• 2017年10月23日

    大切なのは...

     第48回衆議院選挙が終わりました。台風21号列島接近の影響で即日開票できなくなった選挙区や投票時間を繰り上げて締め切った選挙区などもありましたが、今日午後までにすべての選挙区で開票作業が開始され、大勢が判明しました。与党で改憲発議可能な定数の3分の2である310議席に達し、自民党は単独で過半数はおろか、安定的な国会運営が可能な絶対安定多数に到達しています。一方野党では当初破竹の勢いと言われた希望の党が失速。代わって、立憲民主党が判官びいきがあったとも言われる躍進で野党第一党にまで達しました。

    『自公の議席310、与党大勝 立民躍進54、野党第1党に』(10月23日 共同通信)https://goo.gl/9q6tMv
    <第48回衆院選は23日午後、各党の獲得全議席が確定した。自民、公明両党は計310議席となり、定数の3分の2(310)を確保した。自民党は281議席に達し、国会運営を主導できる絶対安定多数(261)を単独で上回る大勝。立憲民主党は54議席で公示前の16議席から3倍以上となり、野党第1党に躍進した。希望の党は50議席と公示前から7減。共産党は12議席、日本維新の会は11議席と低調だった。>

     選挙の結果を受けて、様々な論評記事が出ています。もともと政権に批判的だった左派系の朝日・毎日・東京は政治部長の署名論文や社説で「国民の声に耳を」とか「多様な意見に目を向けよ」という一方、読売・産経という右派といわれる新聞も「おごることなく」と、政権に対して謙虚さを求めています。私自身、選挙の開票速報番組を担当していて、幹部インタビューでそうした低姿勢をアピールする雰囲気を濃厚に感じましたし、翌日の安倍自民党総裁の会見に出席した際にもにこりともせずにメディアに対応する総裁の姿勢を見るだに、スキを見せない姿勢を感じました。

     さて、この自民の大勝、そして立憲民主党の躍進。よくある分析記事には、自民党について他に入れる党もないという消極的な支持が多く集まり、立憲民主党には反自民の受け皿になったのだという記述が目立ちます。むしろこれが自明の前提のようにして論を進める向きも多いのですが、私はどうもそれに違和感を感じるんですね。
     選挙戦を取材し、実際に党首演説などを聞きに行った感じでは、相反する主張の2党にある共通点を感じたのです。それは、両党とも例外的に「経済」について多く語っているという点。実はその傾向は、中盤戦の党首演説にすでに如実に表れていました。

    『各党首演説分析 序盤で「優劣」 舌戦に変化 安倍晋三首相は経済・北に重点 希望の小池百合子代表は首相批判強める』(10月15日 産経新聞)https://goo.gl/qBnw8Y

     この記事の図表を見ていただきたいのですが、自民党の安倍総裁は第一声で3分の1を割いていた経済についての演説を中盤ではほぼ半分にまで広げています。同じように、立憲民主の枝野代表は第一声、中盤戦ともにおよそ4割を経済政策に割いているのです。
     私も平日の昼、雨の中神奈川での枝野代表の演説を見に行きましたが、消費税凍結、格差是正、福祉に財政支出といった具体的な経済政策を熱く語っていました。演説を見守る群衆も、動員されたであろう年配の方もいましたが、むしろ私には若い女性が多い印象を受けました。そして、その若い世代の方々が経済政策の部分では非常に聞き入っている印象で、時折大きくうなずく姿が見られました。
     自民党に対しては物価や実質賃金が上がっていないじゃないかという目標未達に対しての批判、立憲民主に対しては財源をどうするのか?バラマキになるんじゃないか?などなどそれぞれに対して批判はありますが、時間を割いて丁寧に経済政策を説明しているというのは共通しています。

