2019年07月30日

日韓関係の行方は?

 メディア関係者の多くは、自分たちは読者や視聴者・聴取者の代理人として取材をしているという意識をどこかに持っています。ある意味、自分たちは黒子であるという意識で、これは私のような出役のアナウンサーにはあまりありませんが、記事を書く記者と話をするとそうした意識が見え隠れすることがあります。SNSがこれだけ発達した今は、その意識でオープンの記者会見などに臨むと場合によっては批判されることもあるだろうということは、このブログや毎週火曜日に掲載の夕刊フジのコラム『ニッポン放送 飯田浩司のそこまで言うか!』にも記したところです。
 ただ、個人名が伏せられようが表に出ようが、取材をする自由は公共の福祉に反しない範囲で認められるべきであり、その意味で市民の代理人として取材をしているという意識を否定するものではありません。それだけに、暴力によって取材を妨害されたり、記者活動を阻害されるのはメディアそのものの存在や知る権利を否定する行為であり、メディアの人間ならばきちんと批判をしなくてはいけません。
 韓国・ソウルでフジテレビのソウル支局がデモ隊に押し掛けられた事件は、自由で民主主義を建前とする国でこんなことが起こるのかと個人的には驚きました。さらに驚いたのは、今に至るも報道が非常に少ないという点です。

<25日午後4時半ごろ、ソウル市麻浦区上岩洞のMBC(文化放送)社屋に入居するフジテレビソウル支局に大学生3人が押し掛けた。うち1人は「ろうそく政権文在寅(ムン・ジェイン)政権の転覆を主張するフジテレビソウル支局は直ちに閉鎖しろ」と叫んだ。別の1人はフジテレビのロゴと旭日旗が描かれた紙を破り、3人目はその模様をフェイスブックで生中継した。大学生らは「直ちに謝罪し、この地を出ていけ」と叫び、警備員ともみ合った末、約6分後に支局外に退去させられた。>

 この記事を書いている7月30日の時点でネット記事を検索すると、この朝鮮日報日本語版の記事のほか、海外系のニュースサイトの記事、それに産経新聞の社説「主張」に言及がみられる程度でした。普段、日本には「報道の自由」があるのかどうかを非常に気にする日本のメディアがかくもあからさまな形でプレッシャーを受けている現状をどうして報じないのか、驚き疑問に思います。

 さて、この件では押し入った学生の1人が「文在寅(ムン・ジェイン)政権の転覆を主張するフジテレビ」と批判しました。おそらく、この記事についてでしょう。


 この記事を読んでみて、ではフジテレビは支局を閉鎖しなければいけないほどの問題のある記事だと思う日本人はどれだけいるでしょうか?文在寅氏は韓国大統領という公人であり、その権力の強さと比例して批評の対象となることも仕事のうちでしょう。
 ところが、韓国は刑事上、名誉毀損が法律に抵触するというユニークなシステムがあります。誰もが告訴すると、検察が名誉毀損と関連して捜査し、起訴することが出来るわけです。韓国大統領は一方で大韓民国の元首でもあり、元首を名誉毀損するということは大韓民国そのものを踏みにじったも同然というロジックが韓国の中では成り立ってしまうわけですね。
 このロジックでは、同じく国家元首であるアメリカのトランプ大統領やフランスのマクロン大統領を批判すると、アメリカやフランスそのものの尊厳を踏みにじることになりそうです。私の番組を含め、日本のすべてのメディアがアメリカやフランスで批判されそうですが、健全な民主主義と言論の自由がある国々ではそんなことになりませんし、日本のメディアのワシントン支局やパリ支局がデモ隊に押し掛けられたなんてことは聴いたことがありません。

 では、韓国政府が在韓国の日本大使館や領事館、メディア、日本法人を積極的に守ろうというモチベーションがあるのか?日本大使館での今月、ワゴン車が大使館の入るビルに突っ込み、運転していた韓国人男性が社内で火をつけ全身やけどで死亡しました。釜山の総領事館でも学生たちが侵入、警察に拘束されましたが翌日には釈放されています。
 外交関係に関するウィーン条約には、接受国は大使館や領事館といった公館を保護する特別の責務を負っているとされていますが、その責務を忠実に履行していると言えるでしょうか?むしろ、忠実に履行しない方にインセンティブがあるのかもしれません。韓国では、日韓関係が怪しくなってくると支持率が上昇する傾向にあります。

<リアルメーターがYTNの依頼で22~26日まで全国19歳以上の有権者2512人を対象に実施した7月第4週目(22~26日)の週間集計で文大統領の支持率が前週より0.3%ポイント上昇した52.1%となったと29日、明らかにした。 >

 その上、来年の4月には韓国内で総選挙が予定されています。あと一年を切って、与野党とも総選挙へ向けてエスカレートすることはあっても、日韓関係を落ち着かせるメリットがありません。このところ毎週のように行われる反日デモでは、「総選挙は日韓戦だ」と書かれたTシャツを着て参加する人が増えてきているようです。現在の革新与党にとっては、日本政府を批判することで国内の親日派を批判し、その象徴として野党・自由韓国党を批判しようという意図があるのでしょう。
 保守系の野党にしても親日と見られては選挙で戦えませんから、先鋭化するしかありません。となると、仮に韓国で政権が交代しても日本との関係が改善するかは心許ないでしょう。
 韓国を含めたサプライチェーンのみならず、安全保障環境でも我々は今までの日米間同盟を中心とした常識を変えなくてはいけないのかもしれません。韓国側は、このまま日韓関係が冷え込んだままなら軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の撤回までをちらつかせているわけですから。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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