東京国際大学教授で社会学者の
トーマス・ブラックウッドさんが登場。
専門は「教育社会学」。
日本の部活動の教育的役割の研究から見えたこと
アメリカの部活動との違いなど伺いました。
※ 下にスクロールしていただくと、放送内容をご覧いただけます。
日本の部活動研究をはじめたきっかけ
自分が初めて日本に来たのは1986年。
千葉でホームステイをしていた時、野球場の近くを歩いていたら、
ものすごい歓声と吹奏楽の音が聞こえてきた。
聞けば高校野球の県大会だと言われて驚いた。
その後も、街中のテレビも高校野球、タクシーのラジオでも高校野球。
アメリカでは高校スポーツがここまで
全国的な注目を集めることはないので、
「これは何なんだろう」と強く興味を持った。
その後、日本で高校教師をした時に、
特に印象的だったのが野球部の生徒だった。
成績が一番良いわけではないのに、礼儀や挨拶、マナーが素晴らしかった。
そこで監督に話を聞いた時、「高校野球は教育の一環だ」と言われた。
その言葉が自分の中に強く残った。
当時、日本の教育に関する研究は教室内や受験中心のものが多かったが、
自分は教室の外にも重要な教育があると感じた。それが部活動。
外から日本を見る立場だからこそ、
気づけることもあるのではないかと思っている。
全国の高校生にアンケート調査を実施
自分は博士論文で日本の高校野球とその教育的役割を研究し、
「高校野球は教育の一環だ」とするなら、
実際に何を学んでいるのかを調査した。
約200人の高校球児や監督にインタビューをした。
面白かったのは「学ぶ」というより、
「得るもの」として語られることが多かった点。
特に大きかったのが友情。
その次に、礼儀や挨拶、根性、困難を乗り越える力、
自信というのが挙がってきた。
人格形成や人間形成の側面が非常に強かった。
アメリカの学生スポーツでは、
選手が少し偉そうに見えることもあるが、
日本の高校球児は礼儀や謙虚さを重視する。
その違いが興味深かった。
全国調査をしてみても、特に野球では
挨拶や振る舞いを重んじる文化があり、
それは教室よりも部活動の中で学ばれているように感じた。
日本の部活動は人間関係が濃密で、長期間同じ仲間や指導者と関わる。
その継続性が、人を育てる力につながっていると思う。
アメリカのように短いシーズン制とは違う、
日本独特の教育文化だと感じている。
日本の部活動の不思議。指導の変化
自分が日本の部活動を研究していて、
今でも強く関心を持っているのは、
試合に出られなくても3年間続ける生徒が多いこと。
「輝く場がないのでは」と思ってしまうし、時には可哀そうにも感じる。
でも同時に、簡単に諦めず続ける姿は本当にすごいとも思う。
監督に話を聞くと、「その子たちがいなければチームは成り立たない。
練習相手や支えがいるからチームが成立する。
人間は誰かに貢献したいという気持ちを持っていて、
仲間たちの支えになれたら、それで続けられる」と言われ感心した。
実際、元球児から
「レギュラーより、出られなくても頑張る人の方が偉い」
と言われたこともあり、非常に納得した。
最近は指導法も変わってきていて、
昔より優しくなったと指導者自身が語っている。
ただ目的は同じで、人間形成。
昔はやりすぎだった部分も見直され、
今はより良い形に変化している。
部活動には、人を支え、乗り越える力を育てる大きな役割があると
改めて感じている。
部活動終えて経験者は卒業後どう評価したのか?
去年と今年、高校時代に部活動を経験した人たちへの
アンケート調査を行っている。
「卒業後に部活動は役に立ったか」と聞くと、
7割以上が「役立っている」と答えた。
何が役に立ったのかを尋ねると、興味深いことに、
部活動で学んだ技術よりも、人間形成の部分を挙げる人が多かった。
空気を読む力、周囲への気配り、失敗しても簡単に挫折しない力など、
日本の企業や社会で求められる力につながっている
という声が多くあった。就職にも役立っているという。
自分自身、サラリーマン時代に「何か貢献したいのに
何をすればいいかわからない」という経験をしたが、
部活動では自然と“自分にできる貢献”を探す習慣が身についている。
ある女子マネージャーが、誰の靴かわからなくても
黙々と磨いていた姿を見た時、その感覚に驚かされた。
一方で、部活動を経験できなかった人が不利に感じたり、
過度なプレッシャーにつながったりする側面もある。
だからこそ、部活動の価値を認めつつ、
その影響や課題を考えていく必要があると感じている。
日本の部活動の変化とこれから
最近の日本の部活動は大きく変わってきている。
学校外の指導者への委託が増えたり、
上下関係も以前ほど厳しくなくなったりしている。
指導者の先生方に話を聞くと、
「先生が優しくなる前に、先輩たちの方が先に変わった」
という声もあった。
特にコロナ禍では、試合や練習が大幅に制限され、
厳しい先輩文化を経験しないまま上級生になった世代が多かった。
その影響で、部活動の雰囲気や指導のあり方も
変化しているように感じる。
さらに働き方改革やコンプライアンスの問題もあり、
昔のような厳しい指導は難しくなっている。
ただ、それでも部活動が人生に大きな影響を与えている
という点は変わっていない。
今の時代、AIやSNSなど環境が大きく変化する中で、
部活動に何が求められているのかを明確に答えるのは難しい。
でも、礼儀や思いやり、協調性、人との関わり方といった
“人間形成”の部分は今も重要視されていると感じている。

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