2017年03月22日

安全への退避

 あまり話題になりませんでしたが、アメリカのティラーソン国務長官が来日しました。今回の来日は、日・韓・中の順の東アジア歴訪の最初の訪問地としての来日でしたが、就任したばかりということで"顔見世"的な訪問ではないかとも言われていました。ところが、

『北朝鮮政策見直しへ連携=米国務長官「20年間失敗」-安倍首相らと会談』(3月16日 時事通信)https://goo.gl/eD1ku3
<安倍晋三首相は16日、ティラーソン米国務長官と首相官邸で約1時間会談し、日米同盟を不断に強化していく方針を確認した。トランプ米政権が進める対北朝鮮政策の見直しについては、日米間で綿密に擦り合わせ、戦略目標を共有することで合意。これに関し、同長官は岸田文雄外相との共同記者会見で「(米国の政策は)過去20年間、失敗したアプローチを取ってきた」と指摘した。>

 見出しにもありますが、北朝鮮政策について、<トランプ政権が軍事力行使を含む「全ての選択肢がテーブル上にある」との姿勢で政策を見直していることを説明>しています。その上で、今までの20年間の対北朝鮮政策を全否定しているわけなのです。新政権の発足直後だから前政権の政策を否定するのならわかりますが、過去20年の中には現トランプ政権と同じ共和党政権(子ブッシュ政権)もあるわけです。
それも含めて否定してかかり、かつ軍事力行使も否定しないということは、並々ならぬ決意を感じられるわけですね。

 さらに、今回の国務長官来日の直前、東アジア・太平洋担当の国務次官補を長く務めていたダニエル・ラッセル氏が辞任しました。

『ラッセル米国務次官補が辞任 シンクタンクへ転出』(3月3日 日本経済新聞)https://goo.gl/9lrKaW
<米国務省は2日、日本を含め東アジア・太平洋担当の国務次官補を3年半にわたって務めたダニエル・ラッセル氏が8日付で辞任し、ニューヨーク拠点の米シンクタンクに転出すると発表した。>
<ラッセル氏は国務省日本部長や国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を歴任。次官補在任中にはオバマ前大統領の広島訪問に尽力し、今年2月にドイツで開かれた日米韓外相会談にも出席した。>

 トランプ政権ではほとんどの幹部官僚は辞任している中、このラッセル氏は例外的にオバマ政権からトランプ政権発足後も次官補にとどまっていました。それだけでなく、大統領選の最中の去年10月12日には「核兵器攻撃能力を持った瞬間に金正恩氏は死ぬ」と発言。

『米次官補「核兵器攻撃能力を持った瞬間に金正恩氏は死ぬ」』(10月14日 朝鮮日報)https://goo.gl/0spvNI
<米国務省のラッセル次官補(東アジア・太平洋担当)は12日(現地時間)「(朝鮮労働党の)金正恩(キム・ジョンウン)委員長は今後核攻撃を敢行できるほどの力を持つようになるかもしれないが、そうなれば彼はすぐ死ぬだろう」と述べた。>

その上、トランプ氏の大統領選当選後、12月に訪日した際には、「トランプ政権になったら金正恩政権の転覆もオプションの一つになる」と日本政府側に通告しています。そのラッセル氏がティラーソン氏の東アジア歴訪の直前に辞任。引き継ぎに時間がかかったともいわれますが、だとすれば何を引き継ぐのに時間がかかっていたのか?外交筋は、一部報道にあるような斬首作戦(金正恩暗殺作戦)の具体的なプランを作成し、その一定のメドが立ったので辞任したのではないかと言います。

 このように、アメリカの北朝鮮政策における軍事オプションの可能性が増してきているというサインが様々な形で明らかになっているわけですね。要人の発言のみならず、具体的な訓練の形でも明らかになっていて、その一つが在韓米軍の家族の退避訓練です。

