2019年03月11日

福島ロボットテストフィールド取材報告

 東日本大震災から8年。今朝のCozy Up!では、今月2日、3日に福島県を取材した模様をお送りしました。ご存知の通り、福島県では地震や津波の被害に加えて、福島第一原発の事故という大きな災害が発生しました。現在も 福島県内では およそ4万3000人が避難を続けています。

 去年に続いての福島、浜通りの取材。かつて取材した現場に再び足を運ぶと、しっかりとした復興の歩みを感じることができました。
 たとえば、かつて旧警戒区域が再編され、域内に入れるようになったタイミングで取材を行った大熊町。私がこの大熊に入ったのは2015年のこと。当時、福島第一原発事故対応の作業員の皆さん向けの給食センターが同町大川原地区に出来たばかりでした。案内してくださった町役場OBの方々は、帰還困難区域を一通り見た後、最後にこの給食センターを紹介し、
「これが大熊の希望なんだ」
と力説してくれました。まだ人は住めないけれど、ここから経済活動が復活していく。人が再び集まってくる。そう、希望を語ってくれていました。(取材の様子はこちら
 あれから5年あまり。この大川原地区には、新しい役場庁舎が完成間近になっていました。さらに、50戸の災害公営住宅も整備が進み、5年前には手付かずの田畑が広がっていただけだったものが町の新たな中心としての姿が顕わになっていました。

大熊町新役場.JPG

 さて、そんな中今回わたしが取材したのは「福島イノベーション・コースト構想」です。


 福島イノベーション・コースト構想は、2014年から経済産業省と福島県が推進している取組。東日本大震災と福島第一原発の事故により大きな被害を受けた浜通り地域などを中心に 新たな産業基盤を構築することで経済の再生を目指すプロジェクトです。浜通り地域を 廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産など、様々な最先端技術を開発・研究する『最先端技術の開発拠点』として整備することで、これまでにない新たな産業を作り出し、地域の活性化、人材の育成、人々の交流を生み出そうというものです。

 地震や津波、そして福島第一原発の事故により、福島県の産業は大きな打撃を受けました。産業の見直しを余儀なくされました。もちろん農業や漁業など、様々な産業が復興の道を進んでいますが、復興の新たなステージとして、「新しい産業の構築」は大きな課題となっています。その大きな柱の1つが『福島イノベーション・コースト構想』です。

 すでに計画は具体的に進んでいて、浜通り地域を中心に風力発電の事業が行われていたり、沿岸部に水素エネルギーの研究を行う水素製造プラントが作られたり、福島県は新たな道を進み始めています。そして「福島イノベーション・コースト構想」におけるロボット分野の開発・研究を担う存在として、現在 建設が進められているのが、「福島ロボットテストフィールド」という施設です。


 福島ロボットテストフィールドは、物流、インフラ点検、大規模災害などに活用が期待される無人航空機(ドローン)・災害対策ロボット・水中探査ロボットなどの研究開発や実証実験をできる施設。陸海空、すべてのロボットに対応できる研究施設は世界でも類を見ないそうです。地震・津波・原発事故...甚大な被害を受けた福島県。どうしてこのような施設を作る必要があったのか。福島県商工労働部産業創出課ロボット産業推進室長の北島明文(きたしま・あきふみ)さんは、
「震災直後、被害者の捜索と原発事故の対応にロボットを使いたい。しかしながら、すぐにロボットを投入するわけには行かなかったのです。今までロボットは研究室や付き合いのある工場などの限られた場所でしか動作試験を行っていませんでした。現場としては実績のないロボットをいきなり投入するわけには行きません。現場の作業員が容易に操作できるようなものではなかったことも投入に二の足を踏む要因になりました。技術はあるのに使えない。研究室と現場を繋ぐ、中間の役割が必要だろうということで、ロボットテストフィールドが出来たわけです」
と話してくれました。東日本大震災クラスの災害、いつどこで起こるかわかりません。そのときのために、大きな被害を受けた福島県で実証実験されたロボットなら大丈夫だ、きっと活躍してくれる、人々を救ってくれる、そんな思いから、福島ロボットテストフィールドの建設が始まったわけです。

 今回、わたしも実際に福島ロボットテストフィールドを視察してきましたが、施設全体はとにかく大きいです!南相馬市の海沿い、およそ50ヘクタール(東京ドーム10個分以上)の広大な敷地に21の施設が整備される予定で、ドローン用の滑走路や、水中ロボット向けの大型水槽、また市街地・トンネル・橋などを再現した施設が設置され、様々なロボットの開発・実験ができるようになっています。
ロボットテストフィールド.JPG
ロボットテストフィールド試験用プラント屋上からドローン専用滑走路を望む

 余談ですが、この周りは農地が広がっていて、このロボットテストフィールドの敷地も元々は農地だったところを転用した土地です。ここも今まさに問題となっている土地の登記問題にぶち当たったそうなんですね。日本では土地の登記が義務付けられていなかったので、すでに故人となった方が登記簿に載っている場合も多く、その場合はすべての法定相続人が等分に権利を持っていることになります。こうした大規模に用途の転用・開発をする場合、そのすべての法定相続人に転用の承諾を得る必要があり、このロボットテストフィールドの場合は100人を優に超えていたとのこと。今回は、地元の南相馬市が地道な承諾作業を"根性で"やり切ったと北島さんは明かしてくれました。復興の取材をするとどこでも、こうした土地の集約を巡っての苦労話を聞きますが、このロボットテストフィールドも例外ではなかったようです。