     それに対し、立憲民主を除く野党各党、特に希望の小池代表、共産の志位委員長は「その他」が圧倒的に多く、おそらくここに政権批判、モリ・カケだとか安倍一強打破といった内容が含まれるものと思われます。その傾向は、第一声よりも中盤戦に向けて拡大しています。そして、選挙戦終盤に向けてはさらにその度合いを強め、かなり語気も強めて政権批判を繰り広げていたように感じました。
     もちろん、党首の演説だけで大勢が決したわけではありませんから、あくまで一つのバロメーターに過ぎませんが、党首の演説は選挙戦のさなかでも報道されることが多いだけに選挙結果と全く関連がないとは言えません。結局、自分たちの懐をどれだけ具体的に暖めてくれるのか?その実績や具体案を提示した党派に票が行ったのではないでしょうか?
     今から25年余り前、アメリカ大統領選でブッシュシニアに挑戦したビル・クリントン氏の名言を思い出しました。

    『"It's the economy, stupid"』(マネースクウェア・ジャパン)https://goo.gl/e9bWzR
  • 2017年10月16日

    リベラルとは?保守とは?

     いよいよ選挙戦本番に突入した今回の衆議院議員選挙。公示前の新党結成などを経て3極の戦いなどと言われますが、その紆余曲折の中でクローズアップされた言葉があります。
     それが、「リベラル」。
     民進党の衆議院側と希望の党との合流で、「リベラル系排除」の方針が伝わり、実際にふるいにかけられるに当たって、リベラルって何だ?とばかりに各紙が解説記事を書きました。

    『「リベラル」って何? 衆院選を前に飛び交う背景とは』(10月8日 朝日新聞)https://goo.gl/2NLgt4

    『政党 「保守」「リベラル」って何?』(10月5日 毎日新聞)https://goo.gl/kSx6Sy

    『リベラルとは?「旧社会党系が源流」』(10月2日 日本経済新聞)https://goo.gl/dNPXwk

    『日本だけ特殊、「リベラル」の意味-本来の語義から外れ「憲法9条信奉」「空想的平和主義」か』(10月13日 産経新聞)https://goo.gl/Jvx6qo
    <衆院選の直前から「リベラル」(liberal)という言葉に接する機会が増えた。民進党が分裂し、保守を掲げる「希望の党」への合流組と、民進リベラル派を集めた「立憲民主党」などに分かれたのがきっかけだ。専門家は「個人の自由を尊重する思想的な立場」という本来の意味から外れて、日本ではある特定の「平和主義者」や「左派」を指すと指摘する。>

     各記事に共通するのは、本来の意味である「個人の自由を尊重する」という立場から少し外れ、戦後の基本的人権や平和主義に価値を置き、自主憲法制定を目指す自民党に反対という立場をとっているという点。戦後の東西冷戦下での保守対革新の対決を引きずり、とはいえ当時のように社会主義を目指すとは今更言えないので、ある意味革新陣営の主張から社会主義だけ抜いたような人権・平和の理念を掲げていると言えます。
     海外のリベラルのように「個人の自由を尊重する」ので、外国人であっても日本の政治にかかわることも自由だろうということで外国人参政権に賛成であったり、あまねくすべての人に自由に生きる権利があるだろうということでどちらかというと福祉政策を重点に置いています。
     一方、海外のリベラルと最も違うところが、経済政策。福祉政策をやるにもお金が要りますが、それをなぜか日本のリベラル勢力といわれる人たちは主に増税で賄おうとします。それが所得税増税や法人税増税ならばああリベラルだとわかるわけですが、なぜか消費税増税にこだわります。金融緩和には懐疑的で、国債でこれらの福祉財政を賄うことは極端に嫌がります。また、構造改革などの規制緩和を志向しています。経済に関しては新聞を読んでも右も左も増税・財政規律重視ばかりなのでかえってわかりづらいのですが、いわゆるリベラル・左派といわれる朝日新聞や毎日新聞が消費税増税すべき、金融緩和はもう止めるべき、そんなことより構造改革!と主張していることからも分かります。

     ということで、政治的には改憲反対、経済面では金融緩和に反対で増税志向と、この部分はまるで保守。福祉政策を重視するところだけが、海外におけるリベラルっぽい部分です。自分はリベラルだと思っていても、この経済政策の部分がどうも引っかかるよなぁという方もいらっしゃるのではないでしょうか?私も、経済的にはリベラルだと思っているんですが、現実に日本のリベラル派とは全く主張が違うので戸惑ってしまいます。自分の思考が世界の物差しで見るとどうなのか?それがわかる「政党座標テスト」をやってみました。

