽減税率適用。その裏には様々なしがらみがまとわりついているようです。しかし、ここまでして2017年4月に増税し、軽減税率を運用すべきなのでしょうか...?
  • 2015年12月09日

    GDP改定値が示す不都合な真実

     7-9月期のGDP(国内総生産)の2次改定値が発表されました。先月発表された1次速報では2四半期連続マイナス成長だったものが一転。プラス成長に転じたので、驚きを持って伝えられています。

    『GDP改定値 景気依然足踏み 7〜9月、年1%増』(12月8日 毎日新聞)http://goo.gl/9qPOBB
    <内閣府が8日発表した2015年7〜9月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、年率換算で前期比1.0%増になり、マイナス成長だった速報値(0.8%減)から2四半期ぶりのプラス成長に転換した。>

     2四半期連続マイナス成長となると、本来は国際的な定義により自動的に景気後退局面と認定されます。しかし、日本政府は1次速報が出たときに、短期的な分析と長期的な分析を分けて発表。足元はあまり良くないものの長期的には成長の兆しがみられるという理屈で景気後退局面に入ったことを認めませんでした。それ自体も首をかしげる内容でしたが、それ以上に不思議なのがマイナス0.8%(年率換算の実質)がプラス1.0%(同)と、実に1.8%分も押し上げられていること。新聞各紙は判で押したように、設備投資の数字が修正されたからだとしています。

    <GDPがプラスに転換した要因は、設備投資が速報値の前期比1.3%減から同0.6%増に上方修正されたことが大きい。>

     これだけ数字のブレが大きいと、当然のように数字そのものが疑問だという記事が出てきます。

    『GDP改定値0・8%減→1%増の謎 推計精度で大きな"ぶれ" 信認損なう恐れも』(12月8日 産経新聞)http://goo.gl/zPkM0f
    <速報値でマイナス成長だった7~9月期の実質GDPが一転、プラス成長となったのは、速報値における設備投資の推計方法の精度に問題がある。GDP速報値では、工作機械や発電機など、機械を作る企業を対象にした調査(資本財出荷)などに基づき、設備を供給する側の動きから設備投資額を推定している。
    (中略)
    一方、GDP改定値に使う法人企業統計は、設備を導入する需要側の企業約2万7千社に、実際の設備投資額を聞いている。速報値で使う調査には含まれない建築やソフトウエアの投資も調査しており、より幅広い業種の投資状況が反映されている。>

     内閣府が出している元のデータでも、その違いが如実に表れています。
    『2015(平成27)年7~9月期四半期別GDP速報 (2次速報値)』(内閣府HP)http://goo.gl/LUEz8g

     各紙が指摘している通り、季節調整済みの実質で民間企業設備が前期比マイナス1.3からプラス0.6へ。GDPへの寄与率で見てマイナス0.2だったものがプラス0.1と押し上げ要因に変貌しています。もう一つの押し上げ要因が民間在庫品増加で、寄与率マイナス0.5だったものがマイナス0.2になっています。在庫調整が進んで在庫が減ったからGDPを押し下げている、これはいいマイナスだという論評が1次速報の時には一部でされていましたが、今回の在庫積み増しはどう評価するのか?私は家計部門の消費が細っているために意図せざる在庫が積みあがってしまい、それが今だに調整しきれていないと見ているんですが...。

     さて、ここまでは新聞各紙も指摘している景気低迷、足踏みの要因なんですが、内閣府から発表されているこの数字を見ていてハタと気づきました。
    逆に1次速報から今回の2次速報で大幅に下がっている数字があったんです。それが、公的固定資本形成。同じく季節調整済み前期比でマイナス0.3だったものがマイナス1.5まで下げ幅を拡大しています。

    『公的固定資本形成とは』(weblio辞書)http://goo.gl/ZSGJ8K
    <公的固定資本形成(こうてきこていしほんけいせい, government fixed capital formation)とは、政府が行う社会資本整備などの投資である。>

