• 2016年03月02日

    イスラエル旅行報告

     先週一週間お休みをいただきまして、イスラエルに行ってきました。年初からかなりきな臭い雰囲気が漂う中東。イスラエルも、ガザ地区と同地区との境界周辺、ヨルダン川西岸地区(ジェリコ、ベツレヘム、ラマッラ及びこれら3都市とエルサレムを結ぶ幹線道路、西岸内の国道1号線及び90号線を除く)及びその境界周辺、レバノン国境地帯にはレベル3:渡航中止勧告が、私が訪問したそれ以外の地域にもレベル1:十分注意情報が出されています。

     それだけに、街全体にモノモノしい雰囲気が漂っているのではないかと思っていましたが、中は平和そのもの。エルサレムを中心に訪れたんですが、その新市街のオープンカフェでくつろぐ人々の前にはストリートミュージシャンや、若者が集団でダンス。欧米先進国と何も変わらない雰囲気に驚きを覚えました。

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    エルサレム新市街の一角。突然、若者たちのダンスパフォーマンスが始まる。とても平和な光景。

     ただ、一つほかの国とは違うなぁと感じたのは、街で見かける軍服の多さ。銃の多さ。この国、国民皆兵ですから。その上、男女の別なく徴兵制ですから。まだあどけなさの残る若者が軍服に身を包み、肩から自動小銃をぶら下げて路面電車やバスに乗ってきます。もちろん、安全装置はついているはずですし、彼らも扱いには慣れてますから問題ないんですが、生活のこんなに身近に銃があるものとは。日本とのあまりのギャップに慣れるまでは終始ドキドキしてしまいました。

     また、旧市街にはご存知の通り、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地が集中しているとあって、様々な肌の色の観光客が来ています。皆さん、一身に祈りを捧げていました。そこで一つ驚いたのは、中国からの方が多いこと。それも、観光目的ならば「さもありなん」なんですが、巡礼目的の方も結構多いのです。イエスが生まれた所とされる聖誕教会で話を伺った方は、中国・内モンゴル地区のカトリック教徒。讃美歌を中国語で合唱し、一心に祈っているその姿は印象的でした。しかしながら、中国共産党政府とカトリックの総本山、ローマ法王庁(バチカン)とは微妙な関係。国交もありません。余計なお世話ながら、本国でのお立場はどうなんだろう...、と思ってしまいました。

     さて、イメージとは違い平和じゃないかと思ったエルサレム滞在。私が宿泊したのは、エルサレム旧市街にあるホスピスでした。といっても、このホスピスは病気療養者のための施設ではなく、キリスト教巡礼者用の宿坊のことをそう呼ぶそうです。エルサレムの旧市街には、こうしたホスピスがそこここにあり、一部は私のようなキリスト教徒ではない人間でも泊めてくれます。夕方、屋上に立つと、目の前に開けるのは夕日を浴びて輝く神殿の丘。イスラム教の聖地、岩のドームがキラキラと光り、ベージュの旧市街の建物群がオレンジ色に染まる光景は何とも言えない艶めかしさがありました。

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    ホスピス屋上から見渡した旧市街。左の金色の丸屋根が、岩のドーム。

     さて、そんな平和な滞在だったんですが、実は滞在前後にホスピスから半径200m以内で3件のテロ事件(未遂も含む)が発生していました。以下、外務省海外旅行登録「たびレジ」文面から。
    「最近の事案としては、(2月)19日午後、エルサレム旧市街のダマスカス門付近において、パレスチナ人による刺傷事件が発生、警察官2名が負傷し、犯人は、その場で射殺されました。20日午後、同ダマスカス門付近において、パレスチナ人による刺傷未遂事件が発生、犯人はその場で逮捕されました。24日午後、同ヘロデ門付近において、パレスチナ人による爆発物所持事件が発生、犯人はその場で逮捕され、爆発物は無事処理されました。」
     この3件が全て宿泊地の間近、徒歩2分以内で到着できるところばかりです。特に、私が到着したのは22日ですから、24日の爆弾テロ未遂は滞在中でした。期せずして現場周辺を通りかかっていたことになります。(たびレジの情報は後から知った)道路が封鎖され、路線バスの運行も打ち切り。自動小銃を携帯し、引き金に指を掛けた状態で警備する警察官多数。非常に物々しい雰囲気に包まれていました。その後は、辻々に自動小銃で警戒する警察官が立つようになりました。警戒勤務中はもちろんですが、見ていると休憩中と思われる、コーヒーを飲みながら仲間内で談笑する警官たちも自動小銃はスタンバイ状態。銃を置いて休憩することは、私が見ていた限りでは一度もありませんでした。そこで気づきました。これは、『見せる警備』を行う意味もあるのではないかと。

