小説家の湊かなえさん が登場。
小説家デビュー15周年記念作品の最新刊『人間標本』(KADOKAWA)
何度も何度も読者を驚かせたいという作品に込めた思い、
さらに執筆で自分に課しているルールなど伺いました。
撮影:干川 修
湊かなえ『人間標本』KADOKAWA
特設サイト コチラ
最新刊『人間標本』について
去年12月にKADOKAWAから『人間標本』を発表。
デビュー作『告白』は、明るい読後感ではない。
人に読まれることを意識せず、書きたいものを書いた。
子どもがデビュー時小学校1年生。
子どもの同級生やママ友も読むようになると思うと
次第にあまり過激なものや暴力性が高いものは避けよう、
もっと希望がもてるラストにしてみようと、
決まった枠の中で面白い作品を作ろうと挑むようになった。
子どもが成人し、デビュー15周年だし、もう1回やりたいことを
坂道をブレーキをかけずに自転車で下るような話を
書いてみたいと思い、この『人間標本』を書いた。
タイトルもちょっと江戸川乱歩を彷彿させるおどろおどろしいもの。
“イヤミス”とか、読後感が悪いといわれるが、
自分の中ではひとつルールを課している。
悪いことをした人が高笑いをして終わるような読後感の悪さではなく、
傷つけようとか、陥れようとしているのでなく、
むしろ相手のことを思っていたり、
大切な人なのにボタンのかけ違いがおきて、
取り違えが起きてしまう、といったものであるようにしている。
作品の映像化
『人間標本』はミステリーなので何度も何度も驚かせたい。
その驚きが“あっ!”というものもあるかもしれないが。
それよりも、“あ~”という段階を追って、
何かギュッと胸をつかまれるような畳みかけ方をしたいと思った。
『人間標本』を映像化してくれる人がいたらお願いしたい。
作品の中には「色」がたくさんでてくる。
本では自分で色を想像しないといけない。
たとえば『落日』という作品では、どんなに自分が夕日の描写をしても
監督が千葉の犬吠埼で撮ったあの夕日にはかなわない。
これが映像のすばらしさだと思ったので、
『人間標本』の映像化の際はまた色を感じたい。
この作品には蝶がでてくる。
この作品を手掛ける前までは蝶のことに興味も知識もなかった。
『人間標本』を書くにあたり、人間の標本を何に見立てるかで
芸術性の高いものとして、「蝶だ」と思ってからは蝶のことを調べた。
調べれば調べるほど、蝶の特徴や
表の模様がとても美しいのに、
裏は焼けただれたように醜い模様だったりということが
ミステリーと親和性が高いと思った。
ミステリーに生かしたいと
蝶のことを調べるうちに楽しくなっていった。
『人間標本』執筆のきっかけ
『人間標本』のもともとのテーマは「親の子殺し」。
デビュー直後から、どうしてそんなことができのか、
そのことを一度つきつめてみたい、
いつかこのテーマで書きたいと思っていた。
しかし、デビューした時、子供がまだ小学校1年生で、
子どもがそれを読んだ時に自分の親が自分に対して
そういう気持ちを持っているかもしれないと思わせたくなくて、
ずっと封印していたテーマだった。
子どもが成人し、小説と現実の区別もつき、
小説の世界が自分とリンクしているわけではないと
わかっているので
15周年ということでこのテーマに挑んでみようと思った。
この作品を読んで、
自分の親子の関係などに思いをはせてもらえればと思う。
またこの作品を読んだ方は蝶を飛んでいるのを見ると、
今までと蝶の見え方が違うと思う。
それも楽しんでもらえたらいい。
淡路島での生活と執筆活動
現在淡路島に住んでいる。今年25年目になる。
淡路島は食べ物がおいしく、いいところ。
自分の作品を読んで、執筆をしている淡路島が
怖いところなんだと思われると、淡路島の人に申し訳ないと思う
淡路島のみなさんは穏やかで良い人ばかり。
2022年に1年間休ませてもらった。
デビュー作がたくさん読んでいただき、
その後5年分のスケジュールがすぐ埋まり、
一つ書き終わると次の仕事が入ってという形で
長距離を短距離のスピードで走っているようなイメージで
書き続けてきて、だんだん体力を落ちてきた。
また、今までは自分が見たものや経験してきたことを広げたり、
そこから抽出したものを物語として膨らませていったりしたが
自分から出ていくばかりで、からっぽになっていくと思った。
あと1、2年は頑張れるとしても10年は苦しいと思い、
一度立ち止まり、計画を立て直し、
10年続けられるペースに作り直していこうと思い、
1年休ませてもらった。
休んでいる間、好きなミュージカルをみて、ジャンルが違う物語に触れて、
こういう魅せ方があるんだ、小説だったらどうできるかと考えるなど、
小説を書きたい気分になっていると思った。
『人間標本』に込めた思いとこれから
『人間標本』は、これまでと違う面白さ、
ミステリーは、ただ、どんでん返しを楽しむだけでなく、
そこに気持ちが揺さぶられていく要素が入ったら、
本を閉じた時にこんな気持ちになるんだと、
きっと新しい気持ちを提供できているのではないかと思う。
“イヤミスの女王 原点回帰”といったことが本の帯に書かれている。
『告白』のような、振り切った人間の暗いところや人間関係を
書いたものが読んでみたいと、リクエストが多かったので、
帰って来たよ、という思いもあってこのような帯になっている。
この作品がだんだんと広がっていく中で、「父と息子の物語」など、
見え方が変わる中で帯の文章も変わっていければと思う。
今回の作品では「人間について掘り下げる」、「ミステリーとして面白い」
この2つをどういう配分で融合させていくかをすごく考えた。
今までは、これを書くには、まだ技術が追い付いていないとか
周りに配慮しないといけないということがあったが、
引退するまでに何冊書けるかということを考えると
ここからは、書きたい、挑んでみたいというものから
書いてみたいと思う。
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