『在韓米軍、沖縄へ家族脱出の避難訓練 北朝鮮の侵攻に備え』(1月4日 CNN)https://goo.gl/2NuxZI
<韓国・ソウルにある龍山米軍基地。冷たい冬空の下、家族連れが集まって雑談したりコーヒーで体を温めたりしている。北朝鮮が韓国に侵攻した事態を想定しての避難訓練とは思えない光景だ。>

 この避難訓練自体は年に2回行われている恒例のものですが、沖縄まで到達するものは2010年以来。この2010年は延坪島砲撃事件が起こった年。それ以来の避難訓練ということで、その緊迫度が伝わってきます。アメリカは朝鮮半島有事が起こった場合の避難対象民間人の数を22万人と想定し、非戦闘員疎開作戦(NEO)という具体的なオペレーションに落とし込んでいます。この避難訓練も、NEOの訓練の一部なのです。在韓米軍は、在留アメリカ人向けに資料もホームページ上で公開しています。

『NONCOMBATANT EVACUATION OPERATIONS』(米陸軍第2歩兵師団HP)https://goo.gl/gT8lNs

 アメリカの場合は韓国各地にも米軍基地がありますから、それを活用しながら安全な南部に逃がし、その後日本などのより安全な退避地に送り込みます。防衛関係者に取材をすると、非公開ですが、具体的な航空機の数や使用する施設なども細かく決められているようです。ベトナム戦争時のヤンゴン(当時)からの退避などを見ていると、多少の混乱はあれど細かな手順を事前に決め、それを非戦闘員も含めて周知していたことが分かります。

 一方、我が国はどうなのか?在韓国日本大使館とソウル・ジャパン・クラブが「安全マニュアル」を出しています。

『安全マニュアル』(在大韓民国日本国大使館HP)https://goo.gl/B7FNfa

 この29ページによれば、外務省から渡航中止勧告が出た時点でそれぞれ独自の判断で退避が始まります。この時点では、基本的に定期便の席を各自で確保する形の退避となるようです。
 その後、退避勧告が出ると定期便以外のチャーター便などの確保の努力を大使館がするとあります。さらに、空港閉鎖の場合には、自宅・待避所で待機、そして後方の安全地域への避難となりますが、<他に手段がなくなった場合、集団を形成して自力避難(車両等による集団車列又は徒歩)をせざるを得ない場合もあります。>との記述があります。
 要するに、空港が閉鎖される前に何とか脱出しない限り、生命の危険を冒して自力避難せざるを得なくなる可能性があるわけです。

 かつて、イラン・イラク戦争当時のイランの首都テヘランで、邦人が民間航空機の席が取れずに取り残されるということが起こりました。当時テヘランには日本の航空会社の定期便が就航しておらず、他国の航空便は当然その国の国民を優先しますから、日本人は後回しになってしまっていたんですね。それを救ったのは、トルコ航空のチャーター便でした。およそ100年前のエルトゥールル号沈没事故でトルコ人の犠牲者が手厚く葬られ、生存者には手厚い保護を受けた恩を返してくれたんですね。

『なぜ、日本は救援機を出さなかったか?その真実を知る』(特定NPO法人「エルトゥールルが世界を救う」HP)https://goo.gl/zJERWr

 隣国であり、かつ定期便も数多く就航している韓国では、危機においてもギリギリまで日本の航空会社が退避便を飛ばすでしょう。また、当時と違い今は政府専用機がありますから、これも使うことが可能でしょう。
 しかし、上記記事を読むと、これが30年経った今でも再び起こることはないと断言できるでしょうか?果たして日本にNEOがあるのか?あったとして、それが有事の際にきちんと機能してくれるのか?そのための訓練をしているのか?韓国にいる在留邦人は3万8千人余り。有事の際にその生命を守る態勢にあるのか?そろそろ、国会でこうした議論をしなくてはならない局面に差し掛かっているように思うのですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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