     ということは、企業の設備投資は政府の期待にある程度応えて伸ばしている。個人消費は冷え込んでいるがこれは消費税増税の後遺症。そんな中で、本来デフレ脱却に向けて音頭をとるべきの政府がむしろ公的支出を絞って足を引っ張っている。こんな構図が見えてきます。ただ、7-9月期はまだ当初予算を消化している段階。これを見て補正予算が積み増されれば景気を下支えしてくれるんじゃないかと期待したんですが、それは叶わぬ願いのようです。

    『「1億総活躍社会」に1・2兆円...補正予算案』(12月8日 読売新聞)http://goo.gl/ZWDzNG
    <総額は3・3兆円で、「1億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策に1・2兆円、環太平洋経済連携協定(TPP)の対策に0・3兆円を計上する。さらに、地方自治体の財源不足を補う地方交付税交付金を1・3兆円追加する。>

     その後総理が会合で3.5兆円規模だと発言したそうですが、それでも2000億円の積み増しにすぎません。本来の日本経済の実力に対して不景気でどれだけ押し下げられているかを示すGDPギャップは内閣府発表ではおよそ10兆円の需要不足と言われています。それに対して3兆余りでは全く力不足。しかも今回の補正予算は税収が予想よりも増えた分と、前年度の予算の使い残しを合わせた額とピッタリ一致します。つまり、新たな持ち出しは全くせず、手近なところからのカネをひっかき集めた補正。そこに「デフレから脱却するために何でもやるぞ!」という意図を感じることはできません。とりあえず何もしないわけにいかないからやってます。という意識がありありです。

     新聞各紙はGDP1次速報と2次速報でこれだけぶれると信認が疑われるなんて書きますが、本当に信認が疑われているのは、「デフレ脱却に向けて政府は本気なのか?」という点。ここが疑われ出したら、個人消費も設備投資も伸びなくなってしまうのではないでしょうか?本気でデフレ脱却というのであれば、それを数字で見せてほしいものです。
  • 2015年12月01日

    埋められつつある外堀

     消費税の再増税について、景気の状況が怪しい、むしろ悪い方向に行きかかっている中でやるべきではないと番組でも各コメンテーターが発言し、私もそう思ってこのブログにも度々書いてきました。しかしながら、外堀は着々と埋まって行っている気がします。特に、軽減税率に関する与党協議が始まってからその傾向が顕著です。何度も危機感をお話した通り、軽減税率のニュースを扱うにあたっては、2017年4月の消費税10%への増税が議論の前提となります。結果として、軽減税率の範囲を報じると、消費税の増税が既成事実であるかのように報じざるを得なくなるわけですね。もちろん、コメンテーターとのやり取りの中で消費税増税が決まったわけではない旨は取り上げるようにしてきましたが、番組で軽減税率を扱うたびにその歯がゆさを感じてきました。

     そして、今週の月曜日。もはや毎週のように行われている、新聞・通信各社の世論調査。その中でついに質問事項から、消費税増税の是非が削除されたのです。先月11月の初め、まずは軽減税率を積極的に進める読売新聞の世論調査から「消費税増税に賛成か反対か?」という質問事項が削除されました。

    『2015年11月電話全国世論調査』(11月10日 読売新聞)http://goo.gl/leH1Cu

     この読売の調査では、消費増税の是非を問わずに直接軽減税率についての質問をしています。ただ、この時には、同じ日に行われた朝日新聞の世論調査で消費増税の是非に触れられていたのでそれを参考にすることができました。

    『世論調査―質問と回答〈11月7・8日〉』(11月10日 朝日新聞)http://goo.gl/gIVTVv
    <◆2017年4月に消費税を10%に引き上げることに、賛成ですか。反対ですか。
    賛成31 反対60>