     もちろん、こうしたテロ事件が起こる背景には、イスラエル政府によるパレスチナ地域への強行入植、経済的圧迫などの固有の事情があります。
    実際パレスチナ側、ヨルダン川西岸地域も歩きましたが、その格差には愕然とさせられました。インフラ整備が遅れていて、建物もボロボロ、一部ガラスが割れているようなところも...。イスラエルが代行徴収した税金が回されていない、回ってきても腐敗で中抜きされているという事情があるといいます。そもそも土地を奪われたという意識、所得の格差、待遇の差がテロを呼び込んでいる側面を考えると、イスラエル側のテロ警戒の方法は特殊な事例と一蹴することも可能です。しかし、私はそれでもなお日本の警備に参考になる部分が少なくないと思うのです。

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    イスラエルとパレスチナを隔てる高さ10mほどある分離壁。その壁面にはこのようなアートが多数描かれている。

     兵士たちの普段の生活でも、テロ警戒でも、国境警備でも、警備する側が装備を前面に出して、見せることで犯罪を抑止しようという考えが徹底されています。銃が生活の隣にある社会を目の当たりにして、抑止力の究極とはこういうことなのかもしれないと思いました。

     翻って日本のことを考えると、基本的に『見せる警備』など論外です。もしこんなことを始めたら、マスコミを挙げての大騒ぎになるでしょう...。「過剰警備!日本はいつから戦争に参加するようになったんだ!?」という見出しが目に浮かびます。
     一方それでいて、悪いことにテロ事件が起こった場合、これまた大騒ぎになることが火を見るよりも明らかです。今度は、「警備は何をやっていたのか!?」、「政権のタカ派的外交がこの事件を呼び込んだ!」といった見出しが踊ることになるでしょう。まさに、テロリスト側の思うつぼ。事を起こしやすい環境の上に、事後の波及効果も計り知れません。

     「大丈夫、日本の警察にもSATのような特殊部隊がいるから。」という人もいるかもしれません。もちろん、特殊部隊のような一選抜のメンバーはとても優秀だと思います。が、しかし。警察官全員がSATなわけではありません。パリの事例を見るまでもなく、同時多発的に起こるのが今のテロです。むしろ、一般的な警察官の実力こそが問われるわけですが、それは非常に心許ないものがあります。

    『警察官が人襲った体長120センチ「紀州犬」に13発発砲し射殺 千葉県警「拳銃使用は適正」...住民「バンバンバンの銃声、テレビ番組かと...」 千葉・松戸』(2015年9月14日 産経新聞)http://goo.gl/iYbrWh

     問題は拳銃使用が適正であったかどうかではないはずなんです。記事を見ると、男性署員3人がかりで犬一頭に13発かかったそうですが、深夜であったことを割り引いてもどれだけの腕かと...。銃の使用はおろか、見せることすら忌避する銃アレルギーの世論の空気の中では、警察官たちもどこまで拳銃の使用訓練が出来たのか怪しいところです。普通科(歩兵)の陸上自衛隊士官に聞くと、銃の使用もある程度までは場数。どれだけたくさん弾を撃ったかがモノを言うと教えてくれました。銃アレルギーの空気が場数を踏むのを妨げているとしたら、それ自体がリスクだと言わざるを得ません。

     もちろん、アメリカのような銃社会がいいと言うつもりは毛頭ありません。一般人が銃を持つことを規制する今の日本の法律は素晴らしいと思います。しかし、今のような極端な銃アレルギーの社会で、果たして有事に対応できるのか?イスラエルほど極端ではないにせよ、サミット、ラグビーW杯、オリンピックに向けて、『見せる警備』は検討に値するのではないでしょうか?イスラエルで山ほど自動小銃を見かけて、そんなことを思いました。
  • 2016年02月15日

