2019年05月07日

世論調査がはらむ危うさ

 10連休が終わり、今日から日常が戻ってきました。とはいえ、番組は月曜から金曜まで朝6時スタートで通常通りにありましたから、いつも通りに連休中もニュースを追っていました。
そこで気になったニュースをご紹介しますね。憲法記念日の5月3日の放送でも取り上げた、世論調査の話です。

 毎年、憲法記念日に合わせて各社が憲法に関する世論調査を行い、その結果を当日の紙面で大展開します。今年ももちろん世論調査の結果が各紙を飾りましたが、同じようなタイミングで世論調査を行っているのに改憲派の読売と護憲派の朝日で正反対の見出しとなりました。


 どちらも同じ世論調査なのですが、朝日が採った世論では改憲の機運は高まっていないと考える人が7割強いるのに、読売が採った世論では憲法の議論を活発に行ってほしい人が7割弱いるんです。同じ日本人の世論のはずなのに、まるで重なり合わない2つの"世論"が併存してしまう。これこそが、世論調査のマジックなのですね。最近になってよく言われるようになったことなのですが、世論調査は質問の仕方によって結果がいかようにも変わってくるわけです。幸いなことに、両紙とも質問と回答を紙面に載せてくれているので、具体的にどう聞いたらどういう結果が出たのかがわかります。まずは、朝日新聞から。


 リンク先を全部引き写すわけにはいきませんから詳しくはご覧いただければと思いますが、スクロールしてもスクロールしても憲法に関する質問が出てきません。内閣支持率から始まって、支持政党、国民の声が政治に反映されているのか、具体的な政策に分けての政権の評価などなど、様々な角度から今の政治について問うていきます。どちらかというと、どうですか?現政権は?あまり評価できないでしょ?ホラ、具体的に見れば、ここは悪いでしょ?どうです?そうやって24問も質問を繰り返して、ようやく25問目に憲法についての質問が出てくるのです。重箱の隅をつつくように現政権への評価を聞かれ続けたあとに、現政権の目玉政策である憲法改正について聞かれれば、そりゃネガティブな評価にもなりましょう。さらに、最初に挙げた世論調査の結果を報じる記事の見出しにとった憲法改正の機運を聞いた質問と回答は、

<◆あなたは、国民の間で、憲法を変える機運が、どの程度高まっていると思いますか。
大いに高まっている 3
ある程度高まっている 19
あまり高まっていない 55
まったく高まっていない 17
その他・答えない 6>

となっています。(選択肢右手の数字は%)
複数選択の質問の場合、真ん中の選択肢に集中する傾向があることは知られています。普通は、真ん中の選択肢には中立的なものを配し、左右それぞれに色分けをしますが、この質問の選択肢は真ん中が「どちらともいえない」ではなく「あまり高まっていない」にしてあるのがミソ。質問と回答の選択肢を見て、中立的であろうと真ん中の選択肢を選ぶと、それは改憲機運が「あまり」高まっていないという否定的要素の強い答えになってしまいます。
 聞き方だけでなく、選択肢の提示の仕方でもこうしてバイアスをかけることが可能です。まだしも、質問と回答を載せることでこうして後から検証できるようにしてあるのは評価すべきなのでしょうが、この選択肢を用意し、さらに見出しにも取って記事にするというのはちょっと角度をつけすぎなのではないでしょうか?

 一方の読売新聞ですが、こちらは一応リンクはあるのですが、ネット上は読者会員限定記事でまったく読むことができません。


 こちらはまず、憲法についての世論調査としていて、最初から憲法のどの部分を議論してほしいかから問います。
 憲法はこの国の形を示すもの。通常議論の中心をなす戦争放棄、自衛隊の問題のみならず、皇室について、基本的人権、平等、表現の自由や環境、地方自治や教育などなど、様々な事柄を網羅しています。憲法9条に触れることは反対であっても、教育無償化を憲法に盛り込むのには賛成だとか、道州制実現のための改憲なら賛成、はたまた同性婚実現のために「婚姻は、両性の合意に基いてのみ成立し」との憲法24条の条文を変えたいという主張だってありえます。
 改憲というととかく憲法9条についてがクローズアップされますが、こうした他の条文の改憲も含めれば、ある意味"広義の"改憲派は広く該当者が現れるはずです。そうした質問をしたあと、憲法に関する議論についての質問をしています。

<◆あなたは、各政党が、憲法に関する議論をもっと活発に行うべきだと思いますか、そうは思いませんか。
・もっと活発に行うべきだ 65
・そうは思わない 31
・答えない 4>

 そもそも憲法改正の様々な選択肢を思い浮かべた上で、改憲ありきではなく「憲法に関する議論」を活発に行うべきかどうかという聞き方であれば、そりゃ活発に議論した方がいいだろうと流れるのはよくわかります。さらに、中間の選択肢が「答えない」しかない以上、(改憲護憲どちらになろうとも)議論そのものまで妨げることはないだろうという消極的賛成の意見もある程度は「もっと活発に行うべきだ」に収容されることになります。その結果が記事化され見出しになると「憲法議論活発に65%」となるのですね。多くの人は一面の見出ししかみませんし、読売はもともと改憲に積極的な紙面を作ってきていますから、この見出しだけを見ると「なるほど、世の中は改憲に向けて動き出しつつあるのか」という印象を受けることになるのでしょう。
 こちらも、少なくとも紙面には質問と回答を載せていますからこうしてあとから検証が出来ます。それは評価すべきなんでしょうが、それにしても朝日も読売もどっちもどっちで世論調査のテクニックを駆使して自分たちの望む結果を引き出そうとしていることがわかります。

 さて、こうして世論調査を放送でも批判していましたら、メールを一通いただきました。引き写しではなく趣旨を紹介しますと、「飯田、お前は公平中立なように批判をしているが、ではお前が世論調査の担当だとしてどういった調査をすれば公平中立になるというのだ?」というものでした。
 たしかに、偉そうにしゃべった以上は、それに代わる選択肢を提示できなくてはフェアではありません。
 私個人的な考えとしては、まず世論調査は、というかすべての言説はそれを言う本人、あるいは組織のバイアスを100%消し去ることは不可能であると考えます。従って、完全に公平中立な世論調査というのは難しい。ただ、だからといって世論調査そのものをするなという話ではありません。この部分を放送では言えずに終わってしまいましたが、世論調査そのものは貴重なデータだと思います。調査にはかなりのお金がかかりますから、大手新聞社がこうした大規模調査を行うことは非常に意味があると思います。また、今回取り上げた朝日や読売のように、質問と回答を全文掲載してくれれば後から検証することもできますから、質問のバイアスを差し引いて結果を評価することも可能です。
 問題なのは、これを記事化し一面で見出しを付けて報じることにあるのだと思います。忙しい現代人は、記事の中身まで読まずに見出しで理解しようとします。インターネットがこれだけ普及した今、ニュース検索やニュースサイトではこの見出しの文言がズラっと並び、見出しだけを見れば何となくニュースを理解した気になります。
 ところが、この見出しにバイアスがかかっていた場合、現実とはかけ離れた理解になってしまう恐れがあります。そうやって世論をリードしていくのが狙いなのかもしれませんが、そうした誘導は結局メディアの信頼を傷つけることになると思います。せっかく貴重なデータを取っているのですから、バイアスをかけずに出せばいいのにもったいないと思うわけです。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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