     反対が賛成の2倍。国民の過半数が反対している上に、この数字はここ1年以上ずっと変わりません。生活に直結するものですし、国民の関心の高い政策事項なのですが、先週末行われた2つの世論調査、共同通信全国電話世論調査と、日本経済新聞テレビ東京電話世論調査では質問項目から完全に削除されています。あるのは、軽減税率にまつわるものばかり。むしろ、軽減税率については大きな見出しが立ち、1項目を割いて詳しく伝えられています。

    『軽減税率適用範囲「全飲食料品」が最多 自民支持層』(11月30日 中日新聞)http://goo.gl/F2VdG4
    『内閣支持、49%に回復 軽減税率「生鮮+加工食品」66%』(11月30日 日本経済新聞)http://goo.gl/IKNVto

    私の見落としかと思い質問項目を見てみたんですが、どうやら聞いていないようです。

    『調査結果2015-11』(日経リサーチHP)https://goo.gl/AEHUjU

     共同通信の調査に関しては、東京新聞11月30日の紙面を確認してみましたが、やはり聞いていないようでした。
     国民の6割以上が反対の政策テーマに関して、賛成か反対かを聞かずに賛成前提の踏み込んだ質問をなぜするのでしょうか?例えて言えば、「安保法制に関して賛成か反対か」を聞かずに、「安保法制を活用した自衛隊の活動はどの範囲までできると思いますか?」という質問をしているようなものです。そんな世論調査をした段階で、リベラル系のメディアは「安保法制賛成を前提とした世論誘導である!」と大批判キャンペーンを張ったでしょう。

     消費増税も法律には2017年4月に実施すると書かれていますが、内閣として税制改正を決定しない限り最終的に決まったわけではない。それなのになぜ、消費増税に関しては「まだ決まったわけではない。既成事実化するな!」という批判が湧き上がらないのでしょう?この消費増税議論に関して興味深いのは、安保では賛成の右派だった読売も、反対で左派だった共同通信も同じく、増税の是非を削除していることです。これに関しては、今までの世論調査で増税の是非を聞いてきた朝日新聞に期待をしたいと思います。次の調査で果たして質問項目に上ってくるのか、削除するのか?弱者に寄り添うという、本来のリベラルの矜持を見せてほしいものです。
  • 2015年11月24日

    ダブル選維新圧勝の波紋

     大阪ダブル選挙は地域政党・大阪維新の会の圧勝に終わりました。府知事選、市長選共に、8時に投票箱が閉まった瞬間に各新聞・通信・テレビが維新側候補の当選確実を打つという、「瞬殺」でありました。

    『大阪維新2氏、ダブル選圧勝 府知事・市長』(11月23日 東京新聞)http://goo.gl/eX5gYe
    <大阪府知事、市長のダブル選は二十二日、知事に現職松井一郎氏(51)が再選、市長に新人で元衆院議員吉村洋文氏(40)が初当選を果たし、共に橋下徹大阪市長率いる地域政党・大阪維新の会が勝利した。五月の住民投票で否決された「大阪都構想」への再挑戦を掲げ、自民党推薦候補をそれぞれ大差で破った。>

     この選挙に関しては、投票日を一週間前に控えた週末に各社が行った世論調査で、維新側の優勢が伝えられていました。「優勢」、あるいは「やや優勢」といった表現で、実際の数字は記事には出てきていませんが、その当時すでに永田町界隈では維新側の完勝が予想されていました。内々に出回っていた実際の数字では、各社の調査がおおむね10~15ポイント差で維新側の優勢を示していたので、驚きをもって受け止められました。いうのも、特に市長選については、前回5月の住民投票では都構想反対が僅差で勝利していただけに、この世論調査の結果が出るまではある程度の接戦が予想されていたからです。
     ある政界関係者は当時、
    「告示直後の自民党の内々での調査では2、3%柳本(自民側候補)リードで出ていたんだ。それより前は2ケタ差で柳本がリードしていたから、だいぶ詰められてきたという印象で、維新に勢いがあるなぁという雰囲気だった。しかし、まさか1週前の段階で10ポイント以上もリードするとは...」
    と話していました。そして、当日までその勢いは衰えず、維新が圧勝となったというわけです。

