道の駅プレゼンツ 大石久和のラジオ国土学入門

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2020.06.22

第32回のテーマは「日本人のインフラ観と道路のネットワーク評価」

番組アシスタントの新保友映です!

今回は、「日本の道路整備において欠けている重要な視点『リダンダンシー(冗長化)』」について、大石さんが詳しくお話します。

新保 日本の道路が整備されたのは、いつ頃からでしょうか?

「社会を支える基礎構造である都市城壁(=インフラ)を必要としなかったわれわれ日本人は、インフラに関心を払ってきませんでした。特に日本の道路は、戦前まではほとんど整備されておらず、舗装もされていなかったし、大型車がちょっと山道に行くとすれ違いが出来ない、そんな道路ばかりでした。昭和20年代の終わりに、政治家や官僚がやがて日本にもモータリゼーション(自動車化)の時代が来るからその準備をしようと、考え始めました」(大石)

新保 その道路整備が始まったのは?

「昭和30年ごろ、東京と大阪の間を高速道路で結ぼうという構想が持ち上がりました。昭和31年に世界銀行からお金を借りて高速道路を造ることになり、その調査団の団長・ワトキンスの調査報告書には、『日本の道路は信じがたいほど悪い、工業国にしてこれほど完全にその道路網を無視してきた国は日本の他にない』と書かれていました」(大石)

新保 それほど日本の道路事情は悪かったんですね。当時の写真を見ると、雨でぬかるんだ道にタイアがはまり、みんなで車を押していますね。

ワトキンスレポートに掲載された悪路の写真

「これは田舎道ではなく、いまでいうと国道一号というような幹線道路です。これでは経済を支えることはできません。さらに晴れているときは砂埃が上がって、周辺住民からの苦情も出ていたようです。そこでまずは舗装をしようというのが、道路整備の始まりでした」(大石)

新保 工業国でこれほど遅れた国は他になかったんですか?

「ドイツには、ベルリンとその他の都市を結んでいる道路が途切れても、他の道路でつながる代替路線があります。ドイツ人にはそのようなネットワークづくりの考えが基本にあります。そうなった理由は空襲でした。空から爆弾が飛んできて、ベルリンとの輸送が途切れてしまったら成り立たない、途切れても代替路線で繋がるようにするというのが、ドイツ人の考え方です」(大石)

新保 日本でも「代替路線」が求められているんですね。

「これを国土交通省では『リダンダンシー(冗長化=余分に付加されることで、より機能の安定化が図られること)』という言葉で表しています。代替路線の必要性を、私たちは阪神淡路大震災で経験しています。幹線道路・幹線鉄道が全部止まり、東西が完全に途切れてしまいました。結果、日本海側に車が集中して大渋滞になりました。こういうことが起きないようにドイツでは初めから道路ネットワーク整備の考え方の中に、リダンダンシーが入っています」(大石)

新保 東日本大震災の時も物流がストップしてしまいましたね。

「東日本大震災が起きたとき、(太平洋沿岸沿いを走る)国道45号がズタズタにやられました。山側を通る三陸自動車道は、やや高いところを橋とトンネルを多用しながら造られています。しかし交通量が少ないこともあって、整備が遅れていました。当時の三陸自動車道は、最初の区間の開通から30年が経つのにまだ半分しか出来ていませんでした。これではいけないと、超党派の議員さんたちが動いて、間もなく結ばれようとしています」(大石)

新保 東京と青森は何通りの道で結ばれているんですか?

「東京から青森までバックせずに何通りの道があるのかを調べたら、2011年の時点では42通り。2019年3月には256通りに増え、あと8%の道路を延ばすことで、1万4200通りに増えることがわかりました。たった8%ですが、そこをつなぐことによってネットワークの柔軟性が飛躍的に上がります。災害大国の日本として追求すべき価値だと思います」(大石)

今回は、災害大国の日本だからこそ、交通量が少なくても道路を整備していく大切さがよく分かるお話でした。詳しくは、上記の「聴き逃しサービス」をクリックして、ぜひ、番組をお聞きください!

*大石久和のすっきり納得!経済教室*

 今回は『銀行がお金を貸すということは、どういうことなのか』というお話です。例えば、事業を始めるとき、その資金を銀行から借りるとします。銀行は借主を信用してお金を貸し出します。そのお金は、銀行の預金者のお金をかき集めているわけではなく、必要な金額を通帳に書き込むだけのことです。書き込むだけのお金なので『万年筆マネー』とも言われています。これは銀行の特別な機能で、銀行が貸し出すということは、貨幣を創造していると言ってもいいのです。

 これは国債の購入でも同じです。例えば、政府が発行した国債が200億円分とします。それを引き受ける銀行は200億円を用意するわけではありません。日銀に預けている銀行の当座預金が、政府の当座預金に切り替わるだけで、キャッシュが動くことはありません。政府の財政赤字、つまり政府の債務というのは、それと同額の新たな民間貯金を生むと言ってもいいのです。

「政府に返済能力はあるのか?」と疑問を持つ人がいますが、政府は日銀を従えており、その日銀はお金を印刷することができるので、政府の返済能力ははっきり言って無限大です。したがって政府の返済能力を気にする必要はありません。

 我々はこれまであまりにも財政拡大をやってこなかったために、経済成長せず、ありとあらゆるところに歪みが出ています。世界の中の劣後国と言ってもいいような状況が生まれているのは、ここの理解が間違っていたから、と言ってもいいと思います。

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パーソナリティ
  • 大石久和(おおいし ひさかず )
    大石久和(おおいし ひさかず )
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    1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振う。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。

アシスタント
  • 新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)
    新保 友映(しんぼ ともえ)

    新保 友映(しんぼ ともえ)

    1980年山口県生まれ。青山学院大学法学部卒業後、2003年ニッポン放送にアナウンサーとして入社。プロ野球情報番組などを務め、野球の取材や知識が深い。女性アナウンサーでは35年ぶりとなる「オールナイトニッポン」のパーソナリティをはじめ、音楽番組「三宅裕司サンデーハッピーパラダイス」、バラエティ番組「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」など数々のレギュラー番組に出演し、萩本欽一さんや志村けんさんの番組アシスタントも務める。また報道番組「高嶋ひでたけのあさラジ!」では、ニュースや芸能情報も担当。2018年ニッポン放送退社。現在は、スポーツイベント、トークショーの司会、各種表彰式・授賞式、記者会見、試写会等の司会も務める他、ベースボール専門サイトFull-countでプロ野球のコラムも執筆している。