道の駅プレゼンツ 大石久和のラジオ国土学入門

2021.03.01

第62回のテーマは「電力崩壊の危機」

番組アシスタントの新保友映です!

きょうは「電力崩壊の危機」についてのお話です。

新保 大陽光発電などの普及で、日本の電力は余っているのでは?

「いえ、今の日本は、電力崩壊の危機に瀕しています。2018年、北海道胆振地方で地震が起きた時、北海道全体がブラックアウト(全域停電)になり、回復に時間がかかりました。この冬は、寒波や大雪の影響でブラックアウトになりかけていたんです」

新保 そうだったんですね! そんな実感がありませんでした。

「関西電力管内では電力使用量が発電能力の99%のところまで達していて、あと1%でブラックアウト! 極めて危機的なことが起きていました。これはベース電力の原発が動いていないこともありますが、大雪で太陽光発電ができず、さらに寒波でみんなが暖房を使うことが要因でした。もう一つの背景は、LNG(液化天然ガス=火力発電の燃料や都市ガスの原料)が在庫切れになりそうになっていました」(大石)

新保 なぜ在庫切れに?

「それは、中国とオーストラリアの関係が悪化したからなのです。中国がオーストラリアの石炭を買わず、石炭発電から天然ガスでの発電を強化しました。中国が大量にLNGを買い始めたことで需給が逼迫し、日本に入ってこなくなったという背景もありました。日本のエネルギー自給率の比率は12%しかありません。アメリカ98%、イギリス70%、フランス55%に比べるとかなり低い」(大石)

新保 ということは、電気料金も上がったのでしょうか?

「電力自由化で、新電力から電気を買っている方は、この冬、大変なことになったんです。急激に電気料金が上がって、2〜3倍、中には 5倍になった人もいて、契約を解除したという人も出てきています。私が知る限りでは、電力を自由化した国で電気代が下がった国は一つもありません」(大石)

新保 再生エネルギーだけでは心配ということでしょうか?

「日本も再生エネルギーによる発電が進んでいて、大体13%ぐらいの電力は再生エネルギーに頼っています。しかし、今回、太陽光発電は大雪で機能しませんでした。一方、わが国の原子力発電は、2018年現在、6%程度しかありません。フランスの原発シェアが71%であるのに比べると大きな違いです」(大石)

新保 原発に頼らざるを得ないのでしょうか?

「日本でよく語られるのが『ドイツは再生エネルギーで発電している』ということ。確かにドイツは33~34%ほどの電力を再生エネルギーで賄っています。しかし、よく調べると、ドイツはフランスからしょっちゅう電気を買っています。フランスは71%が原子力発電というベース電力ですから、発電量が増えたり減ったりせず、常に一定量の電力を供給できるのです。日本では原発は良くない、ゼロにするんだという人が多いのですが、しかしCO2を排出しないこの発電方式について我々はもう少し真剣に向かい合う必要があるんではないかと思います。わが国は大陸から離れていますし、大陸と強力な電力ケーブルで結ばれている訳でもありません。日本に電力を売ってくれる国がないのですから、日本は単独でやっていくしかありません。

 一度お話ししたことがありますが、現在、中国の原子力発電量は4500万キロワットで、11基が建設中、さらに40基以上の建設計画があり、やがてアメリカ(9800万キロワット)を越えるとの見通しです。その結果、原子力発電の技術も中国が最先端となるでしょうし、さらに注目すべきは、中国の原発は強力な偏西風の日本の直上流で運転され、また建設されようとしていること。万が一の事故の場合に放射能を含んだ風は、中国本土よりも日本の方に多く流れてくることを考えておかなければなりません。しかし、日本では国内に閉じ込んだ議論に終始し、原発アレルギーという観念論を繰り返しているだけではないでしょうか」(大石)

新保 何か、安全安心な発電所は出来ないものでしょうか?

「最近朗報もありまして、ビル・ゲイツさんが財団をつくって活動をされているのですが、第四世代の原発の開発を計画中とのことです。いまの原発のように圧力を加えたり、高い温度を出すこともなく発電できる原発だと言われています。こうした新しい技術をたよりに、われわれはもう一度、ベース電力である原発に向き合っていく必要があると思います」(大石)

 賛否が多い原子力発電ですが、世界の現状がどうなっているのか、安全安心な原発はできないものか、もっと知らないといけないことばかりだと思いました。大石さんのお話を、ぜひ、上記の「聴き逃しサービス」をクリックして、お聞きください!

