2019年01月23日

我が国の国際貢献のあり方を議論しよう

 今日の朝刊は、通算25回目となる安倍総理とプーチン大統領との日ロ首脳会談についてと、厚生労働省の毎月勤労統計調査の不適切調査問題で昨日行われた会見と幹部の処分のニュースが大半を占めていました。こう言う時ほど、普段は大きく取り上げられるはずのニュースが紙幅の関係で小さく扱われ、ひっそりと報じられることが多いので要注意なんです。今日も、おや?と思うニュースが目立たないように取り上げられていました。

<内閣府は22日、エジプト東部のシナイ半島でイスラエル、エジプト両軍の活動を監視する「多国籍軍・監視団」(MFO)の司令部要員として陸上自衛隊員を派遣するための調査を始めると発表した。>

 実現すれば、安全保障関連法で可能となった「国際連携平和安全活動」の初の適用事例となるとのことです。では、今回話題になった「国際連携平和安全活動」とは何なのでしょうか?担当する内閣府の国際平和協力本部事務局のホームページを見てみると、

<国際平和協力法は、我が国の国際平和協力として、1.「国連平和維持活動(国連PKO)への協力」、2.「国際連携平和安全活動への協力」、3.「人道的な国際救援活動への協力」及び4.「国際的な選挙監視活動への協力」の4つの柱を掲げるとともに、いわゆる 《 参加5原則 》 に従って活動を行うべきことを定めています。>

 従来立法措置で派遣が可能であった国連PKOに加えて、国際連携平和安全活動、つまり多国籍の有志連合による平和維持活動にも人を出すことが可能になったというのが、2015年に成立した平和安全法制で可能になりました。南スーダンPKOへの陸自実働部隊の派遣が日報問題その他で撤退となった後(司令部要員の派遣は継続中)、改正された平和安全法制の活用事例を政府サイドが探しているというのは各方面から聞こえてきていました。南スーダンの事例で衝突の危険のある所に新規で行かせるのは非常に厳しい世論情勢の中、何とか①リスクをそれほど負わずに②平和安全法制で出来るようになったことを見せ③国際的にも称賛されるような活動となると、かなりハードルが高い。というか、紛争地などのリスクがあるからこそ国際的な組織での平和維持活動が必要なのであって、上に挙げた3つの条件などないものねだりもいいところ。可能性としては、③の国際的な称賛の部分は多少目をつぶってでも、かつての紛争地で今は落着したものの組織だけはいまだに存在するというようなところに限られます。その意味で、シナイ半島の停戦監視はうってつけだったわけです。どういった活動なのかは、外務省の行政事業レビューシートに記述がありました。

<多国籍軍・監視団(MFO)は,1979年の「エジプト・イスラエル平和条約」附属の「MFO設立議定書」(1981年)に基づき設置。両国国境地帯の平和維持を目的として,1982 年からシナイ半島に展開する多国籍軍・監視団であり,同半島における両国軍の展開・活動状況・停戦の監視が主要任務。1982 年の MFO 展開後,過去4度にわたって戦火を交えたエジプトとイスラエルの和平が35年以上にわたり維持されており,包括的な中東和平実現の基礎となっている。>

 このMFOの司令部に要員を派遣するという話は、去年の9月に各紙に報じられていました。その時に、このシナイ半島はリスクが高い、今回の派遣計画は無理やりが過ぎると批判が出ていました。

<政府が陸上自衛隊員の派遣を検討するエジプト東部シナイ半島では、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うグループがエジプト軍や治安部隊への攻撃を仕掛けている。軍は2月以降、掃討作戦を強化。ただ、現地の専門家は「(過激派の)根絶は困難だ」と指摘しており、治安状況の改善は道半ばだ。>

