2018年08月20日

インバウンド施策の死角

 お盆休みが終わり、また通常の生活が戻ってきました。この休みで帰省された方も多いと思いますが、公共交通機関を使って移動をすると外国人の姿が多くなった気がしませんか?都心の在来線や新幹線のホームでは、様々な国から日本に訪れた方の姿をよく目にします。
 安倍政権になってから、外国人観光客の誘致は常に重点政策であり、毎年の成長戦略にも紙幅を割いて様々な施策が講じられています。去年春には観光立国推進基本計画が閣議決定され、具体的な数値目標を示して国を挙げて外国人観光客の誘致に力を入れる姿勢が明らかにされています。


 訪日外国人観光客の数も順調に伸びていて、最新の数字では今年の累計は7月までで1873万900人。すでに3年前の通年の数字(2015年1973万人強)に迫る勢いになっています。


 ビザの緩和や各種割引切符、格安航空会社(LCC)の誘致などの、ある意味ハード面での施策でずいぶん日本に来やすくなったことがあり、ここまでの外国人観光客誘致は一定の成功を収めていると言えそうです。冒頭にもありましたが、電車の中やニッポン放送周辺の有楽町界隈でも、外国人の姿を見ない日はないくらい、外国人観光客が実感として増えていますね。

 一方で、ここから先はソフト面での整備も重要です。鉄道駅の駅ナンバー制やサインボードの英語併記は都心周辺や観光地ではかなり増えていて、外国人が目的地に不安なく行ける環境が整いつつあります。ただ、英語が通じる環境がどこまで行きわたっているのかというと心許ないものがあります。私自身も突然声を掛けられたら対応できるかどうか。こうして想像するだけでちょっと緊張してしまいますね...。

 また、駅ナンバー、サインボードを頼りに目的地に到達したまではいいですが、そこでの説明などにどれだけ英語表記があるのかもまだまだこれからというところです。これは逆に我々日本人がどのように海外で観光をしているかを思い浮かべるといいのですが、景色のいい場所や歴史のある神社仏閣、教会、城などに行ったとき、「ああ、いい景色だなぁ」と感動し、写真を撮るまではさほど時間を必要としません。そこから、ここがどんなところでどういう歴史があるのか、知りたいという人も多いと思います。その時に、現地の国の言葉だけでなく、簡素であっても英語の説明文があれば何となく読んでみようと思うもの。そうしてじっくりと見学すればより深く名所を理解し、また滞在時間も長くなり、飲み物を買うかもしれない、食事をするかもしれない、滞在を伸ばして一泊するかもしれないと、インバウンドに伴う消費がより伸びていきます。

 ところが、こうした観光に付随した消費活動に日本の観光地はあまり理解がないと、日本政府観光局の特別顧問も務めるデービッド・アトキンソン小西美術工藝社社長は指摘します。
日本の観光地は基本的にあまり人が滞留しないようにできている。座るところすらない。それをある寺社の担当者になぜか尋ねると、「人がとどまって境内で座り込んだりすると景観上も良くない。」とにべもなかったそうです。日本人が相手だったうちはそれでよかったのかもしれません。しかし、外国人相手では、そうした仕来りはそもそも説明されない限り理解することはできません。

 それからもう一つ、インバウンドを取り上げるときに"外国人"と一言で済ませてしまいますが、それはどこの人々でどの年齢層でどれだけ来てほしいのか、具体的にイメージがあるのかということです。外国人誘致を狙う時にはやはり地理的に近いところからの方が多くの人を呼ぶことができます。となると、韓国や中国がまず挙がりますが、潜在的な有望株は東南アジア各国。ここでポイントとなるのが「イスラム教」です。
 イスラムを国教としているのはマレーシアやインドネシアなどですが、他にも各国に少数ながら信仰している方々がいます。彼ら、彼女らの戒律についても理解が進んでいて、たとえばハラルと呼ばれる宗教上の仕来りに従って処理された肉でないと食べられない、豚肉やアルコールは禁忌といった食文化にまつわるものは知られるようになりました。一方で、日に5回聖地メッカに向かってお祈りを捧げることの重要さはあまり理解されているとは思えません。先日、上野駅の新幹線ホームに行ったのですが、コンコースでこんな光景を見かけました。

イスラム礼拝@上野.jpg

 調べてみると、上野駅には礼拝所、プレイヤーズルームはないのですね。番組でそのことを話したところ、東京駅丸の内北口には礼拝所があるとの指摘を受けました。調べてみますと、こうした礼拝場所も徐々に整備されてきているようです。


 そうした指摘と並んで、「このような礼拝所をあらゆる駅に整備しろというのはコスト面を無視した暴論だ」という趣旨の指摘もいただきました。私もすべての駅に整備する必要はないと考えます。ただし、上野駅のような外国人も多く使うターミナル駅でも存在しないというのは、インバウンドを成長戦略にまでしている国においてあまりにお寒い状況なのではないでしょうか?
 上記ハラルメディアジャパンのサイトによれば、東京の駅で礼拝所があるのは東京駅だけ。というか、日本全国で見ても、東京のほか大阪と奈良にしかありません。一方で空港を見ると、主要空港にはほとんど礼拝所があります。長い時間の移動という意味では、航空機も新幹線も変わりません。ここは空港の方が先に行っている感があります。鉄道駅も前述の寺社と同じで、今までは利用客の滞留を想定して設計されていません。しかし、写真の上野駅のように大きな駅には遊休スペースも存在します。こうした場所を有効活用して外国人観光客の満足度を高めれば、リピーターになってくれる可能性もより高まるでしょう。
 その意味で、インバウンドにおける日本の伸びしろは大いにあると思います。爆発的に外国人観光客が増えるであろう2020年まであと1年半。まだまだ、やれることがそこら中にあるようです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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