*大石久和のひとくちコラム*

 「命令に適する言葉を持たない日本」という話をしたい。日本語は「心のゆれ」を伝えるために発達してきた。逆に、人に命令する言葉として、日本語ほどふさわしくない言葉はない。私が大阪府警察本部に出向していた42年前の1979年(昭和54年)1月26日、三菱銀行北畠支店に猟銃を持った男が銀行強盗目的で侵入。いわゆる『三菱銀行人質事件』が起きた。客と行員30人以上を人質として立てこもった犯人は、42時間後に射殺されたのだが、その時、職場の警察内部通信で「何かあって狙撃手が退却しなければならないことがあっても『引け』という命令は絶対にできませんよ」という緊迫した話を耳にした。銃を構えて命令のときを待つ狙撃手は、いつ「撃て」といわれるかと、その音が耳に届くのを極度の緊張のもとで待っている。その耳に「引け」の音がとびこんできても、耳は必ず「撃て」と聞くものだというのである。このとき、何という日本語を発すれば、引かせることができるだろうか? 適当な言葉が見当たらない。英語なら「go」か「back」だろうから、間違えることはないのではないか。

  チャーチル元英首相の『第二次大戦回顧録抄』に、「日本軍の計画は、非常に厳格だったが、計画が予定どおりに進行しないと、目的を捨ててしまうことが多かった。これは、一つには日本語というものがやっかいで、不正確なためだと考えられる。日本語は、すぐに信号通信に変えることがむずかしいのである」との記述がある。何故、日本人の国語学者はこうした指摘(研究)をしていないのか。

 また、新約聖書の「ヨハネによる福音書」の冒頭には、「はじめに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神なり」という表現が出てくる。これはわれわれにはほとんど理解できない。厳格で厳密な言葉が人を動かし、人を結束させる、そういうことによってギリギリしのいできた歴史が彼らに「言葉は神である」という感覚すら与えた。それに対して、私たちが使っている日本語は、実に曖昧で、厳格性を欠いている。

 意思の伝達をするために磨かれてきた言葉の世界と、感情(想い)の伝達をするために磨かれてきた言葉の世界との違い。こうした経験が、災害死史観の我々と紛争死史観の彼ら、といった思考(=国土学)に結びついていった。

*駅長さん登場!*

岩手県宮古市の「道の駅たろう」畠山一伸駅長

三陸沿岸道路・田老真崎海岸インターチェンジからおよそ5分、国道45号沿いに、復興の拠点として、2018年、リニューアルオープンしました。防災について学べる「たろう潮里ステーション」を始め、レストラン、コンビニ、ファストフードなどの店舗が並び、ドッグランも併設。国土交通省の『重点道の駅』にも認定されています。

Q.東日本大震災が発生した時、畠山駅長は防潮堤の水門を閉じる作業をされていたそうですね!

「地元の消防団に入っていましたので水門を閉めるために出動しました。遠隔操作が作動せず、仕方なく手作業で水門を閉じていると、沖から風が吹いてきたんです。沖を見ると、島が見えなくなったので、これは津波が来るなと逃げました」

Q、現在の道の駅は、もともと何があったところなんですか?

「震災前は、商店街や住宅街があって、町の一番の中心地でした。それが津波でまっさらになってしまいました。そこには住宅が建てられないので、街の中心に道の駅をつくりました」

Q.いよいよ三陸道路が全線開通しますが、どんなお気持ちですか?

「大きな期待をしています。三陸道路は、人の移動、物流だけではなく、高いところに道路が走っているので、震災の時も封鎖されず、〝命の道〟になっています」

Q.「重点道の駅」に指定されていますね。

「道の駅の『たろう潮里ステーション』では、津波の語り部(かたりべ)さんがいまして、〝学ぶ防災〟を通じて、多くの人に防災意識の向上と自然災害の恐ろしさを考えていただいています」

道の駅たろう
所在地:岩手県宮古市田老二丁目5-1
電話:0193-87-2971
営業時間・休業日等の詳しい情報はホームページでご確認ください。
道の駅たろう ホームページ

大石久和著『「国土学」が解き明かす日本の再興 ― 紛争死史観と災害死史観の視点から』
海竜社より発売中。(2021年2月28日第一刷発行)

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  • 大石久和(おおいし ひさかず )
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    1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振う。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。

アシスタント
  • 新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)

    新保 友映(しんぼ ともえ)

    1980年山口県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、2003年ニッポン放送にアナウンサーとして入社。プロ野球情報番組などを務め、野球の取材や知識が深い。女性アナウンサーでは35年ぶりとなる「オールナイトニッポン」のパーソナリティをはじめ、音楽番組「三宅裕司サンデーハッピーパラダイス」、バラエティ番組「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」など数々のレギュラー番組に出演し、萩本欽一さんや志村けんさんの番組アシスタントも務める。また報道番組「高嶋ひでたけのあさラジ!」では、ニュースや芸能情報も担当。2018年ニッポン放送退社。現在は、スポーツイベント、トークショーの司会、各種表彰式・授賞式、記者会見、試写会等の司会も務める他、ベースボール専門サイトFull-countでプロ野球のコラムも執筆している。