道の駅プレゼンツ 大石久和のラジオ国土学入門

  • TOP
  • ブログ一覧
  • 第65回のテーマは「驚きが始まりだ」と「われわれは何処に立ってい...
2021.03.22

第65回のテーマは「驚きが始まりだ」と「われわれは何処に立っているのか」

番組アシスタントの新保友映です!

突然のお知らせですが、2019年10月6日からお送りして来ました「ラジオ国土学入門」。実は今回が最後の授業となりました。第65回目の講義は「驚きが始まりだ」というテーマでスタートします。

新保 今日の前半のテーマは「驚きが始まり」。国土学は驚きの連続でした!

「日本人は情緒的で論理的ではない、という話をして来ました。論理を組み立てていくのは不得意ですが、微妙な感性や心の揺れについて、日本人ほど敏感な人間はいません。科学技術は論理の塊ですが、その論理の最初は〝驚き〟です。湯川秀樹博士の中間子の発見やアルキメデスの浮力の発見など、画期を成すような新たな発想は、論理から生まれたというよりは「驚き」や「感動」という感性から生まれたものです。従って、論理的でない日本人は、新たな構想や発想を持つことができないのかというと、そうではないのです」(大石)

新保 日本人のノーベル賞受賞者は多いですね!

「ノーベル賞候補だと言われている大化学者で、中部大学先端研究センター長を務める山本尚氏は『日本人は論理的でなくていい』という本を出されています。この本の中で、ノーベル賞級の研究者は『フィーリング型』が多いと述べています。『なんでこんなことになっているのだ!』と驚くことができる能力が新たな発想を生むわけです」(大石)

新保 驚きや感動が、理論が生まれる元なんですね!

「日本人は微妙な『揺れ』が特に好きで、例えば、月だと、満月はあまり好きではなく、三日月や半月を好み、満月の場合は必ず叢雲(むらくも=集まった雲)がかかっているのを好みます。それから日本人の生花はシンメトリーではなく、左右非対称がきれいだと見られています。拓殖大学の呉 善花(オ・ソンファ)教授の著書に、韓国人も中国人も生花はシンメトリーになっていると書かれています。彼らは、右が大きいとか、崩れた感じを好まないと言うんです。逆に、そういった揺れを好む日本人の感性こそが、少ない研究費でも、多くのノーベル賞を取ることに結びついていったのだと思います」(大石)

新保 さて、日本人の「驚き力」に日本再生のヒントが隠れているのでしょうか?

「今回のコロナで、日本の技術は落ちるところまで落ちたと思います。ワクチンを自国で開発できませんし、ワクチン接種もG7で一番遅く、政府は明確な方針を出せず、多くの市町村が不安に思っています。さらに、若い女性の自殺が目立っています。とんでもないことが起きているのに、わが国の政治家の多くが財政健全化を叫んでいます。いま世界の中で財政健全化を主張している国は他にはありません。われわれは、この状態から立ち上がらなければいけません」(大石)

新保 立ち上がれないでいるのはどうしてなのでしょうか?

「日本人が自信を失っているからです。韓国よりも平均賃金が少なく、競争力も負けているし、映画や芸能など、新たな文化の発信力も負けています。日本の若い人が自信を持てないことが、カタカナ語やアルファベットの氾濫に繋がっていると思います。が、そうではなくて、日本人は母語である日本語でしか考えることができないんですから、その日本語を正しく使う、上手に使う、という方向に向かわなければいけないと思います」(大石)

新保 日本再生のきっかけは「驚き力」でしょうか?

「数学者の藤原正彦氏が『国家の品格』(新潮新書)の中で、『論理だけでは世界が破綻する』と書いています。論理が生まれる前に、驚きや情緒があり、それを皆さんにも感じ取っていただきたいと思っています。日本人が日本人の良さ、強みに気づいて、それを取り戻すということではないでしょうか」(大石)

新保 もう一つのテーマ「われわれは何処に立っているのか」とはどういうことでしょうか?

「私たちの国がおかしくなっている大元の一つが『恐れに対する恐れ』。例えば、個人情報漏洩の恐れ。このことから、個人に番号を付けることをやって来ませんでした。その結果、行政の効率性、あるいは社会の運用の利便性とか、世界中の国が、それを導入することによって、スムースな行政展開ができているのに、私たちの国はいまだにできていません」(大石)

新保 今回の新型コロナで、日本のITの遅れを痛感しました。

「それから国民のほとんどが感じていない『財政破綻の恐れ』という恐れです。この番組で繰り返し言ってきましたが、財政破綻は起こりません。我が国の政府は通貨発行権を持っているし、国債は政府の債務ではありますが、民間の債券です。民間の債権が増えているのに、国が破綻するということはありません。この財政破綻の恐れで、国民をずっと縛り付けて来たというのが、我々がいま立っている場所です」(大石)

新保 いま何処に立っているのか、それに気づくことが大切ですね!