 閑話休題。
 さて、このロボットテストフィールドは来年度末に完成予定なので、今はまだ建設中のところも多いんですが、すでに去年6月から一部の施設の活用は始まっています。今回わたしは「試験用プラント」という場所を視察しました。試験用プラントは、6階建ての建物で、建物の中に 災害時に遭遇する可能性のある様々なシチュエーションが再現され、そこで災害対応ロボットなどが力を発揮できるのか、あらゆるパターンで実証実験ができる場所となっています。ジャングルのようにはりめぐされた配管、バルブ、ダクト、階段、螺旋階段、はしご、タンク、煙突など様々なものを配置されていて、車や瓦礫などの障害物も配置でき、様々なシチュエーションを再現できるそうです。また、煙がふきあがる、異音、異常発熱などの環境も再現できます。何と言っても、ロボットの試験の為に操業を止めてくれる工場など世の中に一つもありません。それは当然ですよね。そうした中で、現場の環境を再現したこの試験用プラントの存在だけでも、ロボット研究者の中では非常に注目されているそうです。

会津大ロボット.JPG

 今回、わたしが取材に伺ったときにも、地元福島県の会津大学の研究チームが災害対策用ロボットの実証実験を行っていました。会津大学復興支援センター准教授の中村啓太(なかむら・けいた)さんに伺うと、たとえば今までは階段の上り下りのテストをしようとしても大学側から許可が下りなかったそうです。たしかに、建物の階段の端にはゴム製のステップが付いているものもあります。このロボットのクローラー部分がステップを傷つける恐れがあると指摘され、テストの許可が下りなかったようなのですね。まぁ、壊しちゃったら税金で直すことになるのだから、事務方の心配もわかるのですが、ことほど左様に学内でテストを行うのはいろいろと窮屈な面も否めないです。そうしたところに、このロボットテストフィールドはまさに渡りに船というわけなのですね。

 しかしながら、南相馬市をはじめとするこの浜通りの各自治体は、もともとロボットとは縁のない土地です。地元の理解を震災以来8年で一歩一歩進めてきて、今回のロボットテストフィールドにまで昇華させてきたそうです。足掛かりとなったのは、2015年から活用が進んでいる「福島浜通りロボット実証区域」。ドローンの長距離飛行の実証実験や操縦訓練ができるエリアです。

 ドローンを飛ばすには、上空を通過する土地の持ち主に了承をとることが必要ですが、このエリアでは2015年以降、ドローンを飛ばすルートになる1つ1つの土地の持ち主に了承をとり、理解を得ていったそうです。そして すでに活用開始から180件を超える企業や研究者が、ドローン等のロボットの実験を行うまでになりました。すでに南相馬市と浪江町の郵便局の間では、国内初の目視外飛行による荷物の搬送が定期的に行われています。およそ9キロの距離を、ドローンが荷物を運びながら飛んでいるのです。

<日本郵便は7日、福島県の南相馬市小高区と浪江町の郵便局間で小型無人機ドローンを使った飛行距離約9キロの荷物輸送に成功した。補助者を置かない目視外飛行では国内初の取り組み。両郵便局は東京電力福島第1原発事故に伴う旧避難区域にあり、帰還者増を目指す両地元の関係者は「手を携えて復興につなげたい」と歓迎した。>

 よく誤解されるのが、「住民が避難して人の居ないところだから飛べるのだろう」ということ。しかし、この河北新報の記事にある飛行経路の地図にある通り、ここは普通に住民の皆さんが生活をしているところ。特に、小高駅や浪江駅の周辺は住宅や商店の密集地でもあります。広域・目視外飛行をするにあたり、飛行経路をカバーする通信塔を整備して安全を確保。その環境を地元地権者の方々にも説明し納得いただいたからこそ、これだけのドローン試験が可能となったわけです。この通信塔があることで、長距離通信、気象観測、空域監視が可能となります。

通信塔.jpg
敷地内にそびえ立つ通信塔

 もちろんロボットなどの新たな産業の創出に違和感を持つ住民の方もいらっしゃると思いますが、県としては住民の方たちと協力をしながら復興の新たな方向性を示していきたい、ということなんですね。そうした努力により、すでにロボットやドローンに関連する企業や研究者の間では、福島は被災地ではなく、日本で唯一自由に実験が出来る場所という認知になってきたと言います。現在は国内の企業や研究者の活用が中心となっていますが今後は海外の研究者も呼び込みたいとしていて、2020年の夏には「ワールドロボットサミット」という世界中の技術者や研究者を集めた会合を行いロボットをつかった競技大会も行う予定となっています。最先端技術の開発拠点として建設が進む「福島ロボットテストフィールド」。単純に開発や実験を行うだけではなく、目標としているのは産業の蓄積であり、人材育成であり、人々の交流を図ることにあります。震災以降、14の企業が福島県に進出し、南相馬市では福島ロボットテストフィールドを活用するために、ホテルなどに宿泊する研究者が増加傾向にあります。

 もちろん、産業の蓄積、地元の雇用創出などはまだまだこれからの課題。まだまだ芽が出たにすぎません。しかし、このロボットテストフィールドも一つの事例に過ぎず、実は福島には、そして岩手や宮城にもこうした復興の芽というものは無数にあります。一つ一つは小さく、地味な取り組みなのかもしれませんが、ここから大樹に成長する芽がきっとあるはず。これからも、取材を続けていきたいと思います。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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