• 2018年04月20日

    上がらない物価、その原因は?

     3月分の消費者物価指数が発表になりました。

    <総務省が20日発表した3月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月と比べて0・9%上昇の100・6だった。上昇幅は平成28年7月以来、1年8カ月ぶりに前月を下回った。>

     産経はコア指数と呼ばれる生鮮食品を除く総合指数を見出しに取っていますが、総合指数は前年同月比1.1%プラス、生鮮食品とエネルギーを除く総合(コアコア指数)は前年同月比プラス0.5%にとどまっています。産経が生鮮食品を除く総合を見出しに取ったのは、日銀の政策目標がこの生鮮食品を除く総合でプラス2%とされているからでしょう。
     そして、3月の数字が出たということで、2017年度の物価上昇率も合わせて発表となりました。これについては記事が見当たらなかったので、総務省統計局の発表を引きます。

    <2 平成29年度(2017年度)平均
    ◎ 概 況
    (1) 総合指数は2015年(平成27年)を100として100.7 前年度比は0.7%の上昇
    (2) 生鮮食品を除く総合指数は100.4 前年度比は0.7%の上昇
    (3) 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は100.8 前年度比は0.2%の上昇>

     2016年度のマイナス圏からは脱したものの、2%の物価上昇には遠く及びません。季節要因や外的要因を除いた物価上昇の実力を測る、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコア指数)は2017年度はわずか0.2%の上昇。前年度よりも0.1ポイントのマイナスとなっています。総合、コア指数ともに0.7%の上昇ですから、そのほとんどがエネルギー価格の上昇に起因するもので、国内の需要と供給のバランスで起こる物価上昇はほとんど起きていないことがわかりますね。ちょっと前まで、需給ギャップが解消した!さあ出口戦略!日銀は金融緩和を止めろ!という論調が散見されましたが、どうやら物価を持ち上げるにはまだまだ力不足のようです。

    <日銀は4日、昨年10─12月期の需給ギャップがプラス1.50%になったとの試算を発表した。同7─9月期の1.14%から需要超過幅が拡大し、2007年10─12月期(プラス1.79%)以来の高水準となった。プラスは5四半期連続。>

     需給ギャップがプラスになったということは、需要が供給を上回っているということ。欲しい人がたくさんいる中で、あるモノの数が不足しているので、自然と物価が上昇する方向です。ただ、需給ギャップがプラスになったとはいえ、まだまだプラスになったばかりの上、プラス幅もごくごくわずか。このタイミングで一気に出口戦略=引き締めに回るのはいくら何でも早すぎるだろうと、このブログでも再三指摘してきましたが、2017年度の物価上昇の鈍さを見るとやはりまだ手を緩める段階ではないことが見えてきます。ところが、日銀の目下の金融緩和策は、実は引き締め気味に回ってしまっているようです。

    <3月末時点で、日銀が保有する長期国債は前年同月に比べて49兆4233億円の増加にとどまった。増加額は13カ月連続で縮小し、2013年4月に量的・質的金融緩和を始めた時に掲げた「年間50兆円ペース」をついに下回った。>

     このステルステーパリングと呼ばれる緩和縮小、このブログでも指摘したことがありますが、数字として現れてきたわけですね。それにしてもダブルスタンダードだなと思うのは、このステルステーパリングを報じる新聞各紙の姿勢です。普段は「市場との対話が不十分だ!」とか、「日銀はサプライズに頼りすぎていて、政策の予見性が低い!市場から信頼されない!」とか、市場とのコミュニケーション不足を批判して回っていましたが、今回のステルステーパリングについては市場とのコミュニケーション不足を批判する部分はほんの少し。せいぜい<市場とのより丁寧な会話が求められる。>ぐらいにとどめています。いや、丁寧な会話というか、これ、見方によってはウソをついている、ヤルヤル詐欺みたいなものでしょう。80兆をメドに緩和するといっておきながら、実際には50兆を割り込んでしまったんですから。