「もうひとつ、われわれ日本人が立っている場所があります。日本は自然災害と向き合わなければならない国で、東日本大震災から10年が経ちましたが、もう一つの10年に〝立っている〟のではないかと私は思っています。それは、東京直下地震、南海地震の10年前に立っているのだという認識、というか覚悟です。それなのに東京首都圏一極集中は今も進んでいます。最大人口圏の集中が進んでいる国は先進国では日本だけです。ベルリンもロンドンも人口は集中していません。日本の首都圏は総人口の30%を占めています。フランスのパリでさえ総人口の15%です。パリは地震がありません。日本は必ず地震があるのに、それに対する備えをしていません」(大石)

新保 なぜ、このような違いがあるのでしょうか?

「ドイツ、フランス、イギリスといった紛争死史観を持った国は、一箇所に集まったら危ないということを分かっています。例えば、アウトバーンのネットワークが網の目のように整備されているドイツでは、空襲によって最短路線が切れてもベルリンと州都間は他の路線で繋がっていること(=代替路線があること)が道路ネットワーク形成の基本的な考え方になっています。一方、私たちの国は交通量の多いところに道路を造るという発想です。国土全体にどのようなネットワークを展開するか、その理念がないまま、やって来ています。フランスやドイツでは、紛争がいつかはある、それにどう備えるかが常に頭の中にあるのです」(大石)

新保 これも、いま日本人にリアリズムがないということでしょうか?

「その通りです。明治の初めの日本人が持っていたリアリズムへの理解力は驚くべきもので、学校教育制度をすぐに整え、軍の制度を導入し、徴税制度も大改革して、鉄道や通信網の整備も全国にあっという間に進めました。しかし、そのリアリズムを日本人は、日清・日露戦争で失っていき、その後にアメリカと開戦していくわけです。GDPが10倍もある国と戦争をして勝てるわけがないのに、リアリズムを失った日本人は戦争へと突き進みました。終戦後は再びリアリズムに富んだ政治が行われるようになりました。戦後復興から高度経済成長への時代、新幹線や高速道路をつくり、港湾も拡充することで、世界の奇跡と言われたほどの経済成長をなし得ていきました。しかしその後、またリアリズムを完全に失って、先ほどの〝恐れ〟に恐れ慄きながら沈んでいく国になってしまいました。世界の20%を占めていた名目GDPが、いまでは5%になっていて、豊かだった国民はひたすら貧困化していって、とうとう隣の国の韓国にも様々な指標で、どんどん抜かれています。今までの10年も大変な10年でしたが、これからの10年もどう乗り切るのか、極めて大事な時期に来ていると思います」(大石)

新保 今後10年、どのようにして乗り切るべきでしょうか?

「デフレなので企業はお金を使いません。設備投資はしないし、従業員にもお金を回さない。家計は貧困化して消費が落ち込んでいる時に、経済を回すのは、政府しかありません。政府がその役割を担わないといけないのに、ずっとその役割を政府は放棄して来ました。だから元気のない国になってしまったわけです。イギリスにネイチャーという科学誌がありますが、2017年に『こんなことを続けていたら、日本は科学大国から滑り落ちるぞ』と、日本の科学技術研究に対して警告を出しています。その背景には、研究費が減らされていることだけでなく、研究者の処遇が非常に悪いことがあります。京都大学の山中伸弥教授のところですら、若手研究者の8~9割が非正規(5年以下の有期雇用)だという状況で、これで成果を出せというのは無理に決まっているのです。だからこそ残念なことに、ワクチンの開発もできないままでいます。ここの反省がなければ日本が再度浮上することはありません。いまコロナは最悪な試練を与えていますが、『日本人よ、目を覚ませ!』と尻を叩いているとも思えます。将来を担う子供達に対する、大人たちの責任でもあります。我々が世代責任を果たして、次の世代に緑豊かな、自然豊かな国土を、引き継いでもらわなければなりません。そのための環境を用意しておかなければならないのです」(大石)

以上で、「ラジオ国土学入門」は終了です。

国土学に興味をお持ちになった方は、大石さんの新著『「国土学」が解き明かす日本の再興』が海竜社から発売中です。どうぞ、お手に取ってご覧ください。国土学の講義は、ぜひ上記の「聴き逃しサービス」をクリックして、お聞きください!

大石久和著『「国土学」が解き明かす日本の再興 ― 紛争死史観と災害死史観の視点から』
海竜社より発売中。(2021年2月28日第一刷発行)

最新番組ブログ
パーソナリティ
  • 大石久和(おおいし ひさかず )
    大石久和(おおいし ひさかず )
    大石久和(おおいし ひさかず )

    大石久和(おおいし ひさかず )

    1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振う。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。

アシスタント
  • 新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)

    新保 友映(しんぼ ともえ)

    1980年山口県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、2003年ニッポン放送にアナウンサーとして入社。プロ野球情報番組などを務め、野球の取材や知識が深い。女性アナウンサーでは35年ぶりとなる「オールナイトニッポン」のパーソナリティをはじめ、音楽番組「三宅裕司サンデーハッピーパラダイス」、バラエティ番組「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」など数々のレギュラー番組に出演し、萩本欽一さんや志村けんさんの番組アシスタントも務める。また報道番組「高嶋ひでたけのあさラジ!」では、ニュースや芸能情報も担当。2018年ニッポン放送退社。現在は、スポーツイベント、トークショーの司会、各種表彰式・授賞式、記者会見、試写会等の司会も務める他、ベースボール専門サイトFull-countでプロ野球のコラムも執筆している。