2018年08月07日

豪雨被災地の鉄道貨物輸送

 西日本豪雨で大雨特別警報が最初に出されてから、昨日で1か月を迎えます。各地に残した爪痕はあまりにも大きく深く、今だ3600人以上の方が不自由な避難所暮らしを余儀なくされていますが、鉄道にも大きな被害をもたらしました。

<西日本を中心とする豪雨被災地で、JR西日本などの鉄道二十七路線の百カ所以上に、土砂の流入や線路下の盛り土の流出など運行を阻む施設被害があったことが十二日、国土交通省のまとめで分かった。>

 川にかかる橋が橋脚のみを残して橋げたがごっそり流されてしまった映像など、私も見ていて驚愕しました。鉄道は人の命を預かる仕事ですから、安全方向にバッファを設けて設計をしていたはずなのですが、その想定を軽々と超えていった豪雨災害だったわけですね。ここ一か月で、各事業者の懸命の努力もあり被害が軽微だったところを中心にだいぶ復旧してきました。今も予讃線・予土線の2路線4区間で運休が続くJR四国は、9月中に全線復旧の見込みだと公表しています。一方、被害が甚大だった岡山・広島両県の瀬戸内海側を通るJR山陽本線は、復旧は10月になってしまうと見込まれています。

 "なくなって初めてわかるありがたさ"という言葉がありますが、鉄道の不通は旅客列車が使えなくなる目に見える影響があるので、「生活の足に痛手」といった報道が目立ちます。
 しかしながら、実はもっと甚大な影響があったのが物流に対しての影響。山陽本線は貨物列車にとっても大動脈。豪雨による不通の前には、一日当たり3万トンがこの区間を通っていました。JR貨物の輸送量全体のおよそ3割を占めていたそうです。
 貨物輸送には大雑把に分ければ船・鉄道・トラックの3種がありますが、船は大量輸送が可能ですが時間がかかり、トラックは速いが一度に一台で運べる量は限られるので、ドライバーの人手を確保する必要があります。鉄道輸送は大量輸送が可能な上に、船に比べると早く運ぶことが出来る。ということで、九州から近畿圏や中部、関東へ、あるいはその逆という拠点間輸送で多く使われていました。たとえば、フルスペックのコンテナ貨物列車26両分の荷物は10トントラック換算で65台分になります。
 これだけの物流がストップしてしまうと、影響は相当甚大。各社は不通区間のトラック代行や船便への振替などで何とかしようとしていますが、経済の血液ともいわれる物流への影響は決して侮ってはいけません。

 ただ、一つ朗報が入ってきました。山陽本線はムリでも、それに代わる迂回路線のメドが立ちつつあるというものです。

< JR貨物とJR西日本は3日、西日本豪雨で山陽線が寸断されていることを受け、貨物列車を山陰線への迂(う)回(かい)ルートで運行する準備をしていると発表した。実現すれば、阪神大震災後の平成7年以来となる。>

 倉敷から北西に伯備線を行き、日本海側に出て山陰線、そして山口線で南下、新山口で瀬戸内側に出た後Uターンして山陽線を東進し、広島に至るというプランです。たしかに鉄路はつながっていますから、これで何とか物流が保てれば非常にありがたいことです。
 しかし、鉄道関係者に話を聞くとなかなか課題山積のようです。
「山陽線はコンテナ26両プラス機関車の計27両をフルスペックで走らせることが出来た。しかし、伯備線は本線仕様ではないからそこまで重い列車を入れることは出来ない。正確な数字はこれから出すのだろうが、阪神大震災の経験から考えると9両が限界なのではないだろうか?となると、輸送力は単純に3分の1だ」
と、厳しい想定を話しました。
 また、引っ張る機関車についても懸案があって、
「その上、山陽線は全線電化されているから電気機関車で良かったのだが、伯備線回りになると山陰線の途中までしか電化されていない。その先はディーゼル機関車で引っ張らなければならないのだが、これをどう調達するのか?阪神大震災当時は寝台特急用などにディーゼル機関車が使われていたが、今はディーゼル機関車があまりない。北海道や九州といったディーゼル機関車が使われているところから持ってくるしかないのではないか?」
と危機感をあらわにしました。

 この辺りはJR貨物のテクニカルな話ではありますが、10月の山陽線全線復旧を待つことなく一刻も早く輸送路を開こうという心意気を感じます。
 思えば、東日本大震災発災後、被災地で絶望的に足らなくなったガソリンを輸送しようと、ガソリン輸送の特別列車を仕立てたことがありました。一旦日本海側に出してから、ローカル線を通って太平洋側の各所に入る作戦で、一つ一つの橋、カーブ、線路の耐荷重を調べてガソリンを被災地に供給していきました。
 今回もその心意気で迂回路線を開拓するようです。普段はあまり顧みられない鉄道貨物輸送ですが、まさに日本経済の縁の下の力持ちを担っています。これを機会に、その役割を少しでも分かっていただければ幸いです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