来年10月の消費税増税に向けて、大規模な景気対策を打つようです。
<政府は28日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の骨子案を示し、2019年10月に予定される消費税率8%から10%への引き上げに備え、大規模な景気対策に踏み切る方針を決めた。>
消費税増税で景気が冷え込むので、その前に財政出動して勢いをつける。そして、増税後にも財政出動して景気を後押しする。なるほど、消費税増税を必ずしなければならないという前提に立てば、こうした対策が合理的ということになるのでしょう。消費税を増税することによって政府の税収が増え、それによって財政が健全化するというのが基本的なロジックです。財政健全化こそが最終的な目標であり、消費税増税はその一つの手段に過ぎないはずです。
ところが、財務省も大手メディアも消費税増税が目的化のように、これが出来ないと財政健全化などできず、国家財政は危機的状況になる!としきりに説いて回っています。何度も何度も聞いた増税→財政健全化のロジックですが、これにはいくつもの矛盾点があります。
まず、財政健全化が目的なら、頼みにする税目は消費税で果たして適切か。所得税や法人税などほかにも税目はあるはずです。その上、財政健全化を言い募る割に、税収が割り引かれる軽減税率に関しては一切の異論がないのはどういうことなのか?さらに、財政健全化が出来ないと将来にツケを残すと言いますが、果たして本当にそうなるのか?
これらの疑問について、私も何度もこの欄で書いてきました。景気を良くすることで物価が上がれば、その分実質の債務が軽くなりますから増税なしでも財政健全化を果たせるのではないか?第二次世界大戦後、イギリスやフランスが調達した膨大な戦費を緩やかなインフレと経済成長によって返済していったということは、一時期日本でも非常に持て囃されたフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が指摘していた通りです。
さらに、今のように金融緩和をして景気を刺激している中で物価が上がる局面とは、経済成長を伴ってる可能性があります。そうなれば、当然所得税や法人税といった直接税も増収になっているはずですから、ダブルで財政健全化に向かっていくはずです。この一点だけを見ても、増税以外にも選択肢はあるはずですね。
軽減税率に関しては、財務大臣の国会答弁で減収額の統一見解を示しています。
<麻生太郎財務相は19日午前の参院予算委員会で、消費増税に伴う軽減税率導入による減収額は従来通り1兆円程度とする統一見解を公表した。>
1兆円というと、消費税の0.5%分。その上、軽減税率は本来救うべき低所得者層のみならず消費税の発生する支出にはあまねくかかりますから、高所得者層にも恩恵が行くことになります。1兆円というコストを払った割に格差是正、再分配につながらないと専門家からは指摘されていますが、大手メディアはあまり取り上げず、したがって議論も盛り上がりませんでした。
そしてもう一つ、この消費税増税をめぐって、財政健全化をめぐってよく言われるのが「将来にツケを残すな!」という議論です。
家計のお財布をイメージすると、借金を残したまま親が亡くなったりリタイアしたりすると、そのツケが子や孫に降りかかります。それと同じというイメージを使って、国家財政も語る向きが非常に多いのですが、国家と家計の大きな違いを指摘すれば、個人は死にますが、国家は死なないという前提で物事を考えます。
人は死にますが、国は死にません。
税収がいきなりゼロに途絶えることは、天変地異や戦争などの別の危機が迫らない限りほとんどあり得ないことです。したがって、少しでも債務が縮小する方向であれば十分なのです。それは、増税ではなく増収でもいいし、物価上昇による実質的な負担軽減でもいいわけですね。
それよりも考えなくてはならないのが、増税することで将来へのツケがより深刻に回されるのではないかという危惧です。このところ日本経済新聞の真ん中あたりにいつも掲載されている経済教室欄の「やさしい経済学」で、専修大学経済学部教授の野口旭さんが詳しく解説してくれていますが、増税によって財政健全化してくれればいいですが、増税によって所得が減少してしまうことでデフレが深刻化することのリスクの方が大きいのではないかということです。
1997年に消費税が3%から5%に増税されました。そこから、この国は泥沼の20年デフレに突入したわけですが、その影響をもろに受けたのが当時の若年層、ロストジェネレーション世代です。
まだまだ終身雇用が主流だったこの時代、企業は新卒の正社員採用を絞ることでコスト抑制を図りました。新卒者を非正規で採用するか、あるいはもう採用そのものを止めてしまうか。当時のデフレという経済状況を考えれば、各企業としては最適な意思決定をしたのでしょう。ところが、それが国全体というマクロの視点で見れば非常にまずい決定でした。
社会人としての入り口で躓いたロスジェネ世代は、それまでであれば企業の中で受けられるはずだった職業訓練を受けるチャンスを失います。そのままスキルを伸ばすことなく今や40代となったロスジェネ世代、今はそれでも雇用があり収入があるのでいいですが、一度病気になったりケガをしたりして職を離れた途端困窮してしまいます。元気に働き続けたとしても、60歳を超え70歳を超え、年齢的に今と同じ仕事が出来なくならないとも限りません。その時、生活できるだけの年金を受給できるのか?様々な試算が出ていますが、数十万から百万人単位の生活保護予備軍とも言われているわけです。
生活保護は福祉の一環ですから、半分仕送り形式の年金財政と違い、ほぼすべて税金が原資です。年金が破綻するとか言っていますが、こちらの財政負担の方がよほど深刻ではないかと私は考えます。
このリスクを回避するにはどうしたらいいのか?消費増税でせっかくデフレではない状態にまで来た景気の腰を折ることではなく、好景気を呼び込んで40代ロスジェネ世代に限定的であっても正規雇用をもたらすことだと思います。それにより少しでも稼いで、将来にも備えていただく。増税は、将来へより大きなツケを残す恐れがあると思いますが、いかがでしょうか?