2019年04月19日

日程面から見る衆参ダブル選挙の可能性

 自民党の萩生田光一幹事長代行の発言が波紋を広げています。

<自民党の萩生田(はぎうだ)光一幹事長代行は18日のインターネット番組で、10月に予定する消費税率10%への引き上げに関し日銀の6月の企業短期経済観測調査(短観)で景況感が悪ければ3度目の延期もあり得るとの考えを示唆し、増税先送りの場合は「国民に信を問うことになる」と述べた。>

 第2次安倍政権が発足後、総裁特別補佐や官房副長官を歴任し、現在は幹事長代行に就いている萩生田氏。総理側近と言われる人物の発言、さらに「国民に信を問うことになる」と総理でもないのに解散・総選挙にも言及しているだけに、ご自身の考えだけでなく官邸の意向が濃厚にあるのではないか!?という憶測を呼び、何となく浮足立つ雰囲気になっているわけです。一方で、菅官房長官は一連の萩生田発言を即座に否定しています。

<菅義偉官房長官は18日の記者会見で、10月に予定する消費税増税について「リーマン・ショック級の出来事が起こらない限り、予定通り引き上げる」と述べた。自民党の萩生田光一幹事長代行は同日、6月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)次第で増税延期もあり得るとの考えを示しており、菅氏の発言はこれを否定したものだ。>

 ただし、この否定も解散風を完全に吹き飛ばすものではなく、官房長官と役割分担で観測気球を上げているのではないか?という疑念がぬぐえずにあります。今年の通常国会が開会する1月の時点でも衆・参ダブル選挙について話題になっていましたが、萩生田氏は今回、「20カ国・地域(G20)首脳会議もあるので、なかなか日程的には難しい」とダブル選を否定したと見られています。G20が6月の28、29日。一方、確定はしていませんが、参議院選挙の投票日と目されているのが7月21日。たしかに、ここでダブル選挙に打って出るのはちょっと日程的に窮屈です。
 ただし、それは「7月21日が投票日なら」という話。ここで日程面から頭の体操をしてみたいと思います。

 まず、今回改選となる参議院議員の任期について。参議院のホームページによれば、今年7月28日とのこと。


公職選挙法第32条には、参議院議員通常選挙について、
<参議院議員の通常選挙は、議員の任期が終る日の前三十日以内に行う。>
と規定しています。7月28日から数えて30日前だと、6月29日。6月29日から7月28日までの間に選挙を行わなくてはならないわけですね。
 ところが、国会の会期と選挙の投票日があまりに近いと選挙に向けてのパフォーマンスが与野党ともに激しくなったり、また与党側が火事場泥棒さながらに選挙に有利な立法をしてしまうのではないかなどの懸念から、この32条の規定には2項に留保が付いています。

<前項の規定により通常選挙を行うべき期間が参議院開会中又は参議院閉会の日から二十三日以内にかかる場合においては、通常選挙は、参議院閉会の日から二十四日以後三十日以内に行う。>

 今国会の会期は延長がなければ6月26日まで。選挙を行うべき期間のスタート日、6月29日とは3日しかありませんからこの2項の規定が適用となり、選挙投票日は7月20日~7月26日までの間となります。投票日は日曜日にすることが慣例となっていますから、結果として投票日は7月21日に固定されるわけです。延長がなければ7月21日参院選と報道されているのはこうした理由からなのですね。

 ところで、通常国会は1度だけ延長することができます。集団的自衛権の一部容認を柱とする平和安全法制を審議した2015年の通常国会は史上最長の95日間延長を行ったこともあります。ですから、6月26日会期末といくら言っても、それは仮置きされたものに過ぎないとも言えます。ただし、参議院議員の半数は任期満了が迫っていますから、そう長い期間延長することはできません。
 先ほども挙げた公職選挙法32条の規定を踏まえれば、任期満了よりも前に選挙をして新たに参議院議員を選出するのが望ましいのですが、一方で2項の規定を援用すると任期ギリギリまで国会を開会していれば、そこから起算しておよそ1か月後の選挙も法的には問題がないということになります。では、任期ギリギリまで伸ばしてみると、会期末は7月28日。公選法の「○○の日から」というのは初日を算入しないと解されているため、7月29日から数えて24日以後30日以内、すなわち8月21日~27日が選挙可能日となり、その中の日曜日は8月25日となります。衆議院の解散に伴う総選挙は解散から40日以内に行うという規定(公選法31条3項)については、前述の参院選投票日の規定"30日以内"で十分にクリアすることができますから、純粋に法解釈だけで考えれば、大幅延長&延長会期末解散のテクニックを使って8月25日投票日まで後ろ送りが可能です。

