2014年02月18日

検証 東横線元住吉駅追突事故

 先週末の大雪の影響で、首都圏の交通機関はほとんどマヒ状態に陥るぐらい影響を受けました。多くの人が自嘲気味に「東京は雪に弱いなぁ...」とため息をついた週末だったわけですが、その中でも象徴的だったのが、東急東横線元住吉駅での列車追突事故でした。

『東急東横線で電車追突、18人けが 元住吉駅』(2月15日 日本経済新聞)http://s.nikkei.com/1mqw3a6

 

 後続列車が雪の中止まりきれずに先行列車に追突してしまったという事故。世界一安全だと言われていた日本の鉄道が、事故を起こすまでに雪に弱かったと衝撃を受けた人も多かったと思います。私も、鉄道ファンとして非常に衝撃を受けました。というのも、事故が起きたのが何重にも安全対策をしている大手私鉄、東急東横線だったからです。


 まず思ったのは、ATC(自動列車制御装置)が作動しなかったのかどうか?ということ。ATCとは、線路を一定の区間に分け、1つの区間には原則的に電車は1本しか入れないという仕組みです。レールに流れている微弱な電流がこの区間に電車が在線していることを検知すると、後続電車はその区間に進入できません。そして、前を走る列車のいる区間の直前の区間なら何キロ、2つ手前なら何キロと運転台にある車内信号で細かく指示することで安全を担保するしています。事故直後、産経新聞がこんな疑問を呈していました。


『ATCはなぜ機能しなかったのか ダイヤの乱れで運転士が解除か』(2月15日)http://on-msn.com/1mqwv87

 

 私もひょっとしたらあり得るのかなと思い、運転士さんや経験者、会社も違う複数の方々に確認してみました。すると、皆さん口々に、「ATCを独断で解除するなんてありえないし、できない」と話しました。鉄道に関わるものの常識として、ATCやATS(自動列車停止装置)といった安全装置を解除するというのは究極の非常事態であり、万が一解除する場合には、運輸指令に特別な承認をもらい、最徐行で動かすのが原則と声を揃えました。会社によりますが、ほとんどの電車の運転台にはスイッチにカバーが付いていて、おいそれと解除することはできないそうです。ましてや営業運転中の解除は考えられないとのこと。

 

 案の定、これに関して東急は直後の会見で、正常に作動していたと発表しました。
『大雪によるブレーキ力低下が原因 東急見解 直前にもオーバーラン10件』(2月16日 産経新聞)http://on-msn.com/NS9I67

 さて、この会見で疑問に感じたのは、時速80キロで600m手前を走行していた後続列車が、そこからブレーキをかけても止まれず、時速40キロで衝突したという事実です。事故の起こった元住吉駅の一駅手前、武蔵小杉駅との距離はたった1.3キロ。その武蔵小杉駅では止まれていた列車が、武蔵小杉を出発してわずか700mで突如としてブレーキが効かなくなるものなのか?と思いましたが、「これもあり得る」というのが、現場の意見でした。ただし、報道にあるように雪が詰まったわけではなく、氷となって挟まったのでは?という指摘もありました。氷点下近い気温の中を風を切って走る電車を考えると、ふわふわの雪が挟まったというよりは、硬い氷の塊がブレーキ付近のどこかで成長し、それが飛ばされて挟まったのではないか?とのこと。こうなると、たしかに今まで効いていたブレーキが突然効かなくなるわけですね。そして、ブレーキ自体は摩擦で熱を持っているので、現場で確認した時には溶けてなくなり証拠は一切残らない...。まるでサスペンスのような話ですが、雪やみぞれの天気の時に急にブレーキが効かなくなり、何とか止めて確認すると何もなかった...。というような経験は実際にあるそうです。

 

 一方、会見を受けてメディア各社は大雪の中徐行も命じなかった運輸指令を批判する記事を掲載しました。
『東横線:14日にオーバーラン10件 徐行運転命じず』(2月16日 毎日新聞)http://bit.ly/1mqAYHS
 しかし、現場からすると、豪雪地帯ならいざしらず首都圏の電車で雪の日の運転規制をかけるというのはあまり聞いたことがないそうです。もちろん、運転士としては雪で滑ることを前提に長めのブレーキ距離が求められるわけですが、あの時間帯通常でも3分~7分おきに列車が走る過密ダイヤ。長めのブレーキ距離にも限度があります。結局、これだけ降るとは指令も想定していなかったということになりますね。

 

 ではなぜ、他の会社は規制をかけていた中、東急東横線はかけていなかったのか?それには、線形の違いが大きいと私は思います。事故現場の元住吉駅付近の東横線は2006年に高架化工事が完成し、一切の踏切がなくなりました。当日10件、あるいは11件発生したといわれるオーバーランについても、「距離が短く、誤差の可能性もある」として対応策をとらなかったのも、オーバーランしても高架の専用線を走っているから問題ないと判断した可能性もあります。また、他社からの振り替え輸送の委託も受けていたとなれば、その責任感から規制をかけるのを躊躇したのではないか?脳裏に、東日本大震災当日の帰宅難民の姿が浮かんだとしても、それを責めることができるでしょうか?
 もちろん、これだけの事故を起こしてしまった以上、原因を究明して責任を追及することは必要でしょう。国交省筋に取材すると、詳細は運輸安全委員会により調査中でなかなか情報が出てこないんですが、とりあえずブレーキの点検と、積雪がある一定の値を越えたら(積雪150mm、200mmの2段階を想定)速度規制を発動させるように今後の運用を改めるということが漏れ聞こえてきました。現場の責任について明確な答えは得られなかったんですが、果たして今回の一件を「利用者を帰宅難民にしたくない。寒空の下でなく家に帰してあげたい」と願った現場の責任に帰してしまうのは正しいことでしょうか?「動かせ!」というプレッシャーに惑わされずに、現場が安全サイドで判断が出来るような環境を整備することが、最良の再発防止策ではないでしょうか?私はそう思います。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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