2018年01月29日

官邸一強の不思議

 通常国会がスタートして一週間。今日から衆議院で予算委員会の実質質疑がスタートし、本格的な論戦が始まりました。と、報道されています。内実はといえば、お寒いものでしたが...。

<29日の衆院予算委員会で、自民党の堀内詔子氏が持ち時間を数分残して質問を終えようとし、野党から「余っているじゃないか」とやじられる場面があった。自民党が質問時間の拡大を求め、野党と駆け引きを続ける中、時間を短縮された野党側としては看過できなかったようだ。>

 時事は何に忖度したのか「数分残して」と表現していますが、産経は正確に報じていて、実際にはたったの1分ほど。私もインターネット上にある公式のビデオライブラリで確認しましたが、たしかに残り時間は1分ほどでした。その上、自民党の質問時間はこの日のトップバッター福井照議員からこの堀内議員、次の國場議員まで全体で割り当てられています。目安としての質問時間は福井議員60分、堀内議員45分、國場議員45分とされていますが、会派の中で割り振りを変えようとも問題はありません。私は、かえって野党側の大人げなさが際立ったように見えました。

 さて、こんなヤジが出た裏には、記事にもある通り前回の特別国会から燻る与野党の質問時間をめぐる駆け引きがあります。野党側は特別国会当時から、「8年前からの慣例、野党8対与党2が破られるのはけしからん!」と批判しています。私は当欄で、8年前に慣例が変わったのも本当は当時の与党・民主党の意向が働いていたと書きました。


私は8年前当時を知る複数の政界関係者を取材して書いたのですが、国会議員からも当時について語っている方がいました。


 御覧になればわかりますが、当時の民主党・小沢幹事長は、「政府与党一体なのだから、与党の質問時間自体要らない」という、より過激な主張でした。それゆえ、衆院では本会議での代表質問もなかったのですが、さすがに予算委員会で何もしないのはどうなんだ?という意見も出て、現在も続く野党8対与党2に落ち着いたとのことです。今の野党議員の方々は、当然この時も議員であって当事者であったはずです。この経緯はすっかり記憶から抜け落ちてしまったんでしょうか?8年続いた今の慣例については言い募りますが、その前の野党6対与党4の配分はそれよりもかなり長い期間の慣例だったはず。そこに戻すどころか、そこまでも行かずに野党7対与党3でも激烈な批判をしています。しかも、批判の矛先は、与党と思いきや、総理官邸。今日の予算委員会でも、立憲民主党の長妻議員がこう発言しています。

「自民党サイドと交渉するとですね、いや首相官邸からこういう指示が来たと。首相官邸が固いんだと。籠池さんの証人喚問もですね、首相官邸がやっていいと言われたからやると。(中略)首相官邸が関与しているんですよ」

 この質問時間の件についても「総理官邸の意向」、森友学園の問題も「総理官邸の意向」の忖度、加計学園の獣医学部新設問題も「総理官邸の意向」...。
官邸一強、アベ一強ととかく批判されますが、中で働いている人の印象はまるで違います。まず、ある有識者会議の委員は、
「最近は各省庁が何でもかんでも官邸の意向というお墨付きを得るために、所管の厄介な案件を会議の議題に上げてくる」
とこぼしていました。
 各省庁の所管の規制緩和などの案件のうち、強硬な反対があったりして長年進まなかった案件を突破するために、「官邸の意向」を錦の御旗にしたい、責任は官邸に押し付けたいという各省庁の思惑を感じながら仕事をしているそうで、
「そうした責任押し付け型の筋悪案件の中に、いくつか光るものがあるのでそれを見分けるのが仕事」
と話してくれました。

 また、中央官庁から出向している官邸高官は、
「最近、出身官庁から細かい案件で連絡してくる若手が増えた。そんなもん自分でやれ!という話なんだけど、官邸のお墨付きが欲しいらしい」
と嘆いていました。官邸一強というと、とかく政権の横暴のように批判されますが、それに甘える省庁側の怠慢、さらに、それを知ってか知らずか乗っかって政権批判に活用する野党やメディアという構図が見えてきます。官邸高官は嘆きついでに、
「野党やメディアが言うような官邸一強だったら、何で消費税増税を延期するだけであんなに苦労しなきゃいけないんだよ...」
とボヤいていました。『官邸一強』という見出しを見るとおどろおどろしいものをイメージしてしまいますが、色眼鏡ではなく真っすぐにファクトで判断したいものです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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