    深刻さを増す足元の経済

    2015年10月~12月期のGDP速報値が発表されました。
    『2015(平成27)年10~12月期四半期別GDP速報 (1次速報値)』(内閣府HP)http://goo.gl/LUEz8g

    この手の指標の発表があると、判で押したように各社同じような分析が並びます。

    『GDP、年率1.4%減 2四半期ぶりマイナス成長』(2月15日 朝日新聞)http://goo.gl/1AqK1G
    <内閣府が15日発表した2015年10~12月期の国内総生産(GDP)の1次速報は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期(7~9月期)比で0・4%減だった。>
    <GDPの6割を占める個人消費は前期比0・8%減と、2四半期ぶりに落ち込んだ。暖冬で冬物衣料の売れ行きが鈍く、ガソリンや灯油の消費も減った。>

    『10~12月期GDP、2四半期ぶりマイナスに』(2月15日 読売新聞)http://goo.gl/xRXGOy
    『去年10~12月のGDP 2期ぶりマイナス』(2月15日 NHK)https://goo.gl/oMyZfA
    『10~12月実質GDP、年率1.4%減 2期ぶりマイナス 消費・住宅投資が低迷』(2月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/wCiIGf
    <輸出は0.9%減、輸入は1.4%減だった。輸出は減少したが、原油安を受けて輸入が減り、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスを確保した。>

     どれを見ても、個人消費の減少は暖冬の影響で冬物衣料などの売れ行きが鈍ったことが原因。設備投資は伸びたが、全体を押し上げるには至らず。中国経済の不振やアメリカの景気の足踏みもあって、輸出も伸び悩んだが、原油安で輸入がそれ以上に減ったので全体としてはプラスを確保した。こういった説明文が並んでいます。もちろん、判で押したように同じ記事になるのは理由があって、同じアンチョコを基に記事を書いているからです。さすがネットの時代。そのアンチョコも含めて、内閣府はすべてネットに挙げてくれています。れが、これです。

    『2015(平成 27)年 10-12 月期GDP速報(1 次速報値)~ポイント解説~』(内閣府HP)http://goo.gl/2B2Ilm

     民間需要、とくに民間最終消費支出や民間設備投資に関する記述など、まさにカーボンコピーです。また、輸出入の動向などもこのペーパーに沿った記述で、相変わらずの経常黒字崇拝記事になってしまっています。

    <(3)輸出入の動向
    財貨・サービスの輸出については、実質▲0.9%と 2 四半期ぶりの減少となった。船舶・同修理、非鉄金属、特殊産業機械等が減少に寄与したとみられる。
    財貨・サービスの輸入については、実質▲1.4%と 2 四半期ぶりの減少となった。電子・通信機器、原油・天然ガス、鉄鉱石等が減少に寄与したとみられる。
    この結果、財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)のGDP寄与度は実質 0.1%とプラス寄与となった。>

     輸出が減少しているが、それ以上に輸入が減少しているので、全体への寄与度としては0.1%のプラスになったということなんですが、数字はプラスでも中身は正反対に深刻です。各社の経済記事では、折からの原油安が輸入減少の主な原因というような書き方ですが、原油安は昨日今日始まったものではありません。TIが40ドル台をウロウロしだしたのは、去年の夏ごろから。すでに原油が安値圏で推移しだして半年以上が経っています。10~12月期より前からすでに影響が出ているはずで、原油価格だけを輸入減少の要因に挙げるのはあまりに乱暴です。原油安という一時的な要因よりも、内需の減少で輸入も減少しているという方がよほどしっくりくると思います。要するに、輸出の減少を相殺するくらい、内需が減少して輸入が減少しているのではないでしょうか。

     ということで、本丸の個人消費、民間最終消費支出を見てみましょう。季節調整済みの実質で見てみると、

    15年10~12 -0.8(前期比)
    15年 7~9   0.4
    15年 4~6  -0.8
    15年 1~3   0.2
    14年10~12  0.6

