2019年06月26日

中国って、民主的!?

 いよいよ、今週末はG20(20カ国・地域)首脳会合です。私もサミット開催地の大阪へ出張し、金曜日(28日)の「OK!COZY UP!」(朝6~8時)は現地からお送りします。
 そのG20首脳会合で、提起されそうな議題の1つが香港での大規模デモです。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対するもので、マイク・ポンペオ米国務長官が明言しました。
 さて、この大規模デモについて、日本国内ではとても不思議な議論が行われています。
 一部のメディアや個人が盛んに「中国共産党は、香港の民意を受けて『逃亡犯条例』改正案を事実上撤回したが、日本政府はデモや住民投票の民意を一顧だにしない」と主張しています。「どちらが民主社会なのか!」と批判する向きもあります。

 だが、ちょっと待ってほしい。(某新聞風)

 デモで政策を変えようとするという意味では、香港と日本の反対運動は同じかもしれませんが、中身はまったく違います。具体的には、香港と日本では、民主社会といってもその民意をどう政策に反映させていくのか、その経路が違います。香港は選挙で立法院議員や行政長官を選んでいますが、完全な民主選挙ではありません。立法院議員の半数は職能団体から出ています。職能団体は、各種ビジネス界の代表というようなものですから、当然ながら中国本土と密接に取引をしている業界も多数あります。そうした団体の代表となれば、中国寄りの行動をとるのは自明の理というものです。
 一方で、民主的に選挙で選ばれる立法会議員が半数しかいないわけで、そうなると民主派は当然少数派となってしまいます。
 また、行政長官選挙は選挙という名前ですが、選挙人による間接民主制となっています。たしかに投票によって長官が選ばれるわけですが、投票する選挙人は業界団体や社会団体、弁護士や会計士といった専門職、各級議員などの中から選ばれます。この基準が不透明で、民主的な代表制には程遠いとされています。さらに、立候補には100人の選挙人が必要となり、任命権は北京の中国共産党政権にあります。事実上、親中派しか立候補することができません。
 立法府も行政府も民意を反映しない。最後に残る司法の分野でも締め付けが厳しくなり、自由や法の支配といった基本的価値観が根こそぎ奪われてしまうという危機感が今回の反対運動を生み、民意を示す手段が限られる中で路上行動、デモに至ったわけです。

 他方、日本では民意を示す手段として選挙があります。100%完璧に民意を反映しきれているかと言われれば疑問かもしれませんが、少なくとも思想信条によって立候補に制限がかかるようなことはないはずですし、選挙権や被選挙権は年齢以外に制限されるものはありません。

 さらに、香港の民主派はデモだけでなく、海外に向けて、さまざまな宣伝・工作活動を行っていました。
 日本には5年前の「雨傘革命」の中心人物だった周庭(アグネス・チョウ)さんが来て、記者会見やシンポジウム、デモで世論喚起しました。


 韓国の大統領府の請願サイトに行動を促す署名を募ったり、様々な形で海外にも働きかけています。中国共産党政権と対峙するわけですから、本命は当然アメリカ。ホワイトハウスの請願サイトでは、改正案に関係した中国人・香港人の「ビザ・居住権の剥奪」を訴えました。


 このホワイトハウスへの請願は30日以内に10万人の署名を集めると、ホワイトハウスは検討して、60日以内に回答しなくてはなりません。
 そして、この請願と呼応するように、米上下両院の超党派議員が2日後、「香港人権・民主主義法案」を議会に提出しました。

<香港の「逃亡犯条例」改正案に関し、米上下両院の超党派議員は13日、米国が香港に与えている貿易上などの特権措置を継続する前提として、香港の「高度な自治」の検証を義務付ける法案を提出した。香港立法会(議会)が条例改正案を可決しないよう圧力をかける狙いで、「米国の内政干渉」に神経をとがらせる中国政府が反発するとみられる。>

 この法案は、香港に十分な自治権があるかを国務省に毎年検証を義務付けるほか、「逃亡犯条例」改正案に関わった人物の「米国内資産凍結」などの制裁も盛り込みました。これ、中国共産党のエリートには、大きな打撃なんですね。反腐敗運動で高官であっても規制が厳しくなる中、せっかく苦労して米国に逃した資産が使い物にならなくなるわけですから。子弟をアメリカはじめ欧米圏へ留学させ、何かあったときの足掛かりにしようとしてきた努力も水の泡になってしまいます。
 こうした工作とデモの力が重なって、「逃亡犯条例」改正案の審議延期までこぎつけたのです。もちろん「デモの力」もあったでしょうが、決してそれだけでなく、「米中対立の地政学的状況」や、「自由」「民主」「法の支配」という理念の面での裏打ちという、重層的なアプローチがあったわけです。
 そもそも、中国共産党に民意を受け入れる素地があれば、なぜ北京にあれだけ長い請願の列が続くのか?なぜ、海外の人権団体から批判され続けているのか?
 日本政府を批判したいあまり、「民主主義」や「法の支配」を踏みにじる強権的な政府を礼賛するのは、民主主義の危機以前に「言論の危機」とは言えないでしょうか?

 それともう一つ。11日にホワイトハウスへの請願を始め、翌12日に学生が立法会ビルを取り囲み香港警察の暴力が白日の下に晒され、次の日にはアメリカの超党派の議員たちが新たな法案の提出...。何たる手際の良さ!様々な指導があったことが見て取れますが、逆に言うとアメリカにとっての米中対立の中でのカードとなりつつあることも確かなわけです。香港政府側が北京政府とほとんど一体になっているのは言うまでもありません。一方の反対派の方は今回はアメリカの支えを受けられましたが、たとえば中国が国内の規制改革や貿易不均衡の部分で譲歩した場合、カードとして切られてしまうリスクを背負ったわけです。もちろん、基本的価値観の部分でつながっているわけですから、そうおいそれと切られるとは思いません。が、ディールの大統領ですから、そこはもっと大きな損得で考える可能性もあります。その上、アメリカは香港から遠い。中国の圧迫の実感が、やはりアメリカには薄いわけですね。これは日本にも言えることですが、常に必要性を訴え続け、関与を続けさせるように関心を向けさせ続ける。アジア各国の戦略が問われる時代なのではないでしょうか。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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