2019年07月23日

これからも、経済優先???

 参議院選挙が終わりました。
 夕刊フジのコラムにも書いたのですが、私個人としては今回の参院選の中で経済論戦、それもマクロ経済全体をどうかじ取りしていくかを議論してほしいと思っていました。
が、やはり各党ともに分かりやすさ重視といいますか、「消費税の是非」とか「最低賃金をいくらにする!」とか、「減らない年金」とか、ミクロ的な政策スローガンを声高に叫ぶことに終始していて全体の実現可能性への言及が極端に少なかった印象があります。
 個々の政策"だけ"を見ればそれは口当たりの良い言葉が並びます。最低賃金が伸びること、年金が減額されないこと、それ自体は誰もが賛成でしょう。しかしながら、「金は天下の回り物」という言葉があるように、経済活動は必ず相手方があります。
 最低賃金上昇は労働者にとってはありがたくとも、経営者にとってはコスト上昇となるわけで、ある意味のリスク要因です。私だって労働分配率の下降傾向には懸念をもって見つめていますし、自社株買いや配当などで株主への配当を手厚くする企業の在り方には疑問を持っています。企業の内部留保の膨大さを見るにつけ、企業収益が上手く経済全体を回していないのは明らかです。
 ですが、強制的に賃金を上昇させる最低賃金上昇を急激に進めることは労働者へのメリットよりも経済全体へのデメリットが目立つように思うのです。
 隣の韓国、文在寅政権が同じように最低賃金に手を突っ込んだ挙句、経済全体が失速してしまい、結果として特に若年層の失業率が大幅に悪化したという先行事例も存在します。このように、個々の政策の一歩先を考え、全体の整合性や政策の実現可能性を議論できなかった、個々の政策への賛否に終始してしまったのは残念でなりません。

 今回の選挙の結果、自民・公明の与党で改選議席の過半数を超える71議席を獲得しました。自民党の安倍総裁は投票日翌日の会見で今回の結果について、
「「安定した政治基盤の上に、新しい令和の時代の、国づくりをしっかりと進めよ!」と、国民の皆様からの力強い信任を頂いた」
と総括し、その上で、
「これからも、経済最優先。」
としています。


であれば、ぜひとも早急に政策を打ち出してほしいのが、足元の経済状況について。昨日、政府の月例経済報告が発表されました。


 相変わらず足元の景気についての表現は霞が関文学の極致で、弱いけれども回復しているという書きぶりですが、現場の声を聞くと青息吐息です。提示されている一つ一つの数字を見ると減少という文字が多く、徐々に経済が悪くなっていっているのがわかります。それに、この傾向は今に始まったものではなく、去年の秋から今年の初めには下降局面に入ったと多くのエコノミストが指摘しています。
 個人消費の冷え込みが直に影響する小売業界を取材すると、もう去年の10月ごろから客単価が伸びない、値下げ圧力が強いと個人消費の落ち込みに警鐘を鳴らしていました。今や懸念は確信に変わり、経営の悪化を前提としてどう食い止めるか、具体的には賃金抑制と仕入れコストの削減に動いているとのことです。
 3か月ごとに集計するGDPを見ても、個人消費をはじめとする内需が横ばいか減少しています。
 外需は米中の衝突やイギリスのEU離脱、さらにイランのホルムズ海峡を巡る不安定化で雲行きが国内景気以上に怪しいのは拙ブログでも何度も指摘してきました。その流れにとどめを刺すように、10月には消費税の増税が控えています。

 そんな中で景気を下支えするオプションは、日銀にさらなる金融緩和を促すか、財政出動で需要を作り出すか、大雑把に分ければ2つ。
 金融緩和の方は日銀に決定権がありますから形の上では自由になりません。
 一方、財政出動は補正予算などを使って積み増すことが可能です。国内外の先行きの不透明感を考えれば、予防的に景気を浮揚させるべく財政出動することも視野に入れるべきではないでしょうか?
 こういった危機感から、財政出動の可能性について選挙特番の政党幹部インタビューの中で特に与党幹部に質問しましたが、芳しくない反応でした。「すでに2019年度当初予算で手当て済み」(自民党・甘利選対委員長)「ポイント還元やプレミアム付き商品券、軽減税率で落ち込み分を埋めるべく手当している」(公明党・斎藤幹事長)。いずれも、補正予算を組んでまでの追加財政出動には非常に消極的。政治家のレベルでこのぐらいの熱量であれば、補正予算を組んだとしても2~3兆が関の山でしょう。2兆、3兆というと大きな数字のように思えますが、日本のGDPはざっくり500兆円。2兆~3兆の財政出動はGDP比で0.5%前後となり、景気を浮揚させるにはまったく力不足です。

「これからも、経済最優先。」
であるならば、財政の出動規模も最優先でお願いしたい。国民は決して現政権に白紙委任したわけではないはずです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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