ここで、萩生田発言をもう一度見てみますと、

<夏には参院選も予定されている。萩生田氏は増税を「やめるとなれば、国民の了解を得なければならないから信を問うということになる」としたが、衆参同日選の可能性については「ダブル選挙というのはなかなか日程的に難しい。G20(20カ国・地域)サミットもある」と否定的な見方を示した。>

 日程的に難しいというのは、G20があり、その直後に選挙戦となると窮屈だと考えるのが一般的な理解でしょう。さらに、6月の日銀短観の発表が7月1日であるということを踏まえ、そこまでに何の動きもなければ6月26日に国会が閉まっていることも考えると、日銀短観発表後、わざわざ解散のために臨時国会を召集するのはいかにも無駄であり、ならばもはやダブルは難しい、解散するにしても秋か?ということになります。
 ただし、こちらもお尻は切られていて、増税延期で信を問うなら、増税予定の10月1日よりも前にやらなくては意味がありません。ダブル選をスキップして、後日臨時国会→解散・総選挙というシナリオもこちらはこちらで日程が窮屈になります。延長なく予定通りに参院選を7月21日に行うとすると、新しい参議院議員の任期のスタートは7月29日。ここから30日以内に臨時国会を召集しなければならないと国会法第2条の3の2項にあります。


 これをギリギリまで引っ張れば8月27日までに臨時国会を召集し、解散・総選挙となりますが、9月の終わりには国連総会などの外交日程や8月末には横浜でアフリカ開発会議(TICAD7)が予定されています。この日程の合間を縫うように衆院選の12日の選挙期間を引くのは至難の業。かなりピンポイントの日程となり、公示前の事前準備も考えると、こちらも日程的にタイトですね。

 そう考えると、手っ取り早くダブル選挙をすればいいという風に戻ってくるわけですが、法的には8月25日投票日までのダブル選挙が可能とは言え、参院選の選挙期間17日間を取るとお盆休みに選挙期間がかぶってしまいますし、告示直前の運動期間は丸々お盆休み中ということになります。世の中の大半が休みに入るお盆中に選挙となると受けが悪いし、何となくの不文律でお盆中は政務はお休みということになっていますから、8月25日まで引っ張るのは難しい。となればお盆前投票日を探ると、8月4日か7月28日と絞られてきます。このうち、G20や日銀短観からより遠いのは8月4日。8月4日に投票日を持ってくるためには、若干だけ国会を延長し、会期末解散をしようと思うと、最も短くて7月4日会期末で30日後の8月4日投票日が可能です。

 そして、この日程を見ると、俄然6月の日銀短観の意味が出てくるのです。今までダブル選挙を判断する材料としては、5月20日発表予定のGDP速報値が言われてきました。この数字はおそらく相当悪いものになると言われていますが、一方で、それだと実際の投票日まで間が空きすぎてしまいます。そこで、その間を埋めるように7月1日発表の6月の日銀短観の存在価値が高まってくるのです。「5月20日のGDPの数字が悪い→最終判断はしないが6月の短観を待ちたいので念のため延長→短観発表→ダブル選挙最終判断」というシナリオもあるかもしれません。

 ただし、そのためには増税の延期法案を国会で通す必要があります。複数の与党幹部は、
「いざとなれば、数日で国会を通せる」
とも語っていて、会期を7月半ばまで延長すれば日銀短観の発表を待って増税延期法案を審議にかけ、成立を持って衆議院解散・ダブル選挙も物理的には可能です。あとは、6月26日までの通常国会を延長するか否か...。ちょっとザワついてきました。

日程シミュレーション.jpg
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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