2019年03月25日

大阪春の陣

 今年は統一地方選と参院選が重なる12年に一度の「亥年選挙」。年明けどころか去年からすでに、この「亥年選挙」については様々な報道がされてきましたが、傾向としては参院選を中心にして統一地方選は露払いのような扱いでした。
 ところが、やはり政治は一寸先は闇。ここへ来て統一地方選、それも第一ラウンドの道府県知事選、政令指定市長選が注目されてきました。言わずと知れた、大阪ダブル選挙がその要因です。昨日は、ダブル選挙の一翼を担う大阪市長選挙が告示されました。

<大阪市長選が24日告示され、無所属で自民党と公明党大阪府本部が推薦する前大阪市議の柳本顕氏(45)と、地域政党・大阪維新の会公認で前大阪府知事の松井一郎氏(55)の新人2氏による争いが確定した。維新の看板政策「大阪都構想」の是非を最大の争点に、維新と反維新の対決となる見通し。21日に告示された府知事選とともに、4月7日に投開票される。>

 すでに21日に告示された大阪府知事選には、自民党が推薦する無所属で元府副知事の新顔、小西禎一(ただかず)氏(64)と、地域政党「大阪維新の会」政調会長で元大阪市長の新顔、吉村洋文氏(43)の2人が立候補を届け出ています。維新VS反維新という形での戦いの構図が固まったことで、両陣営の選挙戦はヒートアップ。それとともに報道もヒートアップしています。

 しかしながら、さらに今後の展開を読んでいくためにはこの2つの選挙だけでは足りません。というのも、今回の統一地方選、大阪では、特に大阪市ではダブル選挙どころかトリプルも通り越して"クアドラプル"(4重の)選挙だからです。

<21日に告示された府知事選で幕が開けた大阪の統一地方選。大阪市長選は24日、府議・市議選は29日にそれぞれ告示され、市では約半世紀ぶりに4つの選挙が4月7日に投開票される。市選挙管理委員会は「ミスがないように臨みたい」として、スタッフを増員するなどして対応する考えだ。>

 そうなんです。統一地方選第一ラウンドは道府県知事選、政令指定市長選に加え、道府県議選、政令指定市議選も入ってくるので、この大阪市や堺市といった一部政令市では任期によって4重選になるのですね。で、実はこの市議選、府議選の方が結果が後々に効いてくる可能性があるのです。

 首長選はいずれも当選者が1人。1つの椅子を巡って大勢が争うという、結果が非常に分かりやすい選挙です。
 一方、比較的地味なのが道府県議、市議選。こちらは、一つの選挙区から複数人が当選するという、いわゆる中選挙区制を取ります。
 大阪市を例にとると、北区や阿倍野区といった行政区を選挙区に、市議は各々3人~5人、府議は一部近隣行政区を合わせながら、1人もしくは2人が選出されます。大阪府全体で見ると、ベッドタウンの寝屋川、枚方といった大きな市は3人~4人の府議を選出する選挙区もあります。各選挙区から1人が選出される小選挙区制と違って、中選挙区制の場合は政党ごとの住み分けが行われ、その結果として一つの政党・会派が単独で過半数を取ることが非常に難しくなります。たとえば、3人選出の選挙区なら、維新・自民・共産で分け合う構図になるのが政治的な主張の色分けからしても非常にあり得る話ですよね。
 地方議会選は人口の少ない選挙区でいくつか1人区はあるものの大部分が複数区となると、結果として主要政党が3分の1弱ずつぐらいで並び立つ結果となり、事実そういった色分けの議会構成の上に与野党相乗りで首長が座るという構図がこの国では長く維持されてきました。各会派がマジョリティを構成するため牽制しながら合従連衡するので、結果的に非常に安定します。それはいいのですが、逆に議会が反対するといつまで経っても政策が実現しない壁にぶち当たるわけです。議会と首長が対立した場合、首長には議決の拒否権が与えられていて、再議を促すことはできますが、不信任決議をされない限り議会を解散するとはできません。また、解散して再選挙となったとしても選挙制度は変わらないので議会の構成はほとんど変わりません。民意により選ばれた首長が、もう一方の民意の壁に突き当たるというジレンマを抱え込むシステムなのです。もちろん、地方議会の決定は直接住民の生活に影響します。それだけに、激変緩和できるようにあえてドラスティックな決定がしにくいシステムにしているのだということも言えるのですが。

 さて、これを大阪の4重選に当てはめますと、仮に維新が市長・府知事を維持したとしてもすぐに住民投票に行けるのかといえば、そんなことはありません。全選挙区が複数区の大阪市議選では、維新は単独過半数を取るのは厳しいでしょう。となると、今まで通り多数派工作をしなければなりません。これまでの経緯やイデオロギーなども考えると、大阪自民や共産との協力はなかなか難しそう。結局、公明から一定の譲歩を取り付ける必要があるんですね。
 しかしながら、今回の首長ダブル選に至る経緯で公明と維新は完全にぶつかってしまいました。果たして関係を修復する糸口は存在するのか...。大阪政界を継続的に取材しているある記者は、
「中選挙区制で存在感を見せる公明は、逆に言うと小選挙区制が弱点なのだ。」
と解説してくれました。曰く、
「公明は小選挙区制の衆議院選で4つの選挙区で候補を出している。ここには、自民は連立の絡みで出さないが、今までは府議会、市議会での協力を見込んで維新も候補を立てていなかったのだ。維新としては、ここをどう考えるかだ...」

 ちなみに公明党は衆議院小選挙区立候補者の比例代表との重複を今まで見送ってきました。これは党規で決まっているようなものではなく不文律のようなものですから、次回衆議院選挙で重複立候補を認める可能性だってもちろんあります。ただ、自公政権に大逆風が吹いた2009年の政権交代選挙ですら重複立候補を見送ったという故事も併せて考えると、次回選で突如節を曲げるのは考えにくいわけです。維新は府議会、市議会で協力してほしい、公明は衆院選で協力して欲しい...。政策を一旦脇に措けば、維新と公明は戦略的互恵関係にもなれるわけです。
 ただし、そこには公明党側に衆院選間近というインセンティブが働かなくてはいけません。今回の統一地方選を経ての議員、首長の任期は4年間。その間には現在の衆議院議員の任期が必ず来るわけです。あるいは、衆議院には解散がありますから、解散風が吹いてくると急転直下で手打ちの可能性だって否定できません。そして、その時にどれだけ相手から譲歩を引き出せるかは、議会の構成によるところがあります。維新が単独過半数に近ければ維新有利になりますし、遠ざかれば公明の協力の重みがより増します。その意味では、今回議会選にも次に続くドラマが隠されていることになります。もちろん、結果によっては大阪都構想が終わってしまうので、ダブル選挙の行方が第一義なのは言うまでもありませんが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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