2015年10月05日

世界のトレンド「反緊縮」、日本では?

 ヨーロッパを中心に「反緊縮」がじわじわと有権者の間で広がってきています。先週末にはポルトガルで総選挙が行われ、緊縮を進める与党が勝ちはしたものの過半数には至りませんでした。

『ポルトガル総選挙は連立与党が勝利、過半数割れで政策譲歩の構え』(10月5日 ロイター)http://goo.gl/mvybev
<開票率99.1%の段階で、連立与党の得票率は38.5%前後、野党社会党の得票率は32.4%。連立与党の獲得議席数は現段階でわずか100議席と、過半数となる116議席を大きく下回った。>
<緊縮財政の緩和を公約に掲げていた社会党のコスタ党首は、選挙で勝利という目標は果たせなかったものの、辞任はせず、独自の政策を貫く方針を表明した。
選挙では、左派政党「左翼ブロック」が得票率約10%と勢力を拡大。共産党は8.2%だった。>

 リーマンショック後景気を支えるために歳出を拡大させた各国は、その原資として国債発行に頼り、国債発行残高が拡大。国債利回りが上昇(価格は下落)し、残高を圧縮しなくては利回りが高いので国債発行が出来なくなりました。そこで、競うように緊縮財政政策を実行。歳出の大幅カットと増税、政府セクターのリストラを大規模に実施しましたが、これが各国で大不況を呼び込みました。
 失業率の高止まり、個人消費の冷え込み、物価の下落。
 富裕層やグローバルに活動する企業にとっては影響は軽微かもしれませんが、中所得層以下の庶民の生活にはこの政策の負の側面が直撃しました。危機の直後には「少しぐらいは我慢しよう」と思っていた有権者も、それが3年、4年と続くとさすがに堪忍袋の緒が切れたようです。この流れは、ポルトガル一国のことではありません。

スペインでは、
『スペイン地方選:ポデモス、バルセロナで勝利-首都でも台頭』(5月25日 ブルームバーグ)http://goo.gl/bfth1b
<24日投開票のスペイン地方選で、反緊縮を掲げる新興政党ポデモス系の会派がバルセロナ市議会選で第1党となった。ポデモスは首都マドリードでも連立で過半数を獲得する公算がある。>

イギリスでも、
『英国:労働党首に強硬左翼のコービン氏 党内に批判多く』(9月12日 毎日新聞)http://goo.gl/IN3TWv
<5月の英総選挙で大敗した労働党の党首選挙が12日に行われ、核廃絶を訴える強硬左派のジェレミー・コービン氏(66)が得票率59.5%で当選した。>
<コービン氏は、最大の支持母体である労働組合の出身で、1983年に下院議員当選。反緊縮財政や富裕層への課税強化を党首選の公約に掲げた。電力などエネルギー関連会社や鉄道の国有化も提唱している。>

さらに、アメリカでも、
『今後の選挙戦占う緒戦2州でクリントン氏が苦戦 戦略の練り直し必要』(9月7日 産経新聞)http://goo.gl/842FHj
<クリントン氏はニューハンプシャーで無所属のバーニー・サンダース上院議員に逆転され、アイオワでも追い上げられている。>
<米NBCテレビと米マリスト大が6日発表した世論調査によると、来年2月1日に初戦の党員集会が予定されるアイオワでのクリントン氏への支持は7月の49%から38%に低下。逆に、2位のサンダース氏は25%から27%に増えた。>
ちなみに、バーニー・サンダース候補は自ら民主社会主義者であると名乗っているほどで、緊縮政策には反対です。

 さて、これら各国のリベラル勢力の流れに共通するのは、イギリス労働党のコービン党首も党首選公約にある通り、反緊縮とセットで金融緩和、財政出動を景気浮揚の手段として考えていること。

 反緊縮、金融緩和、財政出動。

 先日発表された新・3本の矢ではなく、アベノミクス当初はこうした世界の流れを先取りするものでした。すなわち、大規模な金融緩和と機動的な財政出動。これにより景気は確実に浮揚しかかったんですが、消費増税という緊縮政策によって吹っ飛んでしまいました。そして今度の新・3本の矢はアベノミクスリセットではなく、対症療法のような不完全なもの。ならば今こそ、日本でもリベラル勢力がリベラルのスタンダードな経済政策『反緊縮・金融緩和・財政出動』を打ち出せば大いに支持される可能性があるということです。消費増税という緊縮政策以後、何となく景気がいいんだか悪いんだかというモヤモヤした空気だからこそチャンスがある。しかしながら、その受け皿となり得る民主党は残念ながら期待外れです。先日はこんなニュースがありました。

『民主・維新、参院選で共通公約 公務員給与2割減、明記へ 安保法は「廃止」』(10月5日 日本経済新聞)http://goo.gl/8up1xM
<民主党と維新の党が来年夏の参院選に向け、政策協議機関でまとめる共通公約の概要が分かった。維新の看板政策でもある「身を切る改革」を民主党が受け入れ、国家公務員の給与の2割減を明記するほか、国会議員の定数削減も盛り込む方針。>
<民主党は公務員給与2割減で維新に譲歩したため、維新が慎重姿勢を崩していない消費税増税などの受け入れを迫る考え。>

 公務員給与に手を突っ込むということは、民主党の支持母体・連合の中心、公務員労組が難色を示すのは火を見るよりも明らかです。しかし、それを押さえてでも消費増税をしたいというのですから、よほど緊縮財政を推し進めたいということなんでしょうか?これでは自民党以上に緊縮路線一直線です。さらに、金融緩和は物価上昇を招いて庶民の暮らしを苦しくすると批判しています。
 そのくせ、民主党は新たにまとめるという経済政策の中では「分厚い中間層を作る」としているそうで、農業では農家への戸別所得補償制度の復活、雇用は非正規雇用の割合を37%から30%以下にする目標を示すとのこと。一体緊縮したいのか、反緊縮なのか、経済政策に一貫性がありません。

 あえて期待点を探すとすれば、それは野党各党との選挙協力です。消費税絶対反対の共産党との政策協議の中でもし消費増税推進を取り下げられれば、そして、維新の党との協議の中で維新の主張する金融緩和を取り込めば、『反緊縮・金融緩和・積極財政』というリベラルの世界的な本流となるんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

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「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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