2018年12月06日

国際航空宇宙展を取材して

 先週の水曜日、東京ビッグサイトで行われた国際航空宇宙展に行ってきました。それはお前の趣味であって取材ではないだろうという声も聞こえてきそうですが、しかし行ってみるといろいろ勉強になりました。


 国内外の航空・宇宙産業各社が出展し、3日間で延べ2万7千人あまりを動員した今回の展示会。航空機からロケット、果ては無人機や衛星に至るまで様々な先端技術を各社が披露していました。素人の私がざっと見て何がわかるんだという話ではあるのですが、印象としては無人化、自動化とアプリ化の流れなのかなというところ。残念ながら日本は戦後GHQが航空技術の研究を禁止されていたのが尾を引いたこともあり、日本企業は一部を除き完成機を製造していません。それゆえ、今回の展示会でも個々の部品をPRするものが多く、なかなか全体のコンセプトを展示するのは難しかったようです。一方でボーイングやエアバスといたった欧米各社は自分たちの機材の紹介にとどまらず、それがどう世界を変えるのか、生活を変えるのかという全体のコンセプトの提案を行っていて、ん~、ここにも戦後レジームが残っているのか...と少し暗い気持ちになりました。

 そして、この全体コンセプトの中心にいたのが無人機です。たとえば、アメリカの無人機メーカー、ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ社(GA-ASI)は無人機とそれを操縦する一連のシステムをパッケージにした遠隔操縦航空機(RPA)システムを紹介していました。
 その名も、ガーディアン。
 これは民間用途向け、民間空域を飛び、レーダー、カメラなどの装着が可能。アメリカの税関・国境警備局で現在運用されているそうで、360度海洋レーダーとカメラの組み合わせで不審船の特定などの船舶運航管理、捜索・救助、海図作成、水産資源管理、災害監視などリアルタイムの状況認識が必要な場面で威力を発揮しています。驚くべきはその航続時間で、何と48時間。人間が乗らないとそんなに長い時間飛んでいられるのかぁと驚きますが、これであれば現在は有人機が飛んでいる尖閣周辺の警戒監視もずいぶん楽になります。那覇の海上自衛隊のP3-C部隊を取材したことがありますが、その精強さに驚くとの同時に、人繰りの面でかなり現場に負担がかかっているのも目の当たりにしました。

ガーディアン.jpg
長崎県壱岐で実証実験を行ったガーディアン

 いろいろお話を伺うと、このガーディアンにはポッドと呼ばれる組み込みキットを乗せ換えることができ、そのポッドのバリエーションの中にはソナーもあるそうです。今はソナーで収集した潜水艦や艦船のスクリュー音を上空を飛ぶP3-Cにいるソナー員たちで聞いているわけですが、この音をリアルタイムで地上で聞くことが可能。さらに音声がデータとしてくるわけですから、音声の波形をAIで照合してどの船なのか、その船が今までどういった航跡を辿っているのか、この船とコンタクトをしたかもしれない船はどんな船なのかといった副次的なデータまでズラっと並べて検索することが可能なのだそうです。今、東シナ海から日本海では北朝鮮船舶と他国船舶の間での積み荷のやり取り、いわゆる"瀬取り"が問題になっています。だいたい、船舶の所属国がカムフラージュされているので捜査が非常にやりづらいといわれていますが、こうした複雑なカムフラージュをあっという間に丸裸に出来るかもしれません。

 さらに、48時間飛び続けられるということで、たとえば災害時に問題になる無線の周波数の問題も解決できるそうです。警察・消防・自衛隊、さらに自治体で各々違う周波数の無線を使っていて互換性がないので、緊急時に情報のやり取りがやりづらいというのは前から指摘されてきました。共通の周波数を設定して情報のやり取りを一元化するなどの対策も現場では取られてきましたが、このガーディアンに専用ポッドを取り付けることで、緊急の空中無線中継器としてそれぞれの無線機をいつも通りに使いながら、それを上空で各々の周波数に変換して瞬時に再配信。リアルタイムでの情報共有を可能にすることができるそうです。

ガーディアンコクピット2.JPG
無人機ガーディアンのコクピット。有人機と同じようなインターフェイスになっている。

 こうして、ポッドを付けたり降ろしたりすることで一機で様々な用途に対応可能というのが、私の感じたアプリ化の具体的な事例です。このGA-ASI社のアジア太平洋担当国際戦略開発リージョナル・ディレクターのケネス・ラビング氏も説明の中で、
「このガーディアンはトラックである」
と表現していました。トラック、つまり積み替え可能なプラットフォームであり、使い方はメーカーで定義することなく様々なポッドを開発して自由にカスタマイズしてほしいということです。

 そして、そのポッドの中には兵器に類するものもあり、有事の際にはミサイルや機関砲といった武器のポッドを装着して出撃することが"理論上は"可能であるとの説明も受けました。アメリカでは米軍の知見も織り込みながら開発をしているので、そうした互換性があるのもうなづけるところです。

 こうした、ある意味の"軍民共用"のプラットフォームは何もGA-ASIに限ったものではありません。例えばヨーロッパの航空機メーカーエアバスのヘリコプターについても説明を受けたのですが、最新鋭のヘリコプターは30分ほどの換装時間で空対地ミサイルや機関砲などを乗せ換えることが可能とのことです。やはり平時は警戒監視等に使い、有事の際には換装して対応する。各国で予算も限られる中、そうした有事平時共用の発想というのは今後のトレンドになっていくのでしょう。

エアバスヘリ.JPG

 さて、こうした今後のトレンドの中にあって、日本だけは独特の"壁"にぶち当たります。戦後一貫して問題となってきた、憲法9条に代表される"戦力"の定義と兵器と民生品を分けようとする姿勢です。縷々説明してきたように、かつての民生品と軍用品の仕様が全く異なっていた時代には考えられなかったような共用が今は可能となっています。その時、その装備は軍用品となって規制を受けるのか?災害対応の民生品なのか?平時は災害対応として使う無人機も、換装すれば敵基地攻撃能力を持つ可能性があるから配備はできません!というような、世界の潮流から2周も3周も遅れた議論をまた繰り返すのでしょうか?敵基地攻撃能力を疑われるから共用の研究はできません!ということになるのでしょうか?いい加減、法律に現場が合わせるのではなく、現場を把握したうえで法律を変える方向に議論を持っていかなくては、取り返しがつかないほど乗り遅れてしまいかねません。

 今回の国際航空宇宙展には中国企業は見かけませんでした。が、この分野、最もカネをかけて研究しているのは中国です。その国と、我が国は対峙しているということを忘れてはいけないと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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