2015年09月01日

安保法制が戦争の歯止めになる

 現在国会で審議中の安全保障関連法案について反対の集会が国会前で行われました。主催者発表12万人、警察発表3万人。数字の話はさておき、沢山の人が集まり反対の声を挙げたことが、特にリベラル寄りのメディアでは大きく報道されていました。

『安保法案反対、全国で一斉抗議 国会前でも廃案訴え』(8月30日 朝日新聞)http://goo.gl/RrnkVd
<参院で審議中の安全保障関連法案に反対する市民による抗議行動が30日、東京・永田町の国会議事堂前や周辺を埋めた。主催者発表によると、参加者は12万人で、安保法案をめぐる抗議行動では最大。参加者が歩道からあふれて、警察側が車道を開放した。市民らは国会議事堂を真正面に見据えた車道に帯のように広がり、雨の中、「戦争法案廃案」「安倍政権退陣」と叫び続けた。>

 今まで戦争に巻き込まれずに済んできた日本が、この法律が通ると戦争に参加するようになる。「戦争法案」とまで言われているわけですが、むしろこの法案が戦争に巻き込まれることへの歯止めとなる可能性があることは知られていません。
 この法案を「戦争法案」と呼ぶのであれば、既存の法体系に戦争に巻き込まれることへの厳格な歯止めがあることが大前提となりますが、果たしてそうなんでしょうか?過去の国会での質問主意書には、どうやら現行の法体系では理論上何でもできるような答弁がありました。

『海上自衛隊の護衛艦が米国の空母「キティホーク」及び強襲揚陸艦「エセックス」に対して行った護衛活動等に関する質問主意書』(衆議院HP)http://goo.gl/BpCSla
『衆議院議員赤嶺政賢君外一名提出海上自衛隊の護衛艦が米国の空母「キティホーク」及び強襲揚陸艦「エセックス」に対して行った護衛活動等に関する質問に対する答弁書』(衆議院HP)http://goo.gl/52SVJZ

 まず前提として、質問主意書とは委員会での質問の機会がなかったり少なかったりする議員が政府側に文書で回答を求めるもの。そして、この答弁は閣議決定を必要とするものですので、その当時の政府の公式見解ということになります。すなわち、公文書です。

 この質問主意書は、9.11同時多発テロを受けて横須賀にいた米空母「キティホーク」および米強襲揚陸艦「エセックス」をペルシャ湾等に向けて出撃させるときに、海上自衛隊の護衛艦がこれら米艦艇に随伴、警戒監視に当たったことについて質問しています。まず、この随伴が警戒監視であったということは、当時の防衛庁長官(奇しくも中谷元氏!)が国会答弁で認めていることを引いています。その上で、この随伴が日本の領海のみならず、公海上にまで及んでいた場合、集団的自衛権の行使に当たるのではないか?という懸念から出た質問でしたが、これについて答弁では、

<当時の国際情勢を踏まえ、公海上を含む我が国周辺の海空域について、所要の警戒監視活動を行ったものであり、アメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)海軍の空母等の「警備、護衛活動」を行ったとの御指摘は当たらない。>

としています。つまり、この警戒監視は公海上にまで及んでいたことを認めているのです。そして、この法的根拠として政府は防衛庁設置法第五条第十八号(当時)「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」を挙げていますが、なぜこの随伴に同条が根拠となるかについて、

<国民の権利義務にかかわらない事実行為であって、強制力の行使を伴うようなものではない行為については、自衛隊も、防衛庁設置法(昭和二十九年法律第百六十四号)を根拠にこれを行うことができると解しているところである。>

としています。この当時は幸いなことに米艦艇や海自の護衛艦に対する攻撃はありませんでしたので問題になりませんでしたが、もしこの時に米艦艇への攻撃があり、それを海自・米艦艇一体で対応、反撃した場合、国際法上はどこをどう見ても集団的自衛権の行使です。というか、警戒監視をしている時点で集団的自衛権を行使して抑止力を作り出しているといってもいいと思います。すなわち、事実上の集団的自衛権の行使と言える行動を、防衛庁設置法の「調査・研究」という項目を使って無理矢理行っていたのです。これを拡大解釈と言わずして何と言いましょう。

 今回の安全保障法制案は、こうした無理を重ねた現行法をいくらか現実に近づけたものにすぎません。反対派は「歯止めがなくなる」といいますが、この「調査・研究」を使えば現行法でもやろうと思えばいくらでもできたわけです。同じ答弁書で、この「調査・研究」の地理的な概念について、

<同号(筆者注:防衛庁設置法第五条第十八号)に規定する「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」は必ずしも我が国の領域内に限られるものではないと解している。>

と回答しています。
 すなわち、法律の立てつけとしては同じような米艦艇の警戒監視を日本近海ではなくペルシャ湾やインド洋で行ったとしても、この「調査・研究」は十分法的根拠になり得るということを示しています。もちろん、今まで事例もありませんし、そんなことは世論が許しませんが、法律論としてはあり得るという話です。
 ちなみに、この質問主意書、および答弁書が出された後、防衛庁は防衛省に昇格。防衛庁設置法も防衛省設置法に変わりましたが、この「調査・研究」に関しては同法第四条第十八号にしっかりと引き継がれています。

※参考 防衛相設置法 http://goo.gl/N2R43Q
<第四条十八号 所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと。>

 政府組織、官僚組織は法律がなければ1ミリも動きません。逆に言えば、法律さえあれば、法的根拠さえあればいかようにも動けるということもできます。そして、現行法にはそういった法律上の隙間が存在するのです。

 今回の安保法制案はこのような法律の抜け穴をある程度ふさごうという意志を感じます。集団的自衛権行使については存立危機事態にならなければ行使できない、原則国会での事前承認などの歯止めが明確になっており、「調査・研究」という逃げ道を少しふさぐものです。
 これが戦争法案でしょうか?
 私には、戦争を防ぐための法案、戦争に巻き込まれないための法案であるように見えるんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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