2019年04月08日

大阪ダブル選挙雑感

 取材で出張に行くとなると、東京で出来るだけの下調べをします。そこで、ある程度の相場観と言いますか、「このニュースはこういうことなんだろう」というような想定めいたものが頭の中に出来てきます。ところが、実際に現場に行ってみるとその想定が簡単に打ち砕かれることがあるんですね。この週末の大阪出張、大阪ダブル選挙の取材もまさにそんな展開でした。

 選挙取材で現場に足を運べないとなると、東京で出来ることはおのずと限られてきます。
 ①現場の人、あるいは現場に行った人の話を聴く、②現地からの報道を見る、③現地での世論調査の結果を集める...。
 大雑把にまとめると、選挙の現場から遠く離れたところから情報を収集するにはこの3つを組み合わせることになります。ただ、①の現場に行った人の話は人によって見てきたものが違うし、②の現地の報道も気を付けないと同じことを伝えるのでも切り口を変えてくる分先入観に引っ張られる場合があります。そうしたリスクを考えると、③の現地世論調査を優先してしまうのですが、ここにも落とし穴があって、今回の取材ではそれをまざまざと見せつけられました。
 事前の世論調査では、維新側と反維新といわれた自民・公明推薦候補が互角か小差で維新リードというものがほとんどでした。告示直前の自民党の調査などは、大阪市長選で反維新側の候補、柳本顕氏がリードしているとの数字が出ていました。これにはさすがに関係者も半信半疑でしたが、いずれにせよ投票日の7日の投票箱が閉まる8時の時点でこうもあっさりと各社当確を出すという事態は想定していなかったのですね。

<第19回統一地方選の前半戦は7日、11道府県知事選などの投開票が行われた。最大の焦点だった大阪府知事選と大阪市長選のダブル選では、「大阪都構想」の実現を目指す地域政党・大阪維新の会が擁立した候補が、ともに当選を決めた。知事選で唯一の与野党対決だった北海道知事選は、与党の支援候補が勝利した。
大阪ダブル選は、知事と市長が任期途中で辞職に打って出たために行われた。前市長の吉村洋文氏(43)は知事選に、前知事の松井一郎氏(55)は市長選に、それぞれ出馬した。両氏は「都構想で大阪を成長させる」などと訴えた。>

 ただ、言い訳めいて恥ずかしいのですが、こうなる予感のようなものはありました。投票日直前に大阪入りして何が分かる!という批判を承知で記せば、選挙戦最終日はなんば高島屋前で定点観測をしていました。そこで、まず自民・公明の推薦候補、柳本氏と知事候補の小西氏の演説を聞き、その後維新側の最後の訴えを聞いていたのですが、まず集まってきた顔ぶれに大きな違いがありました。
 自・公サイドの演説では年金受給者と思しき男女がほぼすべてで、上がる声援もお年寄りのそれだったのに対し、維新側は現役世代の30代、40代も多く、さらに道行く若者も立ち寄って聞いていっていました。普段選挙に関心などさしてないであろうこの世代が今回の選挙を自分事として捉えている、それが投票行動にもつながって、結果的に大阪のダブル選挙の投票率は前回よりもそれぞれ上昇しています。

<大阪府知事選の投票率は49.49%、大阪市長選は52.70%で、前回2015年の「ダブル選」と比べ、知事選は4.02ポイント、市長選は2.19ポイント上がった。府議選は50.44%(前回比5・26ポイント増)、市議選は52.18%(同3.54ポイント増)でいずれも50%を超えた。>

 そして、前回2015年の住民投票の時にも各社の調査で明らかになっていましたが、今回の争点でもあった大阪都構想に対して、賛成の人の割合は年齢層が若くなればなるほど高くなることがわかっています。ということで、30代、40代の多くが選挙に行った結果、維新圧勝につながったといえるでしょう。選挙戦を総括した大阪維新の今井豊幹事長も会見で、
「今回は新たな層を掘り起こしたと思う。若い層の投票行動がポイントだった。選挙戦を通じて、子育て世代からの反応がすごく良かった。ここは2015年の住民投票の時と大きく違う点。自分たちの時代を自分たちで作るんだという意思を感じた。」
と話しています。特にこの子育て世代の30代40代に向け、同じ世代の吉村洋文氏が先頭に立って選挙戦を戦ったことも大きかったようで、今井幹事長は、
「街中で吉村氏の周りに人だかりが出来てフレンドリーな対応をしていた。(橋下徹氏抜きで初の選挙だが)吉村維新の誕生だと思う。勇気もらった」
と興奮気味に話していました。
 たしかに、なんばで吉村市長の演説を聞きましたが、これが聴衆を引き付ける。そして、どことなく橋下徹氏に似た語り口なんですね。4年前の住民投票の時も同じ場所で橋下氏の演説を聞きましたが、その時とうり二つに思えました。

 さて、このブログでは以前指摘しましたが、今後の大阪都構想を考えると次の焦点は議会に移ります。議会選の結果も、今回の大阪維新の勢いをまざまざと見せ付けました。

<大阪府知事・市長のダブル選と合わせて7日に投開票された府議・大阪市議選では、自民党の府・市両議員団の幹事長がいずれも落選。府市議会事務局によると、府議会で15という議席数は平成11年以降では、大阪維新の会と初めて全面対決し13議席にとどまった23年の統一地方選に次いで少なく、市議会は同年の17議席に並び過去最少。ダブル選での維新圧勝の風は、府市議会にも大きな影響を及ぼした。>

 定数88の大阪府議会選では維新51議席と過半数を超えました。一方、懸案だった大阪市議会選では定数83のところ、維新は40。過半数が42ですから、あと2議席足らないという結果に終わりました。とはいえ、中選挙区制の大阪市議選で過半数にあと2議席まで肉薄したというのは他会派に大きなプレッシャーになることは間違いありません。
 隠れたポイントとしては、無所属議員4人の存在。都構想に関しては当選した首長2人は、「丁寧にやる」(松井氏)、「この民意を見て、自民・公明、特に公明党さんがどう判断するか、ボールは公明党さん側にある」(吉村氏)と、まずは他党の出方を見ての判断となりそうですが、いざとなれば保守系無所属の議員を口説き落とす、あるいは都構想隠れ賛成派の自・公の議員一本釣りなど様々な選択肢を考えることができます。

 さらに、先日の拙ブログでも記した、衆院選とのリンクをどう見るか。「常勝関西」と言われた公明党にとっては、衆院大阪小選挙区の4議席、および兵庫の2議席に関しては死守したい。公明には小選挙区の候補は比例の重複立候補をしないという不文律もありますから、小選挙区のライバルにどの党が立つのかが非常に重要なわけです。今まで、協力関係にある自民はもちろんのこと、維新も公明が立つ選挙区には候補を立ててきませんでした。というのも、大阪府議会、市議会で都構想自体は反対でも住民投票の実施までは認めるということで維新と公明は協力関係にあったからです。
 ただ、今回はガチンコで勝負した維新としては、息の根を止めにきた公明に対してどう出るのか...。日曜の会見でもその点を聞かれましたが、
「まだ衆院選は先の話でしょ」(松井氏)
とはぐらかしていました。いずれにせよ、今回得た任期4年の間には2度目の住民投票の実施を明言している維新。G20、万博のみならず、大阪はこの先アツいですね。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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