2018年05月21日

平和で安全な海を守るために

 この週末の土曜・日曜、東京湾を舞台にして海上保安庁の観閲式と総合訓練が行われました。私も土曜日に同行することができ、海上保安庁の巡視船「やしま」に乗って羽田沖での一連の行事を取材しました。土曜日は高円宮妃久子殿下、三女の絢子女王殿下のご臨席のもと、石井国土交通大臣、中島海上保安庁長官の観閲を受けましたが、翌日は特別観閲官として安倍総理が乗船、視察しました。

<安倍晋三首相は20日、海上保安庁が羽田空港沖の東京湾で行った観閲式と総合訓練を視察した。>

 海上保安庁や海上自衛隊、警察、税関などの船舶36隻、航空機16機が参加し(土曜は船舶37隻、航空機15機)、船舶・航空機のパレードの他、国際テロ組織メンバーが乗船した船舶を制圧する訓練や人命救助訓練が行われました。こんなに沢山の海保の船舶が集まって果たしていいのか?とも思ったのですが、そうした日本を取り巻く海の周辺状況の緊迫化からこの観閲式は近年開催が見送られていたとのことで、今回は現行の海上保安制度発足70周年という節目ということもあり、開催にこぎつけたようです。

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海上保安制度創設70周年記念観閲式で受閲する巡視艇「あきつしま」

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テロ容疑船捕捉・制圧訓練

 しかしながらというか、やはりというか、尖閣周辺海域ではここを狙ったのか、まさに観閲式が行われる直前のタイミングで中国の公船による領海侵入が発生しています。

<沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で18日、中国海警局の「海警」4隻が日本の領海に侵入し、約1時間半航行した。尖閣諸島沖での中国公船の領海侵入は4月23日以来で、今年9回目。>

 今回の観閲式には、石垣海上保安部と宮古島海上保安部から1隻ずつの巡視船、那覇航空基地からも1機航空機が参加しています。現場はやり繰りしながら影響が出ないように運用しているはずで、それゆえ中国公船も我が国領海内に長期間留まることなく、今までと同様におよそ1時間半の航行で領海を出ていったのでしょう。観閲式自体の開催は前々から告知されていたものですから、ローテーションが乱れた時にどう出るか、すかさず海保側の反応を見に来たのかもしれません。

 尖閣といえば、中国は海からのみならず空からのプレッシャーも強化してきています。

<中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)から約380キロに位置する福建省霞浦県の水門空軍基地の機能を大幅に拡充させていることが、米軍事情報誌「ディフェンス・ニュース」の分析で明らかになった。>

 この空軍基地から尖閣までがおよそ380キロですが、尖閣周辺空域にスクランブル発進をかける那覇空港からは尖閣までおよそ420キロあります。距離がある分対応にも時間がかかりますから、このままでは徐々に押され続けることになるわけです。中国の自国領域での行動に影響を及ぼすことはできませんから、日本が出来るのは日本国内でどう備えるかということ。空に関しては、より近い位置に航空機を配備することで対応することが可能です。たとえば、かつてジャンボジェットの訓練に使用し、今は定期便のない下地島などは広い滑走路があり、かつ尖閣まで200キロを切る近さという地の利を得ることが可能です。

 一方、海上に関しては、当面は海上保安庁に頼ることにならざるを得ません。いたずらに海上自衛隊を前面に立たせると、日本側が事態をエスカレートさせた!と、中国側に軍事行動を促す口実になりかねません。対峙する海保への負担が大きくなりますから、それ相応の予算を割いてケアする必要があります。
 総理も昨日の演説の中で、
<海における脅威に対し、真っ先に駆け付け、最前線に立ち続ける海上保安庁。白く輝く船体は、力に屈せず、法にのっとり、事を平和裏に解決する我が国の意思を示すものです。海上における法の支配を率先するその姿は、世界中から注目されています。>
と、その重要性を指摘しています。国際法上は"白い船"で対処することが重要で、これが"灰色の船"(=軍艦)に代わると危機の度合いの局面が大きく転換してしまうわけですね。

 また、四方を海に囲まれた我が国は、尖閣に接近する中国公船だけに関わっていればいいわけではありません。
 総理も昨日の演説の中で、
<海上犯罪の取り締まり、領海警備、海難救助、海上交通の安全確保、海洋捜査、法の支配に基づく自由で開かれた海の堅守の為に、どれ一つとして欠かすことはできません。
海上保安官諸君には、国内外からの大きな期待に応え、これに対応するために精励していただきたい。
 海上保安庁なくして海洋立国日本の将来はありません。諸君の70年の歴史に裏打ちされた現場力をちからに、これまで以上に重要な使命を果たしていくことを期待しています。>
と語りました。領海警備は海保の多くの任務の中の一つでしかないのです。海保の方に話を聞くと、
「船に乗って領海を警備するのは仕事の一部で、他にも日本各地にある灯台のメンテナンスも仕事だし、全国にまたがる航路の海図を作るのも仕事だし、もちろん海難救助だって仕事。灯台や海図だって、怠ったら日本経済にとって大変なことになる」
と話してくれました。
 たしかに、輸出入を合わせた日本の貿易量およそ9億トンのうち、実に99.7%が船によって運ばれています。この経済を支える海運が円滑に進むよう、さらに縁の下の力持ちとして地道に仕事をしているのもまた、海上保安庁なわけですね。
 逆に言えば、海保の予算の増強といっても、総額では相当な額だと報道されても各職掌に割り振れば果たして十分なのか?という額になってしまうことも容易に想像されます。平和で安全な海を守るために、総理は"現場力"に期待しましたが、現場力を引き出すだけの"資金力"、すなわち兵站がしっかりしているのかどうか。兵站の軽視が幾多の悲劇を生んだというのは、先の大戦の大きな教訓であるはずです。とすれば、「歴史は繰り返す」としないためにも、兵站の重視、必要なところにきちんと予算を割くことが重要なのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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