    『政党座標テスト』https://goo.gl/uiHBHL

     これは「政府は、裕福層から貧困層に財産を再分配すべきである」など36問の質問に、1.同意するから5.同意しないまで5段階で自分の気持ちを選んで答えていくと、自分の政治的な志向がわかるというもの。36問を答え切ると、横軸が左派・右派で縦軸が共同体主義か自由主義かでプロットしてくれるのです。
     私はといえば、25.0%左派、8.3%自由主義者という結果が出ました。過去の大統領や著名学者と比較すると、ビル・クリントン氏と最も近いようです...。
     ん~、率直に言って、驚きました。右派の左派寄りに出るだろうと思っていたのが、逆に左派の右派寄りに出ましたからね。ただ、4分円の解説は納得のいくものでした。
    <この象限に当てはまる人は、必要な人々に社会的利益を与えるため、市場に課税をする一方で、個人の自由を支持しようとしています。>
     まさに日本と世界のリベラル経済政策の捻じれが出たんでしょう。このブログで何度も書いてきていますが、金融緩和には賛成ですし、富裕層から貧困層への再分配政策もアリだと思っていますので、その分左派に振れたんでしょうかね。

     さて、直前で政党の枠組みが変化したりで目まぐるしかった今回の選挙。ご自身の選挙区でも政党や候補者が変わったりで、今までとは違いいろいろなことを思いめぐらしている方もいるかもしれません。一票を投じる前に一度テストを受けておくと、考えが整理されるかも知れませんよ。
  • 2017年10月11日

    与野党の経済政策とCDS

     第48回衆議院議員選挙が公示され、12日間にわたる選挙戦に突入しました。経済論戦に関しては、消費税の増税分の使い道を変更すると公約した与党に対し、野党はいずれも消費税増税の凍結、あるいは廃止を主張しています。こうした与野党の経済政策の主張に対し、従来から財政健全化のためには消費税を引き上げるしかないと主張してきた新聞の経済面はこぞって批判しています。政治的なイデオロギーには右左がありますが、こと経済政策に関しては左右の別なく増税を主張するタカ派です。

    『【経済Q&A】消費増税 安倍政権、使途変更へ 財政再建に遅れ』(10月4日 東京新聞)https://goo.gl/Z8tLnK
    <新党の「希望の党」と「立憲民主党」のほか、共産党と社民党も景気への悪影響から、増税に凍結か反対の考えです。ただ、財政再建が進まないことでは与党と同じです。
     国の一七年度予算で社会保障費は約三十二兆円あります。今後、第二次世界大戦直後に生まれた「団塊の世代」の高齢化が進み、医療・介護費の急増が見込まれています。それなのに、将来世代の負担を軽減するための道筋は、どの党も明確に示していません。>

    『衆院選 財政再建遅れ金融緩和、長期化も』(9月29日 産経新聞)https://goo.gl/9rAkwC
    <実質的に選挙戦が始まった衆院選に向け、与野党からは2017年10月の消費税増税の使途変更や凍結を求める声が相次いでおり、財政再建の遅れが不可避になっている。日銀の大規模金融緩和で低金利が続いているが、政府が赤字国債を増発する事態になれば国債の信認が揺らぎ、金利の上昇圧力が強まるだけに、日銀は難しいかじ取りを迫られそうだ。>

     左の東京新聞から右の産経新聞まで、増税増税増税。増税した分を借金返済に回す緊縮財政をやらないと、財政再建が進まず国債の信認が揺らぐ!国債金利の上昇圧力が高まる!という言い回しまで、右から左までコピペかというぐらいに同じ。こんな現状を見てみると、経済欄に関しては読み比べる必要などないのではないかと思ってしまいます。
     与野党ともに財政健全化に後ろ向きであると、手当たり次第に批判を繰り広げる新聞各紙経済面。彼らがその主張の根拠の一つに挙げているのが、国債のクレジットデフォルトスワップです。

