2018年01月10日

人口が減少するから成長しない?

 年が改まって、今年どうなる、あるいはこの先どうなるといった視野の広いコラムや論評が新聞や雑誌で特集されています。私は個人的に、経済に関するニュースに関心があるので経済関連のコラムにどうしても目が行ってしまいます。このブログでも書きましたが、完全失業率と「経済・生活問題」を原因とする自殺者数にはかなりのシンクロがあることがわかっています。


 経済の浮沈というものは、人の人生や生命を左右することがある。社会に出るタイミングで長期デフレに苛まれ、いまだに非正規雇用から抜け出せない同世代を見てきた私としては、経済の問題は他人事ではないのです。
 ことほど左様に経済の問題は重要なはずなのですが、とくにマクロ経済政策については様々な俗説が跋扈して議論の焦点が絞られず、ずっと混乱し続けてきました。毎年毎年出てくる「日本国債暴落論」や「増税で好景気がやってくる論」、そして「人口減少不景気論」。各々、様々な方が反論を試みていますが、ここでは「人口減少不景気論」を取り上げようと思います。
 これ、金融緩和や財政出動といった景気浮揚策を批判するときに用いられる典型的な議論で、要するに人口が減少し、働く人の数が減るのだから日本は成長しない、出来ないのだというもの。「稼ぎ手が減るんだから国全体の稼ぎが伸びず、経済が低迷するのも仕方がない」素朴な実感に訴えかける議論ですから、何となく「そんなもんかなぁ」と受け入れられがちです。
 しかしながら、これが実は何の根拠もない俗論なのです。確かに日本は人口が減少していて、尚且つ経済が成長していません。だからといって、人口減少と経済低迷を直接リンクさせてしまっていいのでしょうか?海外の事例を見ると、人口が減っている国は何も日本だけではありませんが、そうした国々は皆経済が低迷しているというのは間違っているのです。具体的には、日本以外にも、東欧のジョージアやポーランド、ルーマニア、エストニア、ラトビア、リトアニアなどや、身近なところでは台湾も人口減少国家です。では、これらの国がみな経済が低迷しているかといえば、そんなことはありません。また、イノベーションが止まっているのかといえばそんなこともなく、例えばエストニアは音声通話アプリ、スカイプを生み出しています。こうした具体的な例を見ると人口減少不景気論への疑問がわいてくるのですが、今日の朝刊にも「人口減少不景気論」に対してこんな反論がありました。


 この記事では、明治期からの日本の経済成長と人口動態を睨みつつ、経済全体の産出量(GDPなど)を「人口」、「労働力/人口(=労働参加率)」、「産出量/労働力(=労働生産性)」に分解し、高度成長局面、安定成長局面、デフレ局面と時系列ごとにどの要素が産出量の増減に寄与したのかを分析しています。その結果、日本における高度成長期である1950年代、60年代、70年代前半で、年平均成長率はだいたい8%前後だったのにも関わらず、人口要因(人口増加率と労働参加率の上昇率を足したもの)は1%~1.5%に過ぎないことがわかっています。すなわち、高度成長に人口要因というものは決して大きくなかったのです。逆もまた真なりで、96年以降は人口は年率0.1%以下ではありますが成長にマイナスの影響を与えるようになりましたが、日本経済は年率1%強という不十分ながらも成長はしています。
ということで、教授は、
<こうして実際の数値をみると、人口増加は経済成長の大きな要因ではなかったことがわかる。同様に最近の人口減少と高齢化も経済成長にマイナスの影響を与えるものの、決定的な要因とは言えない。>
と結論付けています。

 多くの論者が指摘しているように、人口減少は経済低迷の原因などではなく、むしろ経済低迷があったので結果的に人口が減少してしまったという風に因果を逆転させて考えるのが妥当なのではないでしょうか?

 教授はこの論文の後半でも、
<人口減少と高齢化が進むので、経済の停滞は避けられないという議論は、単なる言い訳にすぎない。>
<日本の持続的な経済成長にとって、人口減少と高齢化は致命的な問題ではない。生産性の継続的な上昇を可能にするような経済改革を実現することにより、日本経済は成長を続けることができる。>
と、繰り返し「人口減少不景気論」を否定しています。詳しくはこの論文をご覧いただきたいところですが、生産性の継続的な上昇、そのための経済改革の重要なツールとしてAI革命を挙げています。むしろ、人口が減少する日本ではAIと働き手が対立することなくスムーズな移行が可能で、千載一遇のチャンスが到来しているとしています。

 記事を最後まで読むと非常に明るい気持ちになるのですが、残念ながらこの記事はウェブ上では触りの部分までしか無料では読めません。そしてそこには「ポイント」と称して3点が挙げられています。

<ポイント
○人口増加は経済成長の大きな要因でない
○終戦直後には人口過剰問題への懸念強く
○生産性の継続的な上昇を促す経済政策を>

あれ?

「人口増加が経済成長の大きな要因ではない」というのも確かに書いてはいますが、それ以上の紙幅を割いていたのは「人口減少があるから経済減速は避けられない」という議論の否定だったはず。ポイントの1つ目は、たしかにウソとまでは言えませんが、にしても少しスピンがかかってはいないでしょうか?邪推すれば、人口減少不景気論を否定されてしまうと、「人口増加のために将来不安解消!そのためには消費税増税だ!」といった主張や、「人口減少で不景気になっているんだから無理やり景気を浮揚させるのは無駄!したがって金融緩和も間違っている!」といった従来からの主張との整合がつかなくなるので見出しにはふさわしくないと判断したのではないかと思ってしまいます。
 悪魔は細部に宿ると言うと言い過ぎでしょうが、細かいところでミスリードを誘っているのか?あるいは、見出しを付けた方はそういう理解でこの論文を読んだのか...?俗論の否定はことほど左様に骨が折れるんですね。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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