    上がったり下がったりでデコボコを繰り返していて一進一退のように見えますが、もう少し前のデータを引っ張ってみると、

    14年 7~9  -0.0
    14年 4~6  -5.0

    ここまで引っ張るとお分かりでしょう。消費税を5%から8%に上げた2014年4月から6月で、前期比5.0%一気に落ち込んだ後、上がったり下がったりしながらほとんど足踏みしているわけですね。つまり、消費増税後内需は冷え込んだまま回復していない。そして、そんな弱い内需に足を引っ張られて輸入も減少。数字上はプラスになっていますが、これは変な日本語ですが、「悪いプラス」ということです。

     もう一つ気になるのが、公共投資。公的固定資本形成という項目なんですが、

    15年10~12 -2.7(前期比・季節調整済み)
    15年 7~9  -2.0
    15年 4~6   3.3
    15年 1~3  -2.9
    14年10~12  0.7

     過去1年間、4四半期のうち、3四半期でマイナス。もうこれでもかというほどに投資が絞られているのがよくわかりますね。家計も企業も投資を躊躇するこのデフレ期に、政府がこれだけ緊縮財政を敷けば、GDPが低迷するのは当然です。先ほど例に出した日本経済新聞が、非常に示唆に富む一文を載せていました。

    <2015年度の実質成長率が内閣府の試算(1.2%程度)を達成するには、16年1~3月期で前期比年率8.9%程度の伸びが必要になるという。>

     全体で前期比の年率換算で8.9%の伸びが必要...。民間需要がこれだけ冷え込んでいる中、あと1か月半でどれだけ押し上げられるのか?もうすでに間に合わない可能性も大きいですが、財政出動で内需を押し上げる以外に方法はないような気がします。何もしなければ、2015年度通年でもマイナスの可能性だって否定はできません。
  • 2016年02月09日

    マイナス金利は好都合?

     上へ下への大騒ぎです。今日の東京金融市場。史上初、10年物の国債の利率がマイナスに突入したということで、もはやアベノミクスは終わった!という論評が散見されます。

    『株価急落918円安、市場混乱、実体経済に波及懸念』(2月9日 共同通信)http://goo.gl/4EN5Lv
    <東京金融市場は9日、中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり、円高が一時1ドル=114円台まで進行、日経平均株価は終値で前日比918円安まで急落した。安全資産とされる国債を買う動きが強まり、長期金利は初めて0%を割り込みマイナス幅を一時0・035%まで拡大した。日銀の追加金融緩和が不発に終わり、市場の動揺が一段と広がった。
    年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。円安株高を狙った日銀のシナリオが狂い、安倍政権のアベノミクスは窮地に立たされた。>

     よくよく読むと突っ込みどころ満載の記事なんですが、まず今回の株安、国債高の原因については、
    <中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり>
    <年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。>
    と書いている通り、日本にその要因があるわけではありません。あくまで、海外要因が主で、それに引きずられるように日本市場も下げているわけですね。日のコメンテーター、エコノミストの片岡剛士さんも指摘していた通り、海外要因が大きいわけで、日本側が対策を打っても大きなトレンドを逆転させるほどのインパクトは持ちえないというわけです。

     それにしても、こぞって「異常事態」と書き立てる今回のマイナス金利。普段から政権に批判的なリベラル系の各紙はこぞって大特集を組んでいます。

    『長期金利 初めてマイナスに 一時−0.010%』(2月9日 毎日新聞)http://goo.gl/kgSPl1
    <国債を購入して10年の満期まで保有しても金利を受け取れないだけでなく、購入時の価格を下回って損をする異常事態。>

     不思議なことに、これらの新聞に共通するのは、普段は「財政健全化!バラマキはやめて借金削減!」と叫んでいることです。普段は国債を発行する国の目線で節約を言い募るのに、今回は国債を購入する銀行や機関投資家の目線で異常事態と言い募る。国債を発行する側からすれば、むしろマイナス金利ほどありがたいことはありません。何しろ、お金を借りて、返す時には利息を払うどころか元本を少し割引してくれるわけですから。ちなみに、来年度予算における国債の利払い費はそれなりに多額です。

