2018年10月24日

台湾特急脱線事故私見

 週末、台湾で衝撃的な鉄道事故が起こってしまいました。

<台湾東部の宜蘭(イーラン)県で21日午後4時50分(日本時間午後5時50分)ごろ、台湾鉄道の特急列車「プユマ号」(乗客366人)が脱線した。台湾の消防当局によると、少なくとも18人が死亡、168人が負傷した。脱線の原因は調査中という。>

 右カーブに進入した列車は先頭から横転、後方車両はWの字のように折れて脱線していました。直感的に思ったのは、速度超過でカーブに進入し脱線転覆した過去の数々の事故。我が国で言えばJR西日本の福知山線脱線事故、海外に目を向ければスペイン、サンティアゴ特急列車脱線事故が思い起こされました。特にスペインの事故は後方車両が同じようにWの字に折れて脱線していて、かなり似ていますね。このスペインの事故は制限速度80キロのところ、160キロ~220キロで進入し脱線・転覆していました。今回もおそらく大幅な速度超過が原因ではないかと私は思いましたが、事故当初、日本のメディアは事故を起こした車両が日本製であることがしきりに強調されていました。


 JR東海傘下の日本車両製造が作ったもので、空気バネを使った車体傾斜装置が付いていて、カーブに差し掛かると車体を傾斜させて遠心力を制御しカーブでも高速走行が出来ると紹介しています。紹介するだけならいいのですが、見出しからして日本製が強調されています。そして、この事故を報じる文脈でカーブで脱線していることを考えるとまるで車体傾斜装置が事故の原因なのではないかという印象を読者に与えてしまいかねません。

 しかしながら、この車体傾斜装置はそもそも装置が動かなければ脱線してしまうようなギリギリの条件のところで使われるような機器ではありません。使わずとも十分に通り抜けられるが、使うと若干スピードアップすることが可能になるというような付随的なものです。
 この車体傾斜装置に関してはヨーロッパの国々、中でも山岳路線が多いイタリアやスペインで多く使われています。高速新線を建設するのがコスト的にも見合わない路線で、在来線を高速化するための切り札として開発されたという経緯があるのです。
 日本でも、まずは山岳路線の特急列車などで使われましたが、注目を浴びたのは東海道新幹線のN700系電車で使われたときです。東海道新幹線は他の新幹線に比べると建設されたのが古い分だけカーブがきつく、スピードアップのネックになっていました。そこで、空気バネを使って車体を傾斜させ、カーブをスムーズに曲がれるような技術を開発したわけです。
 ざっくりと説明しますと、電車を真正面から見て、空気バネは右と左についています。この左右のバネに空気を注入して使うわけですが、この左右で入れる空気の量に差を付ければ量が少ない方が沈んで傾斜を作ることができます。車の運転でもわかりますが、カーブを高速で通過しようとすると外へ外へと引っ張られる遠心力が働きます。この時に、カーブの内側に少し傾かせることで、競輪場のバンクを走り抜けるようにスムーズにカーブを通過できるようにするわけです。
 ただし、ここで競輪場のバンクに過剰にとらわれると一歩間違えば転倒してしまうほどの傾斜と勘違いされますが、N700系電車で最大傾斜角は1度です。同じようなシステムを装備しているJR東日本、東北新幹線のはやぶさに使っているE5系は同1.5度に過ぎません。傾斜1度の違いであれほどの大惨事にはなりようがありませんから、論理的に考えれば車体傾斜装置が事故原因にはなりえないことがわかるわけですね。にも拘らず日本製!というところを強調するというのは、事故原因を本当に追求したいのか、何か別の狙いを疑わざるを得ません。

 その後、この列車の運転士の証言が出てきました。どうやら保安装置を切っていたようです。

<台湾北東部・宜蘭(ぎらん)県蘇澳(すおう)で21日に18人が死亡した特急列車の脱線事故で、宜蘭地方法院(地裁)は23日午前、運転士が身柄拘束の請求審査の際、「動力に問題があった」として、速度を自動制御する「自動列車防護装置(ATP)を切った」と証言したと発表した。
 地裁によると、運転士はATPを切ったまま速度計を見ずに目測で列車を運転したため、列車は時速140キロまで加速。速度制限80キロのカーブの手前でブレーキをかけたが間に合わず、列車を脱線させた。>

 ATPは日本におけるATS(自動列車停止装置)に近いもので、前の列車と接近すると運転士に対して警告し、一定の距離近づけば列車を強制的に停止させる機器です。問題はどうしてATPを切ったかで、ブレーキ圧が弱かったという証言や、逆にATPが誤作動して何度も急ブレーキが掛かってしまったのでATPを切ったという証言もあり、現時点ではまだ不明と言うほかありません。が、そもそもATPを切るという重大事を運転指令への報告だけで済ますことが出来る台湾鉄道管理局の運用が驚きでした。
 というのも、日本の鉄道で言えばATSやATCを切るというのは大ごとで、指令に許可を得たうえで切るのですが、切った後は時速10キロ~25キロほどの最徐行することが義務付けられています。かつて大雪の中で東急東横線の電車が追突した時に詳しく取材し、このブログにも掲載しました。


 日本では営業運転中に、つまりお客さんを乗せた状態でATS、ATCを解除するなんて考えられないし、その状態で100キロを優に超える速度を出すなんて考えられません。結局のところ、ヒューマンエラーの部分が大きいのではないかというのが今の時点での大方の見方のようです。
 どれだけシステムが精緻化してもそれを人間の側が使わずに事故に至ってしまっては意味がありません。航空や鉄道の現場で安全啓発を担当する方々に取材をすると、皆口々にこのことを指摘します。現場へ権限を委譲していいサービスに関わる部分と、委譲してはいけない安全に関する部分をどう切り分けるのか、システム構築していくのか。メディアが指摘すべきはこうした部分なのではないでしょうか?いずれにせよ、まずは事故原因の究明を待ちたいと思います。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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