2018年07月27日

言行の不一致

 週明けに行われる日銀の金融政策決定会合に向けて、何やらきな臭い観測記事が毎日のように記事になっています。

<日本銀行は、2013年春から行っている大規模な金融緩和の悪影響を減らす方策の検討に入る。緩和策は当初、円安・株高で景気を好転させたが賃上げの勢いは鈍く、物価上昇率2%の目標は遠い。むしろ低金利による金融機関の経営悪化や年金の運用難など「副作用」への懸念が強まっており、対応策の検討を始めざるを得なくなった形だ。>

<日銀の大規模金融緩和が長期化する中、副作用への懸念から現行政策が修正されるとの観測が強まり、23日の国債市場で長期金利が急上昇した。日銀は30、31日に開く金融政策決定会合で副作用対策の検討を本格化させる見通しだが、金利上昇で円高が進めば、デフレ脱却がさらに遠のくため、難しい対応を迫られそうだ。>

<日銀は30、31日に開く金融政策決定会合で、大規模金融緩和の長期化に伴う副作用を軽減するため、長期金利の上昇を一定程度容認することを検討する。「0%程度」としている現行の誘導目標は維持した上で、金利の調節を柔軟に行い、より大きな変動を可能にする案が柱だ。>

 新聞社や通信社が日を分けて書いていますが内容はほとんど同じで、来週月曜・火曜に行われる金融政策決定会合で長期金利の上昇を一定程度認めるという内容。その理由は「副作用の緩和のため」という説明まで一緒です。具体的には、
<金利の変動幅が拡大すれば市場取引の活性化が期待できる上、長期金利が多少上向けば、超低金利による収益悪化に苦しむ銀行や生命保険会社の負担も一定程度、軽減できるとの計算だ。>(上記、毎日新聞)
ということで、金融機関救済の意味合いが強いんですね。

 そして一様に記事のソースを明確に書いていません。みんな主語は「日銀」「日本銀行」なのですが、政策の決定は来週正式に行われるわけですから、これらの情報はすべて非公式情報。本来であれば「日銀の幹部によると」など、ソースを示す言葉がなければいけませんが、そうしたものは一切ありません。日銀内からのリークによって、世論の雰囲気を金融緩和を緩める方向に持っていきたいという意向が強く示唆されます。
 そして、こんな報道が毎日のように行われているために、市場もさすがに反応。昨日(26日)には長期金利の利率が0.100%にまで上昇(価格は下落)しました。私のような素人のイメージでは価格が下がれば損をするように思えるのですが、相場の方々に聞くと
「(価格が)上がろうが下がろうが、変動することで儲けが生まれる」
とのことですから、こうした価格変動が起こればそれだけ国債ディーラーにとっては儲けのチャンスが生まれるわけです。ちなみに、国債を多く保有しているのは、緩和の主体である日銀を除けば国内の金融機関が最大手。この「副作用緩和の議論」の記事が出て市場が反応すると、それだけでも金融機関の"救済"になるかもしれません。

 今までは長期金利が上昇すると、再び10年債の利率が0%近傍になるまで日銀は国債を買い入れていました。これを、利率上昇を容認するということは、多少利率が上がっても日銀は国債を買い入れませんよというのと同義です。すなわち、金融緩和のアクセルを少し弱めることになります。まだ目標を達成していないのにどうしてアクセルを弱めることになるのか?その説明として、「副作用の緩和=金融機関への配慮」では納得できません。というか、これじゃ特定の業界への優遇政策になってしまうではないですか。これを健全な市場経済といえるのでしょうか?

 さらにそもそも論をすれば、すでに日銀は密かに金融引き締めになっている可能性があります。水面下で金融緩和のアクセルを弱めていることを「ステルステーパリング」といったりもしますが、日銀が保有する国債残高を計算するとその疑いが濃くなります。


 だいたい月に3回、月初、10日、20日のデータをホームページ上で公表していますが、今年度始まり(=前年度終わり)の3月30日のデータと最新の7月20日現在のデータを比べると、今年度でどれだけ国債を買い入れたかがわかりますね。年度当初が416兆4233億円、7月20日が429兆3544億円ですから、差し引きすると今年度、今までに買い入れた国債の残高は12兆9311億円。年度当初からここまでざっくりと4か月が経過していますから、月平均ではおよそ3兆2300億円余りということになります。日銀が発表している年間の買い入れ目標は80兆円がメド。月間では7兆円弱を平均で買い取っていかなければ達成できませんが、現状はその半分ぐらいしか買い入れていません。

 このところ、消費者物価指数の中でもエネルギーや生鮮食品の影響を除いたコアコア指数では月を追うごとに伸びが鈍化していて、最新の数字である6月のコアコア指数はついに0.2%にまで下がってきてしまいました。これも、日銀のステルステーパリングが進んでいることを見れば、さもありなんと納得してしまいます。

 口では、あるいは会見や発表では緩和の継続をうたいながら、実際は言うほど緩和をしていない。言行の不一致が続けば友人関係でも信頼されなくなりますが、同じように市場からも信頼されなくなってしまいます。週明けの金融政策決定会合は、一部の金融機関救済のための副作用緩和を議論するのではなく、言行不一致の解消、ひいては緩和再加速を議論すべきなのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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