     投票率は50%をわずかに上回った程度ということで、前回の住民投票の時と比べると組織票の存在感が際立つはずが、「ふわっとした民意」(橋下氏)に頼る維新が勝ったというのは、ウラを返すと住民投票の時ほど組織がフル回転しなかったということを示しています。そういえば、大阪住民投票当時、反対が僅差で勝利したという結果を見て地元の記者たちはささやいていました。
    「最後の最後に反対派の大動員があった...。それに維新が負けた...」
     後日いろいろ話を聞くと、この住民投票の時には期日前投票に反対派が動員をかけましたから、投票日前の調査では圧倒的な差で反対派が先行していたんです。ところが、投票日の午前中に投票所に足を運んだ人の出口調査で、期日前の反対票を上回る勢いで賛成票が投じられていることが分かったんですね。このペースで行けば、僅差で都構想は賛成多数になりそうでした。それを反対派が瞬間に、大量動員が始まりました。特に大阪市内の南部、南東部、西成区、平野区などで、公明党、共産党が組織を挙げて反対票の掘り起こしを行い、その結果形勢は再び逆転。僅差で反対派が勝ったんです。

     逆に今回は、あの時ほどの組織戦が展開されなかったということになります。これは、住民投票当時と今回のダブル選の行政区別得票を見比べると良く分かります。

    『大阪都構想住民投票@開票結果(確定票)区別一覧』http://goo.gl/I1eTOQ
    『平成27年11月22日 執行  大阪市長選挙の開票結果  確定』http://goo.gl/M2tSM

     前回1万票近い大きな差がつき僅差反対という結果の原動力となった、2つの区を見てみましょう。
     まずは、平野区。前回は、賛成46072票に対して、反対56959票でした。ところが今回は、賛成(吉村)40730に対し、反対(柳本)32759。1万票差反対優勢が、8000票差賛成優勢にひっくり返っています。
     続いて、住吉区。前回は、賛成38623に対し、反対45950。今回は、賛成(吉村)33872に対し、反対(柳本)28001。こちらも7000票反対優勢が、6000票の賛成優勢にひっくり返っています。区別得票数全体で見ても、反対派の柳本候補が制することが出来たのは、地元の西成区のみ。それでもわずか13票差ですから、いかに組織が動かなかったかがわかります。

     では、なぜ前回ほどの組織戦が展開されなかったのか?大阪政界関係者は、公明党の姿勢の違いを強調します。
    「今回は1週前の各社世論調査で維新が圧倒的な差をつけたので、公明党が恐れをなした。衆院選小選挙区では府内4選挙区に現職がいる公明は基本的に維新を敵に回したくない。1週前までは様子見ムードだったけど、あれでほぼ決まった。維新側は公明にプレッシャーをかけるつもりで最後まで手を緩めなかったからね」
     選挙期間中に来年の通常国会の日程がほぼ固まり、衆参ダブル選挙の可能性が残る日程となったことも、公明党の組織戦を押しとどめる方向に作用したようです。ある意味官邸からの水面下でのサポートが功を奏したと言えるかもしれません。

     この結果でもう一度練り直された都構想案が出てきて、住民投票にかけられるでしょう。一度否決しているだけに難しいのではないかという向きもありますが、これは間違いなく通ります。それも、圧勝で通る可能性だって決して夢ではありません。もちろん、公明党の消極的な賛成が今回の選挙でほぼ決まったからです。

     それに続くのは、都構想を引っさげた国政政党おおさか維新の躍進、そして与党との連携。参院選の結果によっては、すでに押さえている衆議院のみならず、参議院でも改憲の発議に届く3分の2の議員数を自・公・おおさか維で超えてくるかもしれません。ついに、改憲の目が出て来るか?官邸の高笑いが聞こえてくるようです。
  • 2015年11月16日

    MRJ 世界へ羽ばたくためには?