    『CDS』(9月29日 時事通信)https://goo.gl/uF9Xcr
    <CDS(クレジット・デフォルト・スワップ) 国や企業が破綻などにより債務不履行に陥るリスクを取引する金融商品。事前に保証料を支払えば、保有する国債や社債が焦げ付いても、損失の補填(ほてん)を受けることができる保険の役割を持つ。保証料は対象先の信用度に応じて変動し、信用が低下すると保証料は上がる。次期総選挙で消費税増税や増収分の使途見直しが焦点となる中、財政悪化への懸念から日本国債の保証料が上昇している。>

     わざわざ用語解説の中にも財政悪化の懸念から保証料が上昇していると入れ込んでくるあたり、増税へのあくなき情熱を感じます。たしかに、9月に入ってから日本国債のクレジットデフォルトスワップは上昇しているようです。

    『市場、選挙後の財政悪化を警戒 国債の信用力が低下』(9月28日 日本経済新聞)https://goo.gl/vgEpJx
    <金融市場で日本の財政悪化への警戒感が高まっている。日本国債の信用力を映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率がここ数日で急上昇し、約1年2カ月ぶりの高水準をつけた。長期金利もおよそ2カ月ぶりの水準まで上がった。衆院選を前に、安倍晋三首相をはじめ、どの政党が勝っても財政再建の道は険しいという見方が広がる。>

     CDSが上昇しているということは、市場が日本国債の焦げ付きリスクが高まっていると感じている証拠。たしかにその通りです。が、それが与野党の公約が発表されたタイミングだったとしても、果たして本当にそれが理由でCDSが上昇しているかどうかは検証が必要です。

     日経の記事に添えられているグラフをよく見てみましょう。すると、7月までは20ベーシスポイント台半ばで推移していたCDSが、8月に入ったあたりからぐっと上昇しています。
     あれ?8月?その頃は解散の「か」の字も意識されていなかったころ。当然、政権の消費増税分の使い道変更も発表されていなければ、従来から消費税廃止や凍結を主張していた共産党や日本維新の会などを除き、野党がそろって消費税増税見送りを主張していたりはしませんでした。むしろ、前原さんは消費税を15%まで上げて、それを財源に社会保障を充実させるとして民進党の代表選を戦っていたはずです。「選挙後の財政悪化を懸念」というのは、ちょっと無理があるのではないでしょうか...?

     もう一つ、与野党の選挙公約発表というのは専ら国内的な出来事です。ということは、9月に日本国債のCDSが日本以外の国債のCDSとは違う値動きをしているはず。そこで、お隣の韓国国債のCDSを調べてみますと、これまた不都合な真実が明らかになりました。

    『北朝鮮問題が引き続き市場の重石に』(9月26日 マネースクウェア・ジャパン)https://goo.gl/JMUR5i
    <地理的に最も北朝鮮リスクが懸念されるのは韓国と考えられます。その韓国国債に対する保険料の意味合いを持つCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は9月22日時点で72.14と、北朝鮮が核実験を行った後の9月6日72.25と同水準です。>

     記事の中に韓国国債に対するCDSの推移を示すグラフが貼ってありますが、やはり8月からググッと上昇しています。そして、その理由として記事の中には「北朝鮮リスク」と明確に書いてあります。あらま。

     どうして同じタイミングで、地政学的に見ても同じようなリスクを抱えている日本と韓国の国債CDS上昇の理由がこれほど違うのでしょうか?韓国国債と日本国債にそんなに特性の相違があるのでしょうか?もちろん、韓国国民、日本国民にとっては思い入れがあるのかもしれませんが、取引の大半を占める国際的な機関投資家にとっては運用先の一つにすぎず、その投資行動は一貫しているはずです。であれば、この情勢下、国内の選挙というミクロの事象ではなく、よりマクロな視点に立って北朝鮮リスクを睨んでCDSが上昇していると結論付けるほうが理にかなっているのではないかと私は思います。