    『平成28年度予算のポイント』(財務省HP)https://goo.gl/XFRHnb

     実に9兆8961億円で、一般会計歳出総額の1割強を占めます。この際、全ての国債をマイナス金利で発行できるこのタイミングで借り換えれば、10兆円近くが丸々圧縮できるわけです!もちろん、そんなことしたら需要がだぶついてマイナス金利からプラスに戻ってしまうのでできない相談ですけれども。
     少なくとも、これは国債増発には千載一遇のタイミング。れを逃さず国債を財源に景気浮揚のための財政出動を行うべきでしょう。そんなことをすると、それこそリベラル系のメディアを中心に「バラマキだ!」という大合唱が聞こえてきそうですが...。

     結局、金利がマイナスになっても国債が選好されるというのは、他に資金需要がないということ。先行きにネガティブな印象があるからこそ、利息はなくとも確実性の高い国債を買うのです。家計も企業もリスクに手を出さないとき、ある程度儲けを度外視して大胆に投資できる政府がカネを出して需要を創出するべきだと思います。折しも我が国には、メンテナンスすべき橋やトンネル、道路といったインフラがたくさんあります。歯抜け状態の高速道路や新幹線網をつなぐことで一時的ではなく恒常的な新たな需要を掘り起こすことが出来ます。作る時に建設需要を作り出すのみならず、できたインフラを利用することで新たな需要を創出した事例は、北陸新幹線の例を見れば明らかです。こうした隠れた需要の掘り起こしをする絶好の機会、マイナス金利。使わない手はありません。

     しかしながら、野党は真逆の方向へと突っ走っています。

    『財政健全化法案を共同提出=民・維』(2月9日 時事通信)http://goo.gl/pYNRjM
    <民主、維新両党は9日、国家公務員総人件費の2割削減などを盛り込んだ財政健全化推進法案を衆院に共同提出した。>

     国家公務員の総人件費はざっと5兆円。2割削って1兆円の削減額です。政府は企業に対して賃上げを要求している真っ最中なのに、その動きに完全に冷や水を浴びせる動き。その上、中小企業は公務員給与を基準に賃金を決める例が多いので、こうして公務員給与の引き締めを行うと、中小企業労働者の賃金が抑制されてしまいます。民主党の支持母体の連合は大企業労組が多いからそれでもいいということなのでしょうか?

     分配を重視する民主党が、労働者の賃金の頭を押さえようというのですから、どうも話があべこべのような気がします。このマイナス金利を利用して、再分配政策の財源とした方がよほど「1人ひとりを大切にする国」のような気がしますが。
  • 2016年02月01日

    狭まる増税包囲網...

     先月末には日本経済にインパクトを与えるニュースが様々ありました。まず、日銀はサプライズで追加の金融緩和策を決定しました。

    『日銀、マイナス金利導入...1年3か月ぶり緩和策』(1月29日 読売新聞)http://goo.gl/n9sRX1
    <民間金融機関が日銀の当座預金に一定以上のお金を預けた時に金利がマイナスとなって手数料を払う「マイナス金利政策」を日銀として初めて導入する。>
    <具体的には、民間銀行が、余っているお金を日本銀行に預ける際に適用される金利の一部を、現在のプラス0・1%から、マイナス0・1%に下げる。日銀は今後必要な場合は、さらに金利を引き下げるとしている。>

     これについては、実は今まで積んできた預金には今まで通り0.1%の金利が付くので、マイナス金利になるのは今後新たに積み増す当座預金のみ。今まで利息を受け取っていた銀行が収益を圧迫され結果として融資が減ってしまうのではないかという批判もありますが、中身というとさほどの変化はなさそうです。

     次に、その前の日に発表された経済閣僚の辞任。甘利経済再生担当大臣が金銭授受疑惑の責任を取って辞任しました。

    『甘利大臣 現金受け取り認め閣僚辞任を表明』(1月28日 NHK)http://goo.gl/mnGNY0
    <甘利経済再生担当大臣は、事務所が建設会社から現金を提供されたなどと報じられたことを受けて記者会見し、建設会社の関係者からの政治献金を受け取っていたことを認めました。そのうえで、「閣僚としての責務、および政治家としての矜持(きょうじ)に鑑み、本日ここに閣僚の職を辞することにした」と述べ、今後の国会審議への影響などを考慮し、閣僚を辞任する意向を明らかにしました。>