     先週水曜、国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が初飛行を果たしました。テレビ・ラジオでは生中継やその日の昼・夕方のニュース、新聞ではその日の夕刊、翌日の朝刊と大きく取り上げられたので、その知らせに接した方も多いと思います。

    『国産旅客機・MRJが初飛行に成功 名古屋空港に着陸』(11月11日 朝日新聞)http://goo.gl/zWkcII
    <国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が11日午前、初飛行を果たした。開発を担う三菱航空機が、愛知県営名古屋空港(同県豊山町)で最初の飛行試験に成功した。国産旅客機の開発は、1962年に初飛行したプロペラ機YS11以来、半世紀ぶり。欧米の下請けに専念してきた日本の航空産業にとって節目となる。>

     初飛行は当初予定から4年以上遅れましたが、成功裏に終わったということで今後に向けて明るいニュースとして伝えられています。ただ、現在のところ受注はANAやJALといった国内航空大手などで400機ほど。目標はその6倍の2500機ということです。ここからいかに受注を増やしていくか、世界に向けて売って行かなければいけません。

     このMRJの武器は燃費と客室の快適性と言われています。たしかに、燃費は航空会社にとっては重要で、だいたい総コストの3割以上を占めると言われています。それゆえ、少しでも燃料費を抑えようと先々まで長期契約をしたり、少しでも軽くて燃費のいい飛行機を導入したりするわけです。その努力を取材すると本当に涙ぐましく、国際線で出すワインのボトルをガラスからペットボトルに変えるだけでも馬鹿にできない額になるそうです。

     とはいえ、MRJは小型とはいえジョット旅客機。カタログベースで一機当たり4680万ドル(およそ47億円)。いくら燃費が良くても、それだけで決め手になる程単純なものではありません。一つポイントとなるのが販売後のサポート体制です。航空機、特に旅客機というものは売ってそれでおしまいというわけではなく、常にメンテナンスをしていかなくてはなりません。不測の事態に備えて部品をストックしておくのはもちろんですが、それでも対応できなくなったときにはメーカーから取り寄せることになります。その時にモノを言うのが全世界に張り巡らされた支店網。ここから先、こういったネットワークを一から構築する必要があります。

     また、実際に整備に当たる整備士、運行するパイロットたちはその機材専属となります。MRJ担当はMRJ整備・運行に特化した訓練を受け、ライセンスを取得しなくては仕事ができないんですね。たとえば、今ボーイングの機材を担当している整備士やパイロットも、MRJ担当になったらライセンスを別途取り直す必要があるというわけです。まり表に出てきませんが、そこのコスト負担も導入した航空会社には発生するわけですね。

     こうした売った後に発生するサービスに関しては、非常に規模がモノを言います。「鶏が先か卵が先か」という例えのとおり、初期の赤字に目をつぶって数を売って行けば、サービス網が整備されていき、その利便性が次の発注を生んでいく。この正の循環にいかに進んでいくかが真のポイントです。

     逆に、いかに燃費が優れていようと、いかに高スペックであろうと、このサービス網の使い勝手が悪いとトータルのコストが割高になってしまい受注が伸びません。
    そうなると、サービス網を拡大するわけにもいかず、貧弱なままのサービス網では受注も伸びなくなる。かつて日の丸を背負ったYS-11というプロペラ機は、まさにこの負の循環に陥って受注が伸び悩み、わずか11年で生産停止に追い込まれました。

     同じ轍を踏まないために、国内航空会社だけでは足りず海外へ討って出なくてはいけません。そのとき、過度に目先の採算ばかりを追うのは絶対に避けるべきです。メディアも目先の赤字をことさらに取り上げるのではなく、初飛行の報道のような暖かい目で、そして何より長い目で見ることが日の丸ジェットへの援護射撃になると思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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