2015年10月19日

観艦式を取材して

 昨日、平成27年度自衛隊観艦式が行われました。

『自衛隊の艦艇36隻、オスプレイなど参加 相模湾で観艦式』(10月18日 産経新聞)http://goo.gl/11fLNH
<安倍晋三首相は18日、神奈川県沖の相模湾で行われた海上自衛隊の観艦式に出席した。>
<観艦式には自衛隊の艦艇36隻と航空機37機が参加。米国、オーストラリア両海軍に加え、通常の観艦式では初めて韓国、インド、フランス各海軍の艦船も観閲を受けた。>

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相模湾で行われた、平成27年度自衛隊観艦式

 陸・海・空の三自衛隊が1年ごとに持ち回りで行う観閲行事の一つで、前回2012年は民主党政権下で行われましたから、安倍政権になって初めての観艦式となります。私は前回に続いて取材に行ってきましたが、今回行ってみて感じたのは「より鮮明になった対中シフト」です。具体的には、日米同盟を中心とする価値観を同じくする国々の連携と三自衛隊の統合運用となります。

 まずは、価値観を同じくする各国の連携。記事にもある通り、前回に続いて参加したアメリカ、オーストラリアのみならず、今回、インド、フランス、韓国が初めて参加しました。また、予定にはなかったアメリカの空母ロナルド・レーガンが観閲式を行う水域に登場。観閲艦くらまに対して敬礼を行い、くらまに乗艦していた観閲官、安倍総理も返礼を行いました。
 手元に前回の観艦式式次第と今回の式次第があるので比較してみると、今回の方が海外からの参加艦艇、航空機が多くなっています。前回はアメリカ、オーストラリア、シンガポールから各1隻ずつ、合計3隻でしたが、今回はオーストラリア、インド、フランス、韓国から各1隻。アメリカからはチャンセラーズビル、マスティンの駆逐艦2隻に非公式ながら空母ロナルド・レーガン。さらに、哨戒機P-8AポセイドンとMV-22オスプレイも参加しました。ちなみに、前回は海上自衛隊創設60周年を記念する、ある意味特別な観艦式だったのですが、それよりも多い。今回は国際連携というものが大きなテーマであったことがよくわかります。
 余談ですが、MV-22オスプレイ、非常に静かでしたねぇ。もちろん、飛行モードで飛んでくるのを船の上から見ていましたから、ヘリモードの時にどれだけの音を立てるのかは分かりませんでしたが。

 さて、話を戻して、今回の観艦式の2大テーマ。続いては「三自衛隊の統合運用」に移りましょう。もちろん、今回も前回も陸上自衛隊や航空自衛隊の航空機は参加していました。ただ、前回はそれ以上に「海、離島を守る」というテーマが強く、受閲艦艇部隊の中に海上保安庁の巡視船やしまが参加予定でした。結局、尖閣諸島周辺に外国の公船や漁船が押し寄せてきたため、直前で参加を取りやめましたが、手元のガイドにはしっかりと名前が書いてあります。実際、参加取りやめが発表された時には、残念だというため息とともに「いいぞ!がんばれ海保!」という声が上がっていたことを今も鮮明に覚えています。

 一方、今回は統合運用に非常に力を割いていて、たとえば今回は海上自衛隊のエアクッション艇LCAC(エルキャック)に陸上自衛隊の車両を実際に乗せて参加したり、今回初めて航空自衛隊のブルーインパルスが飛行展示を行ったりしています。前回と今回のこの違いが何を意味するかと言えば、海保との連携は「いかに離島を守るか?」に重点が置かれているものなのに対して、三自衛隊の統合運用とは「いかに離島を奪還するか?」ということに重きが置かれているということです。まさに島が盗られようとしているときならば海の警察力たる海保が前面に出て、海上自衛隊はその後詰として存在感を発揮することで抑止力となります。しかし、すでに島が盗られてしまった後ならば、海保ではなく三自衛隊がいかに素早く、力を合わせて展開が出来るかがカギを握ります。3年の時間を経て、想定される危機のレベルがいかに高まってしまっているか、今回の受閲艦艇部隊、航空部隊の陣容から読み取ることが出来るのです。

LCAC.jpg
海上自衛隊エアクッション揚陸艇LCAC

 また、観閲式では毎回必ず、最高指揮官たる内閣総理大臣から隊員各位に向けての訓示が行われますが、これを見ても、今回対中シフトが鮮明になっていることが分かります。

『平成24年度自衛隊観艦式 野田内閣総理大臣訓示』(平成24年10月14日 首相官邸HP)http://goo.gl/Bl5E0

『平成27年度自衛隊観艦式 安倍内閣総理大臣訓示』(10月18日 首相官邸HP)http://goo.gl/3ug9m3

隊員の任務に対する表現一つとっても、3年前、当時の野田総理は、
<海洋国家・日本の「礎」である海。我が国最大のフロンティアである海。我が国の海を守るという諸君の職責は、日本人の存在の基盤そのものを守ることに他なりません。>
と表現したのに対して、今回安倍総理は、
<海に囲まれ、海に生きる。海の安全を自らの安全とする国が、日本です。我々には、「自由で、平和な海を守る国」としての責任がある。その崇高なる務めを、諸君は、立派に果たしてくれています。>
と表現しました。海の安全が自らの安全であり、自由で、平和な海を守る国としての責任を強調。明言していませんが、もちろん自由で平和な海を乱す国、中国の存在を暗示しています。

 さらに海外からの参加各国に謝意を表したうえで、
<日本は、皆さんの母国をはじめ、国際社会と手を携えながら、「自由で平和な海」を守るため、全力を尽くします。>
と世界に対して日本の決意を明らかにしました。そして、
<日本を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています。望むと望まざるとに関わらず、脅威は容易に国境を越えてくる。もはや、どの国も、一国のみでは対応できない時代です。>
と、危機感をあらわにしています。

 折しも、総理がこうした訓示を行った翌日、防衛省統合幕僚本部がこんな統計データを発表しました。

『中国機に緊急発進231回 上半期で最多』(10月19日 共同通信)http://goo.gl/RVUC63
<防衛省統合幕僚監部は19日、日本の領空を侵犯する恐れがある中国機に対し、航空自衛隊の戦闘機が本年度上半期(4~9月)に231回、緊急発進(スクランブル)したと発表した。国・地域ごとの緊急発進回数の公表を始めた2001年度以降で、上半期として最多。>

 安倍総理は今回の訓示を締めくくって、
「隊員の諸君。
 諸君の前には、これからも、荒れ狂う海が待ち構えているに違いない。」
と語りました。波の高い日本近海をどう乗り越えていくのか?その覚悟を感じる今回の観艦式でした。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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