     もっとも、日銀側には国債を買おうにも市場には国債がほとんどないのだから仕方がないのだという理由もあります。これは裏を返せば、市場が国債を求めているという状態。政府の側が国債を発行して資金調達するには絶好の機会ということになりますね。
     では、政府の側に資金需要がないのかといえば、そんなことはありません。基礎研究や老朽インフラの更新、教育へのサポートなどなど、公的資金を求めている部門は沢山あります。緊迫する東アジア情勢を考えれば、果たしてGDPの1%ほどという防衛予算の枠というものが現在の安全保障環境に見合っているのか?現場ではトイレットペーパーすら満足に供給できていないというところまで追い込まれているという話があるほどです。
     経済力は安全保障に直結する国力。経済失政は決して侮れない負のインパクトがあることを肝に銘じなくてはいけません。
  • 2018年04月12日

    若者の車離れ

     4月からスタートした『飯田浩司のOK!Cozy Up!』。今まで担当していた夕方のザ・ボイスと比べると、主要ニュースを掘り下げて議論することが中心なので、どうしても落としてしまう項目があります。今週月曜も、こんなニュースを断腸の思いで落としました。

    <日本自動車工業会(自工会)が9日発表した2017年度の乗用車市場動向調査によると、車を保有していない10~20代の社会人のうち「購入したくない」との回答が前回調査に続いて5割超に上った。利用手段としてはレンタカーやカーシェアリングへの関心が高く、車の維持費などに負担を感じて「所有」にこだわらない若者が増えている傾向が改めて浮き彫りになった。>

     見出しや記事の端々に、「最近の若いもんは...」というつぶやきが聞こえてきそうな記事ですね。この調査は、10代~20代の1000人にウェブサイトで行った調査で、そのうち800人が車を持っていなかったそうです。持っていない人のうち、車を買う意向を聞いたところ、「買いたくない」が29%。「あまり買いたくない」の25%を合わせると5割を超えるということで、この見出しになったようです。その理由については、

    <買いたくない理由を複数回答で聞くと、「買わなくても生活できる」が最も多く33%。これに「駐車場代など今まで以上にお金がかかる」(27%)、「お金は車以外に使いたい」(25%)が続き、堅実な消費志向が読み取れた。>

    とされています。これに対して、特に40代以上の方々からの反応で、「かつては大人の階段を上るように車を買っていたのに...」とか、「覇気がない」「つまらない連中だよ...」といった書き込みが散見されました。まぁ、この記事だけを見れば若者全体が車を持つことにさほどプライオリティを感じていないように思いますが、きちんとこの調査を読み込むとそうも言えない事情も浮かび上がります。

     日本自動車工業会の調査は、PDFファイルにして196頁にも及ぶ詳細な報告がウェブ上にアップされています。


     この108頁以降(表紙・概要も含めたPDFファイルのページ数では123頁以降)が若年層分析となるのですが、ここでは、性・未既婚、同居家族、世帯保有の有無、地域、社会人、大学・短大生と、属性ごとに細かく分かれた数字が出ています。
     車に対する関心一つとっても、既婚者はおおむね平均よりも高い関心がありますし、さらに既婚者で地方圏に在住だと関心があるとの答えが上がります。車の購入意向を見るとこの傾向はさらに顕著になって、首都圏在住の方々は買いたい42%に対して買いたくない58%。地方圏在住の方々は買いたいと買いたくないが50%ずつとなっています。地方圏では生活の足として、好むと好まざるにかかわらず車を買う必要があるのではないか?という事情が浮き彫りになりますね。

     そのうえで、上記質問に対して買いたくないと答えた人に、その理由を複数回答で聞いた設問が続いています。この追加質問のデータも属性ごとに細かく分類されているのですが、ここは非常に興味深い。首都圏と地方圏に注目すると、首都圏で車を買わない理由は「買わなくても生活できる」が40%でトップなのですが、地方圏では15ポイントも低い25%しかありません。地方圏で車を持たない理由のトップは「駐車場代など今まで以上にお金がかかる」という理由でした。首都圏では公共交通機関の充実で、車がなくても全く困らない生活ができるので車なしの生活を選択しているが、地方圏では車が必要でも金銭的な要因で保有が叶わないという違いが見えてきます。

     首都圏在住で生活スタイルとして車が必要ないという人を振り向かせることは至難の業ですが、地方圏在住で金銭的な要因で保有が叶わない人に対しては、一定の処方箋が出せるでしょう。すなわち、景気を良くして可処分所得を増やせば、おのずと若年層の車の所有志向も向上するのではないでしょうか?事実、消費増税直後で再びデフレに入りかけていた2015年度の調査と比べると、やや景気が回復してきた2017年度の調査の方が車を買いたいという割合が5ポイント改善しています。(41%→46%)「最近の若者は...」と思考停止に陥る前に、金融緩和、財政出動による内需振興、再分配機能の強化、そして消費増税の見直しなどなど、デフレ脱却に向けて出来ることがまだまだ沢山あるはずです。
  • 2018年04月03日

