2018年07月19日

続・若者の"右傾化"?

 先々週も書いた若者の"右傾化"。私はそもそも若い世代は右・左で政権を評価しているのではなく、個々の政策を見ているのではないかと書きました。ざっくりと言えば、近隣国に対するイメージを聞いた世論調査をもとに、対外強硬派=右派ではないという仮説を立て、"若者=右傾化"、"ネット=右傾化"という世の中のイメージが幻想ではないだろうかという疑問をぶつけてみたのです。
 しかしながら、"若者=右傾化"、"ネット=右傾化"というイメージはなかなか払しょくできるものではありません。先週末の世論調査を受け、朝日新聞は嬉しそうにこんな記事を出しました。

<SNSやネットの情報を参考にする層は、内閣支持率高め――。
朝日新聞社が14、15両日に実施した世論調査で、政治や社会の出来事を知る際、どんなメディアを一番参考にするかを尋ねた。すると、「ツイッターやフェイスブックなどのSNS」「インターネットのニュースサイト」と答えた層は、内閣支持率が高い傾向が見られた。「テレビ」と答えた層の支持率は全体の支持率とほぼ同じで、「新聞」と答えた層は支持率が低かった。>

 世論調査の結果に基づき、ネットユーザーは内閣支持率が高いということを報じた記事に過ぎませんが、「ネットユーザー=若者」というイメージを持った読者にとっては「ネット=若者=内閣支持高い=右傾化」という図式が頭の中に浮かんでしまします。というか、そのように結びつけるように記事が作られています。
 見出しとリードでは「ネット=内閣支持高い」と書き、その後年代別に参考にするメディアを聞いていて、そこには、20代、30代ではネットが参考にするメディアのトップに来ています。実際は、「ネット=内閣支持高い」という情報と「若者=ネットを参考にしている」という2つの独立した情報が並べられているだけなのですが、冒頭から順番に読んでいくとあたかも「ネット=内閣支持率が高い=若者」という関連性があるかのように思えてしまうのです。さらにご丁寧に、麻生副総理兼財務大臣の発言も引いて、「ネット=内閣支持率が高い=若者」という印象を補強しています。

<新聞の購読層と政治意識をめぐっては、麻生太郎・副総理兼財務相が6月、自民支持が高いのは10代から30代だとして、「一番新聞を読まない世代だ。新聞を読まない人は、全部自民党なんだ」と発言した。>

 アメリカでは、左右両陣営に分かれて相互批判に明け暮れる、分極化が進んでいるというのがデータによっても裏付けられています。ネットで情報を取ると、検索ソフトやSNSなどがユーザーの好みを分析して、知らず知らずのうちに自分好みの情報ばかりを表示するようになることが指摘されていて、それゆえ自分に反対の意見に触れることなく自説ばかりが強化されてしまいます。すると、次第に自説を相対化できなくなり、どんどん過激になっていく。特に若者は他者の意見に左右されたり、極端な意見により惹かれるだろうから、影響が大きい。若いうちから極端な意見に流れてしまうと、社会全体がどんどん分断されて行ってしまうのではないか。
 日本国内でも、新聞やテレビといった既存メディアでこうした危機感を解く言説が散見されます。パッと聞くとなんだか説得力がありそうな言説で、「最近の若いもんは!」といいたいメンタリティにも合致しますから、この言説は大いに受け入れられていますが、実際のところはどうなのか?興味深いアンケート調査が先日出ましたので紹介します。


 詳しい調査の方法は上記リンク先をご覧いただければと思いますが、この調査は慶大教授の田中辰雄氏と富士通総研経済研究所の研究主幹、浜屋敏氏が行ったもので、サンプル数も男女合わせて9万人以上というかなり大規模な調査です。また、リンク先ではざっくりとネット、SNSという書き方をしていますが、これは要約版で、完全版の研究報告を見るとフェイスブック、ツイッター、LINEなど細かく分析しています。ちょっと読むにはしんどいかもしれませんが、これは丁寧で興味深い研究報告でした。

 さて、このアンケート調査で示唆されたのは、
<分極化を招いている原因はインターネットではないことが示唆された。年齢が高い人ほど過激な意見を持つこともわかっており、この点からもネットの影響は疑わしい。ネットの利用で意見が過激化するなら、ネットに親しんだ若年層ほど過激化しそうなものであるが、事実は逆だからである。>
ということ。

 これは目からうろこと言いますか、私としては肌感覚に沿うものでした。というのも、高齢になればなるほど過激な意見を持つというのは、近隣諸国に対するイメージを聞いた内閣府の調査も同じ結果になっていたからです。

 このアンケートも内閣府の調査も日本国内が対象ですから、この高齢になるほど過激な意見を持つというのも日本国内限定となるかもしれません。すでに考えが固まっている人にとってネットは自説を強化する方向に進む一方、考えが柔軟に変化する若い世代にとって、様々な言説に容易に触れられるネットはむしろ自説の相対化、穏健化に資する可能性があることが指摘されています。もしそうだとすると、ネットは諸刃の剣であるけれども、希望も見出せる分析ですね。個々の意見表明は過激なものがあり、そうしたものが目立ってしまうのも事実ですが、見る側が「そういうもんだ」と思って冷静に見ることで、健全な言論の場を作ることも可能ということですから。

 また、官民の様々なサイトには、今までなら新聞やテレビといったメディア経由でしか手に入らなかった貴重な一次情報も一般に公開されています。様々な言説とこうした一次情報に当たることで、妥当な最適解を探ることで建設的な討論空間が出来れば、分断ではなく包摂へ、右傾化ではなく穏健化に向かっていくのではないでしょうか。

 既存メディアの過度なネットフォビア(ネット恐怖症)は現実と未来を見誤ることになるかもしれません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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