2018年06月26日

経済成長による財政健全化

 去年、2017年度の税収が伸びています。

<2017年度の国の一般会計の税収が58兆円台後半となり、バブル期直後の1991年度の59・8兆円以来、26年ぶりの高水準になることがわかった。世界的な好景気で企業業績が上向き、所得税や法人税などが伸びた。財務省が7月上旬に発表する。>

 各紙一斉に朝刊に載っていますから、例によって発表前のリーク記事ですが、何にせよ税収が伸びるのはその分経済が成長しているわけで、いいことですね。2017年度のGDP成長率は名目で1.7%(2次速報値)。一方、前年度(2016年度)の税収55.5兆円に対して、記事にある通り2017年度の税収が58兆円台後半。仮に58.7兆円と置くと、伸び率は5%を越えます。GDPの伸び以上に税収の方が伸びていますね。これは、経済が成長していない時期には赤字で税金を納めていなかった企業が、業績が回復することで納税に復帰してきて大幅な増収になるからです。この差分の率を税収弾性値と呼んだりしますね。
 2014年に消費税を5%から8%に増税しましたが、その前の経済好調な時期にはあらかたの企業が納税に復帰したので税収弾性値はほとんど1に近い、すなわちGDPの伸びと同じくらいしか税収は伸びないと言われていました。ところが、実際の数字を見ると、2017年の時点でも税収はこれだけ伸びているわけです。それも、消費税の増税なしで5%の伸び。増税ありきの財政再建というロジックはここでも揺らぐわけですね。

 また、今後の見通しについても各紙同様の書きぶりですが、一様に心配性です。

<ただ、トランプ米大統領の保護主義的政策で、米国と中国や欧州連合(EU)などとの貿易摩擦が激化。世界経済が変調すれば、企業業績悪化などで税収に響く懸念もある。>

 とにかく海外経済の行方のみを気にしていて、肝心の国内経済を一向に顧みませんね。たしかに自由貿易に対して懸念はあるかもしれませんが、これに関してはアメリカやEU、中国という他国の意思決定に依存するもの。ある程度の影響力を行使することは可能でも、完全にコントロールすることは不可能ですし、そんなことをしたらそれは内政干渉との批判を免れません。それよりも、国内経済の成長に注力した方がよほど建設的と私は思います。学生時代に社会の授業で習ったイメージとは逆で、日本は輸出依存度が極めて低いんですね。GDPに占める貿易額の割合で世界の国々をランキングすると、年によってばらつきはありますがだいたい190位前後。むしろ、内需を振興した方が経済成長に効くわけです。

 ただ、内需振興を言うとすぐに「バラマキは意味がない!」「バラマキの財源は借金だろう!」「借金がかさんで破綻する!」といった批判が飛んできます。上記毎日の記事はご丁寧にも、
<また、足元の税収は堅調とはいえ、歳入の3分の1を国債発行で工面する窮状には変わりなく、政府には歳出見直しも含む財政健全化の取り組みが求められている。>
と結んでいて、内需振興のための歳出増は絶対に許さん!という意思が感じ取れます。国債発行残高が伸びても、それを日銀が購入している現状では統合政府としての債務が増えていない点、あるいは国債発行残高の伸び率以上にGDPが成長していれば債務残高対GDP比は発散しないという点には言及せず、とにかく財政が危機的なのだ!とイメージの刷り込みに余念がありません。
 さらに、日本国内では皆のほほんとしているが、海外投資家は厳しい目で見ている。いつ日本国債が売り浴びせられ、国債の値段の暴落=長期金利の暴騰が起こってもおかしくない!今すぐ財政再建を!増税を!と、いつも通りの展開になるわけですね。では、実際に海外の投資家はどう見ているのか?ちょっと古い記事を見落としていたんですが、4月にこんな発表がされていました。

<米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は13日、日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ(強含み)」に引き上げたと発表した。経済成長率が想定を上回っており、それが今後3、4年にわたり財政にプラスに働く可能性が高いと判断した。>

 あれ?海外投資家は日本国債の破綻を懸念していたんじゃなかったんですかね?日本国債の格付けが引き下げられた時には大見出しで大展開していた各新聞が、格付けそのものではなく見通しとはいえ評価を引き上げた時には小さなベタ記事程度の扱い。それを見落としていたのは私の不徳の致すところですが、しかしこの扱いの違いはどう考えてもおかしいですよね。
 見通しを引き上げた根拠は、<国民の所得の伸びが予想を上回り、高齢化による健康管理分野の需要などが雇用や投資を後押ししていること>を挙げています。国民の所得の伸び、まさに内需の部分ですね。批判的なメディアは官製春闘だ何だと揶揄してきましたが、その部分を海外投資家は評価していたわけです。何という皮肉でしょう。海外からも評価されているわけですから、堂々と内需振興策を行えばいいのです。もちろん、緊縮につながる消費税増税を止めることも重要です。この車の両輪がしっかりと機能すれば、再び経済も浮揚すると思うのですが...。
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プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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