     経済の司令塔の辞任。政権への打撃はもちろんですが、それ以上に日本の経済への影響も懸念されます。それゆえ、直ちに後任が発表されました。石原伸晃氏です。

    『首相「国民に深くおわび」 甘利氏後任は石原伸晃氏』(1月28日 朝日新聞)http://goo.gl/6UL5e5
    <甘利氏の後任の石原氏は28日夜、皇居での認証式を経て正式に就任した。石原氏は首相と懇意で、自民党幹事長や政調会長などを歴任。小泉内閣では国土交通相などを務めたほか、安倍首相が政権に復帰した12年12月から14年9月まで環境相も務めた。>

     急きょ登板となった石原さんは非常に重い責務を背負いました。甘利さんがしていた仕事はある意味で相反する2つの仕事を背負っていたものなのです。内閣府の官僚で甘利さんの部下に、この騒動が起こるはるか前に聞いた話なんですが、
    「甘利さんは経済再生担当大臣でありながら、経済財政担当大臣でもあるんです。これが、特に消費増税への対応で二律背反に陥ってしまうんです」
    と言っていました。

     要するに、経済"再生"担当としては、成長を押しすすめる必要がある。経済成長を考えれば、景気を冷やす消費税の再増税は出来る限り避けたい政策です。8%に上げたときの予想をはるかに上回る負のインパクトを見れば、そして現状の景況感、この踊り場のような雰囲気を考えると避けられるのであれば避けたいとなります。

     一方、経済"財政"担当としては別の判断もあるのです。財政の継続ということを考えると、財政再建の方向性も出さなければならない。霞が関で財政再建・税収増と言えばこれはほとんど消費増税と同義となっています。経済財政担当として官僚の助言を100%鵜呑みにすれば、当然消費増税推進となるわけです。甘利さんは控え目ながら「増税よりも成長による増収で」と言っていたのは、霞が関の常識からすれば外れていたわけですね。

     では、後任の石原氏はどういった判断をするのでしょうか?石原氏は、財政規律を重視する自民党税制調査会の幹部。重要事項を決める"インナー"の1人でした。となると、やはり財政再建を重視し、霞が関の常識通り消費税の予定通りの再増税を推し進めるのか?そうした憶測記事も出てきています。

    『財政再建派が盛り返す? 石原氏、財政運営の力量は未知数』(1月29日 産経新聞)http://goo.gl/F1tKoY
    <自民党の税制調査会メンバーだった石原氏は財政規律を重視するとみられる。景気重視の菅氏と財政規律に重きを置く麻生氏との間でバランス調整役を果たしてきた甘利氏からの交代によって、「財政再建派が力を盛り返すのではないか」(閣僚経験者)と見る向きもある。>

     経済再生を重視するか、経済財政を重視するか?どちらを重視するかはご本人の判断次第ということになりますが、この人事、霞が関のパワーバランスにも影響を及ぼす可能性があります。内閣府の官僚に取材をすると、
    「甘利さんは各省庁の縦割りで進まなかった案件に体を張って風穴を開けて行っていた。新大臣にそこまでの力を期待できるのか...」
    と言っていました。今まで経産省が引っ張ってきたこの内閣の意思決定にも影響を及ぼす可能性があります。

     さらに気になるのが、こちらのニュース。

    『本田参与、大使転出へ=首相の経済アドバイザー』(2015年12月27日 時事通信)http://goo.gl/jglM0y
    <政府は本田悦朗内閣官房参与を退任させ、大使として転出させる方針を固めた。早ければ来月の人事検討会議で正式に決める。政府関係者が27日、明らかにした。本田氏の赴任先は欧州となる方向。>

