2019年08月23日

報じる立ち位置は向こう側?

 韓国が軍事情報秘密保持協定(GSOMIA)の破棄を日本側に通告してきました。
 これ、即座に終わるわけではないんですが、正式に通告があった以上、11月をもって、協定は終わることになります。
 この一報があったのが昨日木曜の夕方。そこから取材したのですが、メディア報道の過熱ぶりとは対照的に、政府関係者の受け止めは非常に冷静でした。まず、戦後の日韓関係においても、あるいは1965年の国交正常化からの50年あまりにおいても、秘密保持協定なしでも安全保障環境は不十分ながらも機能してきたということ。情報面では実は韓国から日本が受けとる情報以上に、日本から韓国が受けとる情報の方が有用なものも多く、メリット・デメリットの見合いで考えれば韓国側にデメリットが大きいのではないかという指摘が大半でした。
 しかしながら、国内の報道は不思議なぐらいに韓国側の目線に立ったものばかり。
「徴用工問題に端を発して、輸出厳格化、ついに安全保障の分野にまで及んでしまった!」 
「日本政府が頑ななせいで韓国を追い込んでしまった!」
 事実とは異なるこうした報道に溢れています。
 拙ブログでも指摘し、夕刊フジの連載コラムでも書きましたが、輸出管理の見直しはそもそも大量破壊兵器への転用可能な物資の管理が不十分なのではないかというのがその理由であって、朝鮮半島出身労働者の賠償問題への報復などではありません。日本政府が頑なというか、国際法上の原理原則を遵守しているのであって、ここを崩してしまっては他の国々と信義を結べなくなってしまうでしょう。 

 ことほど左様に、日韓関係のニュースは基本的に日本側が悪いかのように書かれることが多くて驚きます。先日も、韓国のフラッグキャリア、大韓航空が日本の地方空港発着便を中心に大幅減便したことが話題になりました。

<大韓航空は20日、日韓関係の悪化で韓国と日本を結ぶ便の利用者が減少しているとして、主力路線の釜山―関西の運航を休止するなど、大幅な見直しに踏みきると発表した。代わりに東南アジアや中国などとの路線を拡充するという。>

 報じる記事はどこを見ても、昨今の日韓関係の冷え込みが理由になっています。
 日韓関係の冷え込みで訪日韓国人の数が減ったのは理由の一つではあるでしょう。しかしながら、航空会社は飛行機を飛ばしてナンボ。飛ばさず飛行機を遊ばせていては維持費や駐機にかかる費用、人件費などなど、コストばかりがかさんでしまいます。国営企業ならいざ知らず、民間企業で営利企業たる大韓航空が、国と国との関係が冷え込んだからといってコストがいたずらに嵩むような決断をおいそれと下すでしょうか?
 よくよく調べてみますと、今回の決断の別の側面が見えてきます。

<韓国航空大手の大韓航空は15日、2018年1~3月期の連結決算を発表した。航空需要の回復で売上高は3兆1020億ウォン(約3100億円)と前年同期比8%増えたが、外国為替のウォン安進行や人件費の増加で営業利益(1663億ウォン)は13%の減益だった。同社は当初14日としていた決算発表を15日に延期。不祥事が相次ぐ創業家トップの対応に注目が集まったが、言及はなかった。>

 ご覧の通り、そもそも様々な国内スキャンダルや燃油コストの高止まりで大韓航空の経営は厳しかったんですね。
 韓国の航空業界はLCC(格安航空会社)が乱立した影響で、フルサービスキャリアの大韓航空とアシアナ航空にとって厳しい環境が続いてきました。アシアナ航空など、親会社の錦湖アシアナ財閥が赤字に耐えかねて、アシアナ航空を売りに出すといったニュースまで流れています。

<錦湖(クムホ)アシアナグループを構成するアシアナ航空筆頭株主の錦湖産業は、4月15日に取締役会を開催し、アシアナ航空の売却を決議したと発表した。同社はアシアナ航空の約33%の株式を有する筆頭株主のグループ企業。同グループから離脱することで、韓国経済界では早くもアシアナを傘下に収める企業グループの動向に注目が集まっている。>

 こうした厳しい経営環境にあっても、一度定期便を飛ばし始めた路線から撤退するのはそう簡単なことではありません。特に地方空港路線の場合、地元自治体や経済界からの期待や補助金などが絡んで利害関係が複雑に入り組んでいたりします。平時に断行しようとすると多大な労力が必要となるわけです。そこへ降って湧いた日韓関係の冷え込み。これは路線撤退の格好の理由となるわけですね。待ってましたとばかりに飛び付き、路線撤退を発表したというのが今回のニュースというわけです。

 少し調べればわかるはずなのですが、紙幅の関係なのか、ここまで言及している記事はあまり見かけません。基本的に、日韓関係の悪化、それも日本を原因に置いた関係悪化の作用の一つとして今回の減便が扱われています。そうまでして韓国側の主張に乗っかり、日本政府を批判したいのでしょうか?
 たしかに権力を監視するというのはマスコミの役割の一つなのかもしれませんが、ここまで来ると権力監視というか権力批判が目的となってしまって、事実を伝えて世論を喚起するという役割を半ば放棄してしまっているのではないかとさえ思います。
 その先に待っているのは、メディア不信。自分で自分の首を絞めているようにも見えるのですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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