     新聞各紙が社論として増税推進を掲げるのは言論の自由だと思いますし、それが政治的イデオロギーとかかわりなく各紙が一緒なのもきっと偶然の符合か知識な豊富な経済記者の皆さんが財政を憂うと同じような結論になるのでしょう。そこまでは、まだわかります。しかしながら、どうして揃いも揃って債務不履行リスク(CDS)上昇の原因を読み誤っているのでしょうか?それで、有権者には冷静な判断が求められるとか主張できるのでしょうか?判断はこっちでするから、まずは正確な情報が欲しい。まっとうな有権者はそう思っているのではないでしょうか?
  • 2017年10月05日

    大規模イベントでのテロ対策

     アメリカ、ラスベガスで凄惨な銃乱射事件が起こりました。

    『ラスベガス銃乱射事件 59人死亡 527人けが 「過去最悪」』(10月3日 NHK)https://goo.gl/spP3Ui
    <アメリカ・ラスベガスで、1日、銃の乱射事件があり、これまでに59人が死亡、500人以上がけがをし地元のメディアは、アメリカで起きた銃の乱射事件としては過去最悪だと伝えています。乱射したと見られる男は現場近くのホテルの部屋で死亡しているのが見つかり、警察は、動機などについて調べています。>

     海の向こうの話で、かつ銃社会アメリカでの事件ということで、日本とは縁遠いようにも思ってしまいます。事件を起こした容疑者の事件の動機もまだ解明されていない段階で、おそらくテロではなく容疑者の個人的な内心の問題が大きいのだろうと報道されていますが、ソフトターゲットを狙う大規模殺戮と考えれば、これから大イベント目白押しの我が国はとても他人ごとではいられません。我が国の大イベントというと、2020年に迫った東京オリンピック・パラリンピックが思い浮かびますが、警察関係者によると実はその前の年、2019年も大事な年なのだそうです。

    「2019年にはまずラグビーのワールドカップがある。世界的に見ればラグビーはメジャースポーツで、海外からVIPもかなり訪日するだろう。そのうえ、この年にはG20の日本開催が決まった。去年のG7でもあれだけ大規模な警備が必要になったが、G20はさらに多数の海外の国家元首クラスが押し寄せる。考えるだけでめまいがしそうだ...」

     そもそも、テロの可能性というものは、「実行の難易度×得られる政治的効果の大小」で表されます。今まで日本がイスラム過激派のテロの脅威を意識せずに済んできたのは、この前項の実行の難易度に負うところが多いようです。テロに狙われなかった、あるいは狙われても結果として実行に移されなかった、実行されても未遂に終わったり小規模に終わったのは、実行の難易度が高かったから。移民や難民を実質的に制限していること、それゆえ国内にムスリムが少なくネットワークが構築しづらいこと、言語も独特であることなどが実質的な障壁となっています。このことは、2001年のアメリカ・同時多発テロ事件の計画者のハリド・シェイク・モハメド被告の供述からも明らかです。

     しかしながら、警戒すべき対象はイスラム過激派によるテロだけに限りません。ホームグロウンと呼ばれる、国内居住者・生活者によるテロなどの大規模殺戮の可能性があります。冒頭で挙げたラスベガスの銃乱射事件のように、単独犯もあり得るわけです。さらに、インターネットの進化による脅威の増大も懸念されます。ネットに爆弾のレシピがあるこの時代。2008年には日本でも、未遂に終わりましたがネットでレシピや材料を仕入れ、皇居のお堀で爆発を企図したという罪がありました。

     もちろん、警備をする側もそれらのリスクを分析し、対処しています。日本のテロ対策について聞いていくと、特徴は緊密な官民連携にあると言います。諸外国と違い、我が国は犯罪の予兆を察知しても予防拘束はできません。また、盗聴なども人権上の観点からみだりに使用することは世論が許さない傾向があります。
     警備の側からすると不利となるこれらの状況を埋めて余りあるのが、民間からの協力・支援です。施設管理者やイベント主催者、鉄道事業者の協力、具体的には、伊勢・志摩サミットの時にゴミ箱やコインロッカーの封鎖が行われました。サミット会場周辺や近郊の名古屋はおろか、東京でも粛々と封鎖が行われ、それに対して国民は文句ひとつ言わない。この光景は、諸外国の警備関係者を感嘆させたそうです。