     このニュース。その後全く追いかける記事が出てきていないのでずっと気になっていたんですが、周辺を取材するとそれなりの確度があるようです。まず、ご本人もかねてから経済外交を最前線でやりたいということを語っているとのこと。今月にも発令というという噂もあるんですが、何と言っても本田参与は消費税増税を巡って慎重論を展開している人物。本人は「いつでも電話一本で総理の相談に応えることが出来るから心配は要らない」と周囲に語っているようなんですが、果たしてそう上手くいくかどうか。

     今までは何かあればすぐに馳せ参じて、面と向かって総理と話が出来る安心感がありました。総理が休みに入れば、いの一番にゴルフを共にし、様々な話が出来る安心感がありました。電話一本がそれと同等の安心感を担保できるのでしょうか?甘利さんに加えて本田参与まで失えば、消費税増税慎重派が退潮し、増税派に押し切られるのではないかという警戒感が高まっています。
  • 2016年01月25日

    大雪が映し出す日本人の姿

     暖冬だと言われていた今年の冬ですが、ここへ来て列島各地、雪に悩まされています。今日もマイナス10度を超える寒気が南下し、列島各地、沖縄本島まで観測史上初の雪が降りました。

    『記録的大雪...空の便や新幹線に影響も』(1月25日 日本テレビ)http://goo.gl/t0DCWr
    <この冬、最も強い寒波に見舞われた日本列島では、各地で記録的な大雪となっている。この雪の影響で、交通機関にも影響が出ている。
     空の便は各航空会社とも、長崎や鹿児島など西日本の各空港を発着する便を中心に欠航が出ている。25日正午現在で、全日空で54便、日本航空で34便、日本エアコミューターで19便、スターフライヤーで12便、スカイマークで8便などとなっている。各航空会社はホームページなどで最新の状況を確認するよう呼びかけている。
     一方、鉄道は、JR西日本によると、沿線一帯に降り積もった雪の影響で、山陽新幹線は始発から速度を落として運転している。>

     今回は西日本を中心に雪が降り、鉄道、航空など交通インフラに大きな影響がでましたが、先週は関東が雪の大打撃を受けました。

    『昼まで入場規制する駅も 都心で積雪、鉄道混乱』(1月18日 朝日新聞)http://goo.gl/CeF3Lx
    <週明けの18日の朝、首都圏に降り積もった雪の影響で、東京都心の交通網は運休や遅延などが相次いだ。通勤・通学に混乱が生じたほか、車のスリップ事故や歩行者の転倒事故で消防が出動した。>
    <運転見合わせとなったJR青梅線。小作駅(羽村市)では足止めされた通勤、通学客が構内からあふれ、付近のコンビニやハンバーガーチェーン店までいっぱいになった。勤務先とひんぱんに携帯電話で連絡するスーツ姿の会社員や、待ち時間に英語の参考書を読む高校生もいた。>

     「雪に弱い都心」という文言は、毎年雪が降るたびに見出しに踊るわけですが、今回は特別でした。記事にもある通り、普段の半分程度に運転本数を減らしたことで集まった乗客をさばききれず、駅への入場制限をかけざるを得なくなりました。
    どうしてこんなことになったのか?雪で電車が遅れる原因は様々ありますが、最も大きな原因はポイント故障です。ポイント、つまり線路が2つに分かれたり、あるいは合流したりする部分で、この切り替えの部分が動かなくなると、電車が通れなくなりダイヤが大幅に乱れます。

    『ポイント(転てつ機)』(一社・日本民営鉄道協会HP)http://goo.gl/kAjv7k
    <ポイントは「転轍機」と書きます。轍はわだち(車輪の跡)のことで、路線を変える装置です。つまり、列車の通り道を切り替える装置で列車運行上、重要な役目をもっています。>
    <ポイントの泣き所は厳しい寒さに弱いことです。とくに大雪の日などはポイントが凍りついて動かず、ダイヤ混乱の原因となります。しかし、最近は雪の日に一晩中電車を走らせたり、ポイントを暖めるなどして正常運転が確保されています。>

