2017年09月07日

危急の邦人保護議論

 今年に入ってから、このブログでは何度か朝鮮半島情勢に絡んで在留邦人の保護について書いてきました。有事が起こる、あるいは起こりそうになった時に、いかにして非戦闘員の邦人を安全・確実に朝鮮半島から離脱させるかという話です。

『安全への退避』(3月22日)http://www.1242.com/blog/iida/2017/03/22214125.html
『果たして受け止めきれるのか...?』(3月27日)http://www.1242.com/blog/iida/2017/03/27222616.html
『国民保護のあり方について』(6月12日)http://www.1242.com/blog/iida/2017/06/12215508.html

 8月末の弾道ミサイル発射に続き、9月3日日曜日には6度目の核実験を行った北朝鮮。継ぎ早に緊張を高めてきていて、危機の度合いは深まるばかり。朝鮮半島からの邦人退避を議論する必要性は、時を追うごとに高まっています。核実験直後の日本経済新聞紙面には、政府も対応策を練っていることが報じられました。

『在韓邦人保護、備え急ぐ 政府、退避所を確保』(9月5日 日本経済新聞)https://goo.gl/w2eAZk
<日本政府は4日、北朝鮮の核実験で朝鮮半島情勢が緊迫化していることを受け、6万人近い在韓邦人の退避を想定した議論を加速させる。邦人が自助努力で民間の航空機などにより退避してもらうのが基本方針だが、万が一に備え、韓国政府や米軍との協議を急ぐ。日本政府関係者によると現時点で韓国内の退避所を邦人が使用することについて調整がついた。>

 有事が差し迫った際に一体どのように政府が動くのか、出来ることと出来ないことは何なのか、かなり突っ込んだ記事になっています。私個人としては政府ができないことが多すぎるようにも思いますが、それも含めてこれから大いに議論すればいいと思っていました。実際、この記事は英語版のthe Nikkei Asian Reviewにも掲載され、海外では大きな反響をもって受け止められています。この記事を引いて、世界の有力メディアも記事を書きました。

『「日本が在韓邦人の大規模退避を検討」と中国メディア、中国ネットの反応は?』(9月5日 Record China)https://goo.gl/ubtZHB

『Japan is reportedly drafting a plan to get its citizens out of South Korea』(現地時間9月4日 CNBC)https://goo.gl/Egi46B

 海外でもこれだけの反響があったので国内でも議論になることを期待しましたが、これの後を追うような記事もなく、残念ながら野党議員の不倫疑惑の陰に隠れてしまいました。海外メディアがこれだけ反応したというのは、それだけ危機感をもって朝鮮半島情勢を見つめている証拠であり、ようやく日本も動いた!ということにニューズバリューを見出したということに他なりません。何かが起こる前に備えておく重要性は古今東西を問いません。なぜ、当事者であるこの国でだけ議論にならないのか、非常に危機感を覚えます。

 上記日経の記事にもありますが、残念ながら基本的に韓国にいる邦人は自助努力で民航機に乗って避難する以外に方法がありません。これだけ近いんだから、いざとなったらいくらでもチャーター機を飛ばして避難が可能だというのは平時の話にすぎません。有事になれば空港は閉鎖されて、避難所への退避、あるいは徒歩で南下し船での避難という方法になるので、その前までに大部分の邦人を脱出させる必要があります。では、北朝鮮が空域封鎖や攻撃を予告するといった"準有事"となったらどうでしょう。このタイミングが最も想定される避難タイミングで、一刻も早く避難しなければいけませんが、チャーター機をバンバン飛ばすことが可能なのか?現地側の受け入れ態勢の問題以前に、日本から航空機を飛ばす場合、だれが運用するのか?という問題もあります。
 ある航空関係者にこうしたときのシミュレーションを聞いたことがあるのですが、
「そうしたリスクのあるフライトになったら、おそらく労働組合はノーと言うでしょう。そうなれば、会社としても無理強いすることはできません。ストの時と同様、管理職によるフライトとなるわけですが、それもどれだけの志願者が集まるか...。こればかりは聞いてみなければわかりません」
と話していました。

 民航機がダメなら政府専用機があるではないか!という意見もあります。今運用している政府専用機は、ボーイング747-400、ジャンボジェットを元にしています。見た目はジャンボジェットですから旅客機そのものですが、操縦しているのは航空自衛官で、機体の所属も航空自衛隊。したがって、基本的にはこの政府専用機の運用も韓国内における自衛隊の活動の中に括られますから、事前の韓国政府の許可が必要になるわけですね。憲法の上に"国民情緒法"があると言われているこの国で、しかもこの情緒に常に寄り添う姿勢を示している大統領の元で許可が下りるのか...。客観的に考えて、難しいと思わざるを得ません。

 では、海外の民航機を使えば?という声もあります。これは、過去にこのブログでも引いたイラン・イラク戦争でのテヘラン封鎖の事例が非常に参考になります。あの時は最終的にトルコ航空機が在留邦人を救ってくれたわけですが、そこに至るまでに幾多の国や航空会社に断られ、その間にそれだけ状況が急速に悪化していったか。迅速、確実に邦人の避難を行うには、他人に頼っていてはいけないのです。まさに、これこそ日本国の"自助努力"が求められているのです。
 豪雨や地震などの自然災害の時にはあれだけ「不要不急の外出を避けて!」「早めの避難を!」と呼びかける我が国のメディアです。今こそ同じことを言うべきタイミングなのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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