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2022.11.13

サンデー早起キネマ・番外編『パラレル・マザーズ』

毎週おススメの最新映画をご紹介している“サンデー早起キネマ”
今回は番外編。オンエアとは別に、是非ご覧頂きたい作品を取り上げます。

ライフワークである母の物語に重要な歴史“スペイン内戦”を織り込んだペドロ・アルモドバル監督最新作
『パラレル・マザーズ』

メガホンを取ったのは、自らの人生を投影した前作『ペイン・アンド・グローリー』が世界中で絶賛されたペドロ・アルモドバル監督。この最新作では、ライフワークでもある母の物語に戻りました。さらに、監督の中で年々重要になっている“スペイン内戦”も織り込まれています。

舞台は2016年のスペイン・マドリード。
フォトグラファーのジャニスと17歳のアナは、出産のため入院した病院で出会います。共に予想外の妊娠でシングルマザーになることを決意していた2人は、同じ日に女の子を出産。再開を誓い合い退院しました。
しかし、ジャニスはセシリアと名付けた娘と対面した元恋人から「自分の子供とは思えない」と告げられます。そして、ジャニスが踏み切ったDNA鑑定でセシリアが実の子ではないことが判明。出産時にアナの娘と取り違えられたのではないかと疑うジャニスでしたが、激しい葛藤の末、この秘密を封印してアナと連絡を絶つことを選びます。
それから1年後、アナと偶然再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされるのです……。

娘の秘密を抱え常に葛藤するジャニス役は、ペネロペ・クルス。アルモドバル監督は「真の名演技だった」という通り、ジャニスの複雑な心境を揺れる眼差しで見事に体現しました。「キャラクターが命を得ると、作家の手から離れて(自由に)生き始めることがあるが、この作品を執筆している時それは起きた」と語っています。
そしてアナ役は、監督が「この作品における“偉大な新発見”」と評したミレナ・スミット。長編二作目とは思えない演技力見せてくれました。ペネロペ・クルスに食われることなく、完璧な対照として存在していました。

そして、この作品にはもう一つの物語が織り込まれています。フランシス・フランコが率いる反乱軍が勝利したスペイン内戦(1936-1939)を巡って虐殺された方々の遺骨が埋められている“共同墓地”の問題です。アルモドバル監督は、「私は歴史の恨みを晴らしたいわけではなく、被害者の遺族として、愛する者の名を墓石に刻み、彼らの尊厳を守る場所に埋葬し、敬意を表す以外のことは何も求めていない」と話しています。墓地の発掘を求めているのが彼らのひ孫の世代になっている今、スペイン社会が果たさなければならない責任なのです。
新しく生まれてきた命と、そう遠くない昔、理不尽に犠牲になった方々の対比も鮮やかです。ラストシーンでは、この問題を後世に受け継いで欲しいという監督の決意が伺えました。

人々はいつの時も理不尽な出来事に押しつぶされそうになりながらも、抗いながら生きていく、生きていかなければならない存在なのだと突きつけられたようです。この作品は、人間の強さ、底力への監督の応援歌なのかもしれません。

『パラレル・マザーズ』
11/3(祝・木)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開

公式サイト:pm-movie.jp 
脚本・監督:ペドロ・アルモドバル(『ペイン・アンド・グローリー』『ボルベール〈帰郷〉』)
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ
2021/スペイン・フランス スペイン語 /123 分 カラー / ドルビーデジタル アメリカンビスタ
原題:MADRES PARALELAS  字幕翻訳:松浦美奈 R15+
配給:キノフィルムズ
© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

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      ひろたみゆ紀

      6月25日生まれ 栃木県出身 特技:韓国語 趣味:DIY
      元NHK宇都宮放送局のキャスター レディオベリー(エフエム栃木)アナウンサー  2001年からフリーに。
      以降、ニッポン放送でアシスタントやリポーターを務めるなどフリーアナウンサーとして活動。

      2009年、語学留学のため、渡韓。
      卒業後は現地で日本語を教える傍ら、2011年4月より翌年6月まで
      レディオベリーの韓国情報番組『K-ONECT』のパーソナリティを務めていた。
      韓国語と韓国の生活文化を身につけ、2012年9月に帰国。

      現在はニッポン放送アナウンス部に所属。

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