京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さん登場。
体のあらゆる組織の細胞になれる能力がある
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の作製に世界で初めて成功し、
ノーベル生理学・医学賞を受賞。
iPS細胞の研究開発の舞台裏、研究者としての生き方、
さらに今年ノーベル生理学・医学賞を受賞を受賞した研究者
カタリン・カリコ博士との親交についても伺いました。
ノーベル生理学・医学賞
ノーベル生理学・医学賞の受賞の連絡を受けたのは、
体育の日の休日で家にいたところで、
ノーベル賞の受賞が決まったと電話がかかってきた。
そこでまず驚いた。
さらに驚いたのは、先方から最後に「受け取りますか?」と聞かれたこと。
科学の分野ではなかなか断る人はいないだろうと思った。
そこから11年、今もiPS細胞の研究開発は続けているが、
それ以外に、iPS細胞の研究の前からやっていた、
生命の根幹に関わるような現象の研究をしている。
今年ノーベル生理学・医学賞を受賞したカタリン・カリコさんとは、
研究所でつながりがある。
当初彼女たちのRNA技術をつかって遺伝子を導入する新しい方法の研究は
あまり注目されていなかった。
しかし、ある海外の研究グループが、彼女たちの技術、方法を使って、
私たちが見つけた因子を遺伝子導入すると、私たちがおこなった方法より、
はるかに効率的に、iPS細胞ができるという論文をだし、
彼女らの技術が注目されるようになった。
この技術が有用だと世に知られるきっかけになったと
カリコ先生からiPS細胞の研究に感謝をいただいている。
カリコ先生には対談でお会いしたが、
あれだけの偉業を成し遂げたのに謙虚で、本当に素晴らしい方である。
iPS細胞の研究について
京都大学iPS細胞研究所の所長を12年勤め、
昨年4月に現所長にバトンタッチし、
今はもともとやっている自分の研究に注力している。
これは、25年前に始めた研究があってその謎がまだ解けていない。
その研究の副産物でできたのがiPS細胞。
皮膚の細胞や、血液を試験管1本分くらいでiPS細胞をつくることができる。
自分たちが見つけた4つの遺伝子を遺伝子導入すると
血液や皮膚だった細胞の運命がガラっとかわり初期化する。
受精卵に近い状態までもどり、
全然違う性質のiPS細胞に作り替えることができる。
iPS細胞は無限に増やすことができ、増やしたあとに、
いろいろな刺激を加えることで、
脳や肝臓、心臓などの細胞を大量に作り出すことができる
例えば、それを脳の病気の人の場合は脳に移植することで
脳の機能を再生する。これが再生医療。
今は、10以上の病気で臨床試験という形で、少数の患者さんに協力して頂き、
効果と安全性を確かめる段階にきている。
この先、製薬企業と協力して、何百人という人に臨床試験を広げていき
効果と安全性が確認されれば、国に承認してもらい、保険診療できるようになると、
日本中、世界中の人につかってもらえるようになるのではないか。
マラソンで言うと、今はちょうど折り返し地点。ここまでは順調。
基礎研究の成果が患者さんに届くのに25年、30年かかるのは普通のこと。
研究者になったきっかけ
父が病気になり、治療法がなく、どんどん悪くなっていったのを
中高校生の時にずっとみていたということが
医学を志す大きな理由のひとつになった。
父親が亡くなったことをきっかけに、
父のような治療法のない病気の治療法をつくりたいと研究者になった。
そこから10年くらい、アメリカにもいって研究したが、
研究者というのはあまり裕福でなく、
医師として雇ってくれるという病院があったので、移ろうと思っていた。
この時に、母から電話があり、
「父親が夢枕に立ち、考え直すように言っていた」と聞き、決心が揺らいだ。
そのような時に大学で研究を頑張らないかという話がきたので
そこで研究を始めた。そこから5年ほどでiPS細胞ができた。
研究者になったきっかけも、踏み止まらせたのも父。
研究者になった時には、再生医療やiPS細胞の研究するとは
夢にも思っていなかった。
もともと全然違う研究をしていて、それが予想外の結果が起こり
その結果に引っ張られ、研究の内容を変え、
そうしたらまた予想外の結果が起こり、また研究の内容を変え、
気が付いたら幹細胞や再生医療の研究をし始め、iPS細胞ができた。
人生はこの道一筋という直線型もある一方、廻旋型の人生もある。
自分はまさに研究に関しては廻旋型。
研究はすべて失敗の中にチャンスがあると思う。
どんな仕事もそして、人生そのものも、失敗だと思った中に
今まで気が付かなかったヒントがあると思っている。
研究者の資質
学生時代、ラグビーをやっていた。
「One for All、All for One」のラグビーの精神は研究に繋がる。
ラグビーは、ポジションによって役割分担がはっきりしている。
違う能力、才能を持った人がそれぞれ適材適所でプレイし、
最終的にはひとつのチームで助けあう。それがチーム力。
良いチームは、うまくいかないことがあっても、
相手を非難せず、カバーする。
それをどれだけできるかであり、失敗を共有することが大事。
上手くいったことを共有するのも大事だが、
大きな発見は失敗の中に隠れている。
失敗だと思った実験の結果をきちんとまとめ、報告し、
いかにみんなでシェアするか。チーム力にかかっていると思う。
一見失敗だと思える実験や、予想と反対のことが起こったときに喜べるか。
自分は研究しだした最初の実験で全く予想と逆の結果がでた時、
なぜこんなことがおこるのかととても興奮した。
そんな自分の反応に驚き、
この時に自分は研究に向いていると思った。
財団設立と未来のために
研究には長い年月と莫大な資金がかかる。
京都大学iPS細胞研究財団を設立。
財団を作ったのは、資金面と、あと10年20年かかる研究を
しっかり続けていく、ということを考えてのこと。
そして企業にバトンタッチするが、これを失敗することが日本は多い。
海外はベンチャーがすごく、投資額や人材が日本よりも一桁二桁多くある。
資金不足から海外に行き、海外で成功し、
海外の大手企業が薬にし、日本で逆輸入される。
その時にはひとりあたりの治療費が何千万円、何億円という
非常に高額になってしまう。
iPS細胞は日本でできた技術なので、なんとか日本の中で
日本の企業にバトンタッチをして、
企業も最終の価格をできるだけ良心的なところに抑えてもらうようにしたい。
これまでは、特に大学では国からの研究費にほぼ頼り、研究をおこなってきた
やはり、それだけでは不十分。
寄付という形で直接国民の方から応援してもらい、
国の支援と寄付の両方で支えてもらうと、
国の支援だけではできないこともできる。
応援してもらえるとありがたい。
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