    また出た認知的不協和

     今週から新番組『飯田浩司のOK!Cozy Up!』がスタートしました。朝6時から8時までの生放送なのですが、初日はメジャーリーグ中継のため1時間の短縮。今朝、初めて6時スタートのフルバージョンで放送しました。
     6時台は私と新行アナウンサーの二人での進行。ということで、ニュース解説も私がやることになりました。これが、ザ・ボイス時代と大きく変わったことの一つ。今までの取材で学んできたこと、コメンテーターの皆さんとの議論の中で培ったことを出す機会です。
     今日は、昨日発表された日銀短観に対する各紙の報道についてお話ししました。ここでは、放送では時間の関係でお話しきれなかったことを書きたいと思います。

     まず、昨日発表された日銀短観について、今朝の各紙の報道を見ると日本はまた不景気に突入してしまったかのようです。

    <日本銀行が2日発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、代表的な指標の大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス24で、昨年12月の前回調査から2ポイント悪化した。DIの悪化は2016年3月以来8四半期(2年)ぶり。原材料高が響いた。海外経済の追い風はまだあるが、円高やトランプ米政権の保護主義政策で、企業の先行きへの見方は慎重になっている。>

    <日銀が2日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)は、原材料価格の高騰で大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)が前回(昨年12月)調査から2ポイント下落のプラス24となり、2016年3月以来、2年(8四半期)ぶりに悪化した。トランプ米政権の保護主義的な通商政策や円高・株安の影響で、3カ月後を示す先行きも4ポイント下落のプラス20と1年半(6四半期)連続で悪化した。>

     毎度書いていますが、政治的主張では右と左にクッキリ分かれる2紙が、こと経済に関してはほとんど一緒です。この日銀短観の記事を見てください。見出しも、リードもほとんどコピペかというくらいにそっくりですね。
     日銀短観というものは、3か月ごとにおよそ1万社に景況感を聞く調査。その回答を、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指数として表します。ということで、記事の元となるものは数字ですから、政治的主張の左右に関わらず結論が同じであっても全く問題ありません。ただ問題なのは、これが揃って間違っている可能性が高いものだからです。

     日銀短観を含め、大抵の指標は発表直後にホームページで公表されます。今回ももちろん日銀ホームページに公表されていました。


     大企業・中堅企業・中小企業それぞれの数値など細かいものも発表されていますが、上記の記事の内容を検証するには要旨で十分です。この業況判断DIを見ますと、大企業製造業の数値は24。前回調査の去年12月が26なので、たしかに2ポイント減少しています。今まで順調にこの数字が伸びていたので、2年ぶりに2ポイントの減少というのも、間違っているとは言えません。
     が、「景気に影」と言われるほどの景気の急減速が起こっているのでしょうか?この数値は先ほども書きましたが、景気が「良い」-「悪い」ではじき出しますから、数値がプラスということは景気が「良い」と考えている企業の方が多いということですね。不景気になりかかっているときに、こんなに景気が良いと考えている企業が多いなんてことがあるんでしょうか?
     また、この日銀短観は足元の景況感のほかに、3か月後どうなっているでしょうか?という見通しも聞いています。ということで、3か月前の見通しと、足元の景況感を比較することができるんです。大企業製造業で前回調査時の予測が21。しかし、今回の数値は24でした。3か月前に思ったよりも景気は同じか若干良いということ。この傾向は、大企業の非製造業や中堅企業、中小企業も同じです。

     ここまでは今朝もお話ししましたが、ここで時間切れでした。私がもう一つ注目していたのは、製造業における「需給・在庫・価格判断DI」というもの。この中の「国内での製商品・サービス需給(需要超過-供給超過)」を見ると、大企業で前回調査-1から0に。中小企業でも-13から-9に。大企業では0、中小企業ではまだまだマイナス圏ということで、まだまだ供給の方が多い、つまりデフレ圧力があるということですが、それもだいぶ収まってきました。
     また、在庫水準を見ても在庫が圧縮されつつあります。
     一方でマイナス幅が大きいのは雇用人員判断DI。企業側から見ればこの部分が問題で、ここから「人手不足倒産が起こる可能性がある!」「経済成長を阻害している!」という批判が起こるわけですが、他方ここ20年以上実質賃金が一貫して減り続けています。これらを総合して考えれば、企業セクターは決して景気が悪いわけではない。しかし、それを賃金の形で還元出来ていない。ここが一番の問題です。本来これほど労働組合に期待が集まる舞台はないのですが、連合はむしろ緊縮を標榜してしまう体たらく。結果、ほったらかしにしていたら賃金が全く上がらず景気も上向きにならないので、"官製春闘"と言われても総理官邸が介入する事態になるわけですね。