     民鉄協会の説明にある通り、電車を走らせることで凍らないようにする、あるいはポイントヒーターで雪や氷を溶かしたりして対策しています。ただし、ヒーターは一つ一つのポイントに設置するには非常にコストがかかる。それゆえ、前者の電車を走らせるということで凍結防止しようとします。
     では、雪の朝に切れ目なく電車を走らせられるか?
     晴れていれば、朝のラッシュ時など切れ目なく列車を走らせることが出来ますが、大雨や雪の時には駅での乗客の乗降に余分に時間がかかります。雪の降り方によっては、速度制限を掛ける必要もあり、それも遅れにつながります。それやこれやで、じわじわと遅れが蓄積されていき、場合によっては列車が渋滞してしまうような事態に発展してしまう可能性があるわけです。そうなると、切れ目なく走らせてポイント凍結を防ぐことができなくなります。そこで、事前に列車の本数を減らして、駅間は走り抜けられるように設定したわけですが、今回はそれが裏目に出たんですね。

     さらに問題を大きくしたのが、降ったタイミングの悪さと雪の質の悪さでした。ある鉄道会社の保線担当幹部は、
    「降りはじめが深夜で、3時4時ごろからピークを迎えたのは最悪だった。あの時間帯は(車庫からの)出庫の時間帯。そこで雪が積もって架線にトラブルを抱えると、他の無事な列車の出庫にも影響する。京王線が大混乱したのはまさにそれが原因」
    と話してくれました。

    『大雪で朝の首都圏混乱 京王線の架線切れ、電車本数2~3割に』(1月19日 スポーツニッポン)http://goo.gl/81HfC0
    <特にひどかったのが多摩地区と新宿を結ぶ京王線。雪で車庫の架線が切れて車両が出せなくなるなどして一時、通常の2~3割の本数で運行。ただでさえ大混雑する路線での間引き運転で、世田谷区の千歳烏山駅などではホームに人があふれた。>

     これには少し説明が必要です。
     鉄道の架線というのは、街中の電線とは違って雪の重みで切れてしまうような弱いものではありません。かなり強い力でピンと張るように設計されていますので、雪ごときではびくともしません。むしろ弱いのは、電気を集めるパンタグラフ。ばねや空気圧で架線に押し上げ、架線に押しつけて電気を取っているんですが、これが雪の重みで下がってしまうそうなんです。して、ある程度架線とパンタグラフの間に空間が出来てしまうと、スパークしてしまい、その熱で架線が溶け切れてしまうようなんですね。出庫の際には運転士がぐるっと電車の周りを回って点検をしてから電車を動かします。パンタグラフ周辺に雪が積もっていれば、場合によっては雪を落としてから出すこともあるでしょう。しかし、雪の勢いが強ければだんだんと積もっていく。そして、悪いことにちょうど車庫の出口付近に差し掛かった時に架線が切れてしまうと、後ろの電車たちは出せば活躍できるのに全く使えなくなってしまうのです。

     それからもう一つ。雪の質の悪さ。我々は雪が降ったんだから本格的な冬が来たと思いがちなんですが、前述の保線担当幹部は、
    「いや、あの雪はむしろ暖冬の証拠ですよ。だって、水分をたっぷり含んでベシャベシャだったでしょ?あんなに重い雪は春の雪。本来この時期の雪はもっとサラサラしていて積もるまでに時間がかかるものなんだけど、今回は想定よりもかなり早く積もった。その結果、想定よりも早くパンタが下がってしまったんだと思う」
    と分析してくれました。

     雪の質の悪さ、降りはじめのタイミング、そして運転本数の減少。これらが作用して、先日の交通混乱が引き起こされました。
     同じ雪が降っても、それが昼間や夕方、夜ならここまでの大混乱にはならなかったでしょう。朝は何百万という人がほぼ同じタイミングで都心へ向けて毎朝大移動しているわけで、そこで雪が降り電車が止まると、即座にあれだけの大混乱になるわけです。
     最近、台風接近の時には早めに仕事を切り上げて帰宅を促すということが定着しつつあります。ところが、朝に関しては雪が降ろうと大雨になろうと電車が動いていれば出勤すべきという空気がいまだにあるようです。前日までの報道を見ていると、「雪が降るので早めに家を出るべき」と繰り返されていましたが、むしろ朝こそオフピーク、仕事の開始の後ろ送りを言うべきだったのではないでしょうか?
     都心の朝の大雪が、日本人の働き方への疑問を投げかけています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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