     また、爆発物の作成に使われる薬品などは、販売時に薬局やホームセンターで記録を取り、通報するシステムが構築されています。実際にこうした通報で爆発事件を未然に防いだ事例もあり、いずれもテロリストが嫌がる環境を構築していると言えます。

     さらに、先進技術も日本の強みの一つ。先日も、テレビでこんな特集が組まれていました。

    『ここまできた!...日本テロ対策』(10月4日 日本テレビ)https://goo.gl/9N639z
    <世界各国で人が多く集まる場所を狙ったテロが相次ぐ中、日本でも大型車や刃物を使った「ローテクテロ」への警戒に警察は力を入れている。また、テロや事件を未然に防ぐための「顔認証システム」や「不審物・不審者検知」など「AI・人工知能」を使った技術開発もめざましい。2020年に向けての、テロ対策の最前線を取材した。>

     顔認証や物体認証システムの優秀さ、街頭の至るところに設置されている防犯カメラなどなど、インフラ面では日本のテロ対策は世界レベルにあると言っていいようです。
     では、どこが足らないのか?前述の警察関係者は、
    「個々は優秀でも、問題はそれらが有機的に結合しているかどうかです。物体認証システムで不審物を見つけ出したり、特異な行動をしている人物を特定してアラートを鳴らし、それを現場の警備担当者の行動につなげることができるのかが問題です。今は犯罪が起きた後の捜査資料として防犯カメラの映像が出てきますが、これらは通常民間の管理下にある。商店街であったり、各店舗であったり。そうしたバラバラに存在するインフラを統合し、一覧できるようなシステムを構築できるかどうか?今後のテロ対策はそこにかかってくると思います」
    と話してくれました。

     IoTの進化でそれぞれの機器がつながるようになれば、技術的には統合するのはたやすいことのようです。問題は、世論。こうしたことを言い出すと、「監視社会がやってくる!」というキャンペーンが目に浮かびます。自由と安全のどちらを取るのか?テロ等準備罪法案審議の時に論点と指摘されながら議論が生煮えに終わったこのテーマ。
    2019年までにはある程度の結論を出さなければなりませんが、実はあまり時間がありません。議論し、結論を出し、具体的な対策を構築するのに、あと1年半ほどしかないわけですね。本来ならば、選挙の争点の一つに挙げられてもいいような気もしますが...。
  • 2017年09月25日

    争点は消費税?

     安倍総理が今月28日の臨時国会冒頭での衆議院解散を表明しました。ここ1週間にわたって吹きわたっていた解散風がこうして帰結したわけです。「解散の大義がない!」といった批判が各方面からなされていますが、それについては先週書きました。
    そこで今週は、選挙の争点について書きたいと思います。新聞各紙やテレビ各局は、消費税の増税についてが争点の第一であるというような報道をしています。

    『衆院選、各党の目玉公約そろう 憲法、消費税使途が争点』(9月22日 共同通信)https://goo.gl/dxMqVj
    <10月の衆院選に向け、主要政党の目玉公約案が22日出そろった。自民党は憲法改正や消費税財源の使途変更による教育無償化を柱に位置付ける。民進党は憲法9条に自衛隊の存在を明記する安倍晋三首相の改憲案に反対し、首相の衆院解散権を制約する改憲を主張する。与野党は憲法や消費税、解散権を巡り応酬を繰り広げそうだ。>

     総理の今日の会見でも、冒頭発言の早い段階で消費税増税を予定通り行うがその使い道を借金の返済ではなく子育て世代への支援や社会保障の安定化に使うよう変更すると言及しました。