     それにしても問題は、前々回の当ブログにも書いた「認知的不協和」問題。認知的不協和とは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないこと。アベノミクスは失敗だ、金融緩和は効かない、財政出動は問題外と批判してきた各紙からすれば、この短観の内容は受け入れがたい。そこで、少しでも悪くなった数字がないか探したのでしょうか...?やっぱり、1次ソースに当たるクセを付けないと見出しの印象でニュースの判断を誤ってしまいますね。
  • 2018年03月29日

    ザ・ボイス終了に寄せて

     6年3か月、ザ・ボイスをご愛聴いただき、本当にありがとうございました。ここでこの番組を終えなければならないのは、正直に言えば非常に残念です。朝鮮半島情勢が流動化、中国・ロシアでの新体制が固まり日本にとっては圧迫感が増すこの時期。にもかかわらず、国内は外の情勢から目をそらすように真正面から議論する場がない。これから、この番組の真価が問われるのではないかというこの時期に番組を終えなければならないのは、非常に残念です。

     今から6年半以上前、この番組のスタートをお知らせする記者会見で、当時の弊社社長村山が「日本ほど言論が自由なところはないんじゃないか」と話しました。その言葉の通り、コメンテーターの皆さんともども、本当に自由に話すことができました。皆さんから「あれだけ言いたい放題喋って、圧力ってないんですか?」と聞かれるのですが、この6年3か月で一度もそうした圧力を感じたことはありません。消費増税に反対しても、日韓合意に反対しても、放送法改正を話題に上げても、社内外で何か言われたり、邪魔されたりは一切ありませんでした。ただ、何でも反対ではなく、ファクトをベースに政策を是々非々で判断することを心がけたつもりです。

     番組の初代コメンテーターを務めてくださった青山繁晴さんが毎回仰る、「一緒に考えましょう」というフレーズ。まさにその通り、メール、ツイッターでご意見をくださった皆さんと、一緒に考え続けた6年3か月でした。ツイッターのタイムラインでリスナーさん同士が議論を戦わせる様を見て私もまた思索を深める。皆さんが、私を勉強させ、成長させてくださった、まさに、我以外皆師でありました。

     ザ・ボイスの放送はここで一つの終わりを迎えますが、一緒に考え、最適解に向けてにじり寄っていくこの精神は、永久に不滅であります。議論は、戦わせるものではなく、深めるもの。これからも、その信念をもって放送に向かい合っていこうと思います。今日までザ・ボイスをご愛聴いただき、本当にありがとうございました!来週からは、朝6時にお会いしましょう!


    なお、このブログは私の意見発信の場として続けます。引き続き宜しくお願いします。

    2018年3月29日(木) 飯田浩司
  • 2018年03月21日

    ヨコタテぐらいちゃんとやろうよ

     今月半ばに行われた日銀の金融政策決定会合で出された「主な意見」が公表されました。この「主な意見」が出ると毎回のように書いていますが、どうしても各紙経済欄は金融緩和がお嫌いのようで、そのリスクばかりが決定会合でも強調されたかのような記事になっています。

    <大規模金融緩和の継続を念頭に、ある委員が「低金利環境がさらに長期化すれば、金融仲介が停滞するリスクがある」と述べるなど、緩和長期化の副作用を検討する必要性を訴える声が目立った。>

    <会合では「低金利環境が長期化すれば先行き(銀行の)金融仲介が停滞するリスクがある」など、金融緩和の副作用に懸念を強める意見が目立った。>

    <日銀が目標とする2%の物価上昇が遠いことを踏まえ、「強力な金融緩和を粘り強く進める」との見解が政策委員の大勢を占めた。一方で、超低金利による金融機関への影響など、副作用への目配りを複数の委員が求めていたことも明らかになった。>

