2018年10月18日

分断から対話へ

 今週の『OK!Cozy Up!』は『激動の平成にスクープアップ』と題して、いよいよ御代替りを来年5月に控える中、"平成"に焦点を当ててお送りしております。6時15分ごろには、平成の政治をかき回したお2人が選ぶ平成最大のニュースをインタビュー。15日、16日が自由党の小沢一郎代表、そして17日~19日は自民党の石破茂元幹事長が登場しました。Podcast、YouTube、radikoタイムフリーで放送後でも聴くことができます。よろしければどうぞ。


 メールやTwitterで賛否様々なご意見をいただいております。強烈に否定的なご意見もありました。
 ただ、話を聞くことまでを否定するのは一般論として、あるいはメディアとしても出来ないし、やるべきではないと感じています。というのも、お2人にインタビューをしてみて改めて思ったのですが、表面的には全く一致点が見いだせないように見えても話を聞くと共通点を見出せるのではないかと感じたからです。具体的には、安全保障や憲法改正について、この2人と安倍総理で、問題意識の根っこは同じなのではないかと思いました。

 安全保障に関して小沢さんが挙げた平成のトップニュースは湾岸戦争でした。この湾岸戦争では、アメリカ側は公式・非公式双方で日本の自衛隊派遣を求めていました。これに対して当時自民党幹事長だった小沢さんは、国連決議を経たイラクへの軍事行動は国権の発動たる武力行使ではそもそもないので9条には抵触しないと主張し、日本にも参加可能であると主張しました。それについて、先日のインタビューでも話していますが、なぜこうした主張をしたかというと、それは憲法前文に掲げた日本国憲法の精神に多国籍軍参加は叶うからだとしています。


該当部分を抜き出しますと、
<日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。>
という一節です。
 この中の<平和を愛する諸国民>という部分がよく議論の的になり、北朝鮮や中国などを念頭に「<平和を愛する>諸国なんて日本の周りにはないじゃないか!」という批判につながっています。残念ながらこの憲法は英語の原文を日本語訳した形で作られていますので、英語の原文があります。それに当たるとこの<平和を愛する諸国民>とは周辺各国を念頭に置いたものではなく、もっと大きな概念を指していると、東京外国語大学の篠田英朗教授など国際政治学の分野の碩学たちは指摘しています。

<日本国憲法の前文は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とうたっている。「平和を愛好する諸国民」という概念は、国連憲章が加盟国を指して用いている概念である。
 したがって憲法の前文は、「連合国=国連を信頼して日本の安全と生存を保持することを決意した」、ということを宣言しているわけである。それは、国連が定める武力行使禁止一般原則および集団安全保障や個別的・集団的自衛権の仕組みを信頼して、自分たちの安全と生存を維持する、ということを意味する。>

 インタビューの中でも触れましたが、小沢さん自身も2007年11月号の岩波書店"世界"の中で、
<国連の平和活動は、たとえそれが武力の行使を含むものであっても、日本国憲法に抵触しない、というのが私の憲法解釈です>
と書いています。この憲法解釈が採用されれば、先の南スーダンでのPKO活動でも、かつての特別措置法に基づくイラクでの復興支援でも問題になった武力の行使云々や、武力行使を前提とする交戦状態だったかどうかなどの議論がすべてクリアできるわけですね。

 一方、石破さんは、9.11世界同時多発テロを平成最大のニュースに挙げました。そして、この事件を受けての日本国内の動きとしてアフガニスタンでの多国籍軍への給油活動などを行った対テロ特措法、イラク復興支援のイラク特措法と憲法9条の関係について論じました。
 同じく、憲法前文の精神、<われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。>を具現化するためには、憲法9条の縛りというものがあまりにきつすぎる。文字通りに捉えれば、自衛隊の保有も認められないぐらいに厳しい。これをドラスティックに変えるには、9条1項2項を見直す必要があるのではないかという論建てでした。

 ある意味、筋論でスッキリさせたい石破さんに対し、小沢さんは現行憲法下であっても解釈を変えれば国際貢献可能だという主張です。他方、安倍総理の言う改憲論はある意味、石破さんと小沢さんの中間にあるのではないでしょうか。石破さんのように筋論での改憲に挑んだところで現実的には与党公明党との関係や大々的な変化を嫌う世論を考えれば厳しいことが見えている、一方で小沢さんの理論はかつて国連が一枚岩だった時には有効だったかもしれないが、今日のように拒否権を持つアメリカと中国が角突き合わせている状況では別の意味で現実的ではない。そこでまずは自衛隊の立場だけでもはっきりさせようという見方が出来るのではないでしょうか?それにしても、9条1項2項は残るわけですから、今までのように武力行使の線引き、交戦状態の解釈などの論点が残ってしまうわけで、一度で完全に問題を解決するには程遠いわけですが...。

 ただ、この議論で私なりに深められたのは、憲法前文の精神、すなわち<国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う>という部分については改憲・護憲の立場に関わらず大部分の人が一致できる論点であることです。むしろ、こうした3つの国際貢献と日本国憲法の関係、解釈を平行に並べることによって、憲法前文の精神を出発点にして議論していく余地があるのではないでしょうか。護憲の方々ほど、この憲法前文の精神は大事なのだと思います。国のかたちを表すと言われる憲法の議論で、「〇〇政権だから改憲には反対!」といった分断の姿勢ではなく、日本では現実的に最適解を模索していくことが出来るのだと世界に発信していくことが我々の責任なのかもしれません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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