    『平成29年9月25日 安倍内閣総理大臣記者会見』(首相官邸HP)https://goo.gl/N4npyY
    <そのツケを未来の世代に回すようなことがあってはならない。人づくり革命を力強く進めていくためには、その安定財源として、再来年(2019年)10月に予定される消費税率10パーセントへの引き上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2パーセントの引き上げにより、5兆円強の税収となります。>

     こうした発言もあって、あたかも争点であるかのような報道がされていますが、消費税に関しては与党も、野党第一党の民進党も2019年10月の増税には賛成。
    そのうえ、その使い道に関しても細かいところに違いはあるにせよ、増税分のほぼ全額を社会保障に使うという意味では同じ。共産党など他の野党は消費増税に反対だったり、、消費税そのものを否定してたりと様々な主張がありますが、与党も、野党第一党も同じ主張をしているトピックで議論が盛り上がって選挙の主要な争点となるのは厳しい。総理も会見後テレビ各社の番組に出演した際にも、これを衆院解散の理由として説明していますが、それは本音と建て前というか、実質的な争点にはならないでしょう。

     ただ、これでまたしばらく、消費税増税が財政健全化に資するかのような報道がなされるはずです。毎度おなじみ、増税をすれば財政が健全化して将来不安が解消され、景気が良くなる。増税をまた先送りすれば一時的に景気が良くなるかもしれないが借金が増え、将来にツケが先送りされるといった不思議なロジックが紙面や画面を席巻するわけですね。それと合わせて、総理の言う(民進党も同じことを言っているわけですが)増税分のほとんどを借金返済ではなく支出してしまうと、やはり財政が悪化する!という批判もされるのでしょうが...。その際に、消費増税と財政健全化に関する様々な試算が出てくると思います。たとえば、こんな具合です。

    『消費増税 全額使えば財政悪化 教育などに充当案、先送りより深刻に 民間試算』(9月15日 日本経済新聞)https://goo.gl/tS5gY3
    <2019年10月の消費増税を巡り、予定通りの増税でも3度目の延期でもない「第3の道」が話題になっている。民進党の前原誠司代表は予定通り増税し、増収分すべてを教育や社会保障などに活用する案を提唱した。だが、財政への影響を試算すると、現在の計画より悪化するだけでなく、増税先送りよりも悪くなることが分かった。>

     この記事はウェブ上では途中までしか読めないのですが、その先を読むとやはり試算は仮定のものにすぎないことがよくわかります。すなわち、記事中では<中長期の経済成長率を実質1%弱、名目1%台半ばと仮定すると、>とサラッと書いてあるのですが、この試算は増税をしても景気は悪くならず、一方で増税をスキップしても景気は良くならないという仮定での試算となっているからです。また、名目成長率1%半ば、実質成長率1%弱という仮定だと、その際の物価上昇率はざっくりと0.2%~0.4%ほどということになります。だいたい今足元の数字とほぼ変わらない数字ですが、これは今もって2014年4月の消費税増税の影響を引きずっているのは肌感覚でもわかるものだと思います。

     実際、消費増税前のアベノミクスが財政出動もしっかりして最も成功していた2013年の4月から消費増税直前の2014年3月までの2013年度の物価上昇率は総合で前年度比プラス0.9%。生鮮食品を除く総合では同じく前年度比プラス0.8%でした。
     消費増税をせずに財政出動をしっかりやって景気を下支えすれば、この試算のように実質成長率が1%弱あっても名目成長率は2%ほどになります。名目2%成長をコンスタントに続ければ、ざっくり超簡単な複利計算をすると35~6年あれば名目GDPが2倍になります。債務残高対GDP比がかなり好転するわけですね。
     しかしながら、前述の試算ではそうした経済成長は考慮に入れていません。増税しようともしなくとも、景気は影響を受けない仮定になっているのです。こんな現実離れしている仮定の上で、消費増税の是非や増税したとしてその使い道の変更の是非を議論するのがいかに不安定なものかがお分かりになるのではないでしょうか?

     とはいえ、大方の人が見出しを見て、「ああ、総理の言うことは財政を悪化させるんだなぁ...」と思ってしまいます。くれぐれも、見出しに引っ張られないようご注意ください。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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