 たしかにシナイ半島の大半は、外務省の海外安全ホームページでもレベル3の渡航中止勧告が出ている地域です。


 テロの危険性についても上記朝日新聞をはじめとして再三再四報道されていますから、そうした報道を見ると当然、「南スーダンの二の舞にするのか!政権が功を焦るあまり、自衛隊員が命の危険にさらされるではないか!」という感情が沸き上がってきてしまいます。が、今回の派遣は司令部要員です。司令部要員ですから、たまには前線での監視活動を視察することはあるでしょうが基本的には司令部での勤務となります。では、その司令部がどこにあるのかというと、かつてはシナイ半島北部のエル・ゴラというところにありましたが、2015年5月にシナイ半島南部のシャルム・エル・シェイクに移転しています。このシャルム・エル・シェイクはシナイ半島の危険情報ではレベル3ではなく、シナイ半島でもここ周辺のみレベル1の「十分に注意してください」に留め置かれているんですね。もちろん、レベル1の地域であってもテロ事件が起こることもありますから、完全に安全だというつもりはありません。しかしながら、シナイ半島全体が紛争地帯であるかのような報道の仕方はミスリードではないでしょうか。
 ちなみに、南スーダンPKOの司令部要員が派遣されているのは首都ジュバですが、こちらの危険情報はレベル3。シナイ半島を批判するのであれば、こちらも取り上げなくては不公平なはずなのですが、あの日報問題が終わればこちらには何の関心も示さないのが我が国のメディアたち。南スーダン派遣の司令部要員の方々は現在、兵站幕僚と航空運用幕僚として日々勤務されています。我が国を代表して、その誠実な姿を見せることで国際平和協力に貢献しているわけです。

 問題はむしろ、上記内閣府の国際平和協力本部のホームページにも載っていますが、旧来のPKO5原則を引き継いだ<参加5原則>がいまだに我が国の活動を縛り続けているというところです。憲法9条との整合性に腐心して作られた参加5原則とは「①停戦の合意、②当該国・紛争当事者の同意、③中立的な立場、④①~③が満たされない場合の即時撤退、⑤武装は必要最小限」というもの。専門家の皆さんから再三指摘されていますが、この条件では完全に紛争にケリがついた後の場所にしか派遣が出来ず、今そこにある人道的危機に対してはなすすべなしというか派遣が不可能となります。が、国連PKOはじめ現在の国際紛争は誰が当事者なのかも判らない中で、ある程度国際的にオーソライズされた実力部隊が人道的見地から平和を作り出すべく必要最小限の介入する形が主流となっています。かつてルワンダなどで旧来の原則に縛られたがために紛争を止められず、幾多の悲劇を生んだ反省に立って今の形になっているわけですが、この<参加5原則>は相変わらず我が国を周回遅れの立場に留めるものです。そして、この原則にしばれれる限りにおいて、シナイ半島のMFOのような比較的平穏な地域への、実働部隊ではなく司令部要員の派遣が精いっぱいということになります。そして、そんな苦し紛れの派遣に対しても、ろくに調べもせずに「危険な地域への強引な派遣だ!」と批判するメディアの何と多いことか。その主張に沿えば、もはや国際貢献活動は事実上不可能となりますから、いっそのこと一切の国際貢献活動を停止して日本国内にとどまり、「ジャパンファースト!」と叫んでほとんどの国際的な関わりを拒否すべきと訴えているのかと思えばそんなことはありません。今回の派遣計画を批判するメディアの多くが「国際貢献が大事だ!」「孤立主義反対!」と訴えています。何というダブルスタンダードでしょう。

 もちろん、私だっていたずらに血を流すことを望むものではありません。しかしながら、憲法前文にも、<われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。>とある通り、我々日本人は世界の平和に貢献したいという思いを共有しているはずです。その崇高な使命を体現しているのが、PKOその他国際平和協力活動に従事する自衛隊はじめ派遣されている人々です。リスクはもちろんあるだろうが、それを乗り越えて国際社会で名誉ある地位を占めたいと思う。そのリスクを最小化するべく後押しすることこそ、"護憲"というものではないでしょうか。今回の派遣のニュースから、国際平和協力活動への参加5原則見直しへ議論が深まることを期待しています。

 あるPKO派遣隊の司令官を務めた自衛官が言っていました。
「我々もプロですから、リスクは承知しています。それでも、日本の旗を背負って国際平和に貢献するのだ、名誉ある仕事を担っているのだと隊員たちに言ってきました。一連の批判は、何をいまさらという感じでやるせなかったです」
 現場の心意気に頼るような仕組みは決して長続きしません。憲法を尊重するなら、前文も含めて尊重すべきでしょう。それとも、9条だけ守れればそれでいいのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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