ニッポンチャレンジドアスリート

2025.07.07

金尾克(パラ射撃)

1976年、富山県生まれの49歳。YKKライフル射撃部所属。2003年、事故で右腕を失いますが、2022年、40代後半からパラ射撃を始めるとすぐに頭角を現し、翌2023年、ワールドカップ日本代表に選出。混合エアライフル伏射・団体戦で銅メダルを獲得しました。2024年のワールドカップ個人戦では初めてファイナルに進出。7位の成績を収めるなど、パラ射撃界期待の選手です。

◾️2003年、26歳のときにオートバイの事故で右腕を失った金尾選手。パラ射撃と出会ったのは、46歳のときだった。

「射撃を始めるきっかけとなったのは、2020東京オリンピックの放送を姪っ子が見ていて。そのとき、射撃をやっていたんですけど、射撃だったら片手でもなんとかできるんじゃないかっていう話をされた後に『あ、射撃か」』と思いながら、たまたまですね、私の勤める会社の社内報で、グループ会社に射撃部があるっていうことを知ってですね」

「電話をかけてですね、『私、ちょっとグループ会社で違う会社に離れた場所に勤めてますけども、射撃部やれますか?』という風に相談すると、『もう全然。できますよ』っていうことで、教えてもらうことになったのが最初のきっかけですね」

◾️2022年7月、金尾選手はエアライフルを所持する資格を得て、本格的に競技を始めた。

「実際のエアライフルの方はですね、やっぱり今までやっていたビームライフルとはちょっと違うところがありまして。パラ射撃のエアライフルっていう風になると、そこでやっとルールをちょっとずつ知っていくわけなんですけども。決められたバネの支持台の上に置くっていうことが分かりまして」

「そのバネの上に置いて練習を始めるわけなんですけども、これはやはり、今までの固定されているラインの上にドンと置いて、動かない銃を打つのと、バネの上でぐらぐら動きながら銃をを支えて撃つっていうのは全く違ってまして。そこがまた難しくても、やっぱりいい点が出るとやっぱり嬉しいもんですから、どんどんどんどんハマっていったという、そういう形ですね」

◾️金尾選手は、2022年9月、初めてパラ射撃の国内大会に出場した。

「このときは私もまだ立射しかやってなかったので、立射1種目だけで大会に出ました。で、そのときの成績はというと、立射で出て3位という結果は良かったんですけども、まだまだちょっと世界には全然通用しないなという、そういうイメージでした」

◾️日本代表の合宿を見学に行き、金尾選手は撃ち方や用具のことなどアドバイスをもらった。そして2023年3月、日本代表の育成選手に選ばれ、選考会でも結果を出し、ワールドカップ・団体戦の日本代表メンバーに選ばれた。

「団体戦っていうのは3人で組むんですけども、その他の2人の方は実力者で。私みたいな点数の低い者が1人加わるとやっぱり不利なもんですから、そこに関しての団体戦というのはプレッシャーがすごく高くて『緊張するな』という部分はありました」

◾️2023年5月、金尾選手は、韓国のチャンウォンで行われたパラ射撃のワールドカップに出場。初めての国際試合だった。

「スタッフさんもトレーナーさんも選手もすごく一体感があって、みんなでメダルを取りに行くとか、本当に一丸となってやってるところが、なんかすごく自分の中でも刺激があったし。私の出る競技は2週間後の最後の日に行われる競技だったわけですから、スタッフさん、トレーナーさんに自分のメンタルとかフィジカルの面を底上げしていただいた。そういったおかげでですね、2週間後に自分のパフォーマンスがどんどん上がっていったという結果でしたね」

◾️日本チームは、出場11チーム中3位に入り、金尾選手はワールドカップ初出場で銅メダルを獲得した。

「試合が始まって、途中であまり良くないミスをしてしまいまして。『ああ、やってしまったな』と思って。終わったその後ですね、団体戦の2人の足を引っ張っちゃったなと思いながら、打ち終わった後すぐにトレーナーが後ろに来てくれたんですけども……」

「『団体戦どうでした? だいぶ足引っ張りましたか?』って、もうすごい心配で聞いたところですね。トレーナーさんから『おめでとうございます。銅メダルです』って言われたときには、もうすごい嬉しかったですね」

「トレーナーさんからいただいたそのときの言葉が、今まで一番いい思い出で残っています」

◾️2024年、目標にしていたパリパラリンピックには出場できなかった金尾選手。見えた課題は?

「パリを逃してからですね、世界に通用するには、その時点ではあと5点アップしなきゃいけないという課題がありまして。5点っていうと、やっぱり大きいんですよね。今632点ぐらい、大体その辺をウロウロしているんですけども、もう5点上げて637点は最低出していかなきゃいけないなというふうに思います」

◾️3年後のロス大会に向け、金尾選手はいま、どんなトレーニングを積んでいるのだろうか。

「トレーニングとしましては、私は普段はフルタイムで仕事をしているものですから、射撃場で練習っていうのは週末のみですね」

「平日は自宅に帰ってからスキャットという小さな装置を銃の先につけて、玉は打てないんですけども、どこを狙って引き金を引いたか、引き金の引いたときの振動でですね、パソコンで的のどこに当たったぞっていうのは可視化できるような、そういうプログラムがありまして。それで日々練習していますね」

◾️去年の11月、金尾選手は全日本選手権に出場。男女混合10m・エアライフル伏射で連覇を目指す水田選手と争い、準優勝に輝いた。

「水田さんとマッチレースという風になりまして。まだ未熟だったかなということで、悔しい思いの方が大きかったですね」

「本選でやるのは60分で60発で1発1分というタイミングで撃っていけばいいんですけども。ファイナルってなると30秒に1発なんですね。私、未だにじっくり狙っちゃうもんですから、いい結果が出せなかったっていうのが反省点ですね」

◾️金尾選手にとって、パラ射撃の魅力とは。

「私、射撃を始めてから『射撃とはなんですか?』って聞かれたら、射撃とはもう感謝しかないんですよ、私の中では。40過ぎていろんな方にやっぱり出会える場となって、こういう素晴らしい経験ができてっていうのが、全て自分の中ではいい経験ばっかりなんですね、今のところ」

「老若男女やれる、こういう競技ってなかなかないと思うんで。この射撃という世界をいろんな方に伝えていけたらな、ちょっと射撃界に恩返しできたらなという風に考えています」

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