     見出しだけ見れば、保守寄りの産経もリベラル側にシンパシーのある毎日も判で押したように同じ。「金融緩和の副作用が心配だ!それを指摘する意見が多かった!」という見出しを掲げています。金融緩和の副作用ばかりが強調されますが、一方で金融緩和の成果である失業率の低減(直近の数字で2.4%まで低下)など雇用の改善は一切触れられていません。ただ、さすがにやりすぎを感じたのか、毎日だけ記事の中では金融緩和を進めるとの見解が大勢を占めたとリードで書いています。結果的に、見出しとリードが正反対のことを書いていて、記事の中で整合性が取れずにおかしな記事になってしまっているのですが...。それでも、毎日の記事は終わりに<一方、「金融緩和の余地はそれほど多くないため、デフレ脱却のためには財政政策の協力が必要」として、政府の財政健全化目標を緩めるよう求める意見もあった。>ともあり、政府に財政出動を促す意見も出たことに触れていますので、例に挙げた3つの記事の中ではダントツで両論併記的な記事になっています。

     では、公表された「主な意見」では金融緩和の副作用についての指摘がどれだけオンパレードになっているのか?覗いてみますと、ああやっぱりねという感じです。


     Ⅱ.金融政策運営に関する意見の中には12の意見が羅列されていますが、金融緩和がもたらリスク、具体的には金融機関の経営体力に及ぼす影響に言及しているのは1つだけ。あとは、ETFなどのリスク性資産の買い入れについてやや慎重な意見が1つと、今後物価が上がり潜在成長率が上がってきた場合には注意が必要という指摘が1つあるだけ。これでどうして、「副作用の指摘相次ぐ」なのか...。呆然としてしまいます。

     さて、こうした発表資料を新聞記事にすることを、俗に「ヨコタテ」と言います。今回の日銀の発表資料もそうですが、記者クラブに配布される発表資料は大抵横書きです。これを縦書きの新聞原稿に直すので、ヨコタテ、またはタテヨコと言います。このヨコタテという記事作成手法自体が、まったく取材していないじゃないか!役所の見解の垂れ流しじゃないか!という批判にさらされたりもするわけですが、残念ながら今回の金融政策決定会合に関するニュースではヨコタテすら満足にできない記者が散見されます。
     あるいは、記者クラブで発表資料とともに配布される解説資料や記者向けレクチャーで「副作用への指摘が相次ぎました」と言われると、原本に当たるよりもそちらを優先してしまうんでしょうか...。いずれにせよ、たった3ページ4ページの資料すらヨコタテできないようじゃ、支局からやり直せ!と思ってしまうのですが...。

     それとも、もっと深い理由があるのでしょうか?たとえば、今まで金融緩和なんて意味がないと書き続けてきたから今更後に引けなくなっているとか。日銀の審議委員の方々も、成果が上がりつつあるのにどうしてこんなにも頑なに金融緩和に反対の記事が出てくるのか疑問に思ったようで、「主な意見」にはこんな興味深い指摘がありました。

    <・「量的・質的金融緩和」への反対意見の中には、心理学で認知的不協和と言われるものがある。これは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないことである。「量的・質的金融緩和」で経済は良くならないという自分の認識に対し、経済が改善しているという事実を認識したとき、その事実を否定、または、今は良くても将来必ず悪化すると主張して、不快感を軽減しようとしている。>

     エライ記者の方々におかれましては、自分が一度世に出した論考を自身で否定するのはプライドが許さないのでしょうか?官僚の無謬性信仰が文書の書き換え、改ざんを生んだように、記者の、あるいはメディアの無謬性信仰が記事の捻じ曲げを生んでいるような気がしてなりません。<今は良くても将来必ず悪化すると主張>するのならまだよくて、さらにもう一歩進むと近い将来に経済が悪化することを願ったりしてしまうわけですね。そうなると、GDPなどの経済指標が少しでも悪化すると大きく報じ、全体が良くても悪くなっているところを見つけては批判する(たとえば失業率は下がっても非正規雇用が増えているだけと報じるなど)ということが横行するわけです。
     こうした記事が、メディアの信頼性を傷つけているのは言うまでもありません。受け手側の自衛策としては、残念ながら1次ソースに当たるクセを付けることしかなさそうです。ネットの進化により、今は報道発表資料がほぼリアルタイムでホームページ上に上がっています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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