2019年04月22日

令和に持ち越す就職氷河期世代問題

 平成から令和へと変わる直前、まるでアリバイ作りのように経済財政諮問会議で就職氷河期世代が議題に上りました。

<政府は10日、経済財政諮問会議を開き、バブル崩壊後の就職難で正社員になれなかった「就職氷河期世代」の就労支援を本格化させる方針を示した。今後3年間の集中支援計画を作り、フリーターなどを半減させる方針。就職氷河期の初期世代が50代になる前に本格的な対策を打ち、雇用の安定化を狙う。>

 就職氷河期世代については、今担当している「OK!Cozy Up」、かつて担当していた夕方の番組「ザ・ボイス そこまで言うか」で再三取り上げ、拙ブログでも話題にしてきましたが、ようやく政府の審議会で取り上げられるようになりました。中身云々はいろいろありますが、まずはこの政策課題を取り上げたというだけでも一歩前進と評価したいと思います。
 何と言っても、今まで就職氷河期世代の課題については他の政策課題の陰に隠れて埋もれたまま捨て置かれてきました。社会に出るタイミングでデフレの真っただ中。当時は団塊の世代がまだ引退する前で、企業も労組も声も大きく数も多いこの世代の正社員を守ることを最優先。結果、上の世代を切れなければ下の世代の流入を抑えるということで、新卒採用を大きく絞り、学部卒の就職率は低迷の一途をたどりました。
 その後、2000年代の半ばから日本経済は一時的に回復しましたが、そのタイミングで団塊世代の引退も加速。人数を補うべく、企業が中途採用を活性化させていればよかったのですが、企業は今まで通りまずは新卒の門戸を大きく開放。それでも足らなければ氷河期世代も採用していたのでしょうが、日本経済もそこまで力強い回復を遂げてはおらず、ここでも氷河期世代はチャンスを逃します。その後、リーマンショックを受け、非正規雇用の多い就職氷河期世代は最も影響を受けます。
 第2次安倍政権発足後、特に雇用市場は引き締まりを見せ、大卒正社員就職率が統計を取り始めて初めて1を超えるほど雇用環境は改善したのですが、その時氷河期世代はすでに30代後半から40代に差し掛かっていました。若手と呼ぶにはトウが立ち過ぎた我々の世代は、このチャンスにも相手にされず今日を迎えているわけです。今回の経済財政諮問会議で民間議員から出された資料には、この動きがグラフで如実に表れています。


 この資料では、就職氷河期世代の定義として「バブル崩壊後の新規学卒採用が特に厳しかった1993年~2004年頃に学校卒業期を迎えた世代」としています。具体的な年齢としては、「(浪人留年がない場合、2019年4月現在、大卒で37~48歳、高卒で33~44歳」。私は大卒で現在37歳。まさに氷河期世代の終わりに位置しています。そして、この世代の人口規模ですが、2018年時点で1,689万人、15~64歳人口に占める割合は22.4%。この氷河期世代は大部分が団塊ジュニア世代と重複していますから、これだけ大きなボリュームを占めるわけです。生産年齢人口の4分の1弱ですから、決して無視できない大きな存在です。

 そして、この氷河期に未就職卒業者がぐんと増え、減ったといえど高止まりしました。ピークの2000年3月卒で高校・大学等卒業者に占める未就職者の割合が12%。
その前後の年も10%前後という高い比率を示しています。そして、このグラフの山はこのデフレ期の他の経済指標でも同じように表れる動きを見せています。たとえば、完全失業率。こちらはピークが少し後ろにズレますが、90年に2.1%だったものが徐々に上がっていき、2002年のピークには5.4%にまで悪化しています。


 また、「経済・生活問題」を原因とする自殺者数もこの完全失業率の推移とかなりシンクロすることが分かっています。国全体のマクロ経済が悪くなると、当然失業率が上がり、それらを起因とする自殺者数も上がり、また新卒採用に目を向ければ採用そのものが全体の失業率以上に非常に悪くなるということが分かります。これは肌感覚通りの結果であって、何も目新しいことを言っているわけではありません。

 ただ、こういうことを主張すると、それは個人個人の自己責任であろうという反論が返ってきます。それは、上の世代のみならず、同世代で話をしても、この厳しい競争の中で勝ち抜いてきた(と本人は信じている)新卒で大手企業に採用されたような人ほど「自己責任」を主張します。
 が、これが自己責任で片付けられないのが、かつての不景気時のようにその後好景気がやってきて企業が採用活動を活発にするようになり、結果として再チャレンジすることが出来たかどうかがかつてとは大きく異なるからです。チャンスが豊富にある中でチャンスをつかみきれなければ、それはある程度自己責任と言われても仕方がないかもしれません(もちろん、個々の事情を勘案せずに十把一絡げにすることはできませんが)。ただ、前述の過去の経緯を見てきた通り、この世代には再チャレンジのチャンスはほとんど巡ってこなかったといっても過言ではありません。2000年代半ばに日本経済が一息ついたときにチャンスがあったのかもしれませんが、この時に巡ってきたチャンスはかつての景気拡大期(オイルショック後の景気回復局面や円高不況後のバブル景気など)と比べても大きく劣ることは肌感覚からしてもわかるというものです。今回諮問会議に出されたペーパーにも、そのことが分かるデータがありました。

 就職氷河期世代がそのまま雇用の調整弁的な世代と化していたことが白日の下に晒されたのです。学卒未就職者のグラフの脇に、就職氷河期世代の就業状態の推移という表がありますが、見事に氷河期世代の非正規雇用者がそのまま年齢を重ねる一方で、下の世代の非正規雇用者は大幅に減っていることが分かります。つまり、我々就職氷河期世代を雇用のクッションとして、上の世代は定年まで逃げ切り、その空いた椅子に下の世代が正社員として座るという構造が固定化してしまっているのです。これは、果たして自己責任なのでしょうか?マクロ経済運営に失敗した時の政府の責任は?業績が回復しても一向にこの世代を顧みなかった企業の責任は?企業は今になって現在40代前後の中間管理職世代の不足を嘆いているようですが、今まで採用せずに育てもしなかったそのツケが回ってきているとしか言いようがありません。

 経済財政諮問会議のペーパーの序文には、こう書かれています。
<新卒時にバブル崩壊や不良債権問題が生じていた、いわゆる就職氷河期世代は、学卒未就職が多く出現した世代(人口規模で約 1700 万人)である。本来であれば、この世代も、景気回復後には、適切な就職機会が得られてしかるべきである。しかし、当時の労働市場環境の下ではそれは難しく、その後も、無業状況や短時間労働など不安定就労状態を続けている人々が多く存在し、現在、30 代半ばから 40 代半ばに至っている。>

 この文章に冷たさを感じるのは、まるで氷河期世代が生まれたのが天然自然現象で致し方なかったというのがにじみ出ているからです。そうではなく、政治の不作為、政府の不作為、そして企業が社会の一員であることを忘れ、コストカットにひたすらに走ったあのデフレの時代のツケをこの世代が一身に背負っているということを認め、社会全体としてどうサポートしていくか、底上げしていくかを考えなくてはいけません。企業は今、分厚い資本の鎧をまとっています。先日金融の専門家と話をしましたが、これから先世界経済の減速や日本の消費増税で景気は間違いなく落ち込むが、しかしかつてのような恐慌的に大手企業が倒産するようなことにはならないと言っていました。それは取りも直さず、企業が分厚い、分厚過ぎる資本をまとっているから。現預金、有価証券、不動産などなど、いざとなったら向こう何年かを支えるだけのものを持っているからだと。
 これらを一部だけでもいいから、氷河期世代のサポートに使えないものか...。自前でOJTをするのはリスクが高すぎるというのなら、基金のような形にしてスキルアップを目指したり、あるいはインターンのような形で採用するなりやり方はあるはずです。50代60代の雇用を保証するためには、若い世代を採りづらいという声はいまだに聞こえてきますが、ウラを返せば50代60代の流動性が全くないから、そのツケを氷河期世代非正規雇用者に押し付けているような構造なわけです。働き方改革をもう一歩進めて、この上の世代の流動性を増すことで、氷河期世代によりチャンスが回るようにするというのも政策的に取れる手かもしれません。それで、非正規雇用者も正社員も給料が下がってしまっては元も子もないので、そこは慎重な目配せが必要でしょうが...。
 いずれにせよ、今でももう手遅れだという声もありますが、だからといってそのまま何もしなければもっと悪くなるのは目にみえています。

 ちなみに、今回指摘されていた氷河期世代が将来社会問題を引き起こすという警鐘は、10年も前にすでに鳴らされていました。


 ちょっと長文なのですが、今読んでも全く色あせない内容。ということは、当時から問題が放置されてきたことを示しています。そして、この報告書の当時20代後半~30代前半だった氷河期世代は、そのまま10年が経過し、30代後半~40代前半。このまま行くと、報告書にもある通り、20兆円規模での生活保護費がこの世代のために必要になることでしょう。その時にも、自己責任論をこの国は振りかざすのか...?今ならまだ間に合うと信じて施策を打つことがこの国の政府・企業の責任ではないでしょうか?
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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