道の駅プレゼンツ 大石久和のラジオ国土学入門

2020.07.06

第34回のテーマは「雑草オオバコと偏差値秀才」

番組アシスタントの新保友映です!

今回は、大石さんが、国土交通省の奈良国道事務所長(当時は建設省の奈良国道工事事務所長)時代に経験したお話です。

新保 先週は「道路空間が持つ多様な機能」について学びましたが、今日も関連したお話でしょうか?

「奈良県の橿原市にバイパスを通す計画中、地元の方々が公害道路反対と言って、なかなか認めてくれませんでした。そこで道路の横に3m70cmほどの空間をとって、その地域に一番馴染んだ樹木を植えることでバイパス計画を認めていただいたのですが、その時、植生(ある対象地域に生育している植物の集団の状態)について勉強をしたことがあります」(大石)

新保 道路空間には、街路樹も含まれているんですね!

「この時、腰が抜けるほど驚いたことがあります。舗装されていない道を歩いていると、人に踏まれながらも生えている草を見かけます。オオバコなどですが、「なんと強い草なんだろう」と思いますよね。ところが、調べてみるとオオバコは競争に一倍弱い草なんです。人に踏まれないような、良い生育環境だと、他の草との競争に負けてしまうんです。従って一番厳しいところに押し出されていたんですね。一番強いと思っていた草が、一番弱い草だったことを知り、驚いた次第です」(大石)

新保 私も、オオバコを踏まれ強い草だと思っていました!

「樹木だと松がこれに該当します。松は海岸の栄養もないような砂地や、岩場にへばりつくように生えています。この松も、他の樹木が成長できるような環境だと競争に負けてしまいます」(大石)

新保 潮風にも耐える強い木のイメージでしたが、そうではないんですね!

「静岡の沼津に千本松原があります。この松が枯れ始めて、住民が松林に入るのをやめたのですが、これが返って松を枯らすことになってしまいました。台所に竈(かまど)があった時代、火を起こすのに、よく燃える松の葉っぱを使っていました。人々は、松原に他の樹木が生えないような状態にしていたので、松が何百年も生育し続けていたんです。それを、松を大切に保存するために、人も入らないようにすると、他の草や樹木が生えてきて、松が負けてしまうんです」(大石)

新保 木や草も、生存競争の中で生きているわけですね。

「そういうことを考えていると、今の教育に疑問を持つことがあります。勉強が一番できる子、つまり〝偏差値秀才〟は、オオバコや松なのかもしれないと思えてくるのです。必ず答えが出る問題に対して、他の誰よりも早く、他の誰よりも多くできた人が、きつい言い方ですが、偏差値秀才なのだと思います」

新保 子を持つ親としては、偏差値が高い方が嬉しいんですけど…

「世の中は、答えのない問題に満ち満ちています。〝偏差値秀才〟は、答えが必ずある問題に対して、スピーディーに解答できたという人ですから、有能ではあるのですが、この偏差値だけでは、世の中の問題は解決できません。人を愛する能力を持っているか、どれだけのものを感じる力を持っているか、生きていく上では、いろんな力を身につけることが大事なのです」(大石)

今回は、雑草のオオバコの話から、偏差値秀才まで、興味深い話が広がっていきました。詳しくは、上記の「聴き逃しサービス」をクリックして、ぜひ、番組をお聞きください!

*大石久和のすっきり納得!経済教室*

 今回は『コロナショック不況とショックドクトリン』というお話です。耳新しい「ショックドクトリン」という言葉ですが、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが、新自由経済学者の「真の改革は危機状況のみによって可能となる」との言い方に大反発して、「惨事便乗型市場原理主義(ショックドクトリン)」と名前をつけたんです。これは、ショックを与えて、世の中を揺すぶって利益を得ようとする、あるいはショックで世の中が騒然としている時に、自分の利益を図ろうとする動きを指しています。

 20年ほど前、日本でも同じようなことがありました。公務員が都心の真ん中に宿舎を持ち、安い家賃で住んでいるのはおかしい、とメディアが一斉に書き始めました。公務員宿舎はもともと大名家が持っていた広大な土地に建っていましたので、デベロッパーから見ると、この都心の超一等地が欲しくて仕方なかったのです。これが〝ショックドクトリン〟となって、結果、公務員宿舎跡地には、民間の高級マンションが建設され、一方、公務員は職場から遠くに住むことになり、緊急時の非常参集などの場面において公務の力が落ちてしまいました。

 今回のコロナショックでも、「9月入学」を推進すべきだという声が上がりましたが、こういう時期に慌ててやるべきではありません。混乱に乗じて、火事場泥棒のように得をしている奴がいないかどうか、注意をする必要があります。多くのニュースに接した時、「ちょっと待てよ」という考えを頭の中に入れておくべきなのです。

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パーソナリティ
  • 大石久和(おおいし ひさかず )
    大石久和(おおいし ひさかず )
    大石久和(おおいし ひさかず )

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    1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振う。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。

アシスタント
  • 新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)

    新保 友映(しんぼ ともえ)

    1980年山口県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、2003年ニッポン放送にアナウンサーとして入社。プロ野球情報番組などを務め、野球の取材や知識が深い。女性アナウンサーでは35年ぶりとなる「オールナイトニッポン」のパーソナリティをはじめ、音楽番組「三宅裕司サンデーハッピーパラダイス」、バラエティ番組「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」など数々のレギュラー番組に出演し、萩本欽一さんや志村けんさんの番組アシスタントも務める。また報道番組「高嶋ひでたけのあさラジ!」では、ニュースや芸能情報も担当。2018年ニッポン放送退社。現在は、スポーツイベント、トークショーの司会、各種表彰式・授賞式、記者会見、試写会等の司会も務める他、ベースボール専門サイトFull-countでプロ野球のコラムも執筆している。