2017年05月02日

米艦防護報道で報じられないもの

 安全保障関連法に基づいて日本の自衛隊がアメリカ軍の艦艇を守る「米艦防護」を今日、海上自衛隊が初めて実施しました。

『自衛隊、初の米艦防護 北朝鮮にらみ連携強化』(5月1日 共同通信)https://goo.gl/13TJwg
<海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」は1日午後、房総半島沖で米海軍の補給艦と合流し、安全保障関連法に基づき米軍の艦艇を守る「武器等防護」を実施した。自衛隊が安保関連法の新任務に当たるのは初。緊迫する北朝鮮情勢をにらみ、日米の連携強化をアピールする狙いがある。>

 これに対して、集団的自衛権の抜け道だと批判する向きもあります。

『自衛隊に初の「米艦防護」命令 安保法の初任務 きょう出港』(5月1日 東京新聞)https://goo.gl/FnNC7I
<海上自衛隊は、米艦防護の任務中、米軍に対する偶発的な攻撃や妨害行為があれば、武器を使って阻止できる。他国を武力で守る集団的自衛権を行使する要件を満たさなくても同様の反撃が可能になるため、集団的自衛権の「裏ルート」と批判される。自衛隊が戦争の火ぶたを切る危険性も指摘される任務だ。>

 こうした批判を見ると、既視感を強く持ちます。安保法制議論の時にも同じような批判がなされていました。「自衛隊が戦争の火ぶたを切る」というのは、あの当時「戦争法案」という名でされた激しい批判そのままですね。ただ、本当に「自衛隊が戦争の火ぶたを切る」のが難しいのは、皮肉にもこの記事の中に書いてあります。
<米艦防護の任務中、米軍に対する偶発的な攻撃や妨害行為があれば、武器を使って阻止できる。>
 武器を使って「攻撃」ではなく、「阻止」なんですね。これは、武器等防護は自衛隊法95条の2に基づいて行われ、その際の武器使用は「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。」とされています。去年12月の閣議決定の際にも、「極めて受動的かつ限定的な必要最小限の武器の使用を認めるものである。」とされ、「同条(筆者注:自衛隊法95条の2)の規定による武器の使用によって戦闘行為に対処することはないものとし、したがって、自衛隊が武力の行使に及ぶことがなく、また、同条の規定による武器の使用を契機として戦闘行為に発展することもないようにしている。」とされています。

『自衛隊法第95条の2の運用に関する指針(平成28年12月22日 国家安全保障会議決定)
』(防衛省HP)https://goo.gl/T3F2nz

 この際の武器使用について現場で行われているのは、「警察比例の原則」。つまり、相手の行動を阻止する程度の実力行使にとどめ、軍事作戦で用いられるような敵を殲滅することを意図するような実力行使は行わないということ。相手が素手で襲い掛かれば素手で、拳銃で来れば拳銃でという具合です。これでどうして、日本の自衛隊が戦端を開けると言うのか...。

 この手の議論で思い出すのは、安保法制議論の時にもこのブログに書いた、アメリカ同時多発テロ時の事実上の米艦防護です。

『安保法制が戦争の歯止めになる』(2015年9月1日 イイダコウジ そこまで言うかブログ)

 当時は、防衛庁設置法第5条18項の調査・研究の項目を根拠に行われました。この「調査・研究」は武器等防護と違い、武器使用に関して明確な規定がありませんでした。さらに、地理的概念についても、法的には領海のみならず公海上でも行われるとの政府答弁書をそのとき紹介しています。米軍に追従し、世界中の紛争に巻き込まれると懸念するなら、安保法制以前の方がよほど歯止めが存在しなかったはず。今回も米軍との一体化が進み、巻き込まれるリスクが高まるというお決まりの批判が新聞各紙に踊っていますが、一体何を議論してきたのでしょうか...?

 また、上記東京新聞の記事にはこんな一文もあります。

<ただ、今回の場合、海自が米補給艦を防護する範囲は太平洋側だ。現状では、北朝鮮が四国沖の米艦を狙う意思と能力を持っている可能性は低い。他の国やテロ組織が米艦を攻撃することも想定しづらい。海自の任務は、米艦を防護するというよりは、北朝鮮に日米同盟の緊密さを誇示することが主たる目的になる。
 米軍が必ずしも自衛隊に守ってもらう必要のない海域、局面での米艦防護は、平時から有事まで米軍に対する自衛隊の支援を飛躍的に拡大させる安保法の本質を物語る。米朝対立の今後の展開次第では、一体化した自衛隊と米軍がそのまま共に戦う事態が現実味を帯びかねない。>

 これこそまさに平和ボケそのもの。というのも、あの米同時多発テロ当時も米軍は海上自衛隊に対して米艦防護を要請してきたのです。今回も同じように要請してきたのであれば、それはまさにあの同時多発テロ当時と同じ危機感を持ってことに当たっているということに他なりません。自衛隊に対しては、北朝鮮からのミサイルを念頭に、破壊措置命令が出しっぱなしになっています。これに対応し、市ヶ谷の防衛省をはじめ自衛隊駐屯地や米軍基地周辺にはPAC3ミサイルがいつでも発射できるように起立させてスタンバイし、日本海にはミサイル防衛が可能な最新鋭のイージス艦が常に警戒監視を続けている。これでどうして「平時」と言えるのでしょうか?初めに安保法制反対があって、そこから逆算するように今回の事案を批判しているように私には見えます。

 むしろ、私が一つ違和感を覚えるのが、今回の情報が政府の正式な発表に基づくものではないこと。これに関する報道は「政府関係者によると」「政府関係者への取材で分かった」というものがほとんどです。こういった表現は、政府関係者のリークによる可能性が高いものなんですが、本論の武器等防護に関する情報以上の情報がリークされているように思えるのです。
 武器等防護はアメリカの補給艦と海自の「いずも」の間で太平洋上で行われるもの。であれば、それだけをリークすればいいものを、ご丁寧にも米補給艦と「いずも」のその後の進路や、何日間どこまで米艦防護するかを明かしてしまっています。すでに公開情報と化していますのでここでも書きますが、米補給艦と「いずも」は房総半島沖で合流、そのまま併走する形で四国沖まで約2日航行します。「いずも」はその後、シンガポールで行われる国際観艦式を目指して南下、一方の米補給艦は日本海側に出て空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群への補給を行うそうです。
 この緊張した朝鮮半島情勢の中で、ここまで詳細に明かすのは、もしアメリカ側の許可を受けているのであればいいのですが、そうでなければ迂闊の誹りを免れないものだと私は思います。何しろ、米補給艦の行動のみならず、結果として空母カール・ビンソンとその打撃群のおおよその位置まで明かしてしまっているのですから...。
 これがすべて、北朝鮮に対するメッセージでわざと公開されているのであれば、日本政府の情報管理も天晴れなのですが、少なくとも指摘するメディアが一つもないのは首をかしげるばかりです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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