2015年10月15日

デフレの原因

 景気の先行きが怪しくなってきました。先日発表された10月の月例経済報告も、1年ぶりに下方修正されました。

『景気判断、1年ぶり下方修正...月例経済報告』(10月14日 読売新聞)http://goo.gl/YwKRv2
<政府は14日、10月の月例経済報告を発表し、前月と比べた景気全体の判断を「一部に鈍い動きもみられる」から「一部に弱さもみられる」に引き下げた。>

 中国経済の減速、利上げを前にしたアメリカ経済の足踏みなど、主に外在要因で製造業が振るわなかったのが原因とされています。そして、判断が非常に難しいのが、足元の景気は下方修正した一方で、<中長期的には緩やかな回復基調が続いている>と書いているところ。景気がいいのか悪いのか、その瀬戸際にいるということでしょうか?安倍総理も9月末の会見で景気の現状に対してあいまいな口ぶりでした。

『安倍晋三総裁記者会見(両院議員総会後)』(9月24日 自民党HP)https://goo.gl/7ZdY5U
<もはや「デフレではない」という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です。>

 揚げ足を取るようなことは書きたくないんですが、「もはやデフレではない」のであればデフレから脱却したということ。ところが直後に「デフレ脱却は、もう目の前です」と言っている。ということは、まだデフレの中にいるのか?各種経済指標も、プラス・マイナスまちまちで、どちらとも取れる。好景気でも不景気でもない。一言でいえば、「踊り場である」ということになりそうです。

 そうなると、次の一手は非常にデリケートになります。こういう時は、言葉の本来の意味に立ち返ることが重要です。「デフレ」とはいったい何なのか?まずは総理の見解を見てみましょう。

『デフレは貨幣現象、金融政策で変えられる=安倍首相』(2013年2月7日 ロイター)http://goo.gl/RQKwVG
<安倍晋三首相は7日午前の衆議院予算委員会で、デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられるとの認識を示した。(中略)安倍首相は「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国はあるが、デフレになっている国はほとんどない」と答えた。>

 デフレは貨幣現象。これだけ見ると専門用語で難しそうに見えますが、大雑把に言えば、お金の量が足りないからデフレになっているのだということ。世の中に出回るお金の量が少ないと、お金の価値が上がっていく。そうなると、お金をモノに交換する(消費する)よりもお金のまま持っておいた方が得なのではないかという考えが働く。それがさらにお金を使わない方向に人々が流れて行って、デフレが深刻化するという考え方。これを打破するには、中央銀行の金融政策で世の中にお金をジャブジャブと流通させ、手元のお金を使わないとどんどん価値が下がるぞと思わせることが重要。アベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」は、こうした考えのもとで行われたものでした。

 一方、もう一つ、デフレは需要の不足が原因という説があります。デフレとは、物価が継続的に下がること。物価というのは大雑把に言えば、日本で売られているあらゆるものの値段を総合したものです。ということで、学校で習った「モノの値段がどう決まるか」という話が応用できるのです。需要曲線と供給曲線の交わったところで決まるという話を覚えていませんか?価格を縦軸、需要・供給の量を横軸に取った場合、買い手の心理は高ければ買わない。安ければ買いたい。ということで需要曲線は右下がりのグラフになります。一方、売り手の心理は高ければ売りたい。安ければ売りたくない。ということで供給曲線は右上がりのグラフになります。この2つの線が交わるところが、双方過不足なく満足する値段と量ということになるわけです。
 物価もその延長線上で、総需要と総供給の均衡点であると考えると、デフレ状態=物価が下がっているというのは供給に対して需要が弱いということ。アベノミクス第2の矢「機動的な財政出動」というのは、こういった考えから需要を下支える意図で行われたものでした。

 さて、この踊り場景気の中で打つ次の一手は、このデフレに対する認識が問われます。
 前者の説をとるなら、すでに金融緩和を進めていて貨幣量は足りているということになります。デフレからは脱却しつつあるということで、この流れのままで行けばいい。追加の景気対策などは必要ないとなるわけです。

 一方、後者の説をとるなら今だに総需要が不足しているとなる。実際、内閣府の調査では今も大きな需要不足があるということが分かっています。

『4~6月期の需給ギャップ、マイナス1.6%に 内閣府試算』(9月17日 日本経済新聞)http://goo.gl/M8yDTq
<内閣府は17日、4~6月期の国内総生産(GDP)改定値から試算した需給ギャップがマイナス1.6%になったと発表した。(中略)日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示した金額換算の需給ギャップは、名目で約8兆円の需要不足となり、速報段階の9兆円程度から縮小した。>

 名目で8兆円に上る需要の不足があるから、これを補うために何らかの策を講じなくてはいけません。企業の設備投資や家計の消費活動に期待することもできますが、デフレで財布の紐が固い中ですから政府側が財政出動をして景気を刺激するのが最も手っ取り早い策でしょう。

 では、現政権はどちらに近いか?どうやら前者に偏って来ているようです。

『景気判断を1年ぶり引き下げ 月例経済報告』(10月14日 産経新聞)http://goo.gl/uXlpYz
<甘利氏は会見で、補正予算を含む景気対策について「現時点で(景気対策のための)補正予算は判断しない。7~9月期の(成長率の)結果などを総合評価する」との認識を示した。>

 菅官房長官はテレビ番組の中で、補正予算の審議については行うならば来年1月からの通常国会の冒頭で行うのが妥当なのではないかと言っていました。また、補正の編成についてはまだ決めていないとも述べていました。例年通り1月の下旬に通常国会召集となれば、補正予算の実質審議入りは2月アタマ。3月にようやく成立となれば、補正予算が効き始めるのは来春以降となってしまいます。の間に今踊り場の景気が悪い方に転がっていかないか...。私は需要不足を今すぐ何